2サイト合同クリスマス企画 地図にない道
地図にない道

 ■企画趣旨

 12月のこの時期に、
 RinoとPATが交代でお届けする物語。

 P「そこでピアノが鳴って…」
 R「あ、あ、ありがちー!」

 予想外に厳しい編集長Rino相手に、
 PATはどこまで立ち向かえるのか!
 という点が見所ではありません。
 Rinoの、琴線に触れるやさしい文章を。
 PATの、久々に振るうラブコメの腕を。

 見せられればいいけど。
 はじまりです。


過去ログ一覧

ヤクモ−第一回 (Rino)
ヤクモ−第二回 (Rino)
ヤクモ−第三回 (Rino)
ヤクモ−第四回(ヤクモ最終回) (Rino)

アカリ−第一回 (PAT)
アカリ−第二回 (PAT)
アカリ−第三回 (PAT)


ヤクモ−第四回 (Rino)


 昨日のうちに降り積もった新雪はきらきらと光っていた。
遠くで雪の落ちる音がする。
レタの言うとおり雲一つない晴天だった。明るすぎて目がくらむくらいに。
肌を刺すような冷えきった空気の中、僕はさくさくと足跡をつけて進んだ。
雪原の先に針葉樹の林が見える。あれを越えれば沼があるはずだ。

 それは不思議な地図だった。日に焼けた紙に描かれた細やかで美しい絵画。
じっと見ていると、何が描かれてるのかよくわからなくなってくる。
まるで夢の中で本を読んでいるような感覚だ。細部を見ようとすると
頭がぼんやりしてきてしまう。
ところが、まるで道にしるしができたように(もちろん道なき道なのだが)僕を導いた。
くるりと後ろを振り向くと綺麗に僕の足跡が一本の線を引いていた。

 目が痛くなる位青い空を仰ぎ、僕は帰るべき場所の事を考えた。
もちろん、塵一つほども記憶など存在しなかった。
そして僕は便宜上トマの暖かい家を思い浮かべた。
丸いテーブルの上には温かい料理があり、
湯気の向こうには僕を待っている人がいて、足下には小さな猫が眠っている。
しかし、それはなんだかひどく非現実の匂いがした。
他人の故郷をむりやり自分の居場所に置き換えた居心地の悪い気分だった。

 暗い林に足を踏み入れ、これから会うべきクモについて考えると足がすくむ思いだった。
今まで会った地図屋みたく親切だとよいのだけれど。
それにもしかしたら半年は待つかもしれないとレタは言った。
冗談じゃない。こんな寒いところでは半年どころか一週間だって
待つのは無理だろう。

 林は沼地になっていて、少しでも気を抜くと足を取られそうになった。
遠くから聞いたこともない鳥の鳴く声がする。
雪はつもっておらず、その代わりに冷たい湿気を帯びた空気と
耳が痛くなるほどの静けさが周りを覆っていた。
背の高い木の隙間からうっすらと日が差し込んできたがその光は僕までは届かなかった。

 どれくらい歩いただろう。
地図は寒いのに汗ばんだ手のひらに握られたままだった。僕は、ただ歩いていた。
前も見ず、後ろも振り返らず、自分の足の2,3歩先を見つめながら
ひたすらにぬかるむ道をたどり続けた。

 歩くことに気をとられていたので、急に視界が開けた事に気付くまでしばらくかかった。
気付いたら目の前にぽっかりとした沼が広がっていた。
固唾を飲んで、おそるおそる沼のほとりから
湖面をのぞき込むと僕の顔が映った。
・・・はずだった。沼の中から白く細長い糸が音もなく足に
からみついた。僕は足を取られ、そして瞬く間に蚕の繭のように巻き付かれ
ずるりと沼に引きずり込まれた。息ができない・・・。
こんなひどい目にあってばかりでは命がいくつあっても足りない。と意識が遠のく中で感じた。

 *

 はたしてクモはいた。
 気がつくと僕はジメジメと暗い洞穴の天井からぶらりとみの虫のように吊るされていた。
どこからか水と風のうなる音が聞こえ、壁には幾つものろうそくがかかっている。
そして目の前には身の丈3尺程もある大きなツチグモが紫色の目をぎろりと僕に向けていた。
もう一度気を失いそうになる僕にツチグモは話しかけた。

「こんな所まで何しに来たんだ。」

 どうやらあまり好意的ではないらしい。
僕は説明しようとしたが、苦しくて声にならなかった。

「お前は俺様を食いに来たんだろう。言っておくが食われる位なら俺がお前を食う。」
僕は必死で首を振った。クモを食べるなんてそんな趣味はない。
「違うのか?海を越えたところに住んでいる人間は俺様を食おうとしたんだ。」
ぼそりぼそりとしゃべるクモはどうやら人間嫌いらしかった。
「ち・が・う」
僕が口をぱくぱくと動かしたが、息となって消えてしまった。

「ところで、お前の持っていたこのワカサギ、この辺じゃレタの住んでる湖でしか
取れないはずだが・・・。」
レタ!
僕は必死でうなずいた。そうだ。そのイタチに紹介されてきたんだ。
「レタめ。・・・ふん、話だけは聞いてやろうじゃないか。」
と八本ある足で糸を器用にはずしてくれた。
「俺様の名はジン。世界中を旅して地図を描くのが仕事だ。」

 大きく咳き込んだ後、僕はあまりジンを見ないようにしながら言った。
「帰る場所を探してるんです。記憶を無くした上に、どこから来たのかわからなくて
レタに紹介されて来たんです。」
ジンは僕の顔をじろじろと見回した。
背中が冷たい汗でびっしりとシャツに張り付き、
多分僕は恐怖にひきつった笑顔でとても奇妙な表情をしていたに違いない。

「地図は」とクモはたっぷり間を取ってから話しかけた。「お前の帰るべき地図はもちろん作れる。」
僕ははっと顔を上げた。「本当かい?」わらにもすがる気持ちでジンを見た。
「だが条件がある。これから俺様が何をするか、当てたら地図を描いてやろう。
ただし、当たらなかったらお前を食う。」
にやりとジンは笑った。

「そんなの不可能だ。」僕はとっさにそう思った。
なぜならジンは僕が言ったことと違う行動を取ればいいのだから。
条件でも何でもないじゃないか。ジンは、初めから僕を食おうとしているのだ。
足がガクガクと震え立っているのがやっとだった。

 どこで、僕は、間違えたのだろう。あのレタの言葉を信じた僕がいけなかったのか?
それとも、やはりトマの予言に従うべきだったのだろうか。
僕の胸がジンジンと痛んだ。胸を誰かが叩くような。
予言に従う?そうか、このジンの問いも・・・。
そして、不意に答えが浮かんだ。しかし、それは・・・。

急かすようにクモは僕の首に爪をかけた。
「答えられないなら、容赦なく食ってやる」
ぼくは小さな声で答えた。
「あ、あなたは、僕に地図をかかないだろう。・・・それが答えだ。」

 しばらく沈黙した後、ジンは大声で笑って言った。
「よくわかったな。答えられたのはお前が初めてだ。」
「でも、それが答えだとしたら・・・」
「その通り。俺はお前に地図を描くことができん。」

 僕はへたり込んで言った。
「やっぱり。あなたは初めから僕に地図を描く気などなかったんですね。」
ジンはそっと僕の側に来た。その顔はもう、笑ってはいなかった。

「お前の行くべきはお前の中にある。地図には描ける道ではない。
今、絶対にはずれない予言が解けたように、初めからこの世界に答えがないことを
気付いているんじゃないのか。ヤクモ。」

 僕はしばらく動けなかった。
 そして、ゆっくりと立ち上がると礼を言った。
 僕は今、歩き出さなければならなかった。
不思議な力を持つ予言者はここが行き止まりである事を告げていた。
これ以上のストーリーをこの世界に求めてはいけないと。
 早く、いかなくては。帰らなくては。帰るべき場所へ。
 ヤクモと僕を呼ぶ声だけが耳鳴りのように聞こえていた。
僕は洞穴の光が見える方へと必死で走っていった。

 その小さな光を頼りに走ることしかできなかった。


(ヤクモ編おわり/アカリ編第四回につづく)


※次回、アカリ編第四回(最終回)はPATの執筆です。


■クレジット

企画立案:Rino

制作:Rino、PAT
サイト制作:PAT
挿絵:Rino

素材お借りしました:Code Name CA+Free BG Shop


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Rino:Mary18003@aol.com
PAT:pat_st@mcn.ne.jp

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