アイム'89の組合員が原告あるいは請求人となり、組合として支援している「10.23通達」に起因する裁判及び人事委員会審理は、次のとおりです。(2012.3.31現在)
●裁 判
1.東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第2次)
2.東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第3次)
●人事委員会審理
1.懲戒処分不服審査請求('11処分)
●これまでに確定した裁判
1.再発防止研修裁判(国家賠償請求) 2007.7.19 東京地判
2.F市C中・H市D小裁判(懲戒処分取消等請求) 2012.1.16 最1小判
3.東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第1次)2012.1.16 最1小判
4.予防訴訟(国歌斉唱義務不存在確認等請求) 2012.2.9 最1小判
●参考
「一連の最高裁各小法廷判決の概略」
-
●アイム'89の組合員が原告あるいは請求人となり、組合として支援していた上記以外の裁判は、次のとおりです。(内容等は省略)
1.H町H小裁判(戒告処分取消請求)
2.F市G小裁判(戒告処分取消請求)
3.超勤問題裁判(超勤手当支払請求)
4.K市A小裁判(戒告処分取消請求)
5.研修問題裁判(給与返還義務不存在確認請求)
6.都立B校ブラウス裁判(戒告処分取消請求)
【 裁 判 】
1
東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第2次)
2004年度卒業式の国歌斉唱時における不起立が職務命令違反・信用失墜行為とされ減給処分(10分の1.6か月)を受けたことに対して、その取消と国家賠償を求めた裁判。
(2005年4月5日付減給処分不服審査請求についての審理は、人事委員会が、「10.23通達の立案・制定過程については新たな証拠調べを行わない」などとして、米長教育委員らの証人尋問申し出を採用しない方針を示してきたことから、人事委員会の公正性は保障され得ないと判断し、東京地裁に提訴後、審査請求を取り下げた。)
〈原告 都立校教諭ら 被告 東京都 〉
※アイム組合員が「被処分者の会」の一人としておこなっている。
◇東京地裁(懲戒処分取消等請求…第2次) 【民事19部】
提訴 2007年9月21日
判決 2011年7月25日
○主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 略
○理由(要約)
- 本件通達及び本件各職務命令は原告らの思想及び良心の自由を侵害する憲法19条違反のものかについて
(2011年5月30日以降にあった一連の最高裁各小法廷判決(後掲「一連の最高裁各小法廷判決の概略」参照)と同様に、)本件通達及び本件各職務命令については、外部的行動の制限を介して原告らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの、本件通達及び本件各職務命令の目的及び内容並びに制約の態様等を総合的に衡量すれば、上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。
- 本件通達及び本件各職務命令は旧教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」に当たるものであるかについて
学習指導要領の国旗国歌条項は教師に国歌斉唱の指導義務を負わせたものであるが、そのような教育指導が徹底されていなかったため、本件通達発出の必要性は認められ、教職員に対して起立斉唱を求めることは教育指導の方法として合理性が認められるから、旧教育基本法10条1項にいう「不当な支配」には当たらない。
- 本件各処分は裁量権を逸脱又は濫用したものであるかについて
原告らの行為によって卒業式等の進行に具体的な支障がなかったとしても軽微な非違行為とは言えず、不起立等が職務命令違反・信用失墜行為に該当することは否定できない以上、都教委がなした懲戒処分は、社会通念上著しく妥当を欠くとはいえないため、裁量権の逸脱濫用には当たらない。
◇東京高裁(一審判決取消請求) 【第15民事部】
控訴 2011年8月5日
初回裁判(弁論) 2012年7月20日(金) 14:00〜 東京高裁101法廷〈傍聴抽選 13:40〉
2
東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第3次) 【東京地裁民事11部】
2006年度卒業式の国歌斉唱時における不起立が職務命令違反・信用失墜行為とされ停職処分(1か月)を受けたこと、及び2008年度卒業式の国歌斉唱時における不起立が職務命令違反・信用失墜行為とされ停職処分(3か月)を受けたことに対して、その取消と国家賠償を求めた裁判。
(2007年4月27日付け停職処分不服審査請求及び2009年4月24日付け停職処分不服審査請求は、申立受理後3月を経ても人事委員会裁決が出ないため、東京地裁に提訴後、審査請求を取り下げた。)
〈原告 都立校教諭ら 被告 東京都 〉
※アイム組合員が「被処分者の会」の一人としておこなっている。
提訴 2010年3月2日
次回裁判(弁論) 2012年5月25日(金) 15:00〜 東京地裁527法廷〈傍聴抽選 14:40〉
【 人事委員会審理 】
1
懲戒処分不服審査請求('11処分) 【東京都人事委員会】
2010年度卒業式の国歌斉唱時における不起立が職務命令違反・信用失墜行為とされ停職処分(6か月)を受けたことに対して、その取消を求めた審理。
請求人 都立校教諭ら 処分者 東京都教育委員会
申立 2011年5月26日
初回審理期日 未定
【 これまでに確定した裁判 】
1
再発防止研修裁判(国家賠償請求) 2007.7.19 東京地判
2003年度卒業式・2004年度入学式の国歌斉唱時不起立等を理由とする懲戒処分を受けたことを名目とする服務事故再発防止研修は、思想・良心の自由を侵害し、思想転向を強要するものであるため、同研修命令処分の取消と国家賠償を求めた裁判。
※「服務事故再発防止研修命令処分取消等請求」から「国家賠償請求」に変更した。
〈原告 都立校教諭ら 被告 東京都教育委員会→東京都〉
※アイム組合員が「被処分者の会」の一人としておこなっている。
◇提訴 2004年7月16日
◇同執行停止申立に対する決定 2004年7月23日
※「却下」だったが、実質的には勝訴といえる内容であった。
- 「繰り返し同一内容の研修を受けさせ、自己の非を認めさせようとするなど、公務員個人の内心の自由に踏み込み、著しい精神的苦痛を与える程度に至るものであれば、そのような研修や研修命令は合理的に許容される範囲を超えるものとして違憲違法の問題を生じる可能性があるといわなければならない」
◇判決 2007年7月19日
- (原告らの主張撤回により)本判決においては、10・23通達、職務命令及び懲戒処分の違憲性や違法性については判断せず、
原告らに対する各職務命令、各懲戒処分は有効であることを前提として判断する。
- 原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念又は信教そのもの、 あるいは原告らの教育観及びこれに由来する職業上の信念は、
思想及び良心の自由あるいは信教の自由として保障されることは明らかである。
- 本件研修は、原告らが有効な職務命令に違反したために有効な懲戒処分が行われたことを原因として、
有効な職務命令に違反する事態の再発防止を目的として、行われたというほかない。したがって、本件研修の発令が違法となる余地はなく、
研修の発令の原因や目的の点において、本件研修自体が憲法違反となることもないというべきである。
- 教職員に対する研修を実施する権限が都教委にあることからすれば、
都教委が、原告らに対して、本件研修を実施することが、裁量の逸脱や濫用となるとは解されない。
※控訴せず、確定。
2
F市C中・H市D小裁判(懲戒処分取消等請求) 2012.1.16 最1小判
2003年度卒業式の国歌斉唱時における不起立(C中)・不伴奏(D小)が職務命令違反・信用失墜行為とされ戒告処分を受けたことに対して、その取消と国家賠償を求めた裁判。
(それぞれ個別案件として行った2004年5月27日付戒告処分不服審査請求についての審理は、人事委員会が、通達等の発出人である都教委教育長及び両市教委教育長を含む証人尋問申し出のほとんどを不採用としたのみならず、本人尋問も行わないまま、一方的に審理終結としたため、人事委員会の公正性は保障され得ないと判断し、東京地裁に提訴後、審査請求を取り下げた。)
〈原告 小中学校教諭 被告 東京都 ・ F市 ・ H市〉
◇東京地裁(懲戒処分取消等請求) 【民事36部】
提訴 2006年12月22日
判決 2009年2月19日 請求棄却
○主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 略
○理由(要約)
- 原告らは、本件拒否行為にでた理由は、原告ら自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する信念に由来するものと主張するが、このような考えをもつことと、学校の儀式的行事の国歌斉唱の際に不起立に及ぶ行為及びピアノ伴奏を拒否する行為とは、不可分に結びつくとはいえない。
- 全国の公立小中学校では、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が従来から広く実施されており、客観的に見て、卒業式の国歌斉唱の際に起立斉唱する行為及びピアノ伴奏をする行為は、出席する教職員又は音楽専攻の教諭にとって通常想定される行為であり、特定の思想を有することを外部に表明する行為と評価することはできないから、本件各職務命令が、特定の思想を強制又は禁止したり、特定の思想の有無について告白を強要したりするものということはできず、生徒らに対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものと見ることもできないゆえ、本件各職務命令が、直ちに原告らの有する(本件拒否行為に及んだ理由としての)世界観ないし歴史観及び信念それ自体を否定するものと認めることはできない。
- 本件各職務命令は、原告らの思想及び良心の自由(憲法19条)、表現の自由(憲法21条)、教授の自由(憲法23条)を侵害するものではなく、子どもの学習権(憲法26条)を侵害するものでもない。
- 本件各職務命令は、小中学校学習指導要領の目的にかなうものであるから、その目的、内容において不合理であるということはできない。
- 学習指導要領の国旗国歌条項は、全国一律に規定することが相当な国旗、国歌の取扱いについて、抽象的な定めを置くにとどめており、教職員の創意工夫の余地や地方の特殊性や実情に応じた教育を排斥する内容ではないから、大綱的基準としての性質を有するものとしての法的拘束力が認められる。
- 地教委が教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には、文科省と地教委の機能の違いを考慮すれば、地教委が、許容される目的のために必要かつ合理的と認められる定めを置くことは禁止されておらず、かつ、大綱的基準にとどめなければならないとする根拠はない。
- 本件各通達の目的は、教育目的として許容される範囲内のものであり、卒業式等の学校行事において、児童らを指導すべき立場にある教職員らが、国歌斉唱時に起立して斉唱し、音楽専攻の教員が国歌斉唱時のピアノ伴奏を行うことには必要性、合理性が認められる。
- 各市立小中学校において、国旗掲揚、国歌斉唱の実施状況に問題があったため、校長への職務命令として本件各通達が発せられたのであるから、この通達発出についてもまた、必要性及び合理性が認められる。
- 本件各通達が、旧教育基本法10条に違反すると評価する余地はない。
◇東京高裁(一審判決取消請求) 【第2民事部】
控訴 2009年3月3日
判決 2011年3月10日 一部勝訴
○主文
- 1 原判決を次のとおり変更する。
- (1) 東京都教育委員会が控訴人らに対し平成16年4月6日付けでした各戒告処分をいずれも取り消す。
- (2) 控訴人らのその余の請求(註、損害賠償請求のこと)をいずれも棄却する。
○理由(要約)
- ※本件各職務命令が憲法19条に違反しないとする理由、本件各通達及び本件各職務命令が旧教育基本法10条1項に違反しないとする理由は、原審判決とほぼ同旨である。
- ※本件各処分の裁量権の逸脱・濫用についての判断理由は以下の通りである。
- 控訴人らの本件不起立又は本件ピアノ伴奏拒否は、生徒に対し正しい教育を行いたいなどという前記のとおりの内容の歴史観ないし世界観又は信条及びこれに由来する社会生活上の信念等に基づく真摯な動機によるものであり、少なくとも控訴人らにとっては、やむにやまれぬ行動であった。
- 歴史的な理由から、現在でも「日の丸」及び「君が代」について、控訴人らと同様の歴史観ないし世界観又は信条を有する者は、国民の中に少なからず存在しているとみられ、控訴人らの歴史観等が、独善的なものであるとはいえない。
- 控訴人らは、卒業式等を混乱させる意図を有しておらず、結果としても、控訴人らの本件不起立・本件ピアノ伴奏拒否によって卒業式等が混乱したという事実はなかった。
- 国旗・国歌法の制定過程において、政府が国会においてした答弁は、その一部を取り出してみると、控訴人らが起立・ピアノ伴奏を義務づけられることはなく、不起立・伴奏拒否が違法とされることはないと考えたことに、それなりの根拠を与えたことは否定できない。
- 最高裁ピアノ判決が言い渡されたのは、平成19年2月であるところ、本件の卒業式はその約3年前の平成16年3月に行われたものであり、その時点では、必ずしも式を妨害したとはいえない本件のような事案について、まだ明確な司法判断が示されてはいなかった。
- 憲法学を始めとする学説、日本弁護士連合会等の法律家団体においては、起立斉唱・ピアノ伴奏の強制は憲法19条等に違反するというのが通説的見解であり、控訴人らの考えは、必ずしも独自の見解ということはできない。
- 控訴人らにとっては、不起立等はやむにやまれぬ行動であったということができるから、これを繰り返すことも考えられるため、始めは戒告という最も軽い処分であるとしても、短期間のうちに処分が累積し、より重い懲戒処分がされる結果につながることになることが当然に予想される。しかし、そのような結果を招くほどに重大な非違行為というのは、相当でない。
- 最高裁ピアノ判決は、懲戒処分の適否に関する先例とはいえない。
- 被控訴人東京都に広い裁量権があることを前提としても、不起立行為等を理由として控訴人らに懲戒処分を科すことは、社会観念上著しく妥当を欠き、重きに失するというべきであり、懲戒権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものというのが相当である。
- そうすると、本件各処分はいずれも不適法なものであるから、これを取り消すべきである。
◇最高裁(二審判決控訴人敗訴部分取消請求) [第1小法廷] 上告棄却
上告及び上告受理申立 2011年3月24日
判決 2012年1月16日
- ※控訴審判決に対して、控訴人、被控訴人の双方が上告及び上告受理申立をしたため、それぞれが上告人であり、被上告人でもあるという関係になります。そのため、上告主体であるそれぞれを1審原告、1審被告と呼ぶことにします。
- ※この裁判の最高裁判所における事件番号は、平成23年(行ツ)第236号、平成23年(行ヒ)第254号で、前者は1審原告による上告、後者は1審被告による上告受理申立を受理したものです。なお、1審原告による上告受理申立、1審被告による上告は、それぞれ平成23年10月6日付けで、「不受理」、「上告棄却」と決定されています。
○主文
- 1 平成23年(行ツ)第236号上告人らの上告を棄却する。
- (註、「1審原告らの上告を棄却する」という意味。)
- 2 原判決のうち平成23年(行ヒ)第254号上告人の敗訴部分を破棄する。
- (註、「2審判決のうち『戒告処分を取り消す』という1審被告敗訴部分を破棄する」という意味。)
- 3 前項の部分につき、平成23年(行ヒ)第254号被上告人らの控訴を棄却する。
- (註、「2審にさかのぼって、前項に関する1審原告らの控訴を棄却する」という意味。)
○理由(要約)
- 1 職務命令の憲法19条違反をいう部分について
- 原審の適法に確定した事実関係等の下において、本件職務命令が憲法19条に違反するものでないことは、(4件の)当裁判所大法廷判決(註、謝罪広告事件・猿払事件・旭川学テ事件・岩手学テ事件)の趣旨に徴して明らかというべきである(起立斉唱行為に係る職務命令につき、採用拒否事件最1小判・都立校申谷事件最2小判・都教組八王子支部事件最3小判・広島高教組事件最3小判参照。伴奏行為に係る職務命令につき、ピアノ伴奏拒否事件最3小判参照)。
(事件名はいずれも本欄担当者による。)
- ※ 詳しくは、「参考『一連の最高裁各小法廷判決の概略』」をご覧ください。
- 2 その余の上告理由について
- 論旨は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反をいうものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
- 第3 (1審被告)上告代理人らの上告受理申立て理由について
- ① 原則
- 公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法となるものと解される。
- ② 本件の諸事情
- 本件の場合、当該行為は、学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって、それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定しがたい。しかし、不起立行為等の動機、原因は、個人の歴史観ないし世界観等に起因するものであり、積極的な妨害等の作為ではなく、物理的に式次第の遂行を妨げるものではない。当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかは客観的な評価の困難な事柄であるといえる。
- 2 戒告処分についての裁量権
- 本件職務命令は、憲法19条に違反するものではなく、学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義、在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って、地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであって、このような観点から、その遵守を確保する必要性があるものということができる。このことに加え、本件職務命令の違反に対し、教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることは、学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであって、法律上、処分それ自体によって教職員の法的地位に直接の職務上ないし給与上の不利益を及ぼすものではないことも併せ考慮すると、将来の昇給等への影響や勤勉手当への影響を勘案しても、過去の同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず、基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する事柄ということができると解される。不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについて、本件事案の性質等を踏まえた慎重な考量を必要とする事情であるとはいえるものの、このことを勘案しても、本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは解し難い。
3
東京「君が代」裁判(懲戒処分取消等請求…第1次) 2012.1.16 最1小判
2003年度卒業式の国歌斉唱時における不起立が職務命令違反・信用失墜行為とされ減給処分(10分の1.1か月)を受けたことに対して、その取消と国家賠償を求めた裁判。
(2004年4月30日付減給処分不服審査請求についての審理は、人事委員会が、通達の発出人である都教委教育長の証人尋問申し出を不採用とし、一方的に審理を終結したため、人事委員会の公正性は保障され得ないと判断し、東京地裁に提訴後、審査請求を取り下げた。)
〈原告 都立校教諭ら 被告 東京都 〉
※アイム組合員が「被処分者の会」の一人としておこなっている。
◇東京地裁(懲戒処分取消等請求) 【民事19部】
提訴 2007年2月9日
判決 2009年3月26日 請求棄却
- 請求棄却は、F市C中・H市D小裁判東京地裁民事36部判決(2009年2月19日)とほぼ同旨の理由による。
- 原告173名(1名死亡のため請求取り下げ)のうち172名が戒告処分取消等請求であり、当組合員だけが減給処分取消等請求であったが、処分量定に関する部分の判示は次の通りである。
同種の非違行為について、過去の懲戒処分歴に応じ、より重い懲戒処分を科すという考え方は相当であり、卒業式等における職務命令違反及び信用失墜行為で過去に戒告処分を受けたが、再度同種の非違行為を行ったことに鑑みれば、戒告より重い処分を選択したことは妥当であり、(中略)本件処分が、比例原則に反し、社会観念上著しく妥当を欠き裁量を逸脱したものとはいえない。
◇東京高裁(一審判決取消請求) 【第2民事部】
控訴 2009年4月7日
判決 2011年3月10日 一部勝訴
- ※一部勝訴はF市C中・H市D小裁判東京高裁第2民事部判決(2011年3月10日)とほぼ同旨の理由による。
◇最高裁(二審判決控訴人敗訴部分取消請求) [第1小法廷] 一部勝訴
上告及び上告受理申立 2011年3月23日
判決 2012年1月16日
- ※控訴審判決に対して、控訴人、被控訴人の双方が上告及び上告受理申立をしたため、それぞれが上告人であり、被上告人でもあるという関係になります。そのため、上告主体であるそれぞれを1審原告、1審被告と呼ぶことにします。
- ※この裁判の最高裁判所における事件番号は、平成23年(行ツ)第263号、平成23年(行ヒ)第294号で、前者は1審原告による上告、後者は1審被告による上告受理申立を受理したものです。なお、1審原告による上告受理申立、1審被告による上告は、それぞれ平成23年10月6日付けで、「不受理」、「上告棄却」と決定されています。
○主文
- 減給処分の取消を維持した部分以外は、「2 F市C中・H市D小裁判」とほぼ同旨です。
○理由(要約)
- 1 職務命令の憲法19条違反をいう部分について
- 「2 F市C中・H市D小裁判」と同旨
- 2 その余の上告理由について
- 「2 F市C中・H市D小裁判」と同旨
- 第3 (1審被告)上告代理人らの上告受理申立て理由について
- 1 公務員に対する懲戒処分についての裁量権の原則
- 「2 F市C中・H市D小裁判」と同旨
- 2 戒告処分についての裁量権
- 「2 F市C中・H市D小裁判」と同旨
- ① 原則
- 不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては、本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。減給処分は、処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ上、本件通達を踏まえて、毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると、不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。したがって、不起立行為等に対する懲戒において減給処分を選択することについて、上記の相当性を基礎付ける具体的な事情が認められるためには、例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に、これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず、上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど、過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。
- ② 本件の場合
- 過去に入学式の際の服装等に係る職務命令違反による戒告1回の処分歴があることのみを理由に同第1審原告に対する懲戒処分として減給処分を選択した都教委の判断は、減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。
4
予防訴訟(国歌斉唱義務不存在確認等請求) 2012.2.9 最1小判
2003年10月23日に東京都教育委員会教育長から発出されたいわゆる「10・23通達」は教職員や児童・生徒の思想・良心の自由を侵害するものであるため、教職員に国歌斉唱義務がないことの確認と処分の禁止及び損害賠償を求めた裁判。
〈原告 都立学校教職員 被告 東京都教育委員会・東京都〉
※アイム組合員が「予防訴訟をすすめる会」の一人としておこなっている。
◇東京地裁(国歌斉唱義務不存在確認等請求) 【民事36部】
提訴 2004年1月30日 (第一次) 原告 228人
2004年5月27日 (第二次) 原告 117人
2004年11月19日 (第三次) 原告 15人
2005年5月27日 (第四次) 原告 43人
原告計 403人(後に2人取り下げ)
判決 2006年9月21日
○主文(要約)
- 原告らが、被告都教委に対し、本件通達に基づく校長の職務命令に基づき、入学式、卒業式等の式典会場における国歌斉唱の際に、起立・斉唱義務、ピアノ伴奏義務のないことを確認する。
- 被告都教委は、原告らに対し、起立・斉唱、ピアノ伴奏しないことを理由として、いかなる処分もしてはならない。
- 被告都は、原告らに対し、原告らが被った精神的損害に対する慰謝料を支払え。
○理由(要約)
- 10.23通達及びこれに関する都教委の各校長に対する一連の指導等は、教育基本法10条1項に反し、
憲法19条の思想・良心の自由に対し、公共の福祉の観点から許容された制約の範囲を超えている。
- 校長の職務命令には重大かつ明白な瑕疵があり、教職員はこれに従う義務はない。
- 教職員は、違法な本件通達に基づく各校長の職務命令に従う義務がないのであるから、都教委は懲戒処分等をしてはならない。
◇東京高裁(一審判決取消請求) 【第24民事部】
控訴 2006年9月29日
※都教委及び東京都が控訴したため、一審原告は被控訴人となる。
被控訴人計397人
判決 2011年1月28日
○主文(要約)
- 原判決を取り消す。
- 被控訴人らの本件公的義務不存在確認請求に係る訴え及び本件差止請求に係る訴えをいずれも却下する。
- 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
○理由(要約)
- 本件公的義務不存在確認訴訟について(本案前の主張ア)
被控訴人らが判決によって回復しようとする権利利益を侵害している行政の活動、作用等は、本件通達であり、それは処分性を有するものと解されるので、本件公的義務不存在確認訴訟は無名抗告訴訟として適法である。しかしながら、無名抗告訴訟としての本件公的義務不存在確認訴訟において確認の利益が認められるためには、被控訴人らの法的地位に何らかの不安、危険が生じているだけでは足りず、重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないことが必要であると解すべきである。
本件では、第三者効が認められる本件通達の取消訴訟又は無効確認訴訟の方がより直截的で適切な訴訟類型であることは明らかであり、さらに、被控訴人らは、本件通達の発出によって、その思想・信条・良心等の侵害を受け精神的・人格的な苦痛を被ったとは認められない。したがって、被控訴人らの提起する無名抗告訴訟としての本件公的義務不存在確認訴訟は、重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとはいえないので、確認の利益が認められないというべきであるから、訴訟要件を欠くものである。
- 本件差止訴訟について(本案前の主張イ)
本件通達が存在し、それは継続的に通用力を有するから、その取消訴訟又は無効確認訴訟を提起すれば、被控訴人らの主張する損害を避けることができるゆえ、本件差止訴訟は、「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」(行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書き)に当たるといわざるを得ない。したがって、事後審査制の例外としての差止訴訟を許容する必要性が認められないから、訴訟要件を欠くものである。
- 本件通達の違憲・違法性について(本案の主張)
本件通達が、被控訴人らの教育の自由を侵害して憲法26条、23条に違反し、また、旧教基法10条1項、新教基法16条1項の禁止する「不当な支配」 に当たり、更には思想・良心の自由及び信仰の自由を害し、憲法19条、20条に違反するものとはいえず、明白かつ重大な瑕疵があり違法無効であるとはいえない。
◇最高裁(二審判決取消請求) [第1小法廷]
上告及び上告受理申立 2011年2月 日
判決 2012年2月9日
○主文 本件各上告を棄却する。
○理由(要約)
- 1 上告理由のうち憲法19条違反をいう部分について
- 原審の適法に確定した事実関係等の下において、都立学校の校長が教職員に対し発する本件職務命令が憲法19条に違反するものではなく、また、都教委が都立学校の各校長に対し本件職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項等を示達する本件通達も、教職員との関係で同条違反の問題を生ずるものではないことは、(4件の)当裁判所大法廷判決(註、謝罪広告事件・猿払事件・旭川学テ事件・岩手学テ事件)の趣旨に徴して明らかというべきである(起立斉唱行為に係る職務命令につき、採用拒否事件最1小判・都立校申谷事件最2小判・都教組八王子支部事件最3小判・広島高教組事件最3小判参照。伴奏行為に係る職務命令につき、ピアノ伴奏拒否事件最3小判参照)。 (事件名はいずれも本欄担当者による。)
- 2 その余の上告理由について
- 論旨は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
- 第3 上告代理人らの上告受理申立て理由第2部第1章について
- 1 本件通達の行政処分性の有無について
- 本件通達は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条5号所定の学校の教育課程、学習指導等に関する管理及び執行の権限に基づき、学習指導要領を踏まえ、上級行政機関である都教委が関係下級行政機関である都立学校の各校長を名宛人としてその職務権限の行使を指揮するために発出したものであって、個々の教職員を名宛人とするものではなく、本件職務命令の発出を待たずに当該通達自体によって個々の教職員に具体的な義務を課すものではない。また、本件通達には、各校長に対し、本件職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項を示すとともに、教職員がこれに従わない場合は服務上の責任を問われることの周知を命ずる旨の文言があり、これらは国歌斉唱の際の起立斉唱又はピアノ伴奏の実施が必要に応じて職務命令により確保されるべきことを前提とする趣旨と解されるものの、本件職務命令の発出を命ずる旨及びその範囲等を示す文言は含まれておらず、具体的にどの範囲の教職員に対し、本件職務命令を発するか等については個々の式典及び教職員ごとの個別的な事情に応じて各校長の裁量に委ねられているものと解される。そして、本件通達では、本件職務命令の違反について教職員の責任を問う方法も、懲戒処分に限定されておらず、訓告や注意等も含みうる表現が採られており、具体的にどのような問責の方法を採るかは個々の教職員ごとの個別的な事情に応じて都教委の裁量によることが前提とされているものと解される。都教委の各校長への指導の内容等を勘案しても、本件通達それ自体の文言や性質等に則したこれらの裁量の存在が否定されるものとは解されない。したがって、本件通達をもって、本件職務命令と不可分一体のものとしてこれと同視することはできず、本件職務命令を受ける教職員に条件付きで懲戒処分を受けるという法的効果を生じさせるものとみることもできない。
- そうすると、個々の教職員との関係では、本件通達を踏まえた校長の裁量により本件職務命令が発せられ、さらに、その違反に対して都教委の裁量により懲戒処分がされた場合に、その時点で初めて教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼす行政処分がされるに至るものというべきであって、本件通達は、行政組織の内部における上級行政機関である都教委から関係下級行政機関である都立学校の各校長に対する示達ないし命令にとどまり、それ自体によって教職員個人の権利義務を直接形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである。また、本件職務命令も、教科とともに教育課程を構成する特別活動である都立学校の儀式的行事における教育公務員としての職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであって、教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解される。
- ア 法定抗告訴訟たる差止めの訴えの訴訟要件としては、まず、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが、救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる。
- 本件差止めの訴えに係る請求は、本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求めるものであり、具体的には、免職、停職、減給又は戒告の各処分の差止めを求める請求を内容とするものである。
- 都立学校の教職員について本件通達を踏まえた本件職務命令の違反に対しては、免職処分以外の懲戒処分(停職、減給又は戒告の各処分)がされる蓋然性があると認められる一方で、免職処分がされる蓋然性があるとは認められない。そうすると、本件差止めの訴えのうち免職処分の差止めを求める訴えは、当該処分がされる蓋然性を欠き、不適法というべきである。
- イ 差し止めの訴えの訴訟要件については、当該処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要であり、その有無の判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている。
- 行政庁が処分をする前に裁判所が事前にその適法性を判断して差止めを命ずるのは、国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される。したがって、差止めの訴えの訴訟要件としての上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である。
- 本件通達を踏まえた本件職務命令の違反を理由として一連の累次の懲戒処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものであるとはいえず、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであるということができ、その回復の困難の程度等に鑑み、本件差止めの訴えについては上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるというべきである。
- また、差止めの訴えの訴訟要件については、「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと、すなわち補充性の要件を満たすことが必要であるとされている。
- 本件通達及び本件職務命令は行政処分に当たらないから、取消訴訟等及び執行停止の対象とはならないものであり、また、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから、本件差止めの訴えのうち免職処分以外の懲戒処分の差止めを求める訴えは、補充性の要件を満たすものということができる。
- ③ 免職処分以外の懲戒処分の差止めを求める訴えに係る請求の当否
- ア 差止めの訴えの本案要件(本案の判断において請求が許容されるための要件)については、行政庁がその処分をすべきでないことがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められることが要件とされており、本件職務命令が違憲無効であってこれに基づく公的義務が不存在であるとはいえないから、当該差止請求は上記の本案要件を満たしているとはいえない。
- イ また、差止めの訴えの本案要件について、裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることが裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることが要件とされており、これは、個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることをいうものと解される。
- これを本件についてみるに、まず、本件職務命令の違反を理由とする戒告処分が懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法となるとは解しがたいことは、当小法廷が平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同24年1月16日判決(註、都立校教職員による懲戒処分取消等請求事件判決)において既に判示したところであり、当該差止請求のうち戒告処分の差止めを求める請求は上記の本案要件を満たしているとはいえない。また、本件職務命令の違反を理由とする減給処分又は停職処分が懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法となるか否かが、個々の事案ごとの当該各処分の時点における当該教職員に係る個別具体的な事情のいかんによるものであることは、当小法廷が、上記平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同日判決及び平成23年(行ツ)第242号、同年(行ヒ)第265号同日判決(註、N、K両名による停職処分取消等請求事件判決)において既に判示したところであり、将来の当該各処分がされる時点における個々の上告人に係る個別具体的な事情を踏まえた上でなければ、現時点で直ちにいずれかの処分が裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとなるか否かを判断することはできず、本件においては個々の上告人について現時点でそのような判断を可能とするような個別具体的な事情の特定及び主張立証はされていないから、当該差止請求のうち減給処分及び停職処分の差止めを求める請求も上記の本案要件を満たしているとはいえない。
- 無名抗告訴訟は行政処分に関する不服を内容とする訴訟であって、本件通達及び本件職務命令のいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない以上、無名抗告訴訟としての被上告人らに対する本件確認の訴えは、将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものと解するのが相当であり、実質的には、本件職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令に基づく公的義務の存否に係る確認の訴えの形式に引き直したものということができる。
- 職務命令の違反を理由とする不利益処分の予防を目的とする無名抗告訴訟としての当該職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める訴えについても、補充性の要件を満たすことが必要となり、特に法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を満たすか否かが問題となるものと解するのが相当である。
- 本件においては、法定抗告訴訟として本件職務命令の違反を理由としてされる蓋然性のある懲戒処分の差止めの訴えを適法に提起することができ、その本案において本件職務命令に基づく公的義務の存否が判断の対象となる以上、本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、上記懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟としては、法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き、他に適当な争訟方法があるものとして、不適法というべきである。
- ② 公法上の当事者訴訟としての本件確認の訴えの適法性
- 本件通達を踏まえた本件職務命令に基づく公的義務の存在は、その違反が懲戒処分の処分事由との評価を受けることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が発生する危険の観点からも、都立学校の教職員の法的地位に現実の危険を及ぼし得るものといえるので、このような行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする訴訟として構成する場合には、公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴えとして位置付けることができると解される。
- 本件通達を踏まえて処遇上の不利益が反復継続的かつ累積加重的に発生し拡大する危険が現に存在する状況の下では、毎年度2回以上の各式典を契機として上記のように処遇上の不利益が反復継続的かつ累積加重的に発生し拡大していくと事後的な損害の回復が著しく困難になることを考慮すると、本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては、その目的に則した有効適切な争訟方法であるということができ、確認の利益を肯定することができるものというべきである。
- ③ 公法上の当事者訴訟としての本件確認の訴えに係る請求の当否
- 本件職務命令が違憲無効であってこれに基づく公的義務が不存在であるとはいえないから、上記訴えに係る請求は理由がない。
【 参考 】
一連の最高裁各小法廷判決の概略 (2011.7.19現在)
〈対象とする判決〉
A 2011年5月30日 最高裁第二小法廷判決 (○○○高校・嘱託採用拒否)
B 2011年6月 6日 最高裁第一小法廷判決 (嘱託採用拒否)
C 2011年6月14日 最高裁第三小法廷判決 (都教組八王子支部)
〈主文〉
本件上告を棄却する。
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※ 上記3件の各小法廷判決は、同趣旨(ほぼ同文)の理由で、「本件(各)職務命令は憲法19条に違反しない」とした。
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※ これ以降も、7月19日まで5件(計8件)の、最高裁各小法廷判決が続いたが、それらはいずれも上記判決を引用したものであった。
第1 職務命令の憲法19条違反をいう部分について
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1 上告人(ら)が卒業式(等の式典)における国歌斉唱の際の起立斉唱行為を拒否する理由(前提)
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A 日本の侵略戦争の歴史を学ぶ在日朝鮮人、在日中国人の生徒に対し、「日の丸」や「君が代」を卒業式に組み入れて強制することは、教師としての良心が許さないという考えを有している旨主張。
このような考えは、「日の丸」や「君が代」が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしたとする上告人自身の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活上ないし教育上の信念等ということができる。
-
B ①戦前の日本の軍国主義やアジア諸国への侵略戦争とこれに加功した「日の丸」や「君が代」に対する反省にたち、平和を思考するという考え、②国民主権、平等主義等の理念から天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美することに反対するという考え、③個人の尊重の理念から、多様な価値観を認めない一律強制や国家主権に反対するという考え、④教育の自主性を尊重し、教え子たちを戦場に送り出してしまった戦前教育と同様に教育現場に画一的統制や過剰な国家の関与を持ち込むことに反対するという教育者としての考え、⑤これまで人権の尊重や自主的思考及び自主的判断の大切さを強調する教育実践を続けてきたことと矛盾する行動はできないという教育者としての考え、⑥多様な国籍、民族、信仰、家庭的背景等から生まれた生徒の信仰や思想を守らなければならないという教育者としての考え等を有している。
上記のような考えは、「日の丸」や「君が代」が過去の我が国において果たした役割に関わる上告人ら自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等ということができるところ、卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、「日の丸」や「君が代」に尊重の意を表するものであって、上告人らの考えとは根本的に相容れないものであるから、上告人らに対して職務命令によってこれを強制することは、憲法19条に違反する旨主張。
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C 天皇主権と統帥権が暴威を振るい、侵略戦争と植民地支配によって内外に多大な惨禍をもたらした歴史的事実から、「君が代」や「日の丸」に対し、戦前の軍国主義と天皇主義を象徴するという否定的評価を有しているので、「君が代」や「日の丸」に対する尊崇、敬意の念の表明に他ならない国歌斉唱の際の起立斉唱行為をすることはできない旨主張。
上記のような考えは、我が国において「日の丸」や「君が代」が戦前の軍国主義や国家体制等との関係で果たした役割に関わる上告人ら自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等ということができる。
-
2 本件(各)職務命令は個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものではない。
-
① 本件(各)職務命令(の発出)当時、公立高等学校(中学校)における卒業式等の式典において、国旗としての「日の丸」の掲揚及び国歌としての「君が代」の斉唱が広く行われていたことは周知の事実であり、学校の儀式的行事である卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見て、これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するもの(であり、かつ、そのような所作として外部からも認識されるもの)である。
-
② (国歌斉唱の際の)起立斉唱行為は、その性質の点から見て、上告人(ら)の有する歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結び付くものとはいえず、本件(各)職務命令は、上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。
-
③ 本件(各)職務命令は、(上告人らに対して、)特定の思想を持つことを強制したり、これに反(対)する思想を持つことを禁止したりするものではなく、特定の思想の有無について告白することを強要(強制)するものということもできないから、本件(各)職務命令は、個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできない。
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3 本件(各)職務命令は思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面がある。
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① もっとも、(卒業式等の式典における国歌斉唱の際の)起立斉唱行為は、一般的、客観的に見ても、国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができ(、そのように外部から認識されるものであるということができ)る。
(なお、例えば音楽専科の教諭が上記国歌斉唱の際にピアノ伴奏をする行為であれば、音楽専科の教諭としての教科指導に準ずる性質を有するものであって、敬意の表明としての要素の希薄な行為であり、そのように外部から認識されるものである。
〈註、この文言は「C判決」だけのもの〉)
-
② そうすると、自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することには応じ難いと考える者が、これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められることは、その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難い。
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① 個人の歴史観ないし世界観には多種多様なものがあり得るのであり、それが内心にとどまらず、それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ、当該外部的行動が社会一般の規範等と抵触する場面において制限を受けることがあるところ、その制限が必要かつ合理的なものである場合には、その制限を介して生ずる上記の間接的な制約も許容されうるものというべきである。
-
② そして、このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。
-
① 本件(各)職務命令は、一般的、客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる行為を求めるものであり、それが結果として上記の要素との関係においてその歴史観ないし世界観に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で、その限りで上告人(ら)の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があるものということができる。
他方、学校の卒業式や入学式等という教育上の特に重要な節目となる儀式的行事においては、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要であるといえる。
-
② 本件(各)職務命令は、公立高等学校(中学校)の教諭(教職員)である上告人(ら)に対して当該学校の卒業式(や創立記念式典)(又は入学式)という式典における慣例上の儀礼的な所作として国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とするものであって、高等学校(中学校)教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義、在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って、地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものである。
-
③ 以上の諸事情を踏まえると、本件(各)職務命令については、上告人(ら)の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの、職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量すれば、上記の制約を許容しうる程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。
-
本件(各)職務命令は、上告人(ら)の思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当である。
以上は、当裁判所大法廷判決 (最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決、最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決、最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決、最高裁昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決) の趣旨に徴して明らかというべきである。
第2 その余の上告理由について
-
論旨は、違憲をいうが、その実質は事実誤認若しくは(又は)単なる法令違反をいうもの(又はその前提を欠くもの)であって、民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
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