大工と道具 |
進化の過程において、二本の足を持って直立し、自由になった前の二本の足、「手」をもって作業を始めたときから、人ルの祖先の脳は、他の動物と隔絶した急速な発達を開始したといわれる。その手がやがて道具を握り、道具をもって道具をつくることによって、はじめて人間の名乗りが上げられた。
道具はわれわれの手先だけにかかわるものではなく、脳細胞にも心にも密接なかかわり合いを持つものである。
大工道具を使って仕事をする大工にとっては、道具はモノとの対話の通訳者だなどとは言っておれない。
それは大工の手の延長であり、厳しく利潤が選別され、酷使される労働手段である。まさに生きるための道具である。「女房を質に入れても」、といわれたほど優れた道具への執着も、その道具による労働生産性の高さ、仕事の出来映えのよさに期待を寄せていることをを見逃すことはできない。
長い時間をかけて、洗練され抜かれた、機能に徹した形の美しさとともに、専門の大工の道具の持つ雄大な風格は彼らの鍛えられた業と腕力の大きさを物語ると同時に、それが過酷なまでに駆使される、生活をかけたまさに道具であることを物語っている。モノとの対話、自然への没入などという生やさしいのものではない。大工にとっての道具とはそう言うモノである。 |
道具の王者ー大工道具 |
大工道具の種類は、大変多い。また同じ種類に属しても、用途に応じて形状も寸法も変化
するものがたくさんある。「「道具は道具屋から買ってきて使うものではなく、、大工が自分でつ
くるものだ。」といわれる。買ってきたものは道具の素材に過ぎない。
それを仕事の内容に合わせ、加工する木の性質に合わせて、、研ぎ、目立てし、あるいは調
整する。。またカンナやノミのように。荒仕事から中間の仕事を経て仕上げに至る、その仕事
の順に応じて何種類にも分類されている道具もある。特にカンナにおいては、これが厳密に
区分されている。
木のように複雑な性質を持つ有機物を対象にする道具は、種類も数も多いのは当然だが、
日本の大工道具ほど分化したものは他の職人道具にはないだろう。もちろん世界にもない。
日本の大工道具こそ、道具の中の道具としてその王座にあるものである。 |
エピソード 炎が引き出す人の技 刃物 |
ひとくちに刃物と言っても、日本刀から大工道具まで様々です。江戸時代の後半には、それぞれの刃物に、歴史的・地理的背景に裏付けられた特産地が生まれるようになりました。時代のニーズに答えた製品づくりをしながらも、各産地はそれぞれの伝統を伝えています。 |
大工道具:鉋(かんな)、鑿(のみ)、鋸(のこぎり) |
美しく精巧な日本の木造建築は、優秀な職人と大工道具に支えられています。職人の命ともいわれる大工道具として名をはせているのが、越後与板(えちごよいた)や播州三木ばんしゅうみき)の打刃物です。
越後与板の打刃物は、信濃川の改修や与板地区の開拓に起源を持ちます。16世紀に行われた城下町づくりでは多くの建築物が建られ、そこから越後与板の大工道具が発展していきました。
播州三木の打刃物は、山鋸(やまのこ)がはじまりでした。三木は木挽きを行う者が多い地方のため山鋸や板挽き鋸が盛んに作られたのです。18世紀なかばに有名な鋸産地として知られるようになると、三木は大阪の同業組合に参加して、鉋や鑿などの大工道具全般を生産するようになりました。以来、三木は大工道具の町と呼ばれています。
■越後与板打刃物についての詳しい情報はこちら。
■播州三木打刃物についての詳しい情報はこちら。
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鎌、鉈(なた)、鍬(くわ)、斧 |
古くから漆器づくりが盛んで多くの漆掻き職人がいた越前では、京都から伝わった刀剣製作の技術をもとにして、江戸時代には良質の鎌が作られていました。漆を求めて全国を移動する漆掻き職人は、副業として行く先々の農家に、越前で作られた鎌を売り広げていきました。こうして全国的に知られるようになったのが越前鎌です。越前打刃物は、越前鎌の販売によって作られた、漆掻き職人やそこから転じた鎌行商人のネットワークを活かして発展してきました。
茅葺き屋根の素材や牛馬の飼料、作物の肥料として、草は大事な資源でした。雪深い信州では、草を刈ることのできる期間が短いため、作業能率の良い刃物が求められました。草刈り鎌に代表される信州鎌は、そうした需要の元に発達した刃物づくりの技術から生まれました。この鎌の技術を応用したものが、信州打刃物の包丁や鉈、鍬、斧です。
鉈・木刈り鎌・斧などの、伐採や植林用の刃物としては、土佐打刃物が知られています。土佐の打刃物は、開拓時代の北海道における刃物の需要に応えるために、技術的な創意工夫をこらして丈夫で鋭利な斧や鉈を生み出しました。その品質は高く評価され、現在では日本中の林業地で活躍しています。
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