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食日記


2008年02月19日
19:11 食日記1

朝、近くのベーカリー特製の生クリームを生地に練り込んだ食パンを1枚焼く。急いでいたので、たまたま手近にあった缶コーヒーといっしょに食す。これほど情けなくはないけれど、いつも朝はこんなもの。

昼も時間なし。京急の品川駅「えきめんや」でかき揚げ蕎麦。汁は甘めだが私の好む味。牢固として変わらぬ駅蕎麦の味わい。口の周りにネギとだし汁の混ざったにおいを纏わせながら仕事をもらいに行く。

夜の献立。昨日のタコの残りがあるので、それとタマネギの微塵と生バジルをオリーブ油で和えて白胡椒を振ったの少し。アボカドと少しのマグロの落としを混ぜたの。単にトマトを1個切っただけの。それにディチュコのbP2を使ってつくる、生クリームと粉チーズとベーコンのソースを和えたいかさまカルボナーラ。キリン一番搾り350mlと、あとはだらだらと菊正の燗をやる。
ちなみにウチの晩飯は愚生が作る。しこうして後片づけは荊妻がやるという、非常に自分に都合のいい板前ぶりである。


2008年02月20日
18:17 食日記2

朝。白菜のスープ、発芽玄米食パン1枚、リンゴジュース。朝のスープはいつも家人が作る。白菜をオリーブオイルで炒め、水を加えて鶏ガラスープの素で味をつける。玄米食パンは焼くと穀物っぽい風味と重量感が出る。リンゴジュースは、これはまあ、お子様向けのしろものだが。

昼。生麦「自由軒」のもやしそば。これは毎日でも飽きない名菜である。こないだ50円値上げして680円になった。半端でないもやしのボリュームと、熱浸透の継時的変化を見込んだゆで加減の細麺に、いつも密かに舌を巻く。だが、チーフコックでないほうの御仁の製作に当たってしまうと、その日一日が暗くなる。ロシアンルーレットみたいなもの。

夜。昼の余勢を駆って、自家製ジャージャー麺を作ることにする。家人は外ですませるそうなので、独り宴会である。ジャージャー麺は「味の素クックドゥ」の麻婆豆腐用のソースを用いると、びっくりするくらい料理店の味になる。あとは野菜。カリフラワーはゆでてマヨネーズをつけるだけ。そしてセロリ! この時期のセロリは驚くほどみずみずしく、甘い。ほとんど林檎か梨のような果物の芳香が感じられるのだ。1本100円。オリーブオイルとワインビネガーを混ぜたものをちょっとだけかけて囓る。ここまではビール。あとは鮮魚店「魚徳」の奨める鯛の刺身でだらだらと菊正をやるつもり。

備前火襷の徳利と織部のぐい呑みは、もう20年、夜ごとの酷使に耐えている。特にぐい呑みの口が当たる箇所などは、ガラス質の劣化が見られるほど。見込みのあたり、酒によるむらむらとした斑(ふ)が浮き出ているのは景色だが。徳利については横井也有の『鶉衣』にこんな話がある。すなわち自分が所有している大徳利には銘があって「侍童」という。ふつう、弟子や使用人の子供などは、使いっ走りとあるごとく、腰が軽いのを美質とする。しかるにわが「侍童」は、その中の酒がいつまでも減らず、いつまでもその尻が重いのをたっとぶのであると。


2008年02月21日
19:35 食日記3

朝。家人が作り置いていったいつもの白菜スープ。火を入れ、ゆうべの燗冷ましの酒をちょっと落としてアルコールを飛ばす。いつもよりは佳い味になったと思うけれど。トーストした玄米パンにもオリーブオイルを薄く塗る。あきらかに「観客」を意識している。無塩野菜ジュース1杯。

昼。そば屋のランチ。かき揚げ天丼と小せいろ蕎麦。かき揚げのたれを薄くしてもらう。蕎麦のあとの蕎麦湯の香、春の空。

夕方の散歩の時、気が向いて店を開けたばかりの生麦の(驚くなかれ)本格バー「キングペリカン」でノッカンドゥを杯一。開けたばかりは「ハッピーアワー」ということで20%オフ。ゆえに640円という感動的な値段。シングルモルトが、だぜ。もともとの店の値段からして安いけど。ただし、これは1杯きりにしておくべし、という黄金律がある。

晩。今日も女房がいないので、独り宴会は続く。アスパラガスと厚揚げを炒め合わせて辛味噌で和える独善的家常豆腐。これを冷たいビールでやる。あと、ゆで温野菜を少し。きょうは鮮魚「魚徳」は定休日なので、スーパーマーケットの魚売り場で魚を見つくろう。あまりよいものはないが、天然・生とあるキハダマグロのサクをもとめる。これで菊正の燗をちびちびと。なんだかタンパク質多め。よいのかな。ウチの晩飯は誰かさんみたいに1時間でどうこうどころの話ではなく、3時間でも4時間でもだらだらと終わらない。ふたりとものんべだから。


2008年02月23日
00:50 食日記4

朝。といってもゆうべは3時過ぎまで飲んでだらだらしていたので、起きたら午後2時。白菜スープと玄米パンと無塩野菜ジュース。女房にはこれに目玉焼きないしヨーグルトがつく。でもここまでくると、もう羨ましくもなくなる。

昼は抜き。薬もいっかいくらいいいや。

夜。鮮魚「魚徳」で子持ちカレイ。これを砂糖・味醂を使わず、醤油・酒・水のみで煮魚にする。これは菊正の燗でだらだらとやるためのもの。
きのうの半分余った厚揚げを焼き、生姜と青葱を載せる。醤油を垂らして居酒屋献立風。
青梗菜・アスパラガス・人参・椎茸・玉葱・豚肉で餡かけ風野菜炒め。新聞屋のまいないでせしめた中華鍋が威力を発揮。ビールは主にこれでやる。菊正と話は前後するけれど。
おまけは冷やしトマトにエクストラバージンオイルをかけたの。野菜にオリーブオイルをかけると果物みたいになり、果物にオリーブオイルをかけると野菜の香りが立つのが不思議だ。


2008年02月24日
01:26 食日記5

朝。白菜スープ。非常に柔らかい生パン。近所のベーカリーで製するパン・ド・ミーという。混濁質の林檎ジュース。これはお子様向けでない。ジュースは今何かと話題の生協仕入れ。

昼。急いでいたのでチョコレートの大玉トリュフ1個。薬を飲むため。

夜。すさまじいばかりの春一番。春寒し。風による電車遅延のため遅刻することになるが、馬肉料理屋、町田「柿島屋」で「なにぬねの?」親睦会。タクランケ、南原充士、秋川久紫、kazu、解酲子が出席者。
桜鍋、馬刺し、馬肉メンチ、馬肉ハム、(馬肉)チョリソーで、おびただしい泡盛、ビール、各種なんとかハイ、田舎葡萄酒、ノンアルコール飲料、甘い日本酒で盛り上がるも、何が話されていたかは、ヒ・ミ・ツ。
肉蕎麦、それとここ名物、カレースープに浮いたスープパスタ状田舎蕎麦で〆。さいごのは病みつきになる。
病むと言えばここでわが臓腑に入ったタンパクの量を考えると恐ろしくてもうお祈りを上げて寝ることにする。さらば。


2008年02月25日
01:06 食日記6

朝。白菜スープ、焼いたパン・ド・ミー(にオリーブオイルを薄く塗る)、無塩野菜ジュース。

昼は「自由軒」でサンマー麺。といっても魚のサンマではない。横浜の住人ならたいがい知っていようが、もやし・キャベツ・人参・青梗菜・キクラゲ・豚肉切れ端を刻んだものを炒めて透明なカタクリで綴じ、醤油味のソバにかけた中華麺で、もとは広東麺などが発想の元だそうだが、これをもっと安価に提供できないかと、「聘珍樓」の主人が考案したものと聞いた。横浜の中華屋ならたいていメニューにこれを載せている。けっしてこれをヘタに豪華にしないほうがよいと考える。寒風に吹きっさらされて入った店でこれにありつくと、心底ありがたいと思う。今日の愚生のように。

夜。なんにも残っていないと諦めかけた夕方の鮮魚「魚徳」で、大将が低い声で「きょうはクエが入ってますぜ」と耳打ちする。それだけでも信じられないのにグラム600円と追い討ちをかける。一切れ切ってもらい、160グラムがほどを分けてもらう。家に帰ってさっそくこぶ湯を仕込み、魚を切り、ぽん酢がなかったので、女房のレッスンの生徒からいただいた、シンガポールの青唐辛子酢漬けの刻んだのを米酢醤油に混ぜたもの(ああ、ややこしい)をつけだれにして、水炊きにして食す。魚の淡い脂で、一緒に入れた豆腐やネギまでが淡く、甘い。魚の本体については、筆舌にのぼせようとすると、天上的とも、逆に余りに感覚的なともいえる「あるもの」が、他を押しのけてやって来て、筆の上の楼閣を破壊するのだ。
あとは、根菜とちょっとの鶏モモで煮物をつくったが、考えてみればこれは若いとき嫌いであったがめ煮とか筑前煮に似たものかな、という感じである。今はこれらを好むし、そういう事実を否定しようとかそこを忌避しようとか思わない。


2008年02月26日
01:20 食日記7

朝はゆうべのがめ煮汁を温めたものと、パン・ド・ミーの焼いたやつ、混濁林檎ジュース。焼いたパン・ド・ミーには何もつけない。

昼。「自由軒」のもやしそば。食後すぐ歯医者に行かねばならないことに気がついて、注文した直後に後悔する。旨かったから、まあいいか。

夜。鮮魚「魚徳」に行ったら、クエが1パックだけ残っていたので迷わず購入。きのう残しておいたクエスープに併せて入れる。スープは冷えてもまったく澄み切った大きな油の滴が浮いているばかりだ。クエ鍋は完全な幸福のうちに平らげられた。残ったスープを塩梅してラーメンに。ここまでは何となくビール。以降、奨められた鯛の刺身で燗酒をだらだら、はいつものこと。
この「魚徳」の鯛はこりこりと硬く、時としてかみ切れず、大将曰く、あるときこれを買った若い客がこんなもん食えないじゃないかと文句を言ったというから、愚生そ奴のことを罰当たりめがといったんは憤り、それから価値観の違いという事実に直面して、多分はるか太古から世々居たと思しき年寄りたちと同じように、一寸ダークな気分になったことがある。客に合わせて売れりゃあいいってのかい。(客にもよるが。)


2008年02月27日
01:21 食日記8

朝。クエ汁ラーメン。クエスープと中華麺とネギの微塵だけの白湯素ラーメン。

昼。そば屋のランチ。舞妓丼と小かけ蕎麦。舞妓丼は小ぶりの海老天を卵で綴じた丼物で、ちょっとタンパクが気になる。なぜ舞妓かは、小さな海老の反った姿が乙女を思わせるからとか。

夜。トマトとセロリのサラダ。春先の匂い。インゲン・人参・玉ねぎ・ベーコン・ソーセージ・ハムの小間切れにしたものを、トマトピューレその他で煮込んだソースに絡めた、唐辛子味のペンネ。ビールと。
鮮魚「魚徳」に行ったらもう店を閉めていたので、生協でバチマグロのサク。これはそのままではなく、ぶつ切りにして醤油と合わせ、つまり「づけ」にして、柚子胡椒を和えかつネギの微塵をまぶす。菊正の燗で。


2008年02月28日
01:04 食日記9

朝。白菜スープ。無塩野菜ジュース。発芽玄米パンを焼いたのにオリーブオイル。

昼。仕事の届け先の護国寺にある「AKARIYA」でキーマカレーとチャイ。ここのカレーの辛さとスパイス感は、ふと、「貪り」に人を之かせる要素があって、おかわり自由をいいことに、気がつけばライス2皿平らげてしまったことがある。きょうは1皿でがまんしたが。

夜。東京への往復に疲労して、晩のめしづくりは勘弁してもらい、地元で外食。生麦・洋食「ひらやま亭」で、ビンチョウとサーモンのカルパッチョ、ラタトゥイユ(とガーリックトースト)、おつまみ蟹クリームコロッケと、それからミックスピザ。ピザを食する途中で、治療中の歯の固定部分が取れるというアクシデント。前半生ビール、後半赤ワインのデキャンタ。
帰ってからまた菊正でだらだら。このだらだらがないと一日が終わった気がしない。


2008年02月29日
01:15 食日記10

朝。病院があったので、家で食事する時間を取れず、昼過ぎに「ジョナサン」でランチ。鶏のもろみ焼きとカニクリームフライというのだそうな。もろみ焼きが塩辛かったので、三分の一がほど残す。でもこういう、冷凍野菜の人参のグラッセやブロッコリー、大盛りのコーンなど、昔懐かしい。こういったランチに、むかし抱いていた希望のような感覚を想い出す。

午後4時半、近くのいつも買っているベーカリーで日常のパンと調理パンを買って、調理パンのハムサンドでかるくチュウジキというところ。混濁林檎ジュースと。ここのハムサンドは知られざる名品である。

夜。里芋・人参・大根・木綿豆腐・鶏もも肉を昆布だしで煮て、醤油と酒で味をつけたもの。だしに使った昆布もついでに煮てやる。それと、カリフラワーを固くゆで、オリーブオイルとバターとカレー粉で炒め、ハムをあわせたものを思いつきで。安直なわりに評判は悪くない。これらでビール。
鮮魚「魚徳」は休みなので、京急スーパーで求めてきた平目のサクを切れない包丁で切り、例によって菊正で。貧弱ながら縁側もついている。これによりエンドレス・ディープ・ナイト。直訳すれば、だらだらと、酒。


2008年03月01日
01:26 食日記11

朝。ゆうべの野菜や鶏の汁を温めて、付け汁風に蕎麦を食す。

昼は近所のパン屋の名ハムサンド。無塩の野菜ジュースで。

夜。六角橋居酒屋「ほんまる亭」にて、帰京というか上京してきた近藤弘文や、玉川満と大居酒屋宴会。鮪唐揚げおろし添え・名物コロッケ・鯛と鮪赤身刺身、ほかで、ビール・サワー・金陵の燗が乱れ飛ぶ。その間の固有名詞の讃歎・罵倒の数知れぬこと。


2008年03月01日
16:10 食日記12

朝。白菜ジュース、発芽玄米パンの焼いたの、無塩野菜ジュース。

昼はてきとう。

以下、夜は年に1回わが家を会場として行われる、昔からの友人を招いて、というかカネを供出し合って、築地で市場の番頭をやっているメンバーのうちの友人を通じ手に入れる河豚のパーティと、近藤弘文詩人が思いがけなくもわが家に恵んでくれた毛ガニという、そうそうはない物凄いと言っていい取り合わせでまたまた大酒となるので、たぶん、日記は書けない。友人の一人が、いつもそうなのだが、泊まりがけで呑んでゆくのだ。


2008年03月03日
00:24 食日記13

朝。一泊した友人と、彼にもらった市場の塩鮭を焼いてビール、朝の菊正燗酒、そのあと、ゆうべの河豚汁で雑炊をつくる。これだけ呑んで、ちっとも二日酔いでないのはさすが河豚。でも、こんなことをやっているとそのうちバチが当たりそうな気がする。

昼。友人を見送ってから、また昏々と眠る。めざめれば、「うたてこの世はをぐらきを」(柳田國男)の春の宵である。食欲はなかったが、薬の服用のため、チョコレート小片を2枚。混濁林檎ジュースと。

夜。とても晩飯はつくる気力がなかったので、家内に職場の帰りに横浜クイーンズシェフで中華弁当を買ってきてもらう。キリン一番搾り、菊正をやりつつ、しかし箸がどうにも進まない。はげしい肉体労働のあとのような、筋肉的な疲労がある。二晩つづけての大宴会など、むかしは蚊に刺されたほどのこともなかったのになあ。今週は真面目に暮らします。


2008年03月04日
00:49 食日記14

朝。白菜スープと、パン・ド・ミーのトーストにオリーブオイルを塗ったのと、混濁林檎ジュース。

昼。生麦「自由軒」で肉野菜炒めライス。かぐわしいラードの香り。米も野菜のひとつと心得るべし。

夜。大サラダと、トマトソースだけのシンプルスパゲッティ。パスタはディチュコの11番。これはどこにでも出回っている。サラダは、ブロッコリー・キュウリ・ピーマン・セロリ・インゲンとトマト。そこに、鮮魚「魚徳」で仕入れたシコイワシの刺身に塩・胡椒してオリーブオイルをからめ、30分ほど寝かせたやつを投入。今時分の野菜はどれもやわらかく、甘い。米酢とエクストラバージンオイルのドレッシングで。いつものビール、キリン一番搾り350tのあと、燗をした菊正にこのサラダが思いがけなくも実によく合う。

「魚徳」ではまたクエが置いてあった。三浦三崎でまた揚がったのを買い付けてきたようだ。ここら辺ではクエなどめったに揚がらぬはず。安く食えるのはよいけれど、何か心持ちが落ち着かない。クエの頭のカマなんかがごろっと売られていて、それがたったの千円なんだぜ? 当然クエを奨められたが、空恐ろしくなって精神衛生上もイワシにしてヨカッタ。


2008年03月05日
00:57 食日記15

朝。珍しく早く目覚め、白菜スープ、エクストラバージン油を塗ったパン・ド・ミーの焼いたの、無塩野菜ジュースでいつもどおりの朝餉。

行ってらっしゃいねあなた、と妻を見送ったあと、珍しく仕事に集中。

昼。蕎麦屋でランチの小海老の天ぷら丼とせいろ蕎麦。人のいやがる葱のおくびがこころよい。

夜。はっと気がついてきょうの仕事を終りにする。里芋と手羽先の中華風煮物。紹興酒で味・香りづけ。生揚げと小松菜を、ちりめんじゃこ&昆布だし汁と煮切り酒で炊いたん。塩で味つけ。安売りの椎茸もいっしょに。この前後ビール一番搾り。それと、あとはゆうべのシコイワシを油漬けにして保存していたやつで菊正。今宵はぬるめの燗がいい。


2008年03月06日
00:40 食日記16

朝。生クリーム食パンのトースト1枚。白菜スープ。半混濁林檎ジュース。

遅い昼。仕事をしていたので。生クリーム食パンを焼き、キュウリとハムをはさんでマヨネーズを絞ったサンドイッチをじぶんでつくる。半混濁林檎ジュース半杯と。よっぽどビールを飲んでやろうかと思った。がまん。

夜。夜まで仕事に熱中。買い物をすることができなかったので、明日は休みの女房と外食。生麦「ひらやま亭」。前菜3種の皿。それぞれごく少量の、生ハム、ラタトゥイユとガーリックパン、鴨ロースト。サラダはシーザーサラダ。主菜、漁師風スパゲッティ。前半生ビール、後半赤ワインデキャンタで。

(ビールはたぶんキリン一番搾りの生。歩く間もなく目睫に麒麟ビール横浜工場がある。生麦の店は、たぶん、ほぼキリンと思う。名古屋におけるトヨタとはいわないにしろ、ちょっとした企業城下町ではないかと疑っている。)

「ひらやま亭」は鹹味と酸味のぐあいが特によろしきを得ている。会計の女人は、でもあんまり客商売得意でなさそな権高の印象だけれどね。


2008年03月07日
02:26 食日記17

朝。生クリーム食パンのトースト。白菜スープ。無塩野菜ジュース。家内が休みだったので、イチゴ3、4顆ずつ。

昼。いつもの蕎麦「味楽」でかき揚げ天丼と、それから店内に入ったらそこにいる客の全員が温蕎麦を啜っていて、その匂いに堪らず二人揃って温蕎麦を頼む。日替わりランチのオプション。

夜。セロリ・キュウリ・むき海老、唐辛子酢漬けと香菜の刻んだの、ナンプラーほかで味付けしたサラダ。木綿豆腐の煮染めと水菜。中華的油ソバ、鶏がらスープ味。とりとめもなく、ビール、菊正燗。菊正徳利3本は飲み過ぎだが、同居人の愚痴を聞いてやるには適量。


2008年03月08日
01:01 食日記18

朝。発芽玄米食パントースト。白菜スープ。クリアタイプお子様リンゴジュース。苺3顆。

昼。といっても午後5時近く。蕎麦屋「味楽」で天とろ定食。外は少しの暖気。定食は、とろろめし・小かけ蕎麦・海老天と野菜煮物。代を置き、少しの暖気の薄闇の外、ふらふらと「キングペリカン」のドアを開け、バルヴェニーを一杯。バーテンと昨今の世情を慷慨しつつ代を置き、外へ出ると完全な夜。しかも雪女の口から吹いてくる息のような寒冷な風が出ている。

夜。上記の寒冷な風をつき、明かり灯せる鮮魚「魚徳」へ行ったら、いつもの鯛のほかサヨリが置いてあるので購入。季節のもの。きょうはひとりの夕飯なので、酒の肴くらいしかつくらない。シメジ一株とベーコンを炒めたの、それと刺身でビールと菊正。サヨリは先週来残っていたふぐ醤油に、柚子胡椒を溶いたタレでやるが実に結構。ぷりぷりやで。


2008年03月09日
00:19 食日記19

朝。白菜スープ。お子様クリアタイプ林檎ジュース。発芽玄米食パンのトーストにはオリーブ油。

昼。蕎麦屋のカレーライス。単品。鰹だしの匂いのする本格蕎麦屋カレーライス。肉少し。帰り道は薄暗くなる。鉄斎みたいな梅花が咲いている。

夜。タコ・セロリ・キュウリ・ロースハム・アスパラガスとシャンツァイと柚子胡椒とナンプラー等何でも入れたアジアン・サラダ。アジアついでに即席ジャージャー麺。これらで一番搾り。あとは鮮魚「魚徳」で奨められた、サービス価格のバチマグロで菊正の燗。春夜暗中に匂う沈丁花を偲びながら。

けれど、たまには得体の知れない獣肉を揚げたカツレツなど、所望したい。ザクッと切ると湯気の上がるみたいな。


2008年03月10日
01:02 食日記20

朝。この横浜のこんな町内にも郷土史話会のようなものがあり、若いころから興味のある神社・神話関係のこともあって、あわてふためいて出席。ために服薬のためのチョコレート片1枚。

昼。会が終わり、生麦の町に出て自由軒にてサンマー麺。史話会のとき、公民館みたいな所で体が冷え切ってしまったので、とろみのついた中華麺はありがたい。街中は早春の花の匂い。風はまだ薄ら寒いが、歩きながら駄句をひねる。
 妍競ふ如くにほふか沈丁華 解

お八つ。午後4時ころ、案の定空腹に襲われる。朝、女房がつくっておいた白菜スープを加工して白菜タンメンを製してすする。うめえこと。このごろ、なにも麺にコシがなくったっていいやと思うようになっている。退化の改新と謂うべきや。

夜。新ジャガイモの小芋とマグロの落としとインゲンの煮物。うちとしては例外的だが少し味醂を入れる、だができるだけ薄味で。あとはトマトのざく切りしたのにオリーブ油を混ぜ、ちょっと置いたもの。ビール、菊正と進むうち、もう刺身が入らなくなる。
 鯛刺しも空き腹こその珍重か 解


2008年03月11日
01:16 食日記21

朝は9時から東京の病院で超音波検査なので、細がどっかで貰ってきた台湾のパイナップル菓子を半分口に放り込み、服薬して飛び出す。つまらねえ(廿楽順治ふうに)。

昼。検査をすませ、仕事を届け、帰ってきた鶴見の駅近くのビル地下で、「む〇みや」の味噌ラーメン・ライスセットを。これの半熟煮卵付き、というモーレツに体に良くなさそうな物が舌に体に嬉しい。味噌のスープがどろどろなのも何か往昔の家庭煮返し味噌汁を思い起こさせ、なつかしい。毎回行く気にはならないが。

夜。水菜・アスパラガス・キュウリ・玉ねぎ・マリネした鯛刺し(ゆうべの)ほかでサラダ・エイジアン。今ごろの野菜がとにかく旨い。
パスタはペンネ・アラブ風。新玉ねぎとハムとウインナソーセージの小間切れが入る。とくにウインナは粗挽きでなく、ダサく安直でソフトなやつがいちばんうまい。昔のような味がいいのだ。
さいごにまぐろぶつを、阿部大兄のレシピに従い、酒醤油に1時間ほどマリネして柚子胡椒を和えたもので菊正をやる。それまでは、途切れ途切れの麦酒哉。

誹諧「鯛刺の巻」六分の一歌仙完成。やっている半日ほどの間は分からなかったが、いやこうしてみると「藍皿」や「文机」のウツリが、こころざし深く6句のぜんたいを覆っているのではないか?  (蓋し渠を自画自賛馬鹿といふ。)

見上ぐれば天恢々とはるのあめ  解

〇誹諧「鯛刺の巻」

鯛刺の藍皿よけれ文机に  樫
十有五ニシテ酒を知る春  解
暮れ遅き浮世のひまを旅ねして  仝  
粥貰ひ受く身軽あたたか   樫
狼が銀に変化す時の月   仝
栗のいが盛る信楽の陶   解


2008年03月12日
00:22 食日記22

朝。きょうは女房が休みなので朝食をともにする。白菜スープ、発芽玄米食パンのトースト、無塩野菜ジュース。彼女のにはこれに目玉焼きとプレーンヨーグルトがつく。

昼。蕎麦屋で、陽気もいいので気分が乗って、冷たいせいろ蕎麦。蕎麦切りのあとのひと手間というべき蕎麦湯に、さらし葱と一味唐辛子をさらに加え、啜りあげると、春の空に気高い越天楽の調べが流れるようだが、正気に戻るとこれは店内BGMに似ている。

夜。ブロッコリー、カリフラワー、グリーンアスパラと新玉ねぎのサラダ。塩、米酢、ナンプラー、バージンオイルのドレッシング。主菜はカレー味のマッシュポテト。ハム・ソーセージの細切りとバター、生クリーム、カレー粉(含ガラムマサラ)。これらで麦酒。
今日の刺身は相も変わらず鯛、サヨリ。ぷりぷりですろう。これらで菊正。午後、歯を抜いたので酒はダメと言われているのだが、経験上そんなことで酒をよす俺様ではないぞ、でもよい子は真似をしないように。

からたちの棘それぞれに愁ひ哉  解
 愁ひつゝ岡にのぼれば花いばら、の蕪村句への相伴。今日の散歩はやや遠回りする。

   又、
木瓜を見る忘却に痛みあるを知る  解


2008年03月13日
01:43 食日記23

朝。透明リンゴジュース、妻が買ってきた神戸屋の食パン(のトースト)、それにゆうべのハムソーセージ小間切れ入りカレー味マッシュポテト(なんて疲れる記述だろう)を塗りたくって囓る。これはでもうまい。
昼。つづけて入った仕事に疲れて時計を見ると、もう5時近く。あわてて生麦「自由軒」に入って肉そば、つまり肉や野菜のうま煮をしょうゆソバにかけたのを頼み、ややあって半ライスを追加する。食い終わって、苦しいが、こういうのもアリだな、と。野菜の色とりどり。

夜。きのうのブロッコリーとカリフラワーを固ゆでにしたサラダ。マリネした鯛刺しの細切りとナンプラーを加える。
これに里芋と手羽先の紹興酒煮込み。ライスがあったらなんぼか善かろうが、それでは肥る。がまんして、唯粛々と菊正をやる。

夕方から昼とは一転して冷えてきた。よって一句。
 闇透きて沈丁つるぎのごとく迫る  解


2008年03月14日
00:41 食日記24

朝。検査と診察のあとなので実際には昼の時間。梅屋敷「ジョナサン」で日替わりランチとドリンクバー。ランチは思わず頼んでしまったがこれがハンバーグと牛肉コロッケという、まず家ではとらない食物。おかげであとから腹部膨満感、胸焼け、げっぷに悩まされる。こういうのは食えなくなってきているらしい。ドリンクバーはアールグレイの熱いやつ。これはわが密かなる青春の匂いでもある。

昼。実質は夕方だが、ベーカリー「ビオレ」の銘品ハムサンド。および生協の混濁林檎ジュース。

夜。疲労困憊セグンドなので、生麦「ひらやま亭」でばんめし。ヤリイカのニンニクソテー、カニクリームコロッケ(またコロッケだ)、トマトとアスパラガスのサラダのバルサミコ・ドレッシング、アンチョビと野菜のピザ。これらを生ビールと赤ワインでぐいぐいと。気がつけば、また悩まされるべき膨満感がやって来ている。
いちど病院から家に帰って、夜再び生麦の町に出たのだが、今夜は朧月夜で、それに惹かれてか、住宅街の道路に十円玉色をした巾着みたいな雌雄の蝦蟇蛙がじっとうずくまっていた。月光浴。

植え込み嘱目。
 赤あかとむごたらしくも椿咲く  解


2008年03月15日
00:51 食日記25

朝。生クリーム食パンの焼いたの、白菜スープ、食塩不使用野菜ジュース。

昼。珍しいことだが、気が向いてスーパーマーケットで買い物のついでに生麺の即席タンメンを買ってつくる。
まったく期待していなかったが、なにかクセになりそなあっさりした「いい味」なのだ、スープも麺も。旨いので評判の中華屋が、しばしば化学調味料をごっそり使っているといった例を思い起こさせる、そういった病みつきになる旨さ、と言ったら理解していただけるであろうか。私だけが嵌ったスイートスポットなのかも知れないが、恐るべしシマダヤ、と言いたい(具はハムを1枚だけ浮かせ、あとは白胡椒を振っただけの素タンメンなのだが)。

夜。私製カルボナーラと、生野菜や温野菜にシコイワシ刺身のマリネを混ぜ込んで、ナンプラーやシャンツァイを刻み入れたアジアン・サラダ。前者で主に一番搾り、後者で今も菊正・燗。夜に入って沛然たる豪雨、雷鳴。

春雷や夜の刺身はかをりたり  解


2008年03月15日
23:53 食日記26

朝。風邪を引いたのか、新手の花粉症の症状なのか、今ひとつ呼吸器系の感じがすぐれない。きのうの即席タンメンに白菜を入れて食すが、なんとなく、あんまり、旨くない。即席ものは続けてはダメだということか。

昼。食欲の湧かぬまま、蕎麦「味楽」でカレー南蛮うどん。カレーや蕎麦は腹具合を調える感じがするので。思った通り、食後体調がじわじわと恢復してくる。

鮮魚「魚徳」で奨められたシマアジ刺し、量はちょぼっとだけれど、馬齢を加えたわれわれ夫婦にはこれくらいが按配がいい。それで菊正。話は前後するが、一番搾りでやったのは、まずグリーンサラダ。それと、昨日から水に浸けておいた金時豆・白隠元豆を水ごと煮っくり返してペースト状につぶし、オリーブ油やバジルや粉チーズやら色んなものを混ぜ込んだディップとして、ベーカリー「ビオレ」で売っているカリカリの「ガーリックトースト」なるパンに載せたものを食す。アラブのほうでこんな料理があったか知らんと思って、適当につくった。意外にウケる。

きょうも遠回りして帰るも、体調今ひとつすぐれず、丘の上の集合住宅にたどり着くころには肩で息をしている。だが春である。まぎれもなく。

豆腐買ふ梅の香ふかきあたりにて
法華経と仄かに聴くや春の空 解


2008年03月17日
11:13 食日記27

16日、インフルエンザでぶち倒れる。朝は混濁林檎ジュースのみ。

昼。作り置きの白菜スープを温め、中華麺を入れてすする。体力付けにゆで卵、ハムなど、入れる。

夜。女房に帰りがけに買い物をして貰って、できるだけカンタン晩餐を試みる。ブロッコリーとベーコンのスパゲッティ。トマト1個を乱切りにして冷やし、エクストラバージンオイルをかけただけのもの。それとマグロ赤身。ふらふらになっても晩酌を欠かす俺様ではないぞ、でもよい子は真似をしないように。
寝る前でも38℃ある。16日はとうとう女房にパソコンをいじるのを禁じられてしまった。

世を已んでしばし隠るる花の陰  解


2008年03月18日
01:06 食日記28

承前。

17日朝。起きてみると空腹。体重2キロばかり減。とりあえず、混濁林檎ジュースを飲み、生クリーム食パンを焼き、白菜スープで食べる。

よれる躯に活を入れ、護国寺の取引先に納品、護国寺「AKARIYA」で体力をつけようとマトン極辛カレー。カラダのことを考えてライスは一皿にしておく。辛くて熱い、幸福な気分。むかしのひとは言った、曰く、ナチュラル・ハイと。

意地悪なのや親切なのが色々いる税務署の雑踏をクリアして帰宅。途中鼻血。買い物を今夜も女房にしてもらうため、メール。
依って、夜のカンタン献立。アスパラと新玉ねぎとハムのパスタ・サラダ。昨日と同じ、冷やしたトマトのざく切りにエクストラバージンを混ぜたの(ゆうべほど旨い食材ではなかった)。厚揚げ焼き。鯛刺身。
特筆ものは厚揚げである。木綿よりも硬い口当たりなのだが、下手をすると出来たてのカッテージチーズのような濃さと甘さがあって吃驚した。女房は一番高いこれしか残っていなかったとぶつぶつ言っておったが。
サラダ、トマトで一番搾り、トマト、厚揚げ、鯛刺しで菊正。さいごの鯛刺しは、「魚徳」のに慣れた身としては、まあ冗談みたいなものだろう。けれど、さいごのこの一品がないとなると、どうも晩酌した気になれない。

やや更くる身は微熱して辛夷咲く  解


2008年03月19日
01:39 食日記29

朝。完全に熱は下がっている。咳はまだ残る。生クリーム食パンと混濁林檎ジュース(これが病後の体に美味である)、白菜スープの平常食。

昼。小海老天とじ丼ともり蕎麦のランチ。うららかな町は色んな匂い。きょうあたり、涅槃西風という。三月十八日というのは昔から民俗学的な色々があるようで、柳田國男もこの日付の不思議な符合について、どこかで書いていた。

夜。小松菜と厚揚げの煮物。昨日の厚揚げの記憶がまだ尾を引いている。じゃこでダシを取り、あとは酒塩だけの薄味で。主菜はジャージャーうどん。サラダ代わりは例によってオリーブ油でマリネしたざく切りトマト。きょうのは優秀。「魚徳」の鯛刺身。ここにしては質今少しか。もうちょっと早い時間に行くべきなのかも知れない。買い物をしつつ遠回りして、この町域で躯をなめているあらゆる猫に挨拶する。

夕仕舞ふ店に魚買ふ涅槃西風  解


2008年03月20日
00:46 食日記30

朝。発芽玄米食パンのトーストを、ゆうべのマリネトマト、(特別に)目玉焼きをおかずにして齧る。優秀林檎ジュースとともに。

昼。旗の台の病院の果てしない待ち時間は、かのカフェテラスにおける薄味コーヒーと、味の素のが上等に思える上等海老ピラフの摂取にて愉しく消化することができた。

そののち、御成門の「日中書法の伝承」展へ。日本の書家のは良寛や西行の運筆も凄かったが、中国の元明清あたりの士人らによる、さっき人を殺してきましたといった気魄の大作に圧倒される。また、東大寺の「二月堂焼経」は、本当に焼けて紙の下部が段々になっているのだが、なぜ焼けたかというと東大寺お水取りの火による(江戸初期あたりの)堂塔焼亡によるというのだから驚く。あの危なげなお水取りの火で、本当に焼けちまったことがあるのだ。

疲労困憊セグンドで建物を出てお茶でも飲もうかと、日比谷通りの向こうを見ると、チェーン店のカフェが見える。雨も降り出し、ようやく駆け込んでカウンターへ行き、飲み物を言うと、「店内混雑ですがよろしいですか」と訊かれる。よろしいけれど、とよくよくその意味を考えるに、店におまえらの座る席はないが立ったままで異存はないか、ということらしい。座らせるあてもなしに逆にてめえら注文だけ受けますというのかい?

三田線・目黒線・東横線を伝って、這う這うのていで馴染み六角橋に到着する。勝手知ったるメリオール、ほんまる亭に電話すれど皆休み。はげしさを増す雨の中、運命を呪いつつ三回目くらいに入る別の店があったりするのが、この町。
三回目くらいに入るこの店のメインは芋焼酎、しかも富乃宝山の特約店かとも見まがう品揃えだった。ここで、かまあげしらすと小松菜のからし和え、とか、山葵茎の醤油漬け、とかでシブく芋をやっていたのが、店主、どんな気か西酒造の何年ものかの芋焼酎の、しかもウイスキー樽に入れて寝かせた「天使の誘惑」なるワンショットをめぐんでくれる。一口飲んで、荊妻と目を合わせ「グラッパ!」と声を合わせる。このかすかに褐色の液体、りんごやぶどうの深遠な果実香があるのだ。これによってこれにより、牛レバー刺しや焼きトンかしら・焼きトンしろを実に久しぶりに摂ることとなった。焼酎がいかにこれらと合い口なのか、如実に回顧された。店主に感謝しつつ退去。

焼酎に曇るめがねや春の雨  解


2008年03月21日
01:14 食日記31

朝から寒い雨が降っている。調子が何となく良くない。発芽玄米食パンのトースト、白菜スープ、優秀混濁林檎ジュースであさめし。

昼になって、雨ますます寒く、あまつさえ風も吹いてくるので外出を諦めて部屋に籠もる。だんだん腹も減ってくるが如何ともしがたい。冷蔵庫をあさり、即席生タンメンを探し出してきて、つくって食す。これがまたとても旨く感じられるところがますますもってみじめである。

夕方、女房から電話がかかってきたので、弁当惣菜のたぐいを買ってきてもらうことにする。今夜、何か料理を上手くつくるというのは無理な気がしたから。今日の私、モラールを闕いている。熱はないけれど咳も止まらず、復調しない。
彼女が帰ってきて、手当たり次第に買ってきたチャーハン弁当、餃子、ポテトサラダほかサラダ2種、麻婆豆腐、エビマヨ、エトセトラ、エトセトラで大晩餐会。昔の、独身男ばかりで決行したギャラ日のビンボー大宴会を思い起こす。ひととおり食ってしまうともう箸が出ない。これが出来合いと手作りのものとの違いだと女房。
前半ビール、料理を平らげてからは、ゆっくりと菊正。外は時ならぬ寒風がいよいよ吹きつのる。

良寛の撥ねとは春の野の匂ひ  
祖霊らに降りこめられし余寒哉  解


2008年03月22日
01:10 食日記32

朝。発芽玄米食パン。白菜スープと混濁林檎ジュース。

昼は家内と蕎麦屋。妻は私がぜったい食えないカツ丼を注文。ここのカツ丼は真に江湖に知らしめたい逸品。私は天とろ定食。天ぷらととろろめしと蕎麦がつく。一切れ、カツ丼のカツを彼女にめぐんでもらって感涙。

夜は、昼がけっこう重かったので、簡単に。青梗菜、人参、アスパラ、サヤエンドウ、新玉ねぎと少しの豚肉を炒めてカタクリを引き、かたやきそばにかけて一品とする。これで、一番搾り。のどが渇いていたので、ビールで摂るには理想的な食卓。
鮮魚「魚徳」で出ていた鯛は社長が切ってくれる。彼のはほかの若いもんとはぜんぜん違う包丁といえる。これにて菊正。

沈丁のにほひは薄き曇り日や  
おほぞらを神は荒びて春といふ  解


2008年03月23日
00:36 食日記33

朝。珍しいことだが、朝から空腹なので、いつもの白菜スープにウインナソーセージを1本入れて温める。柔らかいパン・ド・ミー食パンの出来たてのものと、優秀混濁林檎ジュースで、まずは幸福な朝食となる。

昼。あんまりタンパク摂取過剰とならないように、生麦「自由軒」で名菜もやしそば。正統的コックのほうはこのごろますます腕が冴えて、「極」印がつくような仕上がりの味わいである。ただしこのチーフコック、ローテーションの具合か、ときおり給仕に出るようなことがあって、金勘定のことになるとめちゃめちゃ計算に弱いのが浮世離れしている。

夜。冷凍しておいた鶏もも肉の半分をどうしようかというところから、ばんめしのメニューを考え始める。それと野菜室のトマトをどうするか。鶏はクリーム煮にすることにして、これにベーコン・ソーセージの小間切れとエリンギ、グリーンアスパラガスを合わせて生クリーム、白ワインで煮込む。トマトは考えることもせずにいつもの乱切り・エクストラバージンオイルかけ。あと、デンプン質は、パスタ。ニンニクで匂い付けしたオリーブ油の熱いところにホールトマトの潰したのを入れて、乾燥バジルとオレガノを振り込み、煮詰めるだけ。だいぶ甘いのが出来てこのソースうまくいったと思ったが、パスタのゆで汁の塩が少しきつくて、惜しいところでカンペキを逃した。またやってみたい。

例によって、一番搾りと菊正で、相も変わらず。

tab9号15部分はコピー完了。あとは、(只管打座とはいうが)只管打折、とも謂うべき作業あるのみ。そろそろお花見ですねえ。

花の下くだけ尽くしてコツプ酒
女房へ口実たてる花筵
酒はただ花にて酌めと祝宣る  解

*祝はハフリと、宣るはノルと読む。


2008年03月24日
01:19 食日記34

朝。きのうのクリーム煮のスープに白菜などを入れ、パン・ド・ミーのトーストで食す。非道く旨い。混濁林檎ジュースも喜びである。(この文体、きょう驚くべき詩論とその知見を示した、タクランケ氏に押されてか。)

昼。午後の数時間、ずっとtabの折り作業に入っていたので、食事は午後5時近くになる。空腹。蕎麦「味楽」でカレーライスセット。ライスカレーに温饂飩をつける。

ばんめしの菜は、冷蔵庫に色んなものが懸案であるので、あんまり買わない。
アスパラ、新玉ねぎ、さやえんどう、人参、ピーマン、青梗菜、豚肉で堅焼きそば。新玉ねぎ、トマトをエクストラバージン油とアンチョビでマリネしたの。これらで一番搾り。
あとはゆうべのまぐろぶつヅケで、ちびちびと、菊正。はいつものこと。

咲きそむる花夕影に精(くは)しきや
河霧のとばしるころや桃咲かむ  解


2008年03月25日
02:08 食日記35

朝。病院は整形外科。半睡の状態でパン半切れを林檎ジュースでようやっと呑み込む。外は雨。

京急の電車内で女房に酒臭いと言われる。どうせ雨漏りも直せないとうしろ大工みたいな整形外科医に会い行くんだ、かまうもんかと思う。この先生、6年前、怖がって今で言う緩和ケアのことから逃げ回ったのをインディアン忘れない。アレイタカッタヨ。先生忘れたか。

昼は生麦に戻って「自由軒」でふたりして海老そば。塩スープの汁だが、とろみがかすかについている。東京で降られた土砂降りに、体冷え切る。
家に帰ってコーヒーを淹れ、フルーツケーキなんぞを――。旨いと思うがだんだん飽きてくる。

夜。12チャンネルの70年代歌謡ヒットメドレーを見つつ聞きつつばんめし作り。おお、俺の青春はここにしかない、と思う。製作経験を重ねるうち、結構ちゃんとしてきたカルボナーラ。黒胡椒をミルで碾いてたっぷりと。ブロッコリーとロースハムのオリーブオイル炒め。明朝のぶんも。これらで一番搾り。
菊正は、みづのやうな青柳でしむみりと。春夜哉。

木蓮の五衰のごとき金のすぢ  解


2008年03月26日
00:37 食日記36

朝。昼に起き出して、生クリーム食パンのトースト(べつに甘くない)を、ブロッコリー&ロースハムのマリネ状のもので食べる。冷えているがうまい。無塩野菜ジュースと。

昼。午後遅くなって蕎麦屋へ。途中、ソメイヨシノが爆発的に、山桜がきよげに稠密に咲いている。舞妓丼ランチ、小かけ蕎麦付き。
店で、水谷豊と寺脇康文の刑事物再放送を口を開けながらさいごまで観てしまう。迷宮入りになりかけた犯罪の虚無的な真犯人が、暴漢に刺されて死んでしまうという筋は、視聴者の法理感情を慮った形跡があるから、いっそう理不尽だ。

夜。ちょっと胃が疲れた感じがあるので、主菜は春野菜のパスタとしゃれこむ。アスパラ、そら豆を軽く湯がき、ニンニク・唐辛子・オリーブオイルを合わせた中に野菜を入れてゆであげスパゲティーニを投入し、はげしく粉チーズを振る。あとは、トマトのマリネという戦列で、一番搾り。
しんがりはいつもの菊正に鯛刺身の二級品。呑みつつ摘みつつ、けっこう幸福であることを吾如何せん。

夕映えの花ぶさ重き紫木蓮
くらがりはさくらのはなの匂ひして 
  春雷のなほも廻りて谷戸を祝ぐ  解


2008年03月27日
01:41 食日記37

朝。いつもの白菜スープに気が向いてベーコンを一枚入れ、温める。塩味と燻製臭がしてけっこうな味。黒胡椒を振る。生クリーム食パンを焼いて、無塩野菜ジュースで食す。

昼。春爛漫の陽気のようでいて妙に肌寒く、生麦「自由軒」ではサンマー麺を注文。店を出ると嘘のように身があたたかい。

夜は餡かけ焼きそば。シマダヤの蒸しやきそばで、思いがけないほど本格の餡かけ焼きそばの焼いたソバをつくれることを発見。あとは、桃太郎トマトを切り、その匂いを嗅いだ判断でほんの少しのニンニクをすり下ろし、醤油を垂らしバジルをかける。このサラダはけっこうウケた。以上で一番搾り。あとは、ビンチョウをづけにして、菊正。

 丘の上なる大樹見しに。
真向かへばこころに花の吹雪くかな  解


2008年03月28日
00:21 食日記38

朝。ゆうべ、買おうとして白菜が店に並んでいなかったので、ああもうそういう季節かと思う。ゆえに朝餉は無塩野菜ジュースと発芽玄米パンの焼いたの、それに特別に目玉焼き。

昼はまた梅屋敷の病院。検査の結果の、それも腫瘍マーカーの数値を聞くだけだ。聞くだけといっても、かつては随分胆力がいったが。あさめしから、そんなにあいだを置かないので食欲はあまりなく、いつもの「ジョナサン」でカレー饂飩単品。

そこから長途有楽町まで行き、いつものおじさんから「ザ・ビッグイシュー」を買う。ここは仕事をもらう会社のある、護国寺に向かうちょうど中継地点なのだ。おじさんに、ちらと家内など紹介。

護国寺から再び長途、有楽町線・南北線・目黒線・東横線を伝って、先日土砂降りのなか、ひどい目にあった六角橋へ捲土重来する。とはいえ空腹でふらふら。前夜に電話してメリオールのマスターの首根っこを押さえ、午後六時、ファンファーレとともに入店、といった按配であるが、そこに到る車中は昏睡していた。途中の車窓からかいま見た、花又花。
メリオール献立。海老とアスパラガスの塩炒め生姜と黒胡椒風味。ラビオリ、バジルソース味。サーモンのバターソテー、アスパラガスと菜の花と千切りじゃがいものガレット添え・エストラゴンソース。いずれにもわれわれは唸った。さいごのエストラゴンソースのは首筋にとりはだが立った。これらは一品目あたりけっして千円を超えない、というのがここの「バーテン」のこころざしだ。今夜は「メキシコ産アスパラガス」がたっぷりと使われているのだが、これは今年豊作らしく、例年になく安くて味がいい。ここの店の生ビールはサントリー、私らは決して嫌いではない。あとはグラスの赤ワイン。
今夜は女房の誕生日の近辺なので、マスター、彼女に一杯サービスさせてと言う。なんでもいいのだが、女房は、エインシェントエイジの3Aでいいと言う。ただしダブルで頂戴。

乾坤はしばし飛びたる春の夢
酒提げてみな菰かぶる花の人  解


2008年03月29日
01:35 食日記39

朝。白菜がないのでスープがつくれない。ゆえに、生クリームパンを焼き、混濁林檎ジュースのみで呑み込む。こういうことは、あまり続けたくない。

昼。「自由軒」のコックがつくる「極」的な醤油ラーメン。何をか言はんや。女房はランチの家常豆腐とごはん。これうまそう。

午後三時。深川、というか森下駅でわれら怪しげなおぢさん三人、落ち合う。その足で芭蕉記念館、芭蕉庵史跡、それから芭蕉稲荷に行って、愚生百円を賽銭箱に投ずる。そこから芭蕉庵通りの満開の桜の下を歩く。

午後五時。居酒屋「山利喜」に入店。とっぱなの生ビールを別として、銘酒「神亀」かんざけを幾つおかわりしたか。つまみを言えば、まず玉子入り煮込み、まぐろ中落ち、豆腐よう、小鰭酢、レバとカシラの焼きとん、青柳と分葱ぬた、はなわさび浸し、エトセトラ。よくも呑んだもんである。
ここで愚生がアクマの囁きでさそった。それで、以下、こんな表六句が成ったので、ご報告しておく。

 表合せ「大川の巻」衆判
花とあるが西行の日も遠くあり   たままん
春の雨ふる大川の端    かいていし
予約より早く着いては酒温み  璞
煮こみも明るみ卵沈みて  たままん
明月に支考の判もむつかしく  かいていし
めくる頁に響く虫の音  璞

 訪芭蕉庵
そのかみの盥に春の雨聴かん  解酲子

玉川満さん、浅沼璞さん、どうもお疲れでした。


2008年03月30日
01:50 食日記40

朝。ゆうべはいい酒を飲んだので二日酔いはないが、寝坊する。白菜を青梗菜に変えたスープがあったので、パンも少し飽きたのとて麺をゆで、簡易タンメンにする。胡椒など多めに振ると、うめえもんだ。

春のうれひのまま、だらだらと過ごしていると忽ち夕方。焦って蕎麦屋へ急ぐ。ひさかたぶりに山かけ蕎麦。長葱や山芋の泥、土の匂いが食欲をそそる。
蕎麦が出来上るのを待っていると、老婦人が入ってきていきなり、きょうイカ焼きは出来るかと店の者に問う。
すかさず奥の方から「一杯しかない」と返ってくる。もう一人来るんだからさ、と怒鳴る老婦人。やっともう一人来て、二人で飲み始めるのかと思ったらそんなことでもなく、イカ焼き一人前のほかに牡蠣雑炊の注文。あんたは牡蠣が好きだからねえ。ちがうよ、こんなそと出の時でもなければ牡蠣なんざ食わないからさあ。

夜。菠薐草をオリーブオイルとバターとベーコンでくたくたに炒めたの。それと、きょうは国産(佐賀産)アスパラガスがあんまりきれいな緑色でうまそうなので、メキシコ産の代わりに仕入れ、ブロッコリー、ヤングコーン、ロースハムなどと合わせ春野菜のスパゲティーニ、ふたたび。臭いパルメザンチーズを雪白状にふりかける。このとき鷹の爪をいじった指で誤って目をこすり、泪滂沱。ややおさまったのち、意識としてはじぶんの目の周りが紅いパンダ状であるという感じ。これでビール一番搾り。
あとは鮮魚「魚徳」の若いもんが切ってくれた、薄造りみたいなシマアジ少しで菊正。シマアジはあんまり薄く造るもんじゃあないんだぜ。素材そのものは佳い品だったけど。

夜桜の冷まじきまでにほひけり
気がつけば密かに蒼き蘇芳哉  解


2008年03月31日
00:58 食日記41

朝。ベーカリー「ビオレ」謹製、上食パンの焼きたてがあったので、ゆうべのうちに仕入れておく。今朝はトーストしないそれに混濁優秀林檎ジュースと、白菜の季節が過ぎたので、レタスを入れたスープ。味付けにベーコンを浮かす。黒胡椒風味。

昼は生麦「自由軒」で、肉野菜炒めライス。ここもそうだが、中華料理店の筋の通ったところでは、肉(豚、鶏、牛)はできるだけ脂の入った部位を避けるようだ。逆に脂身のあるような肉を使うところは用心したほうがいいということらしい。

夜。昼のつづき見たような感じだが、再びみたび餡かけ焼きそばが主菜。色んな野菜と豚肉、ハムを炒め、さいごに酒と鶏ガラスープの素を振り、カタクリを溶いた水を回しかける。酢と醤油も少し入れると、店の味に近づく感じがする。あとは、新玉ねぎとトマトのサラダ。「偉大なる反復(マンネリ)」。でもこの蒸したやきそばをキツネ色に焼いたソバの味わいは癖になる。これらで一番搾り。

あと、土砂降りとなったので回り道して鮮魚「魚徳」に寄るのを諦め、通常のスーパーマーケットに入った魚屋で買ったまぐろぶつで菊正。このまぐろぶつ、一口目くらいはいいが、あとは如何ともしがたい代物で、こういうときにはぬたにするなど、一寸仕事を加えようかと思う。

 きょうも雨とて
花冷えやしきりに翔る鳥の嘴
盈ちぬればただひたすらに散りね花  解

*嘴はハシと、盈ちはミチと読んでください。あ、翔るはカケルです。ご存じであったら失敬千万。職業柄の老婆心。ルビがこうしてくどくなる。


2008年04月01日
01:16 食日記42

きょうは鬼のような一日。

朝。10時過ぎにレタススープと発芽玄米食パンの焼いたのと無塩野菜ジュース。服薬ののち、すぐに仕事に没入。夢に出てくるような大量の赤字合わせは何年ぶりだろう。女性誌をやっていた深夜の感じを思い出して、すこし、胸が悪くなる。

赤字を消しても消しても遅々としてはかどらない。目星がついて怒濤のように終わらせたら、あれま、もう夕の6時近くだわ。めしを食いに出るひまも、晩の買い物をするひまもない。ふたたびパンを焼き、レタスとハムを挟んで優秀混濁林檎ジュースでいただく。

女房にメールし、弁当と、それからなんでもよいから刺身をおねがい、と懇願。

ばんめしは、サラダ、中華炒飯弁当、中華惣菜が並ぶ。ビール一番搾りをやって炒飯をつまむと(逆でもいいが)、なかなかよろしい。
二日酔いの朝に、チャイナタウンで買ってきたおみやげ用炒飯のぱらぱらしたやつを、缶ビールなどで嚥下して窓の外に灰色の雨なんかを見ている気分になる。
ビールは以上だが、意外だったのは彼女が気を利かせて職場の近くで買ってきた鯛刺身。これが今夜の菊正のアテなのだが、これがナ、ぷりぷりなんや。先日の二級品と価格帯は同じなのに、である。いつもの、スーパーマーケットで仕入れてきた刺身とちがって、あっというまになくなる。現金なもので、まさに春は酣である。

鯛の身に春の潮のとほる見ゆ
気がつけばひと日蟄居の薄桜  解


2008年04月02日
01:44 食日記43

朝。また遅く起きてしまったので、歯医者の予約の時間が迫るなか、レタススープと無塩野菜ジュースという、流動物ばかりを流し込み、とりあえず服薬して出かける。あはただし。

歯医者でブリッジの型を取り、ついでに6000円も取られる。仮歯装着ののち、30分はお食事はダメよ。空きっ腹のまま、今夜の献立を考えに、スーパーマーケットへ。何をつくったかは以下に書くとして、買い物を終え30分たったので、蕎麦「味楽」でカレー南蛮饂飩と半ライスという、究極の炭水化物メニューを選ぶ。外は晴天の大風、花さそふ嵐の庭の雪に似て。

丘に上がる階段の上と下で咲いている、ソメイヨシノと山桜の花の遅速を見やりつつ、桜ばかりではない、実に色んな花が咲きこぼれるのを目撃。

夜。ばんめしはちょっと力を入れる。昨夜があんなだったから。一番搾り用には、擬製家常豆腐(厚揚げに、メキシコ産アスパラガス2束投入)と、特製スパゲティナポリタン(新玉ねぎ、ピーマン、ハム、ウインナと、うちではケチャップでなくトマトピューレ、バター少々を用いる)。
菊正のためにははらをくくって、分葱とまぐろのぬた、なんぞをつくる。分葱ばかりでなく、まぐろも霜降ると味がよい。ただしこいつで菊正をやりはじめると終わりが無くなるのが良くないなあ。

 誹諧哥
連翹の黄のまぼろしの羽撓ふ
 旧防野池
山吹の立ちよそひたる水ひそか
 花落始む
花疲れあてなるひとの去りし宵
ぬた作るきうと分葱を啼かせては  解


2008年04月02日 23:19 食日記44

朝。上食パンの焼いたのを、レタススープにウインナ(腸詰め)1本を入れて温めたもので食べる。ジュースは家人のためにとっておく。

急に思い立ち、banさんに電話。結論として片倉城址で花見をすることになる。一時間半ほどかけてそこまで行き、駅のマクドナルドで服薬のために海老カツのハンバーガー(商品名は忘れた)を注文。これ、コンセプトはロッテリアの海老バーガーの剽窃じゃないのと思うが、こんなこと言ってももう誰もわからねえだろうなあ。はるか昔のロッテリアのやつのほうが、仄かに旨かったような気がする。

城址のてっぺんまで、横目にカタクリの群落を見やりつつ、ひいはあと登る。てっぺんの広場には、幽玄、というべき桜の大木が咲いている。banさん、おもむろにスキットルボトルみたいな金属製の小水筒を取り出し、さあ呑もうぜ。西日を浴び、遠く厳かな山塊の稜線を眺めてほぼ無言で酒を乾す。佳い酒だろうといわれて佳い酒だと応えるが、酒自体を言っているのかこの花見のことを言っているのかよく分からない。花、わずかだが絶え間なく散っている。
 しづ心なき花おほふしづ心  解

城址を下りてbanさん邸で御馳になる。いつもの一番搾りに代えて、ゑびすのロング缶であらためてプロージット! このときは奥さんも。出てきたのは、銀だらの西京漬け、新キャベツとエリンギの蒸し物、アミューズ的なポテトサラダ、鰺の南蛮漬け、牛焼き肉ぽんす風味、稲庭饂飩、と、こう並べてみて初めて判明したのが、これは所謂「コースになっている」という驚くべき事実だ。すべて奥さんの手になる。やるな! テキも。だがごめんなさい、変な時間にものを食ったのでかなり余してしまいました。ここまでは久喜の寒梅純米吟醸という酒。

さいごに二階に上がり、banさんの書斎で焼酎(黒糖酒)。ヴィトゲンシュタイン、ソシュール、レヴィ=ストロースといった名や概念が乱れ飛ぶ。この部屋にはあまり客を入れないらしい。リビングでねこのアトムをいじりまくったのをはじめ、かの大兄の家ではかなり傍若無人に振る舞ったことになろうか。もうちょっと呑みたいナ、というところで氏の宅を辞す。駅まで来たとき、かすかに流れるアナウンスが列車の接近を知らせる。年甲斐もなくダッシュしてホームに駆け上がり、電車に飛び込んで、ひいはあ、そしていまここにいる。

神奈川へ一目散に春の闇
辛夷咲くなにやら北の城址かな  解


2008年04月04日
01:22 食日記45

朝。きょうは女房休み。ブレクファストのパンが足りないので、冷蔵庫を引っかき回し、さやえんどう、ブロッコリー、ロースハムと中華麺を目の前に腕組み。思いついてゆで卵2つを製し、それからこいつら全部でゆで卵入りタンメンが出来上がる。鶏ガラスープの素や中華スープの素や酒などを入れて。天才シェフとその女助手のはたらきでもって迅速に仕上がる。ひとはいさ、女房は旨い旨いと言っている。他人が食って旨いかは知らない。

昼は簡単に、ベーカリー「ビオレ」の調理パン。ダブルチーズの堅パン、おやき風だが中はクリームチーズとクルミの入った平たいパン、ピザ風デニッシュ、と、それから愚生はあまり気が進まなかったが、苺がはさまり生クリームが練り込んである甘いパン(デニッシュ?)。脅迫的に半分これを食わされる。これらで遅い昼飯。ぜんぶ2分の1ずつ切って分ける。

夜。メキシコ産アスパラガスとベーコンのスパゲティーニ、優秀桃太郎トマトのサラダ(冷やしトマト・エクストラバージン油と乾燥バジルがけ)、鶏腿肉のワイン入りトマト煮。リキが入ったなあ。これらでキリン一番搾り。
魚屋は休みだったので、山ウドのからし酢味噌でさびさびと菊正。杯一杯二復酒酒、と已まぬ。もう己は眠くなったので、もしその気があったら、あんた、あした琴を持って出直してきて呉れたまへ。

山吹のみひとつで咲くひとへ哉
 桜花のおびただしく散り敷くを見けるに
骸となる花は地上のものならず
 片倉城址で花を見る
酒を酌む甲斐へ夕日はおぼろけに
 別案
酒呑めば夕映え桜おほほしく  解

*骸はカラと読まれたし。


2008年04月05日
02:49 食日記46

朝。ゆうべの鶏腿肉煮込みに使った、玉ねぎとニンニクとベーコンのトマトソースをディップにして、発芽玄米パンのトースト。それと、近所のスーパーマーケットでもあった優秀混濁林檎ジュースでちょっと幸せなあさめし。

仕事後半の素読みにかかる。複雑なストーリーの整合性に関するチェックの眼光をあちこちでトバしながら200ページほどゲラを読む。空腹を感じて生麦の町に出る。花はもう終わりか。かおるちゃん、遅くなってごめんね。

蕎麦「味楽」で、体力の消耗を感じたので鰻丼セット。これには小きしめんがつく。食べるとそれまで冷えていた体が温まり、うちがわから力が湧いてくる(ような気がする)。

帰ってから、仕事の残りゲラ150ページを一挙に終わらす。じぶんもチャイニーズマフィアのシンジケート構成員になった気がして、最後の頁を伏せるとき、ふと所詮この世は虚無であるというような表情を浮かべたに相違ない、と信憑するに足る自己自身の一瞬を感じる。
けれど気がつけば夜の10時に近く、女房が不在の日にはかくも無茶無謀を楽しむ自分がいることを改めて痛感する。

なんにせよ、とまれめしは食わねばならない。冷やしトマト・エクストラバージンオイルかけ、佐賀産アスパラとソーセージの炒めもの、女房が実家でおすそ分けされてきた、ちらしずし、ポテトサラダ、鶏からあげ。これらで一番搾り。
でも今夜のメインは、菊正のアテの、鮮魚「魚徳」で買った生き締めヒラメだ。13キロあったそうな。近藤くん、ぷりぷりですがな。社長が包丁を使ったが、店の若いもん全員がその周りに集まって、社長の包丁を凝視していた。

あをぞらにすがれて花の貴なりき
かぜを引くこゑうつくしき花のさま  解

*貴はアテと読まれたい。ただし酒のアテではない。これらは芭蕉七部集のうち、阿羅野における歌仙「鴈がねも」の付け合いによるところ大。


2008年04月06日
01:31 食日記47

朝。レタススープにベーコンを1枚浮かせたの、発芽玄米食パンのトースト、優秀混濁林檎ジュースで定番のあさめし。起きたのが少し遅かったのでやや空腹を感じつつ。

昼。仕事の仕上げがあるので家でばんめしは作らず、明日入り用なものだけの買い物を兼ねて、ひるめしを摂りに生麦の町へ。風は暖かいが芯のところに油断のできない冷たい硬さがある。「自由軒」で名品「もやしそば」を注文。こいつがつくると一日が台無しになるという珍コックが今日は給仕に出ていて、でも金勘定などを見ていると店のもう一人の名コックに比べ、実に手堅く、ある意味如才ない。老婆心ながら、進む道を変えるべきだ。彼は中国人である。(店の目の前にある)パチンコが大好きである。

夜。さらに整合性を細かく確認しつつ、100頁ほど素読みをする。明日が本番で、それに備えてこれくらいにしておく。何しろ筋が込み入っているのだ。女房からいつもの電話がかかってきたので、「ひらやま亭」でばんめしにしようと言う。

生麦駅の改札で待ち合わせをし、店に行く。テーブルに着いてまず生ビール。それから、かにクリームコロッケ、ラタトゥイユ・ガーリックトースト付き、いかのフリット、トマトとアスパラのサラダ・バルサミコドレッシング、アンチョビ入りピザを頼む。途中から赤ワインのデキャンタ入り。

この注文、今日は一回でぜんぶを列挙した注文だったが、いつもは二、三品ずつを分けて頼む。このとき、給仕の女の子は一回ごとに「以上ですね」と言い、私はそのたびに「また頼みます」と口を尖らせていたところ、こういう言い方は最近の子の口癖みたいなものなの、と女房にたしなめられてしまった。そういうものなの、ふうん。

少しの酩酊のあしどりで、わが家のある丘に続く階段を上る。てっぺんに、夜目にもしるく、大方の花を落としかけた桜の木が、蓬髪とも白髪ともいえぬ物凄いかんじで夜空に拡がっていた。

長安の盛りに似けむ桃の花
しらじらと土筆浄土のごとく立つ  解


2008年04月07日
01:25 食日記48

朝。起きたのがまたもや遅かったので、いつもと違い少々焦る。顔は洗わず歯も磨かず、服薬のための無塩野菜ジュースとラスク2枚で朝食を終え、すなわち仕事。あと350頁を残りの1日でやらねばならない。

午後4時近く、いったん休憩を入れ、食事。といっても、こないだスーパーマーケットで気になって買ってきた「盛岡ジャジャ麺」なる即席もの。麺はちょっと変わっていて平打ちの透明・硬質な感じのするもの。ゆで方にも独特の指定があって、茹であがったら冷水で締めて、しかる後、熱湯に入れてざるで湯を切れと。あとは添付の肉味噌とラー油をそのままかき混ぜて食せ。これだけ読むと随分旨そうに思える。が、実際にレシピに忠実に作ってみると、出来上がってほのかに温かい、腰の強い麺はわるくないのだが、陥穽が一つあることに気づいた。一皿の味を決める肉味噌自体の味が甘すぎ、濃すぎるのだ。添付の物をどうすることもできない。

午後9時半を過ぎて、完全に仕事を終えた。「きみが女でなかったら、もっと簡単に口を割らせるやり方はこの三倍はあったぜ」「そういうことはわたしがあなたのこめかみに押しつけている銃の存在を忘れることができてから言って頂戴。それよりも、たばこを吸わない?」「異議なし」。いけねえ。イタコの口寄せみたいになってきちまった。

女房から電話があり、愚生かき口説く。もう外食は厭だが家ではなんにもできない、というときの究極の家庭内脱法行為、ベントウを買ってきてくれ、ということにはあいなる。
ギョーザ、洋風惣菜(ハンバーグ・ローストポーク・ジャーマンポテトほか)、すっぱい和風サラダとトマトとタコのサラダ…。これらでいちおう一番搾り。
少し佳かったのは、彼女が職場近くで買ってきた金目鯛の湯引き。あまりしつこくない脂がちょっと乗っていて、ちょっとぷりりとしたところがあり、菊正に移ってからずいぶん人間らしい気持ちになれた。私や、それから私と一緒にいる女房だけのことかも知れないが、こういうのは本当に干天の一滴である。

春の瀬の早み二階の窓にうつる
公園の妻ら花見の寂しさや  解


2008年04月08日
01:49 食日記49

朝。急いでいるので、良くないなあと思いながら無塩野菜ジュース1杯で朝食とする。指定された時間までに仕事を納入しなくてはならない。なんか、こんな毎日、イヤ。
仕事を返す。担当者氏、雑誌連載中もこのハードボイルドをずっと読んでいて、次第に筋がめちゃくちゃになって行くのをどうなることかと眺めていたと言う。大量の訂正赤字はそのせいで、その最終処理方が愚生に回ってきたというわけだ。でも面白い小説でしたよと言うと、あははと笑い、顔は笑ったまま、今週、おひま? と私に聞いて(否やがあろうか)、中3日しかないけどねと言って、また400頁の再校をありがたくもいただく。  めしを食ふひまを惜しみてかかること嬉しくもあり嬉しくもなし  解

会社を出てひるめしを思う。ジョナサンやマクドナルドはもうたくさんだが、本格カリーのAKARIYAはもう閉まっている。ふと横目に見た、新開店らしい担々麺屋があったので入ってみるが、中華屋に特有の油の良い匂いみたいなのがなく、冷え凝った、どうかするとレンジフードにこびりついたような古い油の匂いがあるので、警戒する。従業員も極端に経験のなさそうな若いのと、経験があるのか無いのか、人相良からず目つきに油断のない給仕人がいて、ああだめだと思っていたら、やっぱり非道い担々麺がやって来た。スープはともかく、麺がサッポロ一番即席麺なのだ。護国寺って、ほんの10年もたたない前は、ゆたかで旨い店で一杯の通りだったのに。

ばんめしは女房とまたも外食。護国寺から飯田橋、そこから南北線・目黒線・東横線を伝って日吉まで行き、ここで初めて、新しいグリーンライン(と、言うそうな)の4両編成のデンシャを利用してセンター南まで行く。そこからまた逆に東横線に戻って六角橋へ。雨、ますます降りまさるなか(なぜかこのごろ六角橋は雨にたたられる)、ほんまる亭について、瓶ビールで乾杯。名代コロッケ、まぐろ赤身、ぎんだら西京焼き、、冷やしトマトを肴に、銘酒金陵のあつかんを傾けつつ、なんでか女房とオダをあげることになる。そんなに飲まないのにイイ気持ちになっちまうのは、女房に言わせると年のせいだとのことだが私にしてみれば疲労のせいだと言いたい。でも、おんなじことか。

恋猫の背のささくれのうつくしき
くちびるに寄すさかづきも春のもの  解


2008年04月09日
01:12 食日記50

朝。なかなか起きられなかったので、あさめしは女房と待ち合わせのひるめしの時間にシフトする。大雨のなか、風に吹き飛ばされそうになりながら、生麦の蕎麦屋「味楽」へ。そこで火曜日のランチ、小海老の天ぷら丼と小盛り蕎麦。

スーパーマーケット「富士ガーデン」にほとんど人影を見なかったが、そこでこんやのための買い物。きょうはみんなの差す傘が使い捨てのものでない、とっておきの堅牢なものが多い。途中、突風に破壊され破棄されたと思しきビニール傘の残骸をけっこう見た。また、おおむねそういったビニール傘は若い男が差している割合が多いみたいだ。

歯医者へ行き、歯を入れて1万4000円あまり取られて吃驚する。

そこからまた鮮魚「魚徳」へ行き、きょうの水揚げをぜんぜん期待していなかったら、社長の「クエがあります」の言葉にまた吃驚。買わないわけにゃあいかねえじゃねえか。刺身に造ろうとするから、少し考えて、切り身のまま貰っておく。

帰り道も色んなものが倒れたり千切れたり吹き飛んだりしている。ようやく帰宅。優秀混濁林檎ジュース1杯を飲み、服薬。それからリキを入れ直して、仕事。あんがい容易く、400頁は4時間ほどで終える。でもこれじゃあ安いだろうなあ。「汗の玉」だとか「セレブのパーティに生バンドが入ってクラシックを演奏していた」とか、おもしろい表現色々。ともあれこれでしばらくは遊べる。

夜。仕事が押してばんめしは気がつけば10時過ぎになってしまう。
自家製ジャージャー麺、アスパラとそらまめと新玉ねぎにサイコロにしたクエの身を入れた、塩炒め・黒胡椒風味、とでも言えばいいのか、そういった一皿。キリン一番搾りと菊正の燗はいつもどおり。

 風雨中嘱目
むざんやな誰狼藉の桃落花
砕かるるビニール傘や花のかほ  解


2008年04月10日
01:13 食日記51

朝。ひさしぶりに朝と言える時間帯に起床する。発芽玄米パンのトースト、レタススープにベーコン1枚浮かせて黒胡椒を振ったの、無塩野菜ジュースですこやかな空腹感を満たす。

昼。仕事も風雨もない日射しのなか、床屋で散髪。ここは昔の歌謡曲を流すので気に入っている。西条秀樹の「ブーメラン」やチャゲ&飛鳥など。

それから生麦「自由軒」で炒飯。店に入るとなんとなく給仕人素っ気なく、立てる物音も妙に荒く、耳障りだ。返り見ると今日から午後の中休みを取るらしく、それを無視して私が入店したのが気にくわないが、断ることもできずという感じ。イヤなら断わりゃあいいのに。それもできず、正コックがきっちりと仕事をしているのがなんともはや。

夜。春野菜とホタテ、豚肉を炒めてクックドゥの炒茶醤(サーチャジャン)という海老の臭いの強いソースを合わせる。これに、ミスマッチのスパゲティーニ・ポモドーロ(純粋トマトソースのパスタ)。後者は、ほとんどホールトマトを煮詰めただけのソース。塩や胡椒は一切なし。これにパスタを合わせただけで強い甘みが出て、私は成功したと思う。これらで一番搾り。
あとはまぐろぶつのヅケで菊正ちびちび。かたわらでは猫のγ(5歳)がからだを舐めている。

髪を切る花一切の散りし午後  解


2008年04月11日
02:04 食日記52

朝。レタススープにベーコンか何かは避けたほうがいいという判断。姑息にも、きょうは病院の血液検査があるのだ。発芽玄米パンの焼いたのと優秀混濁林檎ジュースであさめし。

病院にて。数値はおおむね胸をなで下ろす(だが不断の継続を意識せねばならない)、そういうものだった。医者の言うことには、別にベーコン1枚くらいどうってことないってなものだが、そういう意識(コンシャス)から蟻地獄に陥る場合もあるというのがニンゲンの現実でもある。

昼。ファミリーレストランのランチ。鶏の焼いたののトマトソースと海老フライ。海老フライまったくダメ。衣が焼きすぎで硬質化している。店員を呼びつけようかと思うが、それでは空腹な身にとって食うことが遅くなると判断し、衣をよけてまずいフライを食う。こういうのを大人になったと言いたくない。

夜。きょうは疲れているがファミレス等のこともあり、リキを入れてばんめしは和食で攻める。
昆布ダシに即席白だしを加え、塩と酒で味を調えた中に新じゃが。煮上がったら同じ汁でさやえんどうに火を通すくらいであげる。1品。
あぶらげを焼き、切りそろえておく。ヤリイカ(ユリイカではない)のゲソを湯引きしておく。分葱を軽くゆでる。以上のものみな、辛子酢味噌で和えるだけ。2品。
スーパーマーケットの特売で買ってきたヒラマサ1サク375円を切って並べるだけ。3品。
さいしょは一番搾り。あとは菊正、燗。例のごとし。深沈と更けて行く春いかんせん。

花のなき世にふる傘をたたく雨
多摩川にたれ菰かぶる草の青
雨の靴すべての春に跡つけて  解


2008年04月12日
01:10 食日記53

朝。明日のパンがないので、というか今日パンを食べてしまったら明日の分がないので、冷凍庫の中華麺を引っ張り出して、にわかタンメンを作る。ピーマン、人参、玉ねぎと、少し考えてジャガイモの千切り、ベーコン2枚。ちょっと大げさなあさめしになってしまった。むろん二人分だが。

昼。仕事を届ける途中、腹が減ってきたのと服薬のために(ほんの少しここに寄ることに期待もしていたのだが)、京急品川駅えきめんやでかき揚げオヤジ蕎麦を食う。まわりは老いも若きも女は皆無で、黒っぽいのを着たのだけが無言で蕎麦をすすり上げている。壮観である。

夜。六角橋で恒例の飲み会。いろいろ頼んだが、夕方近くに蕎麦を入れてしまったので、あんまり食べられない。それでも今夜のほんまる亭が出した鯛刺身はすばらしかった。憤りを込めて今を語り、昔を談じ、酔余の足で皆ちりぢりに。

うららかや女神のむくろ抱くごとく
一瞬の水菜この世で煮え了る  解


2008年04月13日
01:25 食日記54

朝。若干の二日酔い。迎え酒(解酲子の解酲の本来の語義)をするわけにもゆかず、発芽玄米パントーストとレタススープ、優秀混濁林檎ジュースで朝食。ただしパンは3分の1残す。

昼。蕎麦屋にするか中華にするかで激しく迷う。結果、時間が遅めのこともあり、シナモノが出てくるのが早い中華にする。肉野菜炒めライス。多分ここ以外のどこで「肉野菜炒めライス」を食っても旨いとは思わないだろう、それくらい私の舌はここのものに馴染んでしまっている。中華街で同じメニューを食しても、これに関してのみは生麦のにサウダージを覚えると思う。でも実はここ、「自由軒」は中華街にも兄弟店があるというが。

夜。スーパーマーケットに茄子がたくさん出ていたので、もうそういう季節かと、今夜は茄子のミートスパゲッティを作ることに決める。あとは黄色いパプリカのグリル、および佐賀産アスパラガスの茹でたのに、エクストラバージンオイルをかけたサラダ。茄子のスパゲッティはてんこ盛りだったがいつの間にか無くなっていて、いつの間にか妻が苦しがっている。食べ過ぎたのだ。一番搾りと炭水化物で中身が膨張したのだろう。

私はあわてず騒がず、鮮魚「魚徳」の鯛刺身なぞを摘みながら、ねちねちと、いつまでも菊正の燗。妻はすでに床につき、かくて夜も春も深沈と更けてゆく。

蒼天や花はちしほの染みと散り
まなかひにむごき若葉の時迫る  解

*ちしほは、でき得れば千入という義を宛てていただきたい。「くれなゐの千入のまふり」(実朝)というあれです。


2008年04月14日
02:00 食日記55

朝。生クリーム食パンを焼いたのに、けさは昨夜の茄子ミートソース、それに優秀混濁林檎ジュース。二日酔いではないが、そぼ降る雨のなんとなくユウウツな朝。だが食欲はムーマンタイ。

仕事をする。モーレツな赤字(著者校)の入ったゲラをえんえんと。結果、260頁足らずの枚数が1日かけても終わらない。スバラシイ!

昼。午後3時を過ぎると、仕事をしているせいもよりいっそう加担して、ひどく腹がへる。思い切って、蕎麦屋で天丼だ。大海老2本だが、タンパクのことは高をくくる。タレを薄くしてもらって、しみじみと旨い。

夜。昨日の茄子があったのとピーマンで味噌炒めを作ってやろうと考える。だが、ちょっと工夫を。こないだの「盛岡ジャジャ麺」の麺だけとってあるので、茄子・ピーマン・赤味噌・鷹の爪・ニンニクと鶏挽肉でいわばソースと見なし、ジャジャ麺の平打ちにかけて、というか混ぜて食す。それに、ブロッコリーを固ゆでにし、ニンニクとアンチョビの刻んだのに合わせた前菜風のサラダ。これらで一番搾り。

菊正燗でやったのはマグロ。だが、これは霜降りにして醤油・白だし・米酢で和えたヅケにして小丼に入れ、上からたっぷりの分葱をのせたもの。
ぬたよりはさっぱりとしているが、もちっと研究の余地あり。もっと旨くなるような気がする。

一桃の源平咲きや争ふごとき
木の下にすみれは暗きほむら哉
蕭条と雨や蕪村の春に降   解

*争ふはアフ、木の下はコノモトと読まれたし。ついでに、一桃はイットウと、降はおまかせします。


  2008年04月15日
01:52 食日記56

朝。レタススープにベーコンを浮かせて熱し、味を出す。これに生クリーム食パンのトースト、優秀混濁林檎ジュースであさめし。

すぐに仕事に取りかかる。国訓読みのはなしで、きつい仕事だが、好きな道なので、ギャラは安くとも熱中するのを如何ともしがたく、やめらんねえや、というコトの裡だろう。気がつけばまたもや午後の4時を過ぎていて、それに気がつくとまたもや恐ろしく腹がへっているのを感覚する。
 なりはひはあはれ恋する猫の道  解

外はすばらしい春の雨後。からたち、月桂樹、タブノキ、楠などの揮発性の香を発する草木が勢いがいい。あんまり空腹なので、蕎麦「味楽」でカレーライスセット。カレーライスにかけ蕎麦という組み合わせの、炭水化物一本勝負だ。ふとるだろうなあ。

夜。わが家特製のナポリタン。基本的にウチでは料理にケチャップは使用しない。トマトソースのパスタではホールトマトを使い、今日のような「ナポリタン」ではトマトピューレを使う。そうすると、40年近く前に東京で食した、真の「スパゲティー・ナポリタン」の風味が出る気がする。
これと、優秀完熟トマトのオリーブオイルかけ。気が向いて少し黒胡椒をゴリゴリと振る。これらで一番搾り。

鰺のいいのを鮮魚「魚徳」で奨められたので、こんやの菊正のアテはこれ。分葱と生姜醤油でやるが、これはむかし鎌倉で食った、小坪で揚がったという鰺の女性性に舌触りが似ていた。ちょっと食いすぎたかも知れない。

蕎麦屋まで落花の雪を踏み分ける
ときじくのかをり偲ばん枳殻や
はなみづき花を浮かせて宵の坂  解


2008年04月16日
02:29 食日記57

朝。生クリーム食パンの最後の一枚を焼く。レタススープに、ゆうべ使用した残りのウインナソーセージ小1本を入れて温める。無塩野菜ジュースをついだコップを前にして、さてあさめしを始め、終える。

うららかすぎて佳い日すぎるのに、室内では物好きゆえの嵐みたいな仕事となる。室内作業というのはどうしてかこう腹がへるのだろう。うらうらとした日差しの中を孤影悄然として蕎麦屋に向かう。

蕎麦「味楽」では、日替わりの、小海老天ぷらを卵で綴じた丼に、冷たい小盛り蕎麦。そこで今日も見てしまった再放送「迷宮さん(オミヤサン)」という渡瀬恒彦が主人公のこのドラマ、こないだもそうだったが、なにか強い女が非力な(若い)男を庇護した結果、起こしてしまう取り返しのつかない犯罪というか、でもそれも所詮ヨワイ女の所業だったのさ、というようなモチーフが一貫してあった気がする。ワタシ、可成り真剣に見ていた?

夜。きょうは女房がいないので、夜は思い切りカンタン。冷蔵庫に残っていた分葱と生姜で、きのう鰺で火がついてしまった薬味と言うこともあるが、冷や奴。胡瓜に味噌をなすりつけるモロキュウまがい。これらで一番搾り。
あとは、鮮魚「魚徳」の鯛さしみ。とびきりの薄さと硬さ。前歯ではなく、奥歯で噛みちぎりながら嚥下する。かく魚の身を噛んでいると、透明ということの概念がいくぶんか明瞭になってくるようだ。

 家の近くの階段のところで、本当に最後の花が散っている。
静心なく残花舞ひ夕日影
百代の歎きムラサキナバナかな  解 


2008年04月17日
01:56 食日記58

朝。レタススープにベーコン1枚、パン・ド・ミーの生パン(これ、おいしい)、優秀混濁林檎ジュースであさめし。

それから何やかにや雑用野暮用で時が過ぎ、気がつけば午後2時近い。仕事の260頁のゲラ(じっさいは270頁あまり)は、もういっかい浚っておかないと納品できない。原稿の未整理状態が混乱を極めているのだ。

それでもこの中の、potalaka山が補陀落山になり、それがつづまったフタラの音に二荒(フタアラ)が当てられて二荒山神社へ、さらに二荒が音読みされてニコウと見なされ、その二荒に佳字が当てられて東照宮で有名な日光(ニッコウ)となった、という話は面白い。それにはさらに続きがあって、日光という2字をまた1字につづめたいという已みがたい欲求から、これを晃とし、さらに晃字を物象化したすえにかの聖地を晃山(コウザン)と書いた、というのだから呆れる。ついでに言えば、いま話題のチベットの信仰の中心地、ポタラ宮はこのpotalaka山の観念からの命名だそうだ。このコトバの動き、なにやら今夜のタクランケさんの話に似てはいまいか。言語はモナド(単子)ではなく、機能であり構造(関係という言葉がお気に召さないのなら)なのだ、ということだ。

以上あんまり食い物の話とは関係がない。ことほどさように、きょうは充実した食生活とは無縁な、恋猫のごとく仕事に身を痩せさせる巡り合わせのようだ。ひるめしは夕方の5時ごろにニューウエイブ風和菓子を二つ。ジュース1杯。おお、なんて非道い! 女房にメールし、「今夜は外で食おう」。こんな俺たちにとり、夜8時を過ぎて歩いてゆける外に、飲み食いできるところがあるなんて町に住んでいてよかった。

いつもの「ひらやま亭」。アスパラとトマトのバルサミコドレッシング・サラダ。おつまみコロッケ小4個。骨付き鶏肉のミラノ風カツレツ(でもミラノ風カツってふつう仔牛肉か牛肉を叩いたものなんだが)。トマトピザ。
これに生ビールと赤ワインのデカンタ。満腹酩酊。

おぼろ月きはめて速き雲のかげ
八重桜吉祥天のむかし哉
酒のめば春一切を忘了す   解


2008年04月18日
01:25 食日記59

朝。きょうは女房が休みとて、朝から中華麺。人参・タマネギ・さやえんどう・ピーマン・マッシュルーム(生)と、ソーセージを縦割りにしたのをオリーブ油で炒め、煮て、麺と合わせる。朝っぱらから、けっこうお腹いっぱいになる。

仕事を50頁ほどやって、しづかに終息させる。手のかかる子であった。のち、無塩野菜ジュースを一杯飲み、服薬。それから護国寺に向かう。

護国寺から、鉄道線を乗り継ぎ、またも六角橋、またも雨。そしてメリオールへ。ハワイ諸島をめぐる還暦記念のクルーズから帰ってきたバーテンに、ドライマティーニをつくってもらう。ここで出された鰊のマリネの味はおそらく空前。筍のパスタと、いろんなふうな臭かったり辛かったり佳い匂いだったりする口腔感覚が混ぜ合わさった、ここでしか食えないアジアンサラダを呑み込むように腹に入れて、さて初めてニンゲンらしい、ここ数日忘れていた元気が戻る。
女房とそれぞれのカクテル以外は、生ビール、赤ワイン一杯ずつというつましいもの。折から雨脚を強くした雨に、飛び乗ったタクシーで闇の中へ。
家では猫が待っている。

青柳のふと逞しきひかりかな
春の雨私鉄の眠り果てもなき
雨来れば山吹闇に沈むめり  解


2008年04月19日
02:44 食日記60

朝。女房は休みだが、二人とも昏睡に近く熟睡してしまって昼過ぎに起きて吃驚する。こういうのは愚生は毎度だが、彼女にしてみればこれはかなり珍しい事態だ。聞けばクレーンが倒れたり電車が止まったりの大荒れの通勤時間帯だったようだ。寝ていられる巡り合わせで良かった。とまれ、起きてめしは食わねばならず、優秀混濁林檎ジュースとレタススープとトーストしたパン・ド・ミーなどをわが朝食とする。妻はこれに目玉焼きとヨーグルトと一匙の蜂蜜がつく。えれえちがいだ。

昼。おたがい、仕事のない状態を満喫する。外は雨だが風はやんでいるので、ひるめしをとり、かつばんめしの菜を買うために出かける。

蕎麦「味楽」で二人で饂飩を注文するさい、天ぷらのばら売りがあるのでそれを一つ頼んでシェアしようというところまでは良かったのだが、女房めはそれをメニューにないかき揚げにしたいといって譲らない。店の人にではなく、愚生に向かってのことで、店に対しては私が言え、とばかりにヲトメのごとくもじもじアッピールしてくる。わがままいって申し訳ないと給仕してくれる女将にわびて、やってきたかき揚げと饂飩を交互に口に入れて、面倒なヤツはひとまずひどく満足げである。これがヲトコに対するヲンナのやり方なのか。ああそうか。

そののち、スーパーマーケットで買い物をしてモノを袋に収容するさい、このお姫様に、あなたはそうやって財布をしまうとき、なんで右手と左手とを同時に使おうとするのか、どっちかにシナサイと非道く叱責される。

ばんめしは、そらまめをどうしようか、というところから発想した。そらまめ料理を主食にしてやろう、ということで、まめをゆで、それから新じゃがを固ゆでし、生姜と長ネギ三分の一本くらいを刻んだのと挽肉の炒めたのに、そういうの全部を炒め合わせたやつ。これ、意外に腹に溜まらない。
あと、小松菜と油揚げの煮浸し。今日はごま油で炒りつけてみた。基本は昆布だしのだし汁がベースとなる。
あとは、鮮魚「魚徳」の平目。部位があるのでコリコリという感じではないが、ゆたかな灘を思わせる香りだ。ああ、これって昔読んだ立原正秋みたいだっ。嫌いじゃないけど。

雨打つて千の花軸の滅びかな
春眠や龍のひたすら逸る間の
たちまちに八重は落花の夕日かな  解


2008年04月20日
01:40 食日記61

朝。だいぶ遅く起きる。この半月あまりのハードワークがニクタイに来ている。ようやっと、レタススープを温め、生クリーム食パンを焼き、優秀混濁林檎ジュースにありついたのが、もう午後2時を回っている。いろんなスケジュールは日常に戻さねばならなくて、そのために忙しかったりするわけだが、問題はここに自責の念や自己嫌悪の毒が加わるということだ。その「念」を退けると、心の中だけでもけっこう楽になる、という発見。

風が吹きつのり、けっこう寒い日となる。コートを羽織って外に出ると、細密な霧のような雨滴が顔に吹き付ける。丘の上の階段から西の空を見ると、所謂「ヤコブの階段」とやらいう光の束が、輝く雲の間から下りているのが遠望される。

でも、問題はこの体の寒さとその主なる原因たる空腹である。もう5時。すでに「自由軒」はやっている時間だ。店に入り、注文を取りに来た珍コックの棍さんに、きょうは彼が調理していない事実を感謝しつつ、安心してタンメンを注文する。ここの店のタンメンは本式で、何が本式かといえば、きしめんみたいな平打ちの麺に、日本蕎麦やそれに準ずる思想を有するとおぼしきラーメン等に特有の「腰」が全然ないからだ。このことは、中国本土の担々麺とか、中央アジアの羊肉を絡めた麺とか、インドシナのフォーとかの「腰のなさ」を思い起こさせて、こういった「無腰」はむしろアジアでは圧倒的に多数派なのではないかという気がする。

ばんめしはひるめしに続き、中華が主。新玉ねぎ、さやえんどう、マッシュルーム、人参、アスパラガス、小松菜と、豚肉を炒めて味付けした餡を、一度鉄板で焼いた焼きそばのそばにかけたもの。ようするに餡かけ焼きそばである。これと、トマトをざく切りにして、エクストラバージンオイルをかけた、ようするに冷やしトマトとで、一番搾り。

鮮魚「魚徳」の閉店間際、もう何もないかと諦めていたら、店の若いのがクエがありますと言う。社長に初めて刺身で切ってもらう。百円玉のおつりの中に1ドル銀貨があったので吃驚。いまはどっちが高いのか。そういう因縁のクエまたはアラの刺身で菊正をしんねり。でもクエないしアラは、こぶ湯の鍋が絶品だと思う。

藤湧きて門ごとに見る夜ルの奥
酣の春竹林の狂ヲ懐フ
木は花を落としつくして深空かな  解

*深空は飯田蛇笏の梅の句のように、ミソラと読まれたし。


2008年04月21日
01:23 食日記62

朝。レタススープにベーコン1枚を温める。パン・ド・ミーの最後の一枚を焼く。無塩野菜ジュース1杯。これらでいつもどおりのあさめし。今日はなんだか寒い。

今年詩集で出せれば、という詩稿を検品。通して読むと書いた作者自身が速読で1時間半を要するという文字量。予算は女房と激しい折衝のうえ、これが(いつもどおりの)容易ならざる厳しいものであることを確認し、どげんかせんといかんと頭を抱える。でも、この詩集、出すぜ。

昼。蕎麦「味楽」で天とろ定食。温かい蕎麦をオプションで頼み、とろろめしと海老天と野菜の煮付け。一ン日いっかいは米のめしば食わんとなあ。

夜。アスパラガスとそらまめとエリンギとベーコンによるパスタ。大皿に盛り、力いっぱい食う。トマトと新玉ねぎのサラダと。これらで一番搾りのはずなのだが、しばしば飲むのを忘れている。ふとるだろうなあ。でも儂一人じゃないからざまあみろというところか。
そうそう、きょうは鮮魚「魚徳」に平目のいいのが入っていて、肉の匂いの佳さのほか、エンガワがコリコリとした歯触りで、こういうのも久しぶりである。せっせと摂取。ふとるだろうなあ。

朝影はあはれあめりかはなみづき
ふりむけば八重山吹や凋落す
あをぞらへ枳殻の香ぞ放たれし
探幽の夢にも見ざる若緑      解


2008年04月22日
01:55 食日記63

朝。ベーコンを入れないレタススープ。なんでか今朝はそんな気分。パン・ド・ミーのトーストと、優秀混濁林檎ジュース。天気晴朗ナレド体感温度低シ。風が、硬い。

昼。けっこう腹をへらして蕎麦「味楽」へ行くのだが、けさ量った体重がこころをふさぎ、熟考のあげく、大せいろ蕎麦にする。今日は心にいろんな屈託が何気なくはびこり、動物性タンパク質や満腹ということを極力避けているじぶんに気づく。これもある意味やだね。

スーパーマーケットの野菜売り場で、マッシュルーム半額というのがあった。売り場のおじさんに聞く。「半額というのはサイズがまちまちだから?」「角に当たったところが黒いだけ!」「じゃあ日持ちはするのね」「そりゃあすぐ食ったほうがいいけど、古いからじゃない! 買っといて絶対損はない、買っときなよ! ぜったいおすすめ!」と言ったおじさんの顔が、矢沢永吉に似ていると思ったら、そうではなくて、永ちゃんから金を払えと訴えられて憔悴しきっている永ちゃんの物まね芸人にそっくりなことを発見。

夜。以上の履歴を持つマッシュルームはもちろん使い、人参、新玉ねぎ、アスパラガス、エリンギ、帆立を炒め、海老の臭いのする沙茶醤(サーチャージャン)を合わせたものと、里芋と手羽先の紹興酒炒め煮。これらで一番搾り。
菊正・燗には、脂の少ないシコイワシ(店ではヒコイワシという表記)を、鮮魚「魚徳」で仕入れる。先述の帆立もここ。スーパーのサカナなんぞ、ばからしくってやってらんねえや。
気がつけば、寒い春のまま、春が暮れてゆく。

近づいてゆけば懐剣匂ふ春
茉莉花や花芽がふふむ紅のかげ
はくじやうな女春行く鶴見にも  解

*茉莉花はマツリカでももちろんよいが、ジャスミンという読みでも良いかも知れぬ。


2008年04月23日
01:43 食日記64

朝。レタススープにベーコン1枚浮かべて温め、無塩野菜ジュースを注ぎ、パン・ド・ミーの生パンで食事。麗らか、という気候がやっと戻ってきた感じだが、あと1週間あまりで四月尽、ということではある。中途半端に温かい春は、鍋を満喫できなかった冬よりも心が余る。

昼。このところありがたいことに仕事がひまである。ひますぎると、とてもありがたくはないのだが。で、新詩集のことをちょっとだけ、やる。馴染みの印刷所にも隠密裡に電話をかける。工夫次第、というところか、てな感触を受ける。

で、ひるめしはまた遅くなって、きょうは「自由軒」が休みなので、またまた蕎麦「味楽」。ここでカレーライスをたのむ。蕎麦屋のカレーというものについて、もっと考究されねばならない。これは蕎麦屋の話ではないが、インド人留学生が日本で初めてカレーライスを食べて感動したそうだ。彼はごちそうしてくれた人に尋ねたそうだ、「これはとてもおいしい料理です。けれど、いったい何という食べ物ですか?」。

夜。きのうのシコイワシが大量に残ってしまったので、これを包丁で叩いてちりめんじゃこ、干しエビと分葱の刻んでおいたの、生姜のすり下ろしておいたの等に粉を混ぜてお好み焼き風にする。優秀桃太郎トマトにセロリを乱切りにしたやつに、エクストラバージンオイルを混ぜたサラダ。これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」で、大将に奨められたいまごろの桜鯛をもとめ、このこりこりで一献二献それ以上。菊正といへど春夜は更けにけり。

きのふまで青空の木に若葉透き
天平の美人の顰みさくら八重
 生麦嘱目
因業な婆アの春や去り易く
娘とふ名はまだ春の名の立ち話
くらうしてめし食ひ老いてけふの梅


2008年04月25日
00:22 食日記66

朝。きょうは朝一番でMRIによる検査である。時間がないので無塩野菜ジュース1杯を飲んであさめしということにしておく。

昼。検査と脳神経外科の診察のあと、午後から始まる呼吸器内科の診察まで時間が余る。ひるめしはジョナサンのランチ。鶏しぎ焼き丼と浅蜊饂飩のセット。タンパクが多いが、朝は殆どタンパク零なのでよしとする。味は、意外にまあまあ。

帰途につく。寝不足と病院特有の疲労感とでばんめしを製する気力湧かず。いったん家に帰ってから夜、また生麦の町に飯を食いに行こうということに決める。途中のコンビニエンスストアでハーゲンダッツを買う。妻はクッキークリーム、私はバニラ。

夜。詩集の「あとがき」を書く。気がつけば、すっかり日は暮れて篠突く雨となっている。外に出るのはやっぱりやめよう。ここで宅配寿司を注文するという、余儀ないこととはいえ、最悪の選択をすることになる。届けられた寿司は、一口目にはまあまあいけるじゃないか、という感じだったが、2カン3カンとすすむうち、寿司飯のまずさに閉口してくる。防腐のためか、舎利の甘さが尋常ではないのだ。マグロも悪脂っこい。光り物が一つもない。山葵が利いてない。いろいろ、いろいろあったが、総じてこんなものが今の家庭の御馳走だとするなら、この世の中、どうかしてるぜ。おどれえた。

春の雨はすに聞く身や思惟の掌
透過せし頭蓋に春の星はるか
春はやてかの日告知を受けしこと  解

*思惟の掌はシユイノテと読まれたし。


2008年04月26日
01:08 食日記67

朝。早めに目が覚めるが早く起きすぎたという不快さはない。ベーコンやその他の肉が入らない純粋レタススープと優秀混濁林檎ジュースで、パン・ド・ミーの朝食。女房に勧められて濃厚蜂蜜1匙を舐める。

昼。銀行であたふたと、その名声鳴り渡る国民年金の今年分をいつものように納入する。模範的な国民だと思わねえか、誰だか? そのあと、生麦「自由軒」でもやしそば。味はまったく変わらず、名品には違いないが、まえからいたほうの中国人の給仕がいなくなって人が減って以来、なんとなく店の雰囲気が暗い。

夜。トマト味のペンネ(少々辛い)と、アスパラ・人参・さやえんどう・ピーマン・椎茸と豚肉を入れ、カタクリで綴じた野菜炒め。これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」で金曜定例の鯛刺身のほか、それを捌いたときに得たと思われる鯛の子少し(50円)を酒と醤油と水だけで煮付ける。細かい油が浮いてきて、これだけでこっくりした味であると予め判る。菊正燗は言ふまでもなし。

樹の騒ぐ空の遠さや夏隣
帰去来や修司麦藁帽棄てき
深山なる躑躅のしぶき密かにて  解

*帰去来やはカヘリナムヤと読まれたし。深山は当然ミヤマ。


2008年04月27日
02:02 食日記68

朝。パンは女房が食べて行ってしまったので、彼女が作り置きしておいたレタススープに若干手を加えて汁を製し、冷凍しておいた中華麺を茹でて簡易タンメンとして食する。概ね旨かったが、味付けの酒が煮切りたらず、ちょっとアルコール臭かった。

昼。風はないが外は降りみ降らずみ日和定めなし。曇天のもと、新緑だけが内側から光り輝いている。空腹を抱え、また丘の上から下りる。きょうは蕎麦「味楽」。いつもは即決なのであまり見ることのないメニューをあれこれ眺め、少し考えてから親子丼を頼む。ここの鶏肉は何を用いているのか、歯ごたえがあって旨い。タンパク制限の身としてはそれが丼中、もの足らないくらいにしか入っていないのが痛し痒しというところ。同じ状況で、カレーライスに入っているべき肉が一切れも入っていなかったことがあって、このときに、「肉、入ってないよ」のひと言の文句がどうしても言えなかったことなど、思い出したりするわけです、ハイ。

夜。小松菜と厚揚げをだし汁で炊き合わせる。小松菜は一束ぜんぶを使う。それと、茄子、ピーマン、豚挽肉を、ニンニク、鷹の爪、酒、赤味噌で炒め合わせ、カタクリでまとめた餡を、冷水で締めた饂飩にかけたやつ。これらでだいたい一番搾り。
菊正のアテは昨日に続き、鯛刺身。今は産卵期で味が佳く、旬と言える。きょうも、鮮魚「魚徳」の大将、いや社長による包丁である。ダイナミックな切り口である。

片雲の風をはらみて鯉幟
暴力の光に似たり楠青葉
茄子を炒める厨は寺のごとき夕  解


2008年04月28日
01:35 食日記69

朝。生クリーム食パンの焼いていないやつ(きのう仕入れたが、それが店に残っていたたった半斤で危ういところであった)、その柔らかいのを、ロースハム1枚浮かべて温めたレタススープと無塩野菜ジュースとで食す。

食器を洗ってから詩を1篇書く。連作の、百人一首をモチーフとしたもの。2時間くらいであらあら仕上げ、気がつくとかなり空腹である。頭に血流が盛んだと腹が減るらしい。

昼。
それで、通例の、めしと買い物が目的の岸谷一周散歩が始まる。丘を下ると途中に大木が見えるが、冬でも青々としているそれは恐らくタブノキの化け物じみたやつではないかと疑っていたが、五月を迎えようかという今日、その繁りの先に赤みを帯びたローソクのような芽が立っているのを見て、はっきりとタブノキと同定できた。
きょうは日曜だが、中華「自由軒」はあれほど中休みを宣言していたにもかかわらず、思ったとおり日曜シフトをとっていて通しで営業していた。なんだか従業員が可哀相な気がする。けれど、注文した海老ソバはまさしく絶品だった。そこの女専務、あいつらに、もちっと手当をはずんでやりな。暇なとき、彼らにショーケースの掃除をメイレイするばかりでなく。

夜。餡かけ焼きそば・lightという感じの。優秀桃太郎トマトエクストラバージン油マリネ(今日のはびっくりするほどおいしかった)。いちおう、これらで一番搾りということにしておく。
それからこれは今夜の実質的なメインディッシュなのだが、霜降りにしたまぐろぶつと分葱、焼いた油揚げによるぬた。一番搾りの時から女房とちらちら摘んでいたのだが、菊正と合わせるころになるとその分量ずいぶんと心細くなっていて、なんだか鴎外の「ぢいさんばあさん」みたいな貴重な再会を思わせる。心ある方は小説に当たってみられたい。

いぬからす名もあはれなれ春の艸
すててこの虚子の背厚き半夏生
この空に入梅あるを思はざる   解


2008年04月29日
02:33 食日記70

朝。生クリーム食パンのトーストに、レタススープ・ベーコン入り、それに優秀混濁林檎ジュースのあさめし。これ、けっこう早く消化する。

昼。
印刷所に電話して支払いのことを申し上げたら、支払期日延引のこと苦しからずとの勿体ないお言葉。これあ、一段と早くにブツが出来るぜ。
それで腹が減ったことを自覚して、明日は定休日の生麦「自由軒」に今日再び。日差しは強めだが、なんだか風に油断のできない稜を感じたので、体を温めようとサンマー麺を注文。朝令暮改の言みたいだが、中休みを取って、時間にメリハリが出来てきたせいか、正コックのみが集中して行う調理は今までと比べ、仕上がりがぐんと安定している。冗談のようだが、私はちゃんとした料理を食すると、どんな言説にも優って世界を肯定したいような気持ちになるのである。

夜。
ピーマンや獅子唐を炒めて醤油を垂らした味と香りが、口や鼻に蘇ってならないので、ピーマンに手を伸ばす。すなわち、昨日のぬたの材料で余した油揚げとピーマンをざく切りにし、油で炒りつけ、最後に醤油を垂らしたのを毒味してみると、正月の餅の焦げの味がする。まずくはない。ヘタ旨いというところか。
以下長い話になる。
そらまめがあったので、これでパスタを製したら、と考え、アスパラやマッシュルームも余してあったので、それも入れたら、と思いついたのが生クリーム味のペンネであった。だが、たんなるクリームパスタではなく、それに相応しい味というか風味付けをまたまた考えたら、たとえばゴルゴンゾーラチーズなどを溶かし入れた風味なんかで、仕事を終えて電話してきた妻に、そういうたぐいの臭いナチュラルチーズを買ってくるように頼んだのだ。で、クイーンズなんたら伊○丹のチーズ売り場から女房電話してくる。30グラムのナチュラルチーズが千円近いのよ! わかった、いいから帰ってきな。それでなお臭さを追求する。そらまめ、アスパラ、マッシュルームを入れて、オリーブオイル、バターとアンチョビを叩いて、パルミジャーノ粉チーズをテッテ的に和えたソースでパスタ完成。そのアンチョビ臭さも微妙にチーズ臭さと被って、いちおうわが家では満足のゆうめしであった。
これらは一番搾りで。
菊正のアテは、きょうは鮮魚「魚徳」で「のれそれ」を買ってみる。穴子の稚魚だが、透明な姿で小さな両目が視認できるところなど、あはれである。私はこれを擬製豆腐ならぬ(まさに概念系としては反対の交叉をなす)、擬製ところてんと見て、酢醤油、白だし、おろし生姜で食する。意外に本体に濃厚な味が感じられる。

生垣の枳殻有磯に似てけはし
さばへ涌く祝ぎの碧なす皐月
鳥を聴くわれもましとと夏の空  解

*枳殻はキコクでもよかるべし。有磯はアリソ、これは老婆心。どうも今日の句はいろいろ、ズルしたな。


2008年04月30日
01:26 食日記71

朝。レタススープにベーコン1枚入れて温め、優秀混濁林檎ジュースと生クリーム食パンの焼いたのでブレクファスト。ベーコンはやめたほうがいいかなあとも、それくらいの俗っ気があるくらいが病と向かうのにはいいのではないか、とも気持ちは揺れる。

昼。きょうも遅くなってしまって、夕方くらいにたぬき蕎麦をたぐる。蕎麦「味楽」にて。少ない量だが、満喫。欲深いほどまでに。それから島忠に行き、A4のコピー用紙2束とB5の茶封筒1束、それに思いがけないことに、エプソンのインクカートリッジのサッカーボール印があったので、購入。ぜんぶ次のtabのためである。

夜。きょうはばんめしを作るモラールに関わる意義のうえでも、食事作りをいったん休ませてもらう。かねてから気になっていた、生麦に新しくできた店で外食をする。
まずビールはニッポン人であるわれわれにはお約束。カンパイのあと、赤ワイン、イタリア産の少し濃厚な味わいのもの。それで、鰊のエスカベッシュ、まあ南蛮漬けですな。赤海老のフリット、これは芳ばしく、且つ甘い。ヤリイカのイカ墨煮、濃厚だがなんとなくその色に比べて淡い感じがある。生ハム、スペイン産だとか、熟成が進んでいて、どこかしらパルマ産堅チーズの乳臭さがあるような。さいごは茄子と挽肉のトマト味のフェデリーニ、これは普通の旨さ。時間がたってくるとワインの味がだんだん変化してきて、初めのころの甘く濃厚な、いうなればオー・デ・コロン臭のする感じは、終わりのころになると黒胡椒を噛みつぶしたときのきりっとした風味に似てくる。随分ひさしぶりに2人でフルボトルを空ける。
グラッパはあるかと聞いたら、店にはないが好きなので家で蒐集しているとの店主の言。じゃあ置いておいてね、また来るからと、酔っぱらいの男女は春の闇に消えた。

家に帰って菊正・燗。

ゆふぐれや闇さへ青き四月尽
夜半行けば地虫瞋恚の如ひそと
丘へ往く夏を逢瀬と決めてより  解


2008年05月01日
01:58 食日記72

朝。昨日パンを買い忘れたので、あさめしは麺。さやいんげん、人参、玉ねぎ、ベーコンを炒め煮にしたスープに、鶏ガラスープの素と酒を入れて煮立たせる。ゆであがった麺を中華どんぶりで合わせて出来上がり。ひとはいさ、女房は旨いと言っていたよ。

昼。女房も私もずっとパソコンで作業していたので、気がつけば午後4時。彼女はなぜかパンを買ってくればいいとか、近くのフレッシュネスバーガーにしようかとか、「らしくない」ことを言うのでオカシイと思ったら、早く家に帰って作業の続きをしたいという魂胆でいやがった。ので、ダメだと言うと意地悪だとかぬかしやがる。そういうのはダメ。きょうは久しぶりに天気のいい一緒の休みだから、少し遠出して豚骨ラーメンを食いに行くべきである。女房、ラーメン1杯を完全に食い終わった<あとから>、朝もラーメンだったとぶつぶつ。そうか、そんなに麺がお好きなら夜はやきそばかなんかにしてやろうか。

夜。
ニース風サラダってのに挑戦。ようするに温野菜のサラダだが、腹持ちがいいので主食代わりにする。新じゃが、春人参、アスパラガス、さやいんげん、ゆで卵、海老などに、マヨネーズと生クリームと粉チーズおよびヨーグルト少々で作ったソースをかける。だがそのためにわざわざ買ってきたオリーブの実の瓶詰めや、ミックスビーンズのドライパックなどは入れるのを忘失。年は取りたくないものだ。
海老は多かったので、残りの海老で中華風。すなわち、茄子を細かく切り、ニンニク・生姜・豆板醤で辛みと香りをつけた中に多めの紹興酒を入れ、茄子と海老と合わせて炒めつけ、鶏ガラスープを入れて完成。以上2品、ひとはいさ、女房のやつは夢中で箸を動かしていた。様ァ看看。

ところで。きょう、鮮魚「魚徳」は2連休の初日。知らなかった。店の前まで来てうなだれる。だが菊正・燗まで休みということは勿論ない。

四月尽ひたすら匂ふ木々のうれ
 西脇翁ヲ思フ
まづ窓に奇蹟の五月おとづれぬ
薔薇咲けど波濤は石の中にあり
 別
霞みゐる富士山金の彼方にて  解


2008年05月02日
02:51 食日記73

朝。遅く起きたのに倦んで、あさめしは無塩野菜ジュース1杯とする。倦んだというと時間の冗長を思うが、実際には気休めにもならない時間の短縮を思ってのことだった。年を取るというのはこういうことの積み重ねから来るのかも知れない。

昼。tabのことを少しやり、それに係ることを少しやる。一日は瞬く間に過ぎる。蕎麦「味楽」に行き、日替わりのかき揚げ天丼と冷たい蕎麦を頼む。またドラマ「相棒」をやっていて、食事を終わってわずかの間だが、ドラマの先の展開が見えるまで、店を出るのを待っていたりする。

蕎麦屋を出てスーパーマーケットで買い物。肉売り場で、焼肉用の牛レバを注文した初老の男が、そこは量り売りなのだが、100グラムという注文に90数グラムでよろしいですか、と言った女の子の売り子の常套句に、ものすごい剣幕で100グラムと言ったろうが! と食ってかかっていた。こういう感じで量り売りという文化はなくなってゆくのだろうなと、認識を新たにする。

きょうは遠回りして帰る。途中、自転車に乗った作務衣の禿頭・色黒のおじさんとすれ違ったが、あれはゲージツ家のクマさんにそっくりだ。

夜。
新じゃがをどうとかしようということで、結局、カレー風味のマッシュポテトというものを製する。新じゃがを潰し、徹底的に潰したそこに、生クリーム、今では貴重品となった、でも家ではヴィンテージものとなったバターと、オリーブオイルとS&Bのカレー粉を適宜加える。そいつに小間切れにしたソーセージ、ハム、極小小房に分けたブロッコリーを荒々しく混じぇーる(宮脇昭的に)。
野菜は、例によってエクストラバージン冷やしトマト、それに味噌胡瓜。
多少前後はあるが、これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」は休みなので、致し方なくスーパーの魚屋でバチの赤身。生というから買ったが、いつものやつのほうが百倍もいい。これにより菊正・燗。きょうはイキすぎた。あすはまた病院といふのに。起きられるだらうか。
でも、も少し飲んでやらう。

菖蒲とは流血の如むきあへる
酒のめば腹の青葉の深深と
一斗にて一斗の夏を空にして  解

*菖蒲はアヤメと、深深とはフカブカトでなくシンシントと読んでいただけたら、空にして、はクウニシテと読まれれば吟者には望外の喜びです。


2008年05月03日
01:14 食日記74

朝。きょうは病院。といっても、午前の一番最後のほうの診察だから、ふだんならどうということもない。が、ゆうべの深酒と寝不足で、這う這うの体で梅屋敷まで行き、梅屋敷「日の丸ベーカリー」特製の名物コロッケサンドを買い求め、しかるのち病院のカフェ風のコーナーで濃縮還元オレンジジュースとともにあさめし。このパンはたいていの場合、のどを通るのだ。

あっというまに病院を終え(診察から支払いまで、そこにいる時間が1時間未満であることに気づき、あとから真に驚愕する)、長駆松濤の戸栗美術館まで行く。新聞屋でもらったチケットにより、そこで行われている「初期伊万里展」を見るためだ。全99点。こうしてつぶさに眺めると、思わず唸ってしまううぶさと迫力とが共在している。やはりその「青」が圧巻と言えるが、総じて「伊万里」近辺の焼き物という大きなくくりの中で、器の種類、形、彫り、釉薬、図案その他の、技法というも愚かな「仕業」に見られる驚くべき多様性には、単なる個性という散乱ではない、教訓とすべき豊かさがあるように思われてならない。やはり17、8世紀の日本語圏には何かがあるのだ。

昼。
降り出してきた雨の中を急いで東急本店に裏側から駆け込む。そのまま8階まで上り、「日本橋 伊勢定」で鰻を食おうと、高いと渋る女房を説き伏せて入店。鰻重ときも吸いのほかに、昼間っからと渋る女房に頼み込んでビールを1本。一口飲むとそれまでのどが渇いていたことに気づく。二口三口とイクとみるみる気分が晴れてきて朝の憂鬱が取れると同時に、にわかにアルコールが全身に回ってきた実感がある。ちょっとハイになる。つまり、これがわがHNにして俳号の解酲子の意味、つまりテイ(二日酔いのむかむか)を解ク、の迎え酒の本義を演じたというわけなのである。

夜。
小松菜と厚揚げの煮浸し。地味にしみじみと旨い。じゃこと干しエビとたくさんの葱を入れたお好み焼きというか、まあ、チヂミというか。具材と粉を、水を入れる以前の乾燥した状態でテッテ的に混ぜ合わせることをしたせいか、吃驚するほど餅めいた歯ごたえがある。これらで一番搾り。
きょう、鮮魚「魚徳」はやっていたが、行った時間が遅かったので、目的の鯛はもう売り切れてしまった。代わりに、昨日の仇を魚徳で、というわけでまぐろぶつを求める。細かく切ったほそ葱を、山葵醤油で和えたまぐろぶつに混ぜ込んだ一品で、菊正・燗。スーパーのまぐろサクの千倍も旨い。

さみだれか道玄坂を横ざまに
藍の手の下手もすずしき陶の壺
 バスにて岸谷龍泉寺脇をカーヴするに
軍勢の躑躅の霊に襲はるる  解


2008年05月04日
01:09 食日記75

朝。
生クリーム食パンをトーストにし、レタススープにソーセージ1本入れて温める。これに優秀混濁林檎ジュースで朝食。ソーセージが旨いが、これには用心。まずくてもイヤだが。

昼。
生麦中華「自由軒」は、てっきりやっていると思ったが、三人いるうちの一人従業員が減って事情が変わったせいか、GW後半通してずっと休みという。これは、今までになかった現象。ここのもやしそばや肉野菜炒めライスが食えないとなると、一大事だ。
けっきょく、蕎麦「味楽」でカレーライス。テレビでは「鉄人」が行きつけの店というのをやっていて、田崎真也が人形町のキラクを紹介していたのにはさすがと思った。ここのビフカツはめっぽううまいのを知っているからだ。
でも、と愚生思う。いま匙で一口一口食っているここの蕎麦屋のカレーライスに比し、旨さという点で、その心の充足にいかほどの違いがあろうか、と。これマジなはなし。

夜。
スーパーマーケットの野菜売り場に突っ立ち、しばし熟慮。むかしは魚や肉売り場から買い物を始めたが、今は野菜売り場から。それで、だいぶ安くなってきているトマトに目を向け、それから生で食える菠薐草を手にとって、今宵のめしを決める。キメたら早いから、クラタ。それってサイテーかもね。フレッシュのトマトはホールトマトと一緒に煮て、ニンニクとハーブ以外の何にも入れずに煮詰めるだけのソースにする。これで、スパゲッティ・ポモドーロを製する。砂糖なんざ一匙も入れないのにこの甘さ。甘いのが酒に合うような、そんな甘さ。生の菠薐草にはベーコンとエリンギ、アスパラをオリーブ油でソテーしたのをかけるだけ。これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」にはシマアジの小さいサクがあったので切ってもらう。帰り道、町内のあらゆる猫と犬に声をかけながら。女房はそんなことはやめろと言うのだが、きょうは一人なので言いかけ放題。ハナちゃん、ミーちゃんたちに。それにしても、夏を飛ばして秋が来たような、非道く暑かった夏のあとの秋の訪れみたいな、斜光と青空と奇妙にさわやかな風だった。さて、シマアジはこりこりやったでえ、近藤くん。

レジを打つ幾許かむすめ菖蒲売り
心臓を握るがごとくトマトの海
俎板をよごしてトマト切り終へぬ
さつき夕映え金の地獄の弥栄に  解


2008年05月05日
01:22 食日記76

朝。
レタススープにロースハムの薄いやつを一枚浮かべ、温める。生クリーム食パンと、優秀混濁林檎ジュースと併せてあさめし。

tabの原稿すべて揃う。慶ばし。きょうはしないが、これから種本作り。それから詩を1篇書く。腹が減るが、腹も出ている。如何せん。

昼。
空腹のまま、蕎麦「味楽」で鴨南蛮。鴨肉の切れを5切れも摂取してしまう。ぎらぎらとした油の浮かんだ汁が、この温蕎麦のエッセンスと言えるが、それがちっともくどくないのが他の肉と違った、日本人好みの美点であろう。

夜。
あんかけ焼きそば。人参、さやえんどう、マッシュルーム、新玉ねぎ、春ピーマン、アスパラガス、セロリ、といった野菜と、豚肩肉、ソーセージ小間切れというとりあわせであんかけのあんにする。それから、だいぶ安くなった優秀桃太郎トマトで冷やしトマト。エクストラバージン油と、きょうはちょっと白ワインを入れて和えたもの。これらで一番搾り。五月の気温高く湿度の低い夜の、ビールの旨いことといったら!
鮮魚「魚徳」は、めぼしいものがない。若いもんに奨められたシマアジはたぶん昨日の残りで、トレイを持ったまま大将に目で聞いたら、大将目を閉じてはげしく首を左右に振る。で、きょうもまぐろぶつ。これが一番しくじらない。連休中は致し方ないようだ。これにより、菊正・燗。

錦木の葉陰に星の蜜甘き
ジャスミン花しふねく匂ふ日も暮れて
友と逢ふ詩経国風夏の水
たけなはになれば宴は星戴く  解


2008年05月06日
02:04 食日記77

朝。
発芽玄米食パンを焼く。これ、9円高くなった。それからレタススープはお約束としても、かてて加えてスタッフド・オリーブ4粒、たまたまあったのであさめしの一皿に、生意気にも入れる。パンと食うと、まあ、うまい。

昼。
一生懸命、tabの版下のことをやる。午後2時半、家を出て、生麦「味楽」でカレー南蛮饂飩を食するも、店の雰囲気が妙に剣呑というか風紀紊乱という感じがする。これは、3人と2人の、ふた組ばかりのパチンコ客のせいと判る。ふた組とも若い連中で、これだけの迫力があれば却って判りやすく、下手な接触を避けることが出来る。でも、思うに、わが生麦とはそういう町なのだ。

夜。
近藤くんと秋川久紫氏と、銀座で待ち合わせる。和光の前である。彼らと会う以前、だいぶ時間があったので、三笠会館のバールでグラッパを1杯かたじけのうする。酒臭い息で、5時、和光まで戻り両氏と相まみえる。野村龍くんも来るはずだったが、体調あし、とて来ることを得ずとのこと。で、さあそれからがたいへん。銀座は思いがけない人出で、予定していた焼き鳥「とり吟」には長蛇の列。こんなことは今までになかった。そこをあきらめて新橋寄り方面のビアホール「ライオン」に行ったがそこも満員。客の列の横に立って「3階があいてます!」と叫ぶ店員の指示に従い、まるでぬすびとのように裏手に回ってエレベーターで3階へ。そこが地獄でもとにかく3人腰が落ち着けるならどことてもいいや、という気構えで飲み食いするに、これが新宿あたりと違うんだなあ、気取った盛りつけや量の少なさや大げさな意匠はおんなじ印象のようでも、酒はうまいし、魚や野菜がうなるほどの新鮮さ、しかもねえちゃんはきれい、まあこれは別として、客の扱いは東京のほかの街とは別格で、銀座とはそういうところで本来あったはずだ。ブランドビルという野蛮がやって来る前は。すごく満足したけれど、でもすごく高かった。
そこで食ったものは3人それぞれなので確定は出来ないが、宮崎地鶏(と、いうところが可笑しい)の一本手羽先、まぐろ頬肉の竜田揚げ、野菜スティック(この野菜が吃驚するほどおいしい)、ホウボウと甘鯛の刺身、ほか。私は燗酒を頼んだが、これがなんと、菊正宗。つくづく縁があるのだなあ。

秋川、近藤両氏と大いに語り、飲酒した清談のおもむきであるが、家に帰ったら、妻は仕方ないとして、猫まで機嫌が悪い。どうしたものか。

旗下がる銀座の辻を走り梅雨
 来るべき人来ぬ不思議さに電話すとて
来ぬ人をまつほ野村のなつのかぜ
 別
端午酔ふ銀座本来水の上
新橋や祭り囃子のとほざかる  解


2008年05月07日
01:20 食日記78

朝。
私としては割合早めに起きたのだが、何となくずるずると時間を費消してしまい、昼になってさてブレクファストを、と思ったら、異常なほど腹が減っていない。というか腹が妙な具合だ。で、いつものあさめしを強行することがためらわれ、レタススープにハム1枚浮かせて温めたのと、スタッフドオリーブを3粒で今日のあさめしとする。

昼。
またきのうにつづき、tabの版下作りなどをやっているうち、忽ち日が翳り、夕方となる。めしを食いに行かねばならず、晩飯の買い物もしなくてはならぬ。そういうところへもってきて、鮮魚「魚徳」の閉店時間が迫る。もういいや、きょうも妻にはすまぬが外食にしようというところで漸く腹が決まり、外出する決断が可能となる。蕎麦「味楽」しか開いていないので入ると、連休の最終日と夕食の始まる時間とが重なって、店の中は中年夫婦の晩酌の図という感じで占められていて、あちこちでビールの泡が立っている。ここで悪魔の囁きが聞こえてきて、その声により私は躊躇することなく一番搾りの中瓶を注文。ころあいをみて、あとからたぬき蕎麦もね。一口飲むと頭の暗雲が霽れてきて、思わず声を上げてしまうほどおいしい水を嚥下している気になる。私には判ってしまったのだ。きょう一日、自分がいかに深い二日酔いの淵に沈んでいたかということを。ビール1本をゆっくりと乾し、それからそそくさと家に帰って何食わぬ顔をする。

夜。
それから2時間弱で妻から電話があり、生麦駅で待ち合わせるため、そそくさと丘を下る。新しく駅そばに出来たカフェ「カシュカシュ」で、まずビール。またビールだが私のはいわゆる「中」のそのまたハーフサイズ。ここではいつもこれなので、なぜきょうに限ってこれか? といった疑いを持たれない。まだのどが渇いているのでビールを飲んでも苦痛ではない。というか、夜になってもまだ二日酔いである。ワインは南アフリカの赤。いったいにこの店のセレクトは甘め・濃厚、という線ではないか。ニシンのエスカベッシュ。茄子のフリット、これは素揚げですね。それから肉製品の盛り合わせ(と言うのにはちょっと物足りない量だが)。パンチェッタや生ハムやカルパス風やその他を少しずつ並べただけだが、濃厚ワインと合わせると複雑な表情を見せる。特にカルパス風の変わった風味のやつは、女房に言わせると「エジプト」みたいな匂いがするという。私に言わせればここに加えて抹香の匂いとか、さらに言えば腋臭みたいなものも感じられて、それがちっとも食欲を減退させない。さいごにキノコのピザで満腹トリオとなり、びっくりしたなあもう、と勘定を済ませて皐月闇に消えてゆく中年男女。

燕飛ぶすなはち空を切り落とし
へなへなの我に禊ぎの酒そそげ
たぶの葉にそれぞれ光る夏の濤  解


2008年05月08日
01:20 食日記79

朝。レタススープと優秀混濁林檎ジュースはいつものことだが、きょうはおもむきを変えて、発芽玄米食パンのトーストにハム1枚はさみ、ちらっとマヨネーズなんざ絞ってみる。しばらくはこれか、というくらい旨い「気がする」。

tab版下作り最終局面。あとはカラーコピーの原版1枚残るだけ。気がつけば5時。「ひるめし」は、ばんめしに備え、あまり重いものは避けたほうがよい。蕎麦「味楽」の定休日と入れ替わり、中華「自由軒」がきょうから営業なので、そこで純粋ラーメンとも言うべき昔ながらの食い物を食う。ラーメンの歴史が仮に70年とすると、その尖端にふるえる一滴ともいうべき極致を感じる一杯である。

夜。スパゲティー・ナポリタン。新玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム(生)、ソーセージを炒め、貴重な貴重なバターを薄く一片投入し、トマトピューレとオリーブオイルと白ワインなどを和えたソースにゆであげパスタを入れて完成。サラダはトマトとグリーンアスパラをエクストラバージン油でマリネしたもの。塩は入れない。これらで一番搾り。 魚は、きょうは鮮魚「魚徳」の営業時間に間に合わず、こないだに引き続き悄然として帰宅。そういえばっ、と思って冷蔵庫より先日近藤くんから手みやげでいただいたちりめんじゃこがあったのを引っ張り出し、いま、これを書きながら、つまんでいる。土佐の青魚は濃くてよい味じゃき。当然自然、酒は菊正・燗である。

夏の日没とは何やどすなき金のうろ
青嵐点点と葉は身に凝る
 午前1時過ぎ、地震。
夜深くなゐふる夏のとふ如し
 買へぬ食へぬうらみに
魚徳の串打つ鮎のゆくへ哉  解

*日没はイリとあるべし。かく読まれたらんには嬉しかるべし。


2008年05月08日
21:54 食日記80

朝。
起きてみたら断水である。きょうは水道タンク清掃の日であることを失念していた。病院の日でもあるので、早々と(追い出されるように)家を出る。この街に先達て新しくできた「フレッシュネスバーガー」で時ならぬ、タンパクたっぷりの朝食。

昼。
受診して医師が首をひねる。この数値はどうの、こうの。ここ二、三日深酒が重なっていると白状すると、顔をぱっと明るくして数値は嘘をつきませんからね、とぬかす。でもたしかに。酒もタンパクも控えめにしようと暁に祈る。
受診を終えて、今日は天気がいいからと、京急でそのまま横浜日の出町まで行き、駅前で目についた九州ラーメンを食す。店の見た目ほどひどい目には遭わされなかった。妻はとんこつ、私はそれに高菜を入れたもの。桜木町まで、野毛のディープな界隈を歩く。ジャズ喫茶から少し行くと小さな桃色映画館があって、看板絵の女のごにょごにょは当たり前として、裸の若い男が二人お互いを見つめ合っているってのは、これというのは有りだったのか! と仰天する。旨そうな店や気になるバーなど、たままんさん、これを読んでいたら、今度ここらへんの水先案内人となってはいただけまいか? そこから長駆赤レンガ倉庫まで歩き、海の風に吹かれる。そこのカフェ?ってやつ(いわゆる語尾上げ?)で休憩。私は紅茶のアールグレイのホット、妻はアッフォガートという、温かいエスプレッソにアイスクリームを入れた菓子。ちなみに、アッフォガートとは「溺れる」という意のイタリア語だそうで、アイスクリームがコーヒーの海に浸っているさまを表したものだとか。

夜。
そこから地下鉄の日本大通り駅まで歩き、地下鉄に乗ってそのまま東横線の白楽まで。六角橋「ほんまる亭」に入る。突き出しはホウレンソウのおひたしと、おからの炒ったの。おからには干しエビなどが入って香ばしいが、油揚げもその中にあって何だか同義反復という感じである。しかし、ここにしみじみした味わいを覚えるようになった。あとは、あんまりお腹が空いていないので、もろきゅうと、トマトと卵のオムレツみたいなここのオリジナル料理でビール。清酒「金陵」の熱燗徳利2本で、鯛刺身。これが今日の市場から仕入れてきたばかりの超絶級のしろもの。旨さにおいて鮮魚「魚徳」と並立し、また趣を異にする。

野毛の辻曲つて夏の海の旗
初夏あるく伸とひばりの碑の先へ
野毛ピエロ三色アイス皇大神
あぢさゐやわづかに花をはらみをり  解


2008年05月10日
01:30 食日記81

朝。
存分に寝て、9時半に起きるという快挙。きょうは女房のデジタルピアノ関係の生徒が来る日だ。生徒といっても70を越した女性で、これがデジタルピアノに内蔵された諸機能を使いこなして楽曲をさらっているのだから大したものだ。1時間のレッスンはゲンナマ手渡しである。
彼女が来る前にあさめしをすます。発芽玄米トーストにレタススープと無塩野菜ジュース。トーストにハムを載せマヨネーズをかけて挟む。女房はそれにプラス目玉焼き。初めてだが、おいしい、とか言っている。

昼。
晩は水島邸でもてなされるとて、お腹いっぱいにするのは用心したほうがよいという判断で、生麦「自由軒」でもやしそば。旨いと思ったが、なんだか腹いっぱいのような気もする。不安。

夜。
水島邸にて、木村kazuさん、岩田takrankeさん、少し遅れて水島修氏(水島弟)と、ギターを交え、飲みかつ食らいまた歌い、暗喩直喩換喩とか、三波春夫がナゼ村田英雄よりすぐれているかだとか、倍音から絶対音階に至る混乱的議論の末に、本来の今夜の主賓であるkazu氏の、もう時間だねのcoolなひと言によって、夏の夜は、いろはにほへとちりぢりに。

三つ辻の榎木も夏のふしぎ哉
畑に在るは夏野菜ともいふべけれ
終電往く冷たき星を戴きて    解


2008年05月11日
01:39 食日記82

朝。
起床して不思議に思う。たままんさんではないが、佳い酒は「二日酔いしない」のである。あんなにban邸で酔いくらったのに。依って、あさめしはスムーズである。上食パントーストと肉っ気なしのレタススープ、およびゆうべbanさんから御下問のあった、トロピカーナ・手しぼり感覚・ちょっと果肉ジェルみたいなのが交じった、優秀混濁林檎ジュースでとる。

昼。
新詩集初校赤字入れをだいたい終わる。終わると猛烈な眠気。1時過ぎから3時近くまでこんこんと昼寝。それから雨の中を生麦の街に出る。いつもの階段の下で、雨の中の月桂樹の若葉を見て嗅いで、由来の知れない烈しい喜びを感じる。そのまま蕎麦「味楽」へ行き、卵とじ饂飩を頼んで思い切り一味を振り、すすりあげる。カプサイシンか小麦製品特有の現象か、体が急に温まる。

夜。
フレッシュのトマト1個入りの(あとは缶詰ホールトマト)、ポモドーロのスパゲティーニ。今日は足りたが、スーパーマーケットでオレガノを買い足す。
蕪のいいのがこんな季節にも拘わらず、出ていたので、これとエリンギ、グリーンアスパラガスでクリーム煮。味付けに固形ブイヨンと粗挽きソーセージ、ロースハム少し入れる。
これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」のおすすめは、きょうは鯛。切ってくれと言うと、若いのが包丁を使いだしたが、途中で大将がのぞき込み、こんなんじゃダメだと自分であと半分を刺身にする。よって、今宵わが家の皿のレイアウトは、薄いの半分、厚いの半分。これで菊正・燗。「魚徳」で「フィガロの結婚」がかかっていた。こういう魚屋も珍しいが、いや、それを聴いて私は、涙が出るほどモーツァルトは佳い、と荒々しく感じ入ったのだった。

昼寝してしばし涅槃の世とおもふ
男女ともなき性器かも蝮草
夕づくに鏡のかほもさみだるる
月桂樹若葉のかをりさやかなる   解


2008年05月12日
01:57 食日記83

朝。
上食パンのトーストにロースハム、マヨネーズを絞ってはさんで包丁で半分に切る。これと、優秀混濁林檎ジュース、ゆうべの残りのクリームスープ。あさめしで、なんか栄養取りすぎ。旨かっただけに。

昼。
時折そぼ降る雨の中、寒さに身を縮こまらせて、生麦中華「自由軒」で、こんな日のためにあるようなサンマー麺を頼む。キャベツ・キクラゲ・もやし・人参・小松菜みたいな青いものを、豚肉片といっしょに白いカタクリでとじてある。醤油味の細麺。

夜。
いっこうに気温は上がらず。いちおう愚生の記念の日ということで、六角橋「メリオール」で「妻を待つ」。←これ、有名な回文。アボカドの、海老の入ったサラダ。忽ち平らげる。次の五目焼きそばは、細い麺だがちゃんとフライパンで焼いてあり、あんをかけると細いそれがしなしなになって至って具合がよい。ニンニクや生姜はもとより、チリペッパー類と思しきものや、イスラーム風の匂いのするサムシングまで入っていて、空腹と赤ワインも手伝い、少しコーフンした。
もうちょっと何かつまみたいと、マスターにねじ込んだら、スズキがあります、と。これは今夜この店の最終ラウンドに出す「おかゆ」に入れるらしい。それが、ソテーされてジェノベーゼソースと一緒に供される。つけあわせはジャガイモとアスパラガス、噛みしめるとレモンのような香りの立つイタリアンパセリがそれにのる。さいごのひと皿で私は(たぶん妻も)完全に絞め殺された。
記念日だからと(じつは予約の時にさりげなく漏らしちゃったのだ)、高額商品1杯サービスで、マッカランの15年がやってくる。色々形容したいが、まあ、ここまで来るとウイスキーもブランデーもグラッパもない。とんがったところがそれぞれのファンのつく酒の個性で、ここまで来るとそれがみんな取れてしまうのだ。この酒に限って言えば、甘くて円いメープルシロップの味というのが一番の近似値かと思う。背後で鳴っていたのは「あなたと夜と音楽と」。これは誰かのトランペットだったが、私が聞きつけた曲想のもといはビル・エヴァンス晩年のそれで、こういう甘さは随分とヤバいものなのだ。

藪はみなたかく匂ひて夏の月
すひかづら夜はあくまで青くして
きいちごを食むよしなしの甘さかな  解

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