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食日記



2008年05月13日
01:02 食日記84


朝。
レタススープと無塩野菜ジュースで、上食パンのロースハム・トーストサンド。トー
ストサンドにはレタスの生でもいいかな、とふと思う。いまはレタスの旨い時季。

昼。
昼寝をしていて金縛りに遭う。睡眠の薄い層の中で部屋のうちをぶんぶんと飛び回ら
される。覚醒して起きても、寒く暗く厭な感じが残って取れない。なかなか起きられ
ず、起きてみたら午後4時を過ぎている。印刷所に詩集の初校と借りていた紙見本帳
を宅急便で戻す。外出のために冬のあいだ着ていたコートで完全武装し、生麦「自由
軒」でタンメン。いつもはやらないが、胡椒やラー油など入れると体が温まり、また
趣が変わって愉しい。野菜が細胞にしみこんでゆく感じ。サプリメントなんざ、くそ
くらえ。

夜。
鮮魚「魚徳」はもう掃除を始めていたので、きょうの菊正のアテは湯豆腐。
話は前後する。和風じゃじゃ麺をつくろうと思う。茄子を細かくさいの目に切り、同
じようにピーマンも細かく切る。ニンニクと生姜を炒めて香りを出し、豚挽肉、長ネ
ギほぼ1本の輪切り、赤味噌、豆板醤、紹興酒を入れて全体がくたくたになるまで炒
め込み、さいごは水溶き片栗粉を投入してまとめあげる。この餡を、シマダヤのきし
めんを茹でて水で締め、それをまたちょっとゆで汁にくぐらせて温かめにしたものに
かけて滅茶滅茶にかき混ぜて食う。これとアスパラの太い良いのが安く出ていたの
で、そのままグリルする。焼き上がったらエクストラバージン油とアルペンザルツを
振りかけてそのままいただく。これらは一番搾りで。


白薔薇の暗き葉ゆする風の家
美しき過去一切は五月雨へ
辻を吹く颶風の果てか缶駆ける  解


*けふ、こころも暗く空暗く、かく貧しきを制するの他なかりけり。諸賢これを諒察
せられ度し。闇闇。



2008年05月14日
01:49 食日記85


朝。
生クリーム食パンの焼いたのに、肉っ気のないレタススープ、無塩野菜ジュースであ
さめし。今日も外は暗く、寒い。

昼。
年配の方たちから成る連俳の、もう最後近くになる捌きを一つ、する。終わりのほう
は花を含む春でめでたい気分のはずが、こんな陽気ではもう一つ浮き立つものがな
い。
外に出てひるめしと買い物のために生麦へ下りる。途中の階段で、ヤツデの若葉を見
て、それが律儀にほぼみんな8つに分かれていることに妙に感心する。それから月桂
樹の若葉の先にとりついていた、豆粒よりも小さな蛾の羽に、友禅みたいに華麗で鮮
やかな色とデザインを視認して、これには正味の感動がある。
それから蕎麦「味楽」に入って、日替わりのランチ。きょうは小海老天丼と温かい蕎
麦の小さいやつ。途中、老夫婦が入ってきて、まだ4時くらいだがまず板わさを頼ん
で、それから熱燗をさしつさされつやっている。身なりのよい二人で、ここらへんで
は見かけない感じだが、話を聞いていると遠野へ旅行する計画らしい。こういうの
は、遠野がもう観光地化されているとか何とかいう話柄の以前に、うらやましいな、
と率直に思う。

夜。
寒いのが相変わらずなので、具だくさんの中華スープをつくってやろうかと思う。人
参、いんげん、エリンギ、さやえんどう、ピーマン、メークインの細切り、生きた青
虫がこんにちわをしてその新鮮さを証明した青梗菜を、にんにく・しょうが・青ね
ぎ・ベーコンで香りの基礎をつくったのと合わせて炒め、水と紹興酒とガラスープを
加えて沸騰させたのに、ハムの小間切れを混ぜ込んだ鶏もも肉のミンチを投入、後、
数分で完成。ふう。これと、解酲子亭特製トマトマリネで一番搾り。
鮮魚「魚徳」は、この天気じゃしょうがねえや、というところで、こういう天気の時
用の、まぐろぶつ。付いてきたわさびを使ってわさび醤油をつくり、それに白だしを
くわえた漬け汁でぶつをヅケにする。これにて菊正・燗。
夫婦とも、おなか、いっぱい。昔読んだ、粕谷栄市という人の第1詩集のタイトルは
『世界の構造』だったが、そこに出てくる子豚を抱いたデブ一家のしらじらとした笑
いというものを、いま何となく思い出す。


八手若葉八つに割かるを欣ばん
空暗し若葉は金の森の窓
なすび汁ちちははもゐて夕餉哉
胡瓜もぐ匂ひ烈しく思春せり   解



2008年05月15日
01:51 食日記86


朝。
昨日の中華スープの残りの汁を使って、ラーメン。青虫がこんにちわの新鮮な青梗菜
も2枚ほど、それで煮て麺に載せる。青ねぎとハムでたいそうなあさめしとなる。
げっぷ。

昼。
えんえんとtabをコピーしつづける。それから電話がかかってきて、久しぶりに仕事
がもらえる。さいしょ、こっちから電話をかけたら、ごぶさたしてます、と礼儀正し
く挨拶されてしまった。でも、それってこちらにくれる仕事もごぶさたのことで
しょ? まあいいか。

またも5時を過ぎ、生麦「自由軒」で肉野菜炒めライス。この薄味の味わいはちょっ
と例を見ない。コックから給仕に転身した元副コックは、やっぱり金勘定に才能があ
る。肉野菜炒めライス890円を、千円札がなく、細かいのが財布にあふれていたの
で、50円玉を期待して1万と40円を勘定に出したら即座に正確に9000円と1
50円が返ってきた。もしかしたら彼はコックなどではなく、福建人にしてシンガ
ポールあたりで両替商をやっているべき御仁なのではないか。

夜。
鮮魚「魚徳」は休みの前の売り尽くしの日で、私らなどにはあまり魅力のないものが
並び、それも早くに売り尽くされてしまうので、無いも同然のこととなる。

少し気温が元に戻ってきた感があるので、夏野菜を使った何かをばんめしにしようか
と思う。すなわち、茄子といんげんと、最近売り場に並んでいる岩手産の味のいいア
スパラ、これに地鶏風のもも肉を合わせて味噌炒め煮的なモノを作らんと欲する。だ
いたいうまくいったが、ただ茄子をいじり過ぎてしょっぱくしてしまったのを憾みと
する。それに、ペンネを茹でてオリーブ油とカレー粉とハム小間切れに合わせたの、
および解酲子風冷やしトマト。それや、これやで一番搾りと菊正が空く。明日は晴れ
と言ふ。


木賊なほも鏡みがかん五月闇
にほひきて鼻したたかに椎の花
 テレビにて廃仏毀釈を見ル。
われくだけ背を殺がれけむ涼しさは  解



2008年05月16日
00:19 食日記87


朝。
またも遅く起きてしまい、諸般の事情もあることとて、無塩野菜ジュース1杯をあさ
めしとする。朝の薬をそのあとで服用したが、なんだか胃が気持ち悪い。

昼。
蕎麦「味楽」で大せいろ蕎麦。蕎麦はなんとなく体の調子を整える感じがあって、そ
れが今日あたりの愚生には相応しい。

夜。
ひるめしのあとで久しぶりに会社というものに仕事を取りに行き、東京という街の不
快さをほんの少しずつ感じながら、横浜に帰ってくる。それから、生麦のカフェ「カ
シュカシュ」で食事。シーザーサラダ、あいなめのカルパッチョ、ヤリイカのイカ墨
煮、それにフレッシュトマトと帆立のパスタ。すべてうまいと言っていい。だけれど
も、それに合わせるに、(きょうは白ワインだったが)いかんせん、酒の具合がよろ
しくない。店の値段でフルボトル1本2000円台という安さはどうしようもなく限
界のあるもので、またそれ以外にメニューにはなかったので、ただグイグイと呷るば
かり。愚生らの希望としては、価格帯としてその2倍のものを、量の少ないデキャン
タで、同じ値段で供されたい。


椎の花よぎれば麝香襲ひ来て
 往昔岸谷公園は池にてありしといふ。
池の辺の椎七本や夏の空
桑の実の青き色づくさまを見つ   解



2008年05月17日
01:56 食日記88


ちょっとした操作の手違いで、きょう、乗りに乗って書き上げた日記が消えてしまっ
たので、以下、つれづれなるままに思い出せる限りで内容を記しとどめておく。畜
生。

朝。
女房が昨日新宿三越で買ってきた「ジョアン」というパン屋の食パン、スタッフドオ
リーブ3粒、肉っ気のないレタススープ、混濁優秀林檎ジュースであさめし。でもこ
ういうの、思いのほか粗食とは無縁かも。「ジョアン」の食パンは噛みしめると複雑
な旨味があって、たまにはよろしい。たまにだが。

昼。
仕事を4時過ぎまでやる。気がつくと腹が減っているが、脳みそを使うと腹が減るら
しい。
階段を下りて、途中左手の寺側に階段に沿った藪があり、そこは「多様性」そのもの
の世界だ。スイカズラ、ドクダミ、カラスノエンドウ、ササ、シュロ、ヤブカラシ、
タブノキのひこばえ等々が密生している。そこに、カメムシやアリ、幽かな巣を張る
点のような蜘蛛や、気がつけばこの密林ともいうべき空間に羽虫まで飛び回って、こ
の春先までは見られなかった小宇宙というか、小さな曼荼羅が出現している。
空も晴れ、夕方だが暖かくて気分よく、蕎麦「味楽」に入り、とろろめしと海老天と
冷蕎麦のついたセットを頼む。店のテレビでやっていた「水戸黄門」は、そのセット
を食い終わるころ、悪人を懲らしめてまた次の国へ旅立っていった。

夜。
そら豆が旨そうなので、今夜のメインにしてやろうと思う。
そら豆は茹でて皮をむいておき、長ネギは細かく小口切り、メークインを短冊に切っ
て、しょうがも1片切っておく。中華鍋に油を回し入れ、しょうが、長ネギ、挽肉、
メークイン、そら豆の順に炒め合わせ、塩胡椒、酒とガラスープの素を入れて酒を煮
きり、メークインに火が通るほどのところで器に移す。北京料理というが、思い切り
カンタンで旨い。あとは、例の冷トマトとアスパラガスにオリーブオイルをかけただ
けの「サラダ」。塩もなんも入れない。これらで一番搾り。
鮮魚「魚徳」ではカンパチを奨められたのであるが、何せ量が多い。半分は塩、白胡
椒、フェンネル、オリーブ油で保存食用にマリネする。あと半分はわさび醤油で、当
然、菊正・燗と。


菊正をやりながら教育テレビを見たら、クリスティアン・ゲルハーヘルという人のバ
リトンでシューベルト「冬の旅」をやっている。結局「菩提樹」からあとの全曲を聴
いてしまう。聴いていて、大昔の私の感情だとか心の色合いだとかが彷彿として現前
する。あのころ退屈だった曲やフレーズが思いがけない深度で望見されたりする。そ
れにつけても、こういう理屈っぽさを日本人が理解するためには、やはり1世紀以上
の時間が必要であったのだなあ、と妙な感想がどこからかやって来た。


すひかづらわが少年は須臾にして
虫も人も波羅蜜林や夏の陰
シユパちやんの中也こひしき夏の夕  解



2008年05月18日
00:39 食日記89


朝。
内容はほぼ昨日と同じのあさめし。だが、神話理論におけるコードのように少しずつ
の差異性と同一性がある。生クリーム食パンのトースト(きのうはジョアンの食パン
の生)、無塩野菜ジュース(きのうは優秀混濁林檎ジュース)、あと、スタッフドオ
リーブと肉無しレタススープは同じ。

昼。
仕事をもう仕上げてしまった。あしたからはどうして生きてゆこう。午後3時、で
も、こうして仕事を終わらすと脳味噌が糖分を呉れといって、胃の腑のあたりを騒が
すので、また生麦の町に下りる。階段は虫がだいぶ出ていて愉しい。なんて書くとオ
ナゴから嫌われそうだな。きょうは、中華「自由軒」で、これも名品の海老炒飯を注
文。副コックが厨房にいたとき、彼にこれを作られてえらい目にあった。具体的には
炒飯の上に載っかるむき海老が半生で、それが新鮮なら言うことはないが、生臭かっ
たことがあるのだ。海老の香りも炒めメシ本体にしみこんでいるのが純正品で、それ
にはその香りもなかった。幸いにも新体制になってから、料理はきっちりと正コック
が作るので、じゅうぶんに名品を堪能した。朝、タンパクを避けたから、いいだろ?
(でも、だれにむかって?)

夜。
ゆうべの残りの青梗菜と人参とアスパラがあったので、これに椎茸を加え、帆立とイ
カを鮮魚「魚徳」で仕入れて、以て海鮮やきそばを製する。魚介の火の入れ具合にも
う一段の工夫がいると反省するが、基本の味はこれでよいと思う。それと、ブロッコ
リーに、当地ではブランドの「鎌倉ハム」を入れたサラダ。これで一番搾り。もう殆
どお腹いっぱい。長崎にお住まいの、今村冬三氏という詩人による「ヘルスメーター
の上の憂鬱」という詩集の名を想起する。
菊正・燗には、きのうから漬け込んでおいたカンパチのマリネ。旨いと思うが全部は
制覇できず。無念だが、夜中に黙々とタンパクをつまみ、酒を飲むてなわけにはゆか
ぬだらう。


 生麦自由軒にて
菜単にちさき龍なり夏の窓
 岸谷魚徳にて
打ち水やこゑに売れ飛ぶ台のうを
 別
みづがひのふと欲しくなる夜の渇き  解



2008年05月19日
00:50 食日記90


朝。
ジョアンの食パンをトーストしたものに、ゆうべの鎌倉ハムをはさみ、トーストサン
ドとする。肉なしレタススープを温め、ゆうべのブロッコリーのマリネ(オリーブオ
イルと米酢で1晩、この状態になっている)、優秀混濁林檎ジュースと多彩な品目が
並ぶ。時に昼12時、空腹。住んでいる集合住宅の役員会のあとでのこと。書記に
なっちまった。色々言い逃れたが、まあこんなところだろう。

昼。
うたた寝をしていると速達便が届く。さてはと思い、封を開けて、やはりと思う。詩
集の再校である。二、三の問題点はあるが、いいかんじ(ここ、無アクセント)。赤
字合わせ等の作業に熱中して気がつくと因果なことにまた空腹。太るわけだわな。も
う4時を過ぎている。と、焦ったところでこれはいつものことなのだが。
蕎麦「味楽」でカレーライス単品。蕎麦屋のカレーライスには牢固として犯しがたい
独特の味わいがある。
日曜とて奥の6人掛けのテーブルで、テニス帰りのおじさん連がビールやウーロンハ
イで顔を真っ赤にしてオダを上げていた。あいつらほどではないにせよ、いや、あい
つら以上か、愚生らも大挙して昼の田村町の蕎麦屋あたりで怪気炎を上げ、それから
帝国ホテルの最上階ラウンジに、珍妙な連中ごと押しかけて大騒ぎをしたものだ。嫌
われただろうなあ。よくもまあ追い出されなかったなあ。ちなみにその珍妙な一団の
中に、いま女房となっているオナゴも交じっていたことをばらしておく。

夜。
長ネギ1本を細かく斜め切りというのか、そういう切り方で切っておき、ひき肉と小
麦粉と鶏卵1個を割り入れてタネを作り、そこに少し白だしを入れ、即ちお好み焼き
にする。ウスターソースを表裏に塗り、またちょっと焼く。
小松菜と椎茸と「石豆腐」というネーミングの豆腐で煮〆。小松菜と椎茸はおいしく
いただいたが、「石豆腐」は寒天で固めた程度の強度しかなくて、味もなく、ぜんぜ
んまったくいただけない。ふつうの木綿ごしのほうが堅い。
あとは冷トマト、オリーブオイルかけ。これらで一番搾りをやるうち、またお腹いっ
ぱいになる。あとの、まぐろぶつは菊正用だがやっぱり残してヅケにし、翌日に回さ
ざるを得ない。という悪循環である。
わが学生期、家長期は去ったのだ。いま林棲期、遊行期を勁く自覚せねばならん。食
事の総量を減らしてゆこう。夕焼けを讃えよ。


すひかづらその一画やひえびえと
忍冬にほふあたりに夏の月
蕎麦食つて酒もたのまず初夏を
 尊厳死のテレヴィ番組を見き
延命も途絶もすゞし饂飩食ふ  解



2008年05月20日
02:16 食日記91


朝。
ジョアンの食パンの最後の一枚と、無肉レタススープと、ゆうべ来のトマトと、無塩
野菜ジュースであさめし。ジョアンのパン、さいごになって、なぜ人気(たぶんオナ
ゴどもの)なのか初めて判った気がした。ぜんぜん甘くはないが、要は菓子っぽいの
だ。英国のたっぷりとしたバターとミルクを入れた、小麦粉を焼いて出来た菓子の極
致のようなのが、まったく甘くなかったりするそれとおんなじだ。オナゴは言ふだら
う。ぜんぜん甘くないのよ。でもおらあ厭だ。まずくもないが、なんとなく、オトコ
としてゆるせない。

昼。
蕎麦「味楽」で親子丼。ここの親子丼に使用されている鶏肉は歯ごたえがあって非常
に旨いのだが、量が少ない。それがむしろタンパクの少量を以てよしとする、わがカ
ラダ事情にかなう好メニューになるというのも思えば皮肉なことだが、またひるが
えってありがたい。

夜。
黄色のパプリカをグリルして、炭化した部分をとり、オリーブ油、ドライバジルをか
けて前菜とする。甘い。
イタリアントマト、レストランのチェーン店の名前ではなくて、こぶりの紡錘形をし
た肉厚なトマト、とアスパラガスとベーコンでソースを作り、スパゲティーニを和え
る。ホールトマト、いらないかも。
これらで一番搾り。
シコイワシが鮮魚「魚徳」に出ていたので、家でミンチにし、半量は冷凍に、あとの
半量に香辛料、新玉ねぎの微塵、オリーブの実の刻んだやつとエクストラバージン、
卵黄を入れてかき混ぜ、菊正のアテにする。卵黄は余計だったかも。でも、菊正の甘
さが尋常ではなく澄んだ感じになったので、また、少しでも食い物に問題の気配があ
ればぜったいに手を出さない女房が、すいすいとつまんでいたので、ヨかったのでは
なからうか、と。


夏あらし百足のごとく海上る
 龍泉寺藪払い
人入つて夏草を断つちしほ哉
遠回りやめて狭くなる町の夏  解


*狭く、はセクとあるべし。



2008年05月21日
01:22 食日記92


朝。
昨日買っておいたパン・ド・ミーの生パン2枚にレタスを挟み、マヨネーズをくるく
ると絞り、ハムを挟んで半分にカットしたやつと、優秀混濁林檎ジュースであさめ
し。いつもとちょっと違うのは愚妻といっしょのあさめしだったから。

昼。
今日は休みの女房と、金沢文庫に曼荼羅展を見に行く。ここの展示品がぜんぶ横浜や
鎌倉のものであるということに、いわば「東京」「京都」「奈良」にばかり向いてい
た目にとっての驚きを感じる。まあ、それよりも、ここ金沢文庫駅前でとったひるめ
しについてである。ここの、「みなみ」という刷りの入ったのれんの中華料理屋で、
私は「特製ラーメン」、女房は「ルースーやきそば」を頼んだのが、これがよかっ
た。前者は麻婆茄子炒めを麺にのっけたもの、後者は昔の匂いのする胡椒風味の塩炒
め麺。いま普通の町の普通の料理屋の味がかくも破壊されていることを、この質実な
料理はかえって鋭く反照させている気がした。
たままんどの。軒先三寸借りましたぜ。


夜。
横浜西口、じゃないかルミネは。そこの上階のベトナム料理屋でめし。生春巻き、海
老トースト(これは薩摩揚げのごたる)、季節野菜のサラダ(ドレッシングの具合が
よく、野菜自体が昔の「サラダ」と比べ、信じられないくらい旨くなっている)、そ
れに海老とそら豆と薩摩芋スティックのかきあげ。おおかたこれでお腹いっぱいに
なったのであるが、気がつけば混み合ってきた店内に、ざわざわといるのはオナゴど
もばっかり。あらかた埋まっている席に、愚生一人だけが男性であるというのも恐怖
である。
それはともあれ、ベトナム料理というのは豚の何とか焼き、とかいうのもあるようだ
が、たとえばフレンチや中華料理などに比べ、その淡きこと水のごとし。
いちおう食事を終え、食後酒までゆく。妻はネプカム、赤米焼酎で色赤黒く、ものす
ごく甘い(閉口、という感じ)。私はネプモイ、白米が原料で、ナッツの香りが鼻に
つくほど、でもほんの少し花のような匂いもする。これらを「えびせん」を肴にして
呑む。さいごは究極の泡盛、飲みよいお酒「どなん」である。杯を傾けつつ、見よ、
横浜の海側の全体が暮れなずんでゆく。


そして生麦、夜。


烈風に裂かれ薔薇香点綴ス
曼荼羅は夏あけぼのに見えたまふ
調伏も恥しき赤や夏の花
どなん染めば大和の夏も海の果て  解


*染めば、はシメバと、恥しき、はヤサシキと、読まるれば嬉しからまし。



2008年05月22日
01:48 食日記93


朝。
今日は病院。朝早い病院の日となると、時間がないので無塩野菜ジュースとオリーブ
3粒といった無養生を却ってすることになる。病院が終わってからそのことを女房に
白状すると、恐ろしいヘラのいかずちとも言うべき叱責が降りてくる。こっちのほう
がカラダに悪いわい。

昼。
昭和大学病院では2時間待ち、空腹を抱え、午後遅く、大井町の中華「永楽」によろ
よろと辿り着く。ここで言う「メン一丁」つまりワンタン麺で露命を繋がんとす。い
やにしょっぱい煮卵や「とろとろチャーシュー」なんてふざけたものははなっからな
い。滋味のすべてが四肢の末端までしみこんでゆくようだ。古くからの店ではあるに
はあるが、若いののメン堅めとか焼き葱多めとかのオプションを取り入れているのを
見て、なるほど、こういうのには逆らわないのだな、と勉強になった。

夜。
夜になる前、詩を一篇、書く。疲れているとむしろこういうことをやりたがる。おか
げで、ばんめしは何をつくっているのだか分からなくなる。ブルーチーズのソースの
パスタを失敗し、冷凍していたシコイワシのミンチを利用しようとしてドツボには
まった買い物と料理をし、けっきょくまともなのはいつもの冷トマトのみ、という惨
憺たる戦果。やはり疲れている日には無理をして何か料理すべきではない。無からは
何も生じないのだ。


どの丘も他界をかくし陰涼し
青空やかへりなむとて夏の舟
夏ごとに少年は往き還り来ず
三本の欅かげ濃き五月かな  解



2008年05月23日
01:45 食日記94


朝。
疲労困憊セグンド・モードで起床。体の節々が痛い。ゆうべ1篇の詩に集中しただけ
でだぜ? でもきわめてさわやかな気候なので、たちまち腹がへる。レタスとハムを
挟んだパン・ド・ミーのトーストと、レタススープ、農協混濁林檎ジュースで、あさ
めし満足。

昼。
今日も病院で、しかもいろいろへまをやらかし、ひるめしにありついたのが4時近
く。ひるめしは「ジョナサン」で、タイ風かきまぜごはんみたいなの。大変な混雑の
中で、うまくも、まずくもない。体に力を蓄えるためだけ。これから会社に行って納
品しなければならないのだ。

夜。
恒例の、会社−有楽町線−南北線−目黒線−東横線を伝って、わが懐かしの六角橋
「メリオール」へ。だけど女房と約束した時間までにはまだ間があるので、この町の
古本屋へ。と、柳田國男全集がまた揃ってあるではないか。口承文芸考、神樹篇、そ
れから石川和広さんのことを思い出し、ついでに蝸牛考の入った巻も買っておく。し
かし、3冊で1000円だぜ。柳田國男のDVDでも出たら、この3倍くらいの値で買うやつ
が出てくるのだとでも言うのかな。
それはともあれ、今夜のめしである。
ビールで乾杯のあとは、アボカドのディップ、サルサソース付き。思い切りさわやか
な宵に、古き良きカリブというか、そこで杯を傾けるパパ・ヘミングウェイなど偲ば
せる。
次は同じ南でも、アジアの南、タイ風海老の辛いバジルソース炒めである。ブロッコ
リーがついていたが、これがなんとも出自の分からない野菜みたく見えるから、チリ
の力は偉大だ。
さいごの、定番ジャジースパゲティーでもうお腹いっぱい。このパスタはなんのこと
はない、店がジャズを流しているので何となく「ジャジー」の名が冠されただけ。メ
リオールも、恐らくバーテンがどこかしら耳の底で覚えていたクレオール、みたいな
コトバから来ているのではないかと怪しむ。特に意味というのはないらしい。このパ
スタが、けっしてアルデンテでないところに、バーテンのこだわりが感じられる。
ビール1杯、ワイン1杯、それにゴードン・ジンのロックにライムを浮かべたもの1
杯。思い切り爽やかな夜なので、もうちょっと飲みたかったが。

ところで、昨日の昭和医大病院だが、自動支払機で支払ったところ、バーコードに
云々、お金をどこそこに入れて云々、というデジタル音声が続き、全部の操作が終
わったところで、オダイジニと言われた。これは、むかし読んだイギリスのジョーク
に似ている。もの皆全て機械化される中で、「乞食」という機械があって、小銭をそ
こに入れるとthank youと印字された紙が一枚、出てくるというものだ。


かく暑くかくもにほふかハバナ闇
 また中也を思ふ
万緑の中にホラホラ光る骨
 別
風五月貪るまでに海を見つ  解



2008年05月24日
00:58 食日記95


朝。
妻休み。完全なオフということで、きょうはあさめしも私の当番。野菜を刻み、中華
風スープをつくる。残っているパンの耳にあたるところ二枚をトーストし、レタスと
ハムを挟み、例の如くマヨネーズを絞って二つに切る。これを等分に分けてあさめし
とする。

昼。
中華「自由軒」で、タンメンと海老チャーハン。女房と二人なので、小皿小鉢のたぐ
いを頼んで、メンとチャーハンを等しく味わえるようにする。女房はこれで「夕食は
ビールのつまみ程度で良い」とのたまう。私もそう思う。腹がいっぱいで、その証拠
に、視覚的にも腹が出ている。ご冗談を?

夜。
そら豆と長ネギとひき肉の炒めもの、冷トマト、鮮魚「魚徳」で久しぶりの鯛刺身。
まず口開けの今宵のビールの旨さよ。
(むかし、名古屋でトラック配達の助手をしてその日々をやり過ごしていたことが
あったが、運ちゃんにも色々いて、名古屋の夏の暑さと言ったらないのだが、そんな
なか、昼の労働時間中は口やのどを爽やかにするもの、冷たい麦茶や自販機の清涼飲
料水一切を拒んで、ひたすら労役解放後の爆発的なビール享受にそなえる御仁のいた
ことなど、いたく印象的に記憶する。でもこれって、享楽的なのか禁欲的なのか、よ
くわからない。どちらにせよ、どこかで捩れた部分があったようだ。)
鮮魚「魚徳」で得た鯛は久しぶりに旨かった。故郷に帰ってきたようだ。ということ
は、「魚徳」と菊正と丘の階段と、生麦のそれやこれやがあるここが、迂生の故郷と
言うことか。とりあえずは、そうしておこう。


海風か否他界より夏の風
 丘の下なる鉄道より遥か聞こゆとて
転轍のとどろきを聴くさつき闇
 あす朝食のパンなきに
パンを得て妻ゐてかへる夏の草  解



2008年05月25日
02:24 食日記96


朝。
無塩野菜ジュース、レタススープ(きょう、これには少し胡椒)、それにベーカリー
「ビオレ」特製上食パンの生にロースハムを挟んでマヨネーズを絞る。

昼。
誘われていた研究会の会合に行くのだが、めしの時間(厳密には薬の時間)が恐らく
その途中でやって来るので、無礼を顧みず、会議のさなかで食す。サンマルクカフェ
というところの、なんとも形容しがたいタマゴサンドである。これは、ちょうど駅で
待ち合わせてくれた阿部嘉昭氏に教えてもらったのだ。

夜。
なんたらいう、チェーン店の居酒屋にみんなして入る。とりあえずビール。というの
が多数だが、ビールがイヤだとか、ビールは頼むが同時に別の酒もとか、いろいろや
かましい。たままんが大奮闘。次から次と、ヤケみたいに食い物を頼む。私は腹が
へっていて、どうかして食べるものは食べておこうというハラだったのが、この会で
はそういうことははなっからの前提であったようだ。練り物を少し、枝豆を少し、や
きとんを少し、という具合に酒の合間に食い物は点綴しながら漂い寄ってくる。席上
の廿楽氏とは小声で話し、阿部氏とは中声の騒ぎ声で話し、高原氏とは大声で深奥を
示し合ったと、これは私の私感。森川さんとも初めてお会いしたが、彼の書くこと
や、言ってまとめたことよりも、彼が縷々語っていたその詩的出自のほうに私は惹か
れた。
でも、ここで飲んだ白鶴は旨くなかったなあ。うちに帰ってきて、まあ、猫と女房は
不機嫌だったのだが、口直しで飲んだ菊正・燗の旨さよ。高原さんは、最近の人間は
知覚の衰えがあると言っていたけれど、ご自身はその白鶴を飲んで、けっこうハカが
いってたようですよ。かく言う愚生も無論。


けむり吐いて見上げる虚や走り梅雨
宇宙語をひとつ言へばや燕子花
 京急線にて廿楽順治とこもごも話せるに
河越ゆる男同士でさみだれて  解


*虚はソラと読まれたらんには嬉しからまし。吾は莨を嗜まざれば、一句は他人によ
そへて詠みいでたるもの也。



2008年05月26日
01:16 食日記97


朝。
二日酔い。頭が痛いとか吐きそうとかいうのではなく、胃の入口がぴったりとふさ
がっている感じ。女房が作りおいてくれたレタススープのみであさめしとする。天気
が悪い日はてきめんに調子がすぐれない。

昼。
あさめしのあと、なにをするでもなく時間をやり過ごすうち、猛烈な眠気に見舞われ
る。ほんの1時間と思ったのが、目覚めてみれば《うたて此世はをぐらきを》(松岡
=柳田國男)の夕暮れである。

すぐ頭の中で計算する。これからいつものように生麦の町に出てめしを食って買い物
をする、ということは不可能である。めしはともあれ食わねばならぬ。そこで、いつ
ものあさめしのパターンで、上食パンをトーストし、ハムを挟んで農協混濁林檎
ジュースで食する。これで力をつけておき、女房にメール。ごめん、ゆるしてちょう
だい、今夜はうちで夕食を作れないので、悪いけど外食にしよう。「未定」研究会と
て、きのうも彼女は外食だったのであり、とにもかくにも、ばんめし当番は愚生であ
るのだ。

夜。
ということで、生麦「ひらやま亭」にて。おつまみカニクリームコロッケ、ラタトゥ
イユ、ビンチョウとサーモンのカルパッチョ、アスパラとトマトのバルサミコ・ド
レッシングのサラダ、あとはペペロンチーノのサラダ風。前半生ビール、後半赤ワイ
ン。これらを摂取して息を吹き返す。
でもね。昨日の居酒屋の酒は非道かった。頼むとすぐさま出てきた生ビールはまぎれ
もなく発泡酒にほかならなかったし、日本酒は白鶴とあったが、舌に乗せるとぴりり
とくる感じは、どこかしらで米とは無縁のものの少なからぬ混入の印象がある。で、
あのやきとんは何だ! ガムみたいなカシラって初めてお目にかかった。あ、たまま
んのこと、責めているわけじゃないヨ。のこのこと出掛けた私が悪かったわけだか
ら、ね。


草光る水無月祓へ近づきて
 生麦の町へ降りるとて
すひかづら王妃の夜着の如くかをる
妻は寝てひとり吹かるる夏の窓


*寝て、はイネテと読まれてあれかし。



2008年05月27日
01:14 食日記98


朝。
電話で起こされる。かたじけなくも御仕事を下賜いただけるとのこと。取りに行くの
は明日だが。これで眠気が醒め、同時に五月の素晴らしい天気の日であると認識す
る。こういう日は、却って肉的なものは要らない。レタススープと上食パンの「素
トースト」と無塩野菜ジュースの食事に、何か自分に制限を課しているという意識が
感じられない。

昼。
昨日のうちに届いていた詩集の再校ゲラに目を通し、赤字、といっても誤植ではなく
変更箇所だが、それを口頭で印刷所に伝えて責了とする。3週間ほどで出来上がりと
のこと。愚生の詩集としては久しぶりに100頁を超えるものになった。出版社という
ことの、あらゆる丸Cはつかないけどね。
それからここ半年ほどつづけていた、歌仙が満尾を迎え、そのめでたい捌き文を書
く。連衆は、捌き手の愚生以外はすべてなんらかの俳句か短歌の結社に入っておられ
る方で、なかでも某カルチャースクールのセンセイの付け句が手強かったのだが、な
んとか宥めて今日に至る。それにつけても全て愚生には先輩にあたる方々だが、形容
としてそこに「人生の」とも付くところが恐ろしい。
さて、そうこうするうちにひるめし。なにやかにややっていたので、腹はへっていた
が、実際に生麦の町に出掛けるのはまた4時に近くなってから。きょうは、蕎麦「味
楽」で冷たい蕎麦と海老天、とろろめしのセット。これを食したあとで、体の具合が
よろしくなかったことは、まずない。

夜。
きのうの「ひらやま亭」でのペペロンチーノに満足が行かなかったので、きょう、今
夜、パスタにしようと思う。それと、良いトマトがあったので、それをエクストラ
バージンオイルでマリネしたサラダにして、あとは鮮魚「魚徳」社長の推奨鯛刺身、
という、思い切りシンプルな献立にする。したところが、結果はよいのでこういう方
向でこれからもやってみたいと思う。


羽虫ひとついでて涅槃か夏の藪
すひかづら匂ひ妄りやしをるれば
五月尽人水晶の中にをる
生麦の夏は護摩札河岸の店  解



2008年05月28日
01:57 食日記99


朝。
きょうも素晴らしい晴天。パン・ド・ミーの生にレタスとハムを挟んで、レタススー
プと生協混濁林檎ジュースであさめし。

昼。
仕事を取りに行かなくてはならないので、あんまり家でぐずぐずしていられない。郵
便局へ行き、銀行へ行き、コンビニでメール便を1つ出してから電車に乗る。有楽町
に着いたところでちょうど腹がへったので、駅前のスタンドカレー「C&C」で、
ポークカレーを他のネクタイを締めた小父さん連に交じって食す。駅蕎麦もそうだ
が、こういうところは嫌いではない。またこの店はそんなに凝ったモノを作るわけで
は絶対にないが、何か味に工夫があるらしく、どこか癖になるところが侮れないの
だ。
この店を出てすぐ、地下鉄の入口の付近に、おお、久しぶり、腕時計を並べた台を出
して一生懸命商売をしているおじさんたちがいる。「客」の中にはいつものおばさん
がいて、いつもの熱演を見せている。いつかのtabのあとがきにも書いたが、少し
払ってもいいから、その口舌のありようを傍から一寸見学させてもらいたいものだ。

夜。
仕事を受け取り、長駆湘南新宿ラインで池袋から横浜まで。女房と待ち合わせはルミ
ネの上階で。気がつくと因果なことにまた腹がへっている。彼女が来たことがあると
いう「おばんざい」の店で晩酌とばんめしにする。突き出しは寄せ豆腐にくずあんの
掛かったの。それから新じゃが唐揚げ。筍のしょうゆ焼き。鰹たたき。鶏つくね焼
き。アスパラごま和え。にぎりめし(丸干しと紫蘇梅)。これらをさいしょはビール
で(サントリー生ビール、これうちの好み)、あとは富乃宝山のストレート(花の香
りがする)、岩国の酒・獺祭正2合でヤる。こう書くとものすごい量みたく見えるだ
ろうが、実際一つ一つの分量はいわば箱庭の植栽やベンチ程度である。ただし味はみ
んな佳い。酒もうまい。でもね。入ってすぐ目に入る手前のカウンター席は、真横か
らの視角なのだがずらっと若い女ばかりが十四、五人も箸と口を動かしていて、それ
はちょうど愚生若年の折、東京下町で昼時に入った蕎麦屋でスーツ姿のオヤジや若い
のがおんなじ顔をして全くおんなじ手つきでざる蕎麦を一斉にすすり上げていた光景
の、ちょうど反転した画像のようにも映って気持ち悪いのだ。


をみならは類にかへらむ夏日哉
 池袋より横浜を指せるに
夏の日の西日あくまでうつろなる 
この先に海ある夏を相模とす  解



2008年05月29日
02:06 食日記100


朝。
パン・ド・ミーの焼いたの、レタススープ、無塩野菜ジュース。それから仕事。

昼。
仕事をいちおう終え、時計を見ると4時を過ぎている。今日が水曜日ということに気
づき、蕎麦「味楽」は休み、中華「自由軒」は5時からとて、足を延ばし、大黒町信
号近くのとんこつラーメン「大黒屋」でラーメン。麺堅め味薄めでおねがいする。そ
して殆ど貪るように食す。因果なことである。

夜。
昼間、上沼恵美子の料理番組でグリーンピースの洋風煮物、みたいのをやっていて、
旨そうなのと調理が簡単そうなので、これを1皿つくってみる。それと、先日買って
おいたそら豆とひき肉があるので、これでも1皿。つごう2皿の豆料理を卓に載せる。
あらかじめ、腎疾患にどういう影響があるのか、調べた上でである。どうも、獣肉以
外の植物性のものからタンパクをはじめ栄養を摂ることはよろしきことらしい。
これと完熟トマトのエクストラバージンオイル掛け、一番搾りに菊正・燗。


 原町神明社にて
新緑の辛夷の隠す神のかほ
 六月第一日曜日は生麦じゃもかも祭
じやもかもの来れば身ゆるぐ夏の霊
じやもかもの茅萱乾したり星の庭
 別
態とでもとんこつ食はぬ五月尽  解



2008年05月30日
01:21 食日記101


朝。
きのうのグリーンピースの煮物の残りでパン・ド・ミーのトーストと生協混濁林檎
ジュースのあさめし。豆の煮物はベーコン、玉ねぎ、ブイヨンとバターをたっぷり使
用しているので、温めたら、女房に言わせると「すごくいい匂いがした」らしい。こ
のこと余人はどうか知らねども。

昼。
クリーニング屋から大変な思いをして雨のなか、女房と二人、冬物春物の大量の服を
家まで運ぶ。なんと素晴らしく散文的な行為!
そのあと、ひるめしをどうするかということで、もう雨のなか、町に再び降りてゆく
のは堪忍ゆゑ、私が例によってインチキ中華麺をつくる。冷蔵庫には殆ど何もないと
いってよいなか、冷凍庫にシマダヤの中華麺があるのをいいことに、新玉ねぎ、ロー
スハム4枚、卵、ピーマンを使い、あとは豆板醤や鶏ガラスープ、酒、米酢、醤油、
等で見よう見まねの酸辣湯麺をでっちあげる。春ピーマンは繊切りにして完成直前の
スープのなかに放り込む。香りが大事と思うから。わりとヨかったが、さりとて、余
人はどうか知らねども。

夜。
茄子とピーマンを細かく切って、鶏モモのひき肉と炒め合わせ、味噌、酒、カタクリ
の溶き水でまとめた餡をつくり、他方、うどん玉を茹でて冷水で締め、ゆで汁の熱い
ところに少しつけたやつに餡を掛けて、まぜこぜにして食す。
きょうは鮮魚「魚徳」が連休とて、代わりに精進みたいなことになる。即ち厚揚げを
焼き、生姜すり下ろしと分葱の刻んだのたっぷり。これらに冷トマト、エクストラ
バージン掛け。
前半、殆ど夢中でパクついていたので、味噌餡の塩気がじわじわと効いてきた食事後
半からにわかに一番搾りが鋭くも旨くなってきた。それからあとの菊正・燗は、ゆる
ゆると過ぎる夜の時間のバッソ・コンティヌオ(通奏低音)のごときもので、いわば
空気だ。


 酔余四句
いちどきに降つては休み梅雨山河
つゆ冷えの唐津より酌む酒甘露
火襷の徳利一期の夏と見ん
焼酎や滴一滴と夜は酣けぬ  解



2008年05月31日
00:39 食日記102


朝。
発芽玄米食パンのトースト、レタススープ、生協混濁林檎ジュースで無肉あさめし。

昼。
仕事を中途までやり、時間が来たので、ひるめしと夕食の買い物のため、雨もよいの
なかを生麦に下りる。
蕎麦「味楽」でカレーライスセット。温かい蕎麦とカレーライス。店のテレビでは水
戸黄門。見るたび、黄門様を違う俳優がやっている。きょうは誰だか、比較的最近の
ものだが、駈け込み寺に駈け込む女人が多いから農事が手につかず、困っているとい
う農夫はどこから見ても服装からしても町人の、裕福そうな商人風である。思うに、
最近になればなるほど、時代考証がめちゃくちゃになる傾向がある。「昭和」の連中
が第一線から引っ込んでしまったからであろうか。それともリアリティそのものが、
私などの考えている前提と大きくずれ始めて、単なる世代や加齢の問題に帰せられる
のか。

晩飯の材料を求めるためにスーパーマーケットのほうへ行く、その道の途中にふと見
ると、シャッターを閉めたパチスロ屋の前に座り込み、カップ麺の残骸を広げ、今ど
き珍しいビールの大瓶をラッパ飲みしている三十前後の男がいた。一瞬その目を見
て、普通ではない雰囲気を感じる。精神病理学的に、ではない。襤褸をまとって胡座
をかいてしかも若いと言っていい男の、存在自体の毀れが放つ物凄さ、のようなも
の。その向こうには海のある、何か平たいところから、われわれの住む丘陵と谷のあ
る住宅地のほうへ、圧倒的に押し寄せようとしているもの。

夜。
納豆と長ネギをうどん粉でこね、油を多めに引いたフライパンで焼く。これを熱いう
ち、白だしを混ぜた酢醤油をつけて、ビールと。あとはあんかけ風野菜炒め。
菊正・燗は、久しぶりの鮮魚「魚徳」のお奨め鯛でやる。NHKの赤塚不二夫の番組
を見ながら。なかで、しりあがり寿の「あのころはみんな平等に差別してたよね」と
いうのが特に面白く、共感した。


 不図遊び心出できたれば
梅雨寒の街の電飾スパークす
電飾のスパーク映ず水無月の
スパークは水無月鳥の垂り尾の
 別
樹の櫂や無き水しぶく夏の空  解



2008年06月01日
02:17 食日記103


朝。
悪夢によって覚醒。首を振りながら水を飲む。発芽玄米食パンの焼いたの、これは歯
ごたえがあって香ばしい。レタススープ、質素な妹の如き存在。優秀混濁林檎ジュー
ス、やっと再会を果たした薫り高い恋人。てなぐあいで無肉のあさめしを愉しむ。

昼。
やたら江戸城の奥の方の大廊下で、ばったばったと人を斬り殺したりされたりするよ
うな作物を一挙に素読み。このひと、下手だなあ、ということはさておいて、眉根を
寄せて文章やプロットや明らかな誤植に対して疑問を出し続ける作業に没頭する。こ
れでおまんまを食っているのだ。なんにつけ、なりわいというのは、言い換えれば専
門を持つということは、大切なことだと思う。
で、いちじるしく脳内ブドウ糖が不足してきたので、生麦の街に下り、中華「自由
軒」へ。きょうは非道く寒く、かつ空腹でもあるので、サンマー麺とギョーザも一皿
頼んでしまう。ナニ、ばんめしを減らせばよいだけのことさ。

夜。
昨日の野菜をダメにしてはならないのと、量的に少ないばんめしということで、えび
やきそば、というものをつくる。海老はインドネシア産の名もない、というのもナン
だが、そういう海老で、処理は女房に頼む。愚生でも出来るのに、ぶつぶつ。
それと、優秀桃太郎トマトが最近は100円という値なのでいつもつくる冷トマト。エ
クストラオリーブオイルを混ぜるのを、このところ女房に任せていたら、きのうたま
たま私が混ぜたとて、そんなんじゃあダメだなとか生意気なことをぬかしやがる。ぶ
つぶつ。
とまれこれらで一番搾り。今夜は寒いのに、ビールがやけに旨い。雨上がりなので空
気が乾燥しているということもなかろうに。

菊正・燗のアテはちゃんとある。鮮魚「魚徳」が仕入れてきて目玉にしたいと考えて
いたと思しきシマアジだ。午後遅く行ったのでまぐろぶつぐらいあればよいと思って
いたところが、これが三つ四つ売れ残っていた。だいぶ引いてもらって食膳に載せ、
わが家においてその一つが消滅した。


ぐい呑みにぐらりと見ゆる星の場
締込みの祓へなくあはれ祭かな
皮つきの鰹あぶるも昔哉  解


*場はニハとあるべし。



2008年06月02日
01:30 食日記104


朝。
生クリーム食パンの生パンにレタスとハムを挟みマヨネーズを絞る。レタススープに
胡椒を多めに振る。無塩野菜ジュース。というラインナップであさめし。

昼。
ちょっとめしには早いが、土地の祭「じゃもかも祭」を見ておこうということで、生
麦の町に下りる。例年通りに行われていると言いたいが、青少年の姿がなく(もとも
とはこの祭、イニシエーションの気配あり)、小さな子供と中高年の大人の組み合わ
せである。なにか気の充実といったものからは無縁の、一種のよそ心がついてしまっ
ている。来年からはどうなのか。
それにしてもあまりにも暑いので、それほど空腹ではなかったが、蕎麦「味楽」に
入ってエアコンにあたり、つけとろ蕎麦をたぐるうち、気分が直ってくる。

夜。
パプリカのグリル。茄子ミートスパゲッティ。新玉ねぎをたくさん入れたので、パス
タのソースの甘いことといったら。腹いっぱい食ってしまう。これらで一番搾り。
きょう、鮮魚「魚徳」には平目があったので切ってもらう。でかい縁側が取れる。身
は薄造り。これで菊正・燗。若いもんが包丁を遣ったのだが、まあ合格。以前、彼の
包丁がひどく雑だったので、こんなもんではお金は取れないよ、と言ったことがある
のだ。あれから練習したのだろう。結構ちゃんとしたやつだな。


六月の大踏切といふ他界
だんだらの皐月躑躅は絵金かな
 じやもかも祭は生麦の家にては柏餅を製してこれを食ふを愉しびとす
柏餅ひとり神職これを忌む
じやもかもの去つて斑ある夏の庭  解



2008年06月03日
01:32 食日記105


朝。
非常に早く目が覚めてしまってもう眠れない。と言っても女房の出勤時間に立ち会う
だけのぼーっとしたもので、あさめしも食わず、また寝てしまう。その夢の中で、も
のすごく腹がへって地面がぐらぐらするほどで、やっとカレーライスにありつくのだ
が、それが肉やら貝やら動物性タンパク質にあふれているのでどうしたものやら、と
いうのを体験した。なかで、「東京に出てきて一緒に話した窪ワタルさん」という」
明瞭な存在が出てきて、目覚めてみてしばし感慨。
それから、発芽玄米パンのトーストとレタススープ、優秀混濁林檎ジュースであらた
めてめしを食ったのは、もう午後1時を過ぎていた。

昼。
なにやかや、しているうちに、きょうは仕事を戻す日ではないが、戻すのを1日早め
たいので、鶴見にまず出る。少し小腹の減りを感じて、心躍ることに駅蕎麦をたぐる
ことにする。鶴見駅のホーム上のスタンド蕎麦だ。大盛りに出来ますが、と言うのを
すぐさま断って、出されたかきあげ蕎麦の匂いに、断ったのを直ちに後悔するが男に
二言はないのだ。でも、旨かったなあ。

夜。
仕事を戻し、六角橋へ。ほんまる亭で女房と待ち合わせだが、少し時間があるのでこ
の町の古本屋へ寄る。と、改めて気づいたが、東洋文庫が可成り揃っているではない
か。もすこしゲンナマをのんでいたら、一寸したそろいの五、六冊など、ぜったいに
買っていたことと思う。
ほんまる亭ではいつもどおり。名代コロッケ、まぐろ赤身、ぎんだら焼き、それに2
品つく突き出しは侮れない味と量であることを付け加えておく。あ、そうそう。私は
アサヒドライ瓶ビール(これあんまり、好きでない)、遅れて来た女房はたぶんアサ
ヒ生ビール。あとは名酒「金陵」の大徳利3本。
勘定を済ませて外に出ると大雨である。


竜の四肢しきりに流れ梅雨に入る
鬱ひとつ晴らしてふかき夏の夜雨
八月の小島のごとき傷を欲る  解



2008年06月04日
01:23 食日記106


朝。
きょう、女房は休み。生クリーム食パンのトースト、レタススープ、無塩野菜ジュー
スと、女房にはそのほかに目玉焼きがつく。こんなとき、無肉という私のあさめし
に、少し心の疼きを覚える。

昼。
3時過ぎまで仕事。気がつくと脳がブドウ糖を欲求しているのが分かる。雨のなか、
二人して生麦に下りる。蕎麦「味楽」へ。彼女はカツ丼、私は舞妓丼とかけそばの
セット。頼み込んでカツ丼のカツを一切れ、舞妓丼の小海老の天ぷらと交換してもら
う。実に久しぶりの、遠い、遥かな、トンカツの香りと味わい。

夜。
二人が完全なオフということは珍しいので、ばんめしは下拵えに一寸手の掛かる
ギョーザを製することにする。韮を刻み、キャベツを刻み(白菜が時季ではなく当然
に高かったので)、生姜を刻み、ひき肉と塩胡椒、醤油少々、ごま油少し、紹興酒な
どを入れて、手でテッテ的に捏ね回し込む。ギョーザの皮は大判20枚2袋は多いと
思ったが、ぜんぶ使って包み上げてしまう。肉は控えめで野菜の比率を多くした
ギョーザの完成である。焼きギョーザと水ギョーザを半々に作る。これで一番搾り。
ギョーザのあとは苦しかったが、なんとか鮮魚「魚徳」のお奨めアオヤギをつまんで
菊正・燗に至ることが出来る。生きているやつをこじ開けて取ったアオヤギだそう
で、ものすごく甘い。新鮮な貝とはこんな、完熟した果物みたいに甘いものだったの
か。高級寿司店の寿司ダネみたいだが、1パック380円以上のものではないのだ。


桑の実の深き甘さを口に受く
小夜更けて夏の嵐も殿に
どくだみの咲きて濡れたる雨青し  解


*殿はシンガリとあるべし。



2008年06月05日
01:28 食日記107


朝。
パン・ド・ミーの新しいのがあったので、焼かずにハムを挟み、ハムサンドとする誘
惑にどうしても打ち克つことができなかった。明日は採血だというのに、いかんな
あ。それほどこのパンは、焼きたてのうちは柔らかくて旨いのだ。あとは、最近胡椒
を利かせ始めているレタススープと、優秀混濁林檎ジュース。罪悪感にかすかに痛み
つつも、幸せなあさめしと云っつべきや。

昼。
きょう、水曜日ということを失念して生麦に出、蕎麦「味楽」休業日といういきなり
の事態に見舞われる。家を出たのが4時近くだから、中華「自由軒」が開く5時まで
にはまだだいぶ間がある。思い切ってここは大黒町入口信号近くのとんこつラーメン
「大黒屋」へ。麺堅め味薄めはいつものとおり。具の大半を食い終えた後半は、どん
ぶりに豆板醤を投入して2色の味を味わうというのがいつものやり方である。私の場
合、これにライスを加えるようになると、とんこつならぬ「とん」になる。

夜。
茄子とピーマンと鶏ひき肉の味噌炒め。こう書くとなんでもないが、じつはスーパー
マーケットでピーマンの安売りを見たとき、鼻腔の奥にたちのぼる夏野菜独特の匂い
を感じて、家の冷蔵庫に残っていた茄子と一緒に細切りにして食いたいという欲求
が、烈しく鬱然と勃興してきたのだ。あの金気臭い感じを欲しがるというのは、カラ
ダの欲求にほかなるまい。
それとトマト味のペンネのパスタ。でもこれ、ちょっとゆで加減がまずかったかも知
れない。瑕疵、というほどでもないが、むつかしいところだ。これらで一番搾り、且
つ菊正・燗。きょうは鮮魚「魚徳」は、はやばやとモノを売り切ってしまったので、
行ったときにはもうショーケースやらなにやら、店ごと洗っていたのだ。


あぢさゐの気がつけば青惨酷に
雨来れば樹々こそ夏の声と知る
六月のわれたる空の金の蜜  解



2008年06月06日
03:02 食日記108


朝。
きょうは病院で採血ということで、ちょっと気にはなったが、生クリーム食パンの焼
いたのに、ゆうべの残りの茄子・ピーマン炒め鶏ひき肉入り、それと無塩野菜ジュー
スの取り合わせ。

昼。
「ジョナサン」にてポークキーマカレーという食い物。空腹なので旨い。
血液の数値おおむねはよろし。けさ、思い切り寝覚めがよかった、ということもそれ
に少しは関係しているのかも知れぬ。この病院は、呼吸器内・外科と、メンタルヘル
スが同じ待合室で、私も眠剤の都合で「あっち」へ行ったり「こっち」へ来たりした
が、きょう隣り合わせた母子は、せがれのほうが鉄道オタクのようで、時折鉄道車掌
的な奇声を発し、母親がそのたびに「quiet」という意味のことを彼に烈しく囁いて
いたりしたけれど、そのうち、彼女がなぜか息子の「あそび」に調子を合わせるよう
になってから、あたりに散らす・実感される彼の雰囲気が目立って柔らかいものに
なっていった一部始終を、私は見た。

夜。
布村浩一と飲む。彼がこのごろの国立の町は知らない、あんまり飲まない、というの
で、彼の地元だが、彼の仕事が引けて会う前に、この町の呑み処を下調べする。する
と、非道く気取っているようでいて、実は中央線沿線独特の素人くささ田舎くささ
と、新興のチェーン店的居酒屋の駅前的展開と、前2者よりもさらに古層に属すると
思われる、重厚な営業を継続してきた数少ない、本来的に固有の独立店舗に3分され
るという印象を持った。
最後の例でいえば、これは福間健二氏もかつて常連であった、もつ焼き「まっちゃ
ん」。ここのもつ焼きは無類としかいいようがない。煮込みは原点的存在だし、ビー
ルを終え、やおらそこの「一級酒・燗」を口に含むと遥かに硬質な香り高さが感じら
れる。この燗酒の香り高さは合わせたモツが新鮮でないと絶対に生じない。
かくもタンパクを感じた夜など最近にはないのであるが、まあ、いつもはこうして呑
むこともない布村浩一とのことだから、明日からは自らを能く律すればよい。といっ
て、明日は六角橋で飲み会なんだけどね。


いつ来ても夏国立はおぼつかな
女生徒のひかがみほどの針槐
 国立まっちゃんのカウンターに凭れつつ
雨の来て去る一合や夏光る



2008年06月06日
23:53 食日記109


朝。
パン・ド・ミーにレタスとハムとマヨネーズでハムサンド。それに優秀混濁林檎
ジュースであさめし。

昼。
「フレッシュネスバーガー」でチキンバーガー。女房はカフェラテで、私のは生オレ
ンジジュース。

夜。
六角橋「ほんまる亭」で、坂井信夫長老と日野研一郎医師とわたくし共で宴会。ひと
月ぐらいごとに会っているのだが、なぜか会うといつも久闊を叙すが如き感じにな
る。ひとしきり呑んだあと、河岸を「メリオール」に変えてさらに呑むに、酒を日本
酒からゴードンジンのロック・ライム切れ端浮かべにうつして都合2杯、店の中を初
夏の風が吹き渡り、夜の奥が匂うようないい感じになってくる。愚生の新詩集のこと
などにも微妙に話は及び、そこで今夜の会はおひらきとなって、バス通りから、それ
ぞれの闇へ。


はつなつの海を鎖したる埋立地
たちあふひ水なくしては佇つを得ず
なほ見たし三浦の夏の白波を  解


*鎖し、は、サシ、なるべし。



2008年06月08日
01:37 食日記110


朝。
さすがに2日つづけての飲み会はこたえる。二日酔い風。昼まで寝てしまう。慚愧。
あさめしは遅く、1時半ころ。レタススープ。だけというわけにもゆかぬので、生ク
リーム食パンの残り1枚のトーストと、無塩野菜ジュース。

昼。
無為のうちに過ごす。又慚愧。めしに出る気力が湧かないのは、とりもなおさずめし
を食っていないからだ。そう思い、思い切って簡易なめしを考えて芸のないことだが
昨日に引き続き「フレッシュネスバーガー」へ。チリビーンズドッグとオレンジ
ジュース。ジュースはミックスジュースと言ったはずなのだが、なぜだかオレンジ
ジュースが来てしまい、あれまとおもったが、ミックスより20円がほど安いのと、
気力の湧かないよそ心のうちにまあいいやということに。いつかみんな、どうせ死ん
じまうのだ。ホットドッグを腹に入れると、かけちがって元気が出て、世界観までか
わっちまうのが可笑しい。生麦には出ないが、魚屋と生協を回って何かこしらえよう
という気になるから不思議だ。

夜。
女房残業。ばんめしは10時を過ぎる。猫にいつものささみを茹でてやり、茄子と帆
立の中華風辛子煮、アスパラ・いんげん・ベーコンのパスタ、冷トマト・エクストラ
バージンオイルかけ、それに鮮魚「魚徳」で仕入れたまぐろぶつの分葱入りヅケと、
けっこう腕をふるってしまった。昼下がりの私は死にそうだったのに。
例により、パスタは一番搾り、辛子煮(これ、かなりうまくいった)とトマトは一番
搾りと菊正・燗で、まぐろヅケは菊正・燗という具合にグラデーションを変えながら
飲み且つ食い続ける。パスタとヅケのほかは深い甘さがあったが、前にも書いたが、
それが酒の味にちっとも抵触しない。こう書いて気づく。われわれの文明はついに白
砂糖のような領域に入ってしまったものの如きであるか。


痛き光縫ひたるごとく夏の闇
樹の匂ふ夏は来にけり丘の午後
夏の花は斯くかぐはしき夜の庭  解



2008年06月09日
01:04 食日記111


朝。
猫に手を置き、11時くらいまで寝て起きる。昨日までとは違い、バリバリだぜ。上
食パンの生パンにレタスとハムを挟み、レタススープに胡椒を多めのと、生協混濁林
檎ジュースであさめし。

昼。
バリバリの余勢を駆って仕事に突入。こないだ、やけに見落としが多いのだがあなた
カラダの調子でもおかしいんではなかったの、と言われて落ち込んで、しばらく手に
つかなかったやつだ。バリバリにやって100頁ほど。1回目の素読みの時に気づか
なかった赤字がちらほらあるのは、私の注意力という点において喜ぶべきか悲しむべ
きか。
それからなにやら秋葉原のほうでとんでもないことが起こっているとの情報に接す
る。あとからいろいろ情報が集まってきたが、単なる単独の狂気の振る舞いではある
まい。もっと社会の根太が構造的に腐ってきたということだと判断する。もはや恐怖
の力(フォース)によってさえ、社会を律することが出来ないところまで来てしまっ
たのだ。
昼から2時間ほどゲラに集中していたら、悲しいまでに腹がへってきた。きょうは日
曜なので3時半からの中休みのない中華「自由軒」で、海老チャーハン。海老には豚
に負けないくらい、広州人の執着があるのではないか。

夜。
バリバリではなく、昼の中華の余勢を駆って、夜のメニューも中華。
昨日の茄子の残り2本を細切りにして、ニンニクで香りをつけた油で炒め、小海老の
乾したのを投入、鶏ガラスープの素と紹興酒、塩胡椒で炒め合わせて1品。さいごに
インゲンの茹でたのを付け合わせ。
ショウガで香りをつけた油で低温気味にメークインの細切りを炒め、ひき肉、長ネギ
1本分の細切り、そら豆の茹でたのを合わせ、酒と塩胡椒で仕上げる。2品。
上記で長々と一番搾り。
あとは、きのうのまぐろヅケと、きょう鮮魚「魚徳」ではなんにもお奨めがなかった
ので、ふと見咎めた鯛の卵(小100円)を醤油と酒で煮たやつで、菊正・燗をや
る。


卯の花や潔斎の白門々に
卯の花の憂き言の葉と実朝が
くだものをむさぼる夏の夜は美し
有無もなく売つてしまへと初鰹  解


*美しはハシとあるべし。



2008年06月10日
01:15 食日記112


朝。
昼ごろ、這々の体で起きだす。猫も一緒に起きる。明白な二日酔い。ゆうべ、菊正が
尽きたあと、飲む酒がないのでいつも料理に使っている酒をちびちびやったせいだ。
料理に使うような酒は飲む酒ではないのだということが心にしみた。だけど、同じよ
うなシチュエイションだったらまたやりそうな気もする。
無塩野菜ジュースとレタススープ、上食パンのトーストはぜんぶ食べることが出来な
かった。

昼。
夕方まで我が身に鞭打って仕事。これ、200頁ちょっとだってのにかなり油断でき
ず、言ってみればきついjobである。赤字とエンピツと入れて、証拠となるネットや
その他のデータをそろえてゲラに添付し、満艦飾となって一丁上がり。あとは二、三
日遊んで暮らせるわい。
外に出ると雨が降ったあとみたいで、わが家のある丘の上から階段で下に降りるま
で、盛んに立ち上る気がある。夕方にも拘わらず、極小の羽虫などが飛び交ってい
て、生き物の気配が満ちているけれど、逆にこういう気配の全くない、一切の生命体
の存在しない死の世界というものを考えてしまったりして、変に慄然とした感じにな
るのは、地球の未来というものに全幅の信頼を置けないせいか。
蕎麦「味楽」に入り、鰻丼ときしめんのセット。店に入る前まで蕎麦だけ頼んでおし
まいにしようかと考えたが、店まで来ると脳内ブドウ糖の急激な不足を感じてかく注
文してしまった、という訳合いだべさあ。ちょっとウナギのタレが甘かったげのう、
近藤くん。

夜。
昼の疲れがどっと来たにも拘わらず、フレッシュのトマト5個を処理して、ポモドー
ロのためのトマトソースを製するという暴挙に出る。これ、いちど味を知ってしまう
と、ホールトマトなんかでは到底満足できなくなってしまうのが困ったところだ。ま
あ、今がトマトの旬にさしかかっているというのもあるだろう。
あとはアスパラを茹でてエクストラバージン油を掛け、粗挽きのソーセージをグリル
して、東南アジア土産(女房のデジタルピアノの生徒さんに貰った)の、酸っぱくて
辛いチリの酢漬けを刻んで添える。
これらで一番搾り。
菊正・燗のためには、鮮魚「魚徳」推奨の鯛があったのだが、そしてそれは勿体ない
ほど旨いのだが、ここまででわれわれの胃袋は限界を迎えてしまっていて、少しを味
わったあと、ヅケにして明日以降のつまみものとする。こうすることで、幾許かの罪
悪感と、(これを食わねばならないという)甚大なる重圧感をまぬかれる。


あぢさゐや青き止観の花開かな
あぢさゐの雨去つてゆく青さ見ゆ
月桂樹ちぎりかをりの高き云ふ


*花開はクワカイと読まるれば嬉しからむ。



2008年06月11日
01:45 食日記113


朝。
好い気持ちで猫を片手に、昼まで寝ちまった。外からは燦々と太陽の光が降り注ぐ。
いっそ全面的に外出しちゃおうか、ということで、まず最近縁が出来た「フレッシュ
ネスバーガー」に行き、フィッシュバーガーとミックスジュース。慌てて出てきたの
でもないが、薬の錠剤の配合を、1錠だけだが間違える。

昼。
それから金沢文庫・称名寺へ出かける。先達ては裏から入って博物館だけを覗き、寺
の全体を見ることはできなかったが、きょうは根性を極めて行ったので、寺の丹塗り
の惣門から入ることを得る。参道は、最近の関東首都圏近隣には見られない、茶屋や
食べ物屋、喫茶店、何やかを売る店などが立ち並び、ちょっとした市を成していて、
前に行った四国の真言寺や京都・奈良の仏閣のなつかしい匂いがある。けれど、全体
の荒廃は隠しようもないが。仁王門を過ぎ、池のある「本陣」めいた庭園に行く。水
があるということ、池という思想、これは地面を他界へと繋ぐものだという感想を持
つ。非常に気持ちがなだらかになる、池のある、寺域の光景。
博物館で企画展の史料を見、ここが中世の寺というものの活きた実相を、まだ保って
伝え得ているのだということに改めて驚く。
それから金沢文庫駅に向かって丘を下る。西日に釜利谷の丘が霞んで見える。だがメ
シを食わねばならぬ。駅前の「みなみ」に着いたのは午後4時過ぎで、店内を覗いて
みるとけっこう賑わっていたから入店すると何か様子が違う。団体さんが一つ、どん
ちゃんやっているだけで、店主が済まなさそうに「5時からの営業なので、すんませ
ん」と何度も頭を下げる。行き場を失い、けっきょく駅蕎麦「えきめんや」でエビ掻
き揚げ蕎麦を食うことになる。これも悪くはないけどね。

夜。
いろいろ考え、もうばんめしは外食しかないでしょうということで、きょうの私のめ
しは三食外食に決定。生麦で女房と待ち合わせ。
生麦「ひらやま亭」で、カニクリームコロッケ、合鴨スモーク、ビンチョウとサーモ
ンのカルパッチョ、トマトとアスパラガスのバルサミコ入りドレッシング、ラタトゥ
イユ・ガーリックトースト付き、等で、生ビール(中)、ハウスワイン(赤)デキャ
ンタをヤる。
女房と話しながら、神道と仏教、西洋音楽とそれ以外のもの、それらが排除的に関係
し合う、一種の分析的知性による統合原理にはムリがあるのではないか、「純粋」
は、組織的に追求されたとき、恐るべきものを生み出す、といったことを考えた。こ
れは昼間の、中世の寺のたたずまいを想ってのことである。


うぐひすのなほ鳴き立つる寺の背戸
藪こそは初夏ヶ谷と云ふべけれ
蚊遣りして亡き父右往左往する
味噌汁の茄子牛小屋のにほひかな
きんぴらをかみなりとして炒りつけん  解


*2句目、初夏ヶ谷はハツナツガヤツとあるべし。



2008年06月12日
01:48 食日記114


朝。
パン・ド・ミーの生パン、粗挽きソーセージ1本を入れて温めたレタススープ、生協
混濁林檎ジュース。

昼。
朝の体重、血圧計測と食後の服薬をすませると、嬉しいことにきょうもなにも用事・
仕事がない。きのうの称名寺の博物館に行って気になった安居院の『神道集』が東洋
文庫で出ているという。六角橋・鐵塔書店に東洋文庫の品揃えが結構あったなと考
え、バスに乗って六角橋へ。腹がへったのでまず「知ったかぶりのブタ」という変な
名前のとんこつラーメン店でラーメン。初めて入るがけっこう旨い。それからくだん
の古本屋へ。『神道集』はなかったが、東洋文庫の海をしばらくさまようことにな
る。なかで、柳田の『山島民譚集』1、2の揃いが2000円ちょっとで出ていた。
烈しく動く食指。だが、と、裏側の棚に回り、「柳田國男集」の二十七巻に同じもの
と、それとは別のいくらかの論考が載っているのを発見。350円という奇跡的な値
がつけられているではないか。私は盗人のように辺りを見回し、素早くレジへそれを
持って行って金を払い、あとも見ずに店を出た。

夜。
アスパラ、ベーコン、インゲン、ブラックオリーブでパスタ。赤パプリカのグリル、
トマトの冷製。以上で一番搾り。
おとつい以来の鯛のヅケで菊正・燗をやる。ほんとうはtab10号達成記念にさる
ニョショウから贈られた吟醸酒と純米酒があったのだが、これは改めてちゃんとそれ
なりの支度を調えてから飲むつもりだ。
それから、愚生にとって詩の先達でもある大切な方の訃報に接する。つい最近までお
元気そうな雁信に触れていたのが嘘のようであると、こう書いて、詮方もなく、是非
もない。


水無月のやへがきとはに妻籠みに  解酲子



                       

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