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アカミトリ、にっぽん語の思い出と、赫々たる道楽文芸のために、
二〇〇四年二月
詩歌変ともいふべき予感夜の秋の水中に水奔るを視たり
(塚本邦雄『詩歌変』)
ふたすじの軌跡わづかに時に刻みしだいに透けてゆく鳩と鳩
軍楽の響きに馴染むべき肉を身籠らせむとや進む婚礼
共感といふ言葉錆びて青草をむごく引き抜くわが庭なれば
生きてゐる魚を裂かぬ夜々となりさびしからむや血忘るる指
日の丸を敵旗と呼べば呼ぶわが語につぽん語とはかくまで哀し
牡丹花弁なだるるごとく散らば散れ尽きたりとわが思ひて久し
車とは下りては上がりまた下りる運動にして縛られゐたり
逝く春と謳はれてぬるく惚けゆく小川の水の濁らむとする
ひとに会ふあほらしさ緩くかたちなすまでの故郷の馴染みの香り
その日つひに古き語らふいに消えうせて歌は自刃の刃となりにけり
あつさりと折られて土に口づけるチューリップなり誇張はすまじ
大手町乗り換へるときに複雑に吾妹が屋戸し思ほゆるかも *
* 万葉集巻八・一五七三歌・大伴利上の歌より
粗悪なる印刷写真ほど好むひねくれのゆゑに悟る初老を
空く腹を空かせてなにをどこまでを生きむかと壁の白きを撫でる
桜花しばらくは咲かぬ園なれば此処に添ふべし奇しきものに
韃靼人の踊りなど疾うに忘れゐて富士に似合はぬ花の数々
湯治場の裏を流れる極楽川湯気なにもかも曇らすばかり
優曇華のふるふると揺れるさびしさを見続けようかもう止めようか
風に鳴る風車かくもすつからかんこんなもの立てておかれる水子
時と場の運不運あつて七月の若き薄をこそ愛でるべし
あの後はたぶん亡くなつたんだろう山岡何某、前世紀の夜
べつたりとなにか載りたるごとき気味あつてお盆の夕刊重く
旅客機と軍機の違ひはたんぽぽの綿毛の震へにさへあらはれる
人はかるく容易に死ぬるものなればわが手のひらよ宙を支へよ
蝉好む隣人もわれも朝な夕なはじめと終はりの蝉いつくしむ
たぶん此処に終はつてもよいなにもかも あつけらかんと大蓮の花
何某のあれが愛人だといはれ見れば芍薬くづれむばかりに
朝までの豪華な夢のつづき待つことをひと日と呼ぶわが習ひ
化かされることさへ生きてをればこそ狸汁啜る秘湯の夕餉
新聞も読まずテレビも見ずに過ぐいくさ激しき頃なればこそ
かきつばたほれぼれとそよぐ水端にこころの一処いま捨つべしや
目を凝らし築かれゐたる山の写真見続けてをり骸の山の
大国は所詮大国 斯く思ふ側から仮名と漢字のからまり
携帯電話どこへなりとも置き捨てておけばこれほど淋しきはなし
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