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アカミトリ、にっぽん語の思い出と、赫々たる道楽文芸のために、
二〇〇六年十月
春夏回顧短感 十六首
ひとは友にして敵にして風にして ならば荒れ野の子のままのわれ
心身を重くするものあれこれと絶えねど届く花の便りは
花冷えの一日(ひとひ)の暮れの喉に触るるわづか桜の色したる風
桜咲き極まる頃を咳き込めば部(へ)屋内(やうち)の闇も闇として良し
あからさまに晒されてゐる干魚の身欠きに遠く月のたゆたふ
こころよく思へぬ便り昼過ぎて降り出す雨も音のむらさき
白き石の街の思ひ出つよき朝さくさくと刻みたき菜はなくて
ただ部屋にあれば無形に極まれるわたしの生(いき)がいま水を注(つ)ぐ
うぐひすを聞かずに爛けてゆく春のかるさよわれの中年も逝く
ものなべて終はりし後といふものを恋ひやすければ朝顔は咲く
幾枚も書き損じつつひと夏を終はらせむとて書くごとき文
水に透く小さかる魚のうんめいの震へに青きはつ夏は来る
その主に死に別れたるぬひぐるみミルク片手に子は撫でむとす
遠ければ遠雷のごときいくさにて心を隠すゆとりさへある
煎るごとく蝉の遠くに鳴きをれば生きやすきかも夏の心は
ほれぼれと見上げるほどの雲の居てにんげんといふ雑用忘る
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