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ARCH 11

         アカミトリ、にっぽん語の思い出と、赫々たる道楽文芸のために、
          二〇〇七年十二月



ぷらすちっく前世    五十首



モーツァルト初しぐれすれば セレナーデ極小にかけてただ聴いている

ウの段とオの段の音が欠けている「せかいへいわ」はやっぱり不吉

青りんご打ち寄せられた白浜にその青のままを生きていくのよ

さくら色の小鯛あまりにかわいくて今宵はけっきょく精進料理

飛び立ちと空中浮遊の味がする塩味炒めの豆苗でした。

微醺してぴくんとなにか受けとめる第七感? たぶん。はらそうぎゃてい。

描かれた薔薇いつからか好きになり 絵が枯れた薔薇いつからか好き

軍用機PなんとかとFかんとか ベタ塗りグレーgood! 癖になるほど

自動車にはじかれちゃって亡くなって水島さんちのルミちゃん、ルミちゃん

人差し指の、たぶん第一関節は だれであれ微妙に歪んでいるはず

か、な、し、み、という言葉こころよく響き駆ける朝浜 これだって前世

背筋のばして音させるだれか居るような 満ち満ちる音の夜の台所

わたくしは ぬいぐるみルンとミロとポン 三匹のよきご主人さまよ

濃いコーヒーひと口―― なにかもったいない感じがあってふた口は、まだ
場末、場末 いまどきの場末さがしつつ大場末子と最終バスへ

きらいだと言っても起こる戦争や きらいだと言っても起こる過敏性下痢

せっかくのひさしぶりの海 見えもしない沖の白帆を見る(でも、ふたりして)

あやまちのよう 透けるほど真っ白い碗に大地の血のように、珈琲(カフェ)

上の世代のあの人たちの感性がほんとうに嫌い スネパ(わたしのせい)・ドゥ(では)・マフォット(ないんです)*
                       *アルベール・カミュ『異邦人』

寒い数日つらなり黒いテーブルに真っ赤なおしるこ椀となります。

冬の朝の食卓のイチゴつまむときウィンドウの湯気の曇りもおいしい

持たなくてもやはりうれしい「ふるさとの」「ふるさとは」 でも東京にいる

ペン立てにペン溜まるのもうんざりで逃げ出すように来てみた桂林

こころの自然 もしあるのなら放置しておくべきわたし 癖も怠惰も

きのう晴れ おとといは雨 きょうは晴れ 自分のもののように天気を

はつ夏の破顔一笑 あのひととわたしがしばらくしていないこと

感性は古びやすくて たとえれば花買うときにバラ買っちゃダメ

自転車に乗るときにいつも靴がいう「なあに、またすぐ会えるさ、地面」

ようするにやさしい風の吹くときを待ちながら生きているだけかもね

ああ銀座 つかれてしまう しまったら の そのあとを準備しててくれない

遠いものは遠さのままに… ひとことも語らない夜が更けていきます

ああ、ふいに思想のように雪がくる 入り込めないひとひらひとひら

あいうえお…のにほんごだから「あい」などと語らなくてもたぶんよかった

プラスチックなこころのぼくら 冷たくも熱くもなくてお月見もする

くりかえし練習しているピアノまでの距離が正義の比喩になるわけ?

くりかえす鼓動の織りなす初霜の そう、はじめての夜が明けるのよ

CDウォークマンにこだわっていたい あの浜の砂払わないままのカバンで

ぺらぺらと「愛」込められたポップスも止められてバーはばーになりゆく

語りうるまでに整理もゆきとどき「しつれん」ファイル6は「し」の棚

花といえばバラを買うくせ アネモネやダリアのような幸なおざりに

生きてあれば感謝せよなど説くひとの甘さほどではないカプチーノ

初しぐれ降るより先の長雨にもう濡らす花もないままの園

米軍機はないちもんめの「はな」散らし「い」も「ち」もみんな はないちもんめ

ヒメムカシヨモギ(姫 昔 蓬)という名持つ雑草(くさ)に「こいつぁ、おみそれいたしやした」と

癌で逝った叔父の静かな死に顔です。「写ルンです」で撮り続けます。

深更に流砂みたいになりやすい論あれば鳴らすうぐいすフィギュア

幸福ハワガコトニアラズヒトツフタツ受胎セシ批判マタ流シタリ

わが生はやはり復讐かもしれずベッドサイドに買うチューリップ

春の雨つよければそれも頂点のひとつのごとくにて佳きロビー

このようにからだがあって手がのびてにんげんであることのせつなさ






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