[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]


Covers 0002


◆プレヴェールは20世紀最大の詩人のひとりだと思う。本気で思っている。こう付け加えないといけないのは、知の最前線としてのポエジーだとかなんとか抜かしながら現代思想(これもすでにいにしえのナツメロ流行風俗になっちゃいましたね、「現代詩」同様に)ふうの翻訳口調の詩的ちらし寿司を捏造していた《切羽詰まった系》こそがエライと思い込んでいる人たちが、大量に詩歌界を窒息させてきたからだ(まだまだ残党が残っているぞ、キミのなかにも、ボクのなかにも…)。 ギヤチェンジをして、肩の力を抜いて、一見おもしろ風、冗談っぽい口調、しかし、読者の思考や詩考の偏りにグサッと強烈な攻撃をしかけてくるプレヴェール。「プレヴェールはいいなぁ…」と洩らすと、フランス文学に一度は取り組んだ人たちは、「あれは初級の購読で読まされたけど、面白いのもあったね」ぐらいの反応しか、たいてい、返してくれない。あれこそが詩だよね、ね、ね、ね、とまで言い募ってくれる人は、まぁ、いませんね。いかに詩的センスのない連中がフランス文学をやっているかの、見事な証左というべきなのだ。 ま、愚痴は措くとして、20世紀以来、抒情表現においては変化球を投げるよう強いられ、勿体ぶった「わかるかナ、わかんねぇだろうナ」路線ではランボー+マラルメ系をさらに超えるように高望みさせられ、一字一句シニカルかつ衒学趣味的な言葉選びをするのが作法のようになってしまった詩歌世界では、プレヴェールというのは、あ、そんな抜け道もあり?ってな流れをあれよあれよと打ち出してしまった詩人なのだった。詩集『ことばたち』が出た時には大ベストセラーで、買うのに行列ができたそうな。小むずかしくなった、というより、生来の詩人じゃないのに詩人ぶりたいプチインテリ連中が大挙して参加するようになってしまった20世紀詩なんて、世間の忙しいふつうの人々にはオタク世界もいいところだが、そんなものをわかろうとは全くしないという健全な生き方を貫く世間一般のそこいらの人々でさえ買い求めに走らせるような詩集を作りおおせてしまい、それでいて、じつは方法的に一大革新を盛り込んであったというのは、言うまでもなく大変な達成なのであった。日本では、宮崎駿とともに優れたアニメを作り続けた高畑勲氏が若い頃からプレヴェールに心酔してキレイな翻訳本も出しているが(彼は1959年に東大仏文を卒業している)、彼がプレヴェールにこだわり続けるのは、なるほどね、納得もいくし、感心もする。 どの時代においても、詩は、詩的なものにたぷたぷ満ちていなければならない。文学詩ぶりを気取ったりすると、けっきょく、多かれ少なかれ象徴詩詩吟やシュールレアリスム詩詩吟みたいなものになってしまう。ランボーやマラルメやブルトンの口吻で詩吟して悦に入るような行為に陥らなかった現代詩がどれくらいありましたかね?詩的デカンショ節になってしまわなかった詩論がどのくらいあったかなぁ? 詩的なものにたぷたぷ満ちているものを書くには、時代時代の詩的なもののありかのほうへと、なんとなく、しかし正確に、自然に流れていってしまう浮気で軽薄な心身を持たないといけない。詩的なものは、たいてい、文学のセンセが称揚するようなもののほうには存在しない。詩風の確立とか、ゆるぎない個性とか、そんなことを漠然と望んでいたりすると、数名でちっぽけな港に集まって形式ばかりの褒め合いをし、自己満足の錨をぽとりと寂しく下ろして、年金生活者ふうのブレザー姿に大久保清よろしくベレー帽までかぶっちゃったりして、こじんまりと「詩人」のクリシェに収まっていく無残な風景の一部となっていきかねない。とにかく、そっちには詩的なものはないですから! まったく、「詩人でなければ、なににでも!」とボードレールふうに吐いて、予防線を幾重にも張っておきたいものです。そんな時の特効薬として、プレヴェールは効く。効くのだ。



小鳥を描くには

ジャック・プレヴェール(1900-1977)



まずひとつ籠を描きます
扉の開いている籠がいいですね
次に描くのは
なにかきれいなもの
なにかシンプルなもの
なにか美しいもの
なにか役に立つもの
小鳥のためになるようなのをね

それから木に画布を立てかけます
庭のなかの木
林のなかの木
森のなかの木でもいいですね
その木のかげに隠れるわけです
  なにも言っちゃいけません
  動かないようにね……

  小鳥はすぐやってくることもありますが
何年もかかることだってあります
うまく運ばなくっても
がっかりしちゃいけません
待つわけです
必要なら何年でも待つわけです
小鳥がやってくる速さとか遅さっていうのは
なんの関係もないですね
絵が成功するかどうかとはね

小鳥がやってくる時には
もしそれが来るならばですけれど
ふかぁい沈黙を守ってなきゃだめです
小鳥が籠に入るのを待ってですね
で、入ったら
筆でそうっと扉を閉めるわけです
     そうして
ひとつひとつ柵を消していってください
小鳥の毛の一本にさえ触れないように注意しながらね

そしたら今度は木の肖像を描くんです
枝々のうちのいちばん美しいのを選んでくださいね
その小鳥のために
緑の葉や風の爽やかさも描き込みましょう
陽光もきらきらとね
夏の暑さのなかで草を食む動物たちの声なんかもね

そうして待つわけです、小鳥が歌いだすのを
もし小鳥が歌わないなら
そいつは悪いしるしですなぁ
絵が悪いっていうしるし
でも小鳥が歌うならいいしるし
絵にサインをしてもいいというしるしです
そしたら そうっと 引っこ抜いてください
その小鳥の羽毛を一本、ね
で、自分の名前を絵の端っこに書き記すというわけ


(*プレヴェールは連分けをしていないが、このCoversシリーズは正確な訳詩を意図しておらず、むしろ翻案をこそ狙っているので、わかりやすいように連を分けておいた。)




[原詩]
Pour faire le portrait d’un oiseau

Jacques Pr思ert




Peindre d’abord une cage
avec une porte ouverte
peindre ensuite
  quelque chose de joli
quelque chose de simple
quelque chose de beau
quelque chose d’utile
pour l’oiseau
    placer ensuite la toile contre un arbre
  dans un jardin
          dans un bois
           ou dans une for腎
          se cacher derri俊e lユarbre
       sans rien dire
               sans bouger...
              Parfois l’oiseau arrive vite
      mais il peut aussi mettre de longues ann仔s
avant de se d残ider
        Ne pas se d残ourager
          attendre
                attendre sユil le faut pendant des ann仔s
la vitesse ou la lenteur de l’arriv仔 de lユoiseau
n’ayant aucun rapport
          avec la r志ssite du tableau
        Quand l’oiseau arrive
          s’il arrive
          observer le plus profond silence
   attendre que l’oiseau entre dans la cage
et quand il est entr氏@
         fermer doucement la porte avec le pinceau
     puis
                  effacer un un tous les barreaux
    en ayant soin de ne toucher aucune des plumes de l’oiseau
Faire ensuite le portrait de l’arbre
     en choisissant la plus belle de ses branches
pour l’oiseau
                peindre aussi le vert feuillage et la fra把heur du vent
la poussi俊e du soleil
             et le bruit des b腎es de lユherbe dans la chaleur de lユ師
et puis attendre que l’oiseau se d残ide chanter
Si l’oiseau ne chante pas
     C’est mauvais signe
  signe que le tableau est mauvais
mais s’il chante c’est bon signe
signe que vous pouvez signer
   Alors vous arrachez tout doucement
  une des plumes de l’oiseau
   et vous 残rivez votre nom dans un coin du tableau.




[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]