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すっかり老い果てた頃になって、夕ぐれ、あかりも灯し…(ロンサール)

◆フランス語をむかし勉強したことがあるので、今でもフランス語の詩をすこし読む。たいした理解はできていないけれど、いいものがいっぱいだとはわかる。フランス語の詩の中では、ランボーだとかマラルメだとかがいいんだと主張する人たちを、ぼくは信じない。なんといってもロンサールでしょ。ヴィヨンもいいな。マロもいい。シャルル・ドルレアンもいい。でも、ロンサール。あそこには、誰もが疑いえない頂点があった。内容の平易、形式の完備、普遍的な喜びと嘆き。詩はあのようにあるべきだと、いつも思う。意訳しよう、変質させてやろうと思いながら日本語に変え始めても、すぐに、まるで翻訳?…に近くなっていってしまう凄まじい求心力がある。世界の詩人のなかで五人選べ、と言われたら、まずロンサール。後の四人など、誰でもいいと思ってしまう。◆



すっかり老い果てた頃になって、夕ぐれ、あかりも灯し…

ピエール・ド・ロンサール(1525-1585)



すっかり老い果てた頃になって、夕ぐれ、あかりも灯し
炉辺にすわり、糸を繰ったり紡いだりしながら
わたしの詩を口ずさみ、心を高ぶらせてあなたは言うでしょう、
美しかった頃のわたしを讃えたのはロンサール、と。

そのとき、これを聞いた侍女たちはみな、
仕事に疲れて半ばまどろんでいたにしても、
わたしの名のひびきに目を覚まして
永遠の誉れを受けたあなたの名を祝福するでしょう。

わたしはもう土の下にいて、骨さえ失せて亡霊となっており
ミルトゥスの木陰あたりで安らっていることでしょう。
あなたのほうは老婆になって、炉辺にうずくまり、

わたしの愛とあなたの傲慢な仕打ちを悔んでいることでしょう。
生きなさい、わたしを信じるのなら、明日など頼まずに。
いのちの薔薇を、今日からすぐに摘むのです。



  [原詩](技術的な制約から、フランス語のアクセント記号は省いてあります)

Quand vous serez bien vieille, au soir, a la chandelle

Pierre de Ronsard



Quand vous serez bien vieille, au soir, a la chandelle,
Assise aupres du feu, devidant et filant,
Direz, chantant mes vers, en vous esmerveillant :
Ronsard me celebroit du temps que j'estois belle.

Lors, vous n'aurez servante oyant telle nouvelle,
Desja sous le labeur a demy sommeillant,
Qui au bruit de mon nom ne s'aille resveillant,
Benissant vostre nom de louange immortelle.

Je seray sous la terre et fantaume sans os :
Par les ombres myrteux je prendray mon repos :
Vous serez au fouyer une vieille accroupie,

Regrettant mon amour et vostre fier desdain.
Vivez, si m'en croyez, n'attendez a demain :
Cueillez des aujourd'huy les roses de la vie.




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