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ARCH 15

                   駿河昌樹詩葉・2000年10月



深大寺まで




ひとのやっていることに、ね、興味がない。
ひとの、やっている、ことの、集まりの
このヨノナカ、にも、ぜんぜん……

このつまらなさは どうしたことだろう?
みんな、なにかに打ち込んでいるふり、没入を、集中を演じて、あの
つまらなさ……

あのウチコミ、ほんとうでも、それがわたくしに、どんな関係、ある?


 (野川ぞいにながながと、炎天下
 (深大寺まで歩いてまいりました です。
 (途中の祇王寺の、破れ寺のぐあい、よく、


 (壁に穴のあいたお堂のなかには観音様たちが黒々と佇んで壮絶、デアッタ。


だれの書いたものもつまらない。どうしたんだろう?
じぶんの書いたものも、………
書く、ということが つまらない。読むということも。
逃げ、  それは。
意識ガ支エナシニアルベキダトイウ観点カラハ


 (……深大寺には動物霊園がある。
 (万霊塔、といったかな、そのまわりを犬猫のたくさんのお骨が取り巻いていた。
 (動物たちの墓所。火葬場もわきにあって、稼動中でもあった
 (家ニ来ル、アノ猫タチ、モシ、死ンダラ、ココニ、オ骨、イレテアゲヨウカシラ、
 (オ参リノ度、オ蕎麦モ食ベラレルシネ、……

思いながら、お骨のえんえんと並ぶ細い廻廊を、わたくし、歩いた……

 (サビシイ、ネ、死ハ、ネ、ヤッパリ……

骨壷がならぶ廻廊には、お骨の匂い?、独特の、匂いして、

 (ソレハ、サビシサノ、匂イ、ダロウカ?、晩夏ノ、オ骨ノ、
 (ネぇ、サビシイ、ニオイ、ネぇ……

なんだか、ひとの納骨所よりさびしかった。犬猫は、もっと純だから、カシラ?




そこから植物公園のほうに上がると、蕎麦屋玉乃屋がある。
うまい十割蕎麦をゆっくりと食い、深大寺ビールを一本飲んだ。
暮れがた五時ごろ、外の席の赤い布を店員のお姉さんが畳んで、店じまい、だね、
そろそろ。


店を出てから、わたくしは疲れてしまった。
深大寺の前の細いすてきな通りのベンチに腰を下ろして
店じまいしていく蕎麦屋の提灯の明かりなど
見ていました。
……わたくし、疲れてしまった。
骨の匂いのせいかしら、犬猫たちの、純な、骨の……


そうして、
これまでいろんなものを考えたり読んだり書いたりしてきたけれどつまらない
ことだったねと自分につくづく、わたくし、言った。
ヒトノえごニモ、ジブンノえごニモ、モウ、ワタクシ、イイワ、タクサン……
参道というのかしら、この細道、澄んだ流れが寺の前を流れて
こんな街をこころに、そこに住まおうか、……


じぶんというものを見せたくてたまらないひとたちがいる
いやな光景……
わたくしにも、ある、残っている、
あるのだ、そういうところ
わたくし、いやだ、そういうの、もう、いやなのだ、……



犬猫たちは しずかに死んでいく
死んだ後も しずか
うちの庭に遊びに来るミミも、もう歳だ。
ミミが死んだら、どうしよう、
どんなにしずかにかなしいだろう、……


わたくしは、まだ、疲れていた
わたくしは、また、ほとけ様にお会いしたく思った
生老病死のことなど
ぼそぼそ
おしゃべりしたくなりました。

   ええ、
  わたくし、本心、あなたに帰依しておりますでしょう、ほとけ様?
   南無、
  トイウノハ、帰依スル、トイウコト、ネ、
   南無、
  ……

   生きて、アル、というのは、
   アル、というだけで、
   つらいこと、
   また、あなたに、お会いしたくなった……


蕎麦屋はおおかた店じまいして
ほのぼの 灯る おちこちのあかり


つかれたわたくし、バスで調布かつつじヶ丘に出て、帰る


まだやっている蕎麦屋があるな
中年のふとった男ふたり
むしゃむしゃと頬張っているのが窓ごしに見える
ビールの大瓶が一本立っている
男ふたりがしずかにものを食っているのは いい
しずかな夕暮れ道にしずかな蕎麦屋
さびしいことも楽しいこともしずかに
流れ

……そう、
     わたくし、
つまらなくないように書く、
             ことに 向かう

向かおう







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