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ARCH 24

                   駿河昌樹詩葉・2001年3月



厨うた




ニンジンとダイコンを薄味で煮はじめ そこに
季節季節、月月、日日の野菜をくわえ 煮続ける
手ばやくやれるがやらない 台所を離 れて
本も読めるが読まない離れない 火を 見つめる
煮立つ音を聞く 宙にひろがっていく 湯気
を見つめる 見えなくなった湯気の湿 り気に
頬はやわらかく温まり きょうのいの ちの
中心はここ できごともひとびとも皆 とうに
まぼろし 火を見つめている 野菜た ちの
つつましい煮物ができあがるのを待っ て
もう しない 越しかたのまきもどし も回顧も
あったことはいま ない、という事実 あるのは
ニンジン、ダイコン、野菜たち 煮え る もう
そろそろ 煮えたら食べるだろう食べ るはず
きっと それとても たしかではない けれど
それでも 煮えていく野菜たちはもっ と近い
ふたしか もっとたしかな まぼろし 湯気立てて
熱く あしたのまぼろしに入っていく からだを(
空、陀?)を準備するまぼろし 現実 であっても
なくても もうそろそろ煮える 煮え たら
食べるだろう食べるはず 咀嚼し飲み 下し
なお生きるだろう生きるはず ふたし かだけれど
ふたしかよ! おまえに助けられおま えのために!







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