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ARCH 32

                   駿河昌樹詩葉・2001年3月



これまでになくうきうきとしてきちゃった。




詩の本はよく燃えた。庭の土に灰を撒ききゅーぴーさん
を植えると生きたからだ
も植えてみたくなり知りあいだ けれどもよく知らないひろこさんに電話で植えたいのです
と言った。ひろこさんはすこしそれはつらいかも、
という。つらくても
植えられるのはぼくではありませんから ひろこさん、そこはね、
がまんするのですよ、ぼくではなくって、あなたのことなのだもの、
という。
ぼくがいう。
ね、ひろこさん、
ぼくがいう。
あなたのことなのだもの。

ひろこさんを植える日うぐいす
の煮物をふたりで食べたのでくるしみが
もしあっても耐えられるだろうと思った。思ったのはぼくで耐えられる
という主体はひろこさんである。植えるのは
造作ないと思った。だが、植える穴を掘るのは
造作あった。ひろこさん、
あなたの入る穴だもの、ちゃんと掘るのだよ
と言ったら、
きよこさんとさよこさんとまよこさんとかよこさんとみよこさんと
ほかにもいたが名を忘れました。を、連れてきて ぼくの
せまい庭にみんなでていねいに寸法まではかって穴を
掘り始めた。穴を
掘るのは実際たいへんなことである。ていねいに
掘るとなればさらにたいへんなことなのである。まずきゅーぴーさんを
掘り出さねばならないわねえ
とひろこさんはいう。許可はだれにとるのですか
とぼくがいう。そう
       いう
ぐらいだからあなたではないわねえときよこさん
がいう。許可なんてとってたら掘り始めるのに時間
がかかるから、とにかく掘り始めることにして、そうしながら許可申請
の件も同時に考えていけばいいじゃない
とさよこさん。ほかにもいろいろ
とめんどうなはなしが出てきた。そんなことを書き
並べるのはもっとめんどうだ。とにかくきゅーぴーさんを掘るんなら
きれいに洗って またお風呂にいっしょにいれてあげられるね
とぼくはこころ
にいった。そうさ、
とこころがいう。そうさ、
きゅーぴーさんもうれしいにちがいな
い。こころのおれ
が保証する
さ。

それからな
がい時間が経って な
がい歳月がすぎて ひ
ろこさんたちはすっかりぼくの庭にも馴
染んで穴
を掘りつ
づけているのだけれども まだまだ作業は終わらな
そうにぼくには見える
ときと とうに終わってくつろいで見える
ときとがあって判断に苦しむのできゅーぴーさん
とお風呂にはいって温まる
と 人生ってそんなものだよ、ってこころ
がい
う。うん、そんなものだよな、とき
ゅーぴーさんが答え
る。どうしてそんな話になるのかぼくが聞こう
とすると人生のやつが風呂の窓からにゅるっと湯船
に入り込んできて ざぶっと顔を洗う
としみじみ
といった。おれはほとほ
とつかれたよ、おまえ、かわりに人生をやらな
いか?

そのあ
とは ぼくとこころときゅーぴーさんと人生
とでしずかに浸かって温まって
いた。大きくてほんとうによかった
と湯船が言いた
そうだったので 言わなくてもわかる
さ、とつぜん、
こんなこともあるんだよなあ。こ
ころの抜
け出たあとのこ
ころの場所でそんな思
いをこしらえて湯
船に向かわせると ぼ
くはすこ
し成長したのがわか
った。

ああ、こ
のためだったのかもな。ほんとにた
くさんの詩の本を焼いて灰を庭に撒いてよ
かった。そ
こからすべてがやってき
たようなものだものな。ほん
とに、よかった。穴ができたらもっと大きい露天風呂を
つくろうかなとも思いついて
そしたら、
湯船はなんと地球だぜ。
そう思うと、これまでになくうきうき
としてき
ちゃっ
た。







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