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ARCH 61

                   駿河昌樹詩葉・2001年12月



小さな霊たちが机で頼むことには






ひとがひとを見ないのを見てきた
世界は滅び尽くすように。
花も風もこころに
つぎのページの開くのを待って
種のまま
あるいはわずかな気の流れのままに
留まっているように




ひかりは水のようにおもい
肌もおもく濡れて
わたしは闇で拭わねばならなかった
そのために一生かかったけれども
生は剥がれおちていく衣
裸で帰るべきところがあり
すっかりと乾いた肌で
そこにおもむく




壁がわたしのことをよく知っている
見えないものがわたしを知っている
見えるものはみなかたちをうしなう
記憶されたものはみな忘れ去られる




からだを養うことをやめれば
ふいに やさしいところにいた
かるさを知ると
もう酒も肉もおもすぎる
家ではだれにも知られないから
宙に浮いて暮らしているよ、わたし
からだもなしに
うっかりさまよい出ることさえある




小さな霊たちが机で頼むことには
かれらのために
小さな歌を書きとめて
だって。
だからたくさん書いたのだけど
かれらはすっかり持ち去って
ノートはいつも
まっしろに戻っている
かわりに
かすかなすみれの香り
お返しに、なのか
かれらの残り香、
なのか




愛というのは
空中にただよう見えない流れ
そこをたどって生きるすべを知るなら
こころはいつでもあたらしくなる
ひとから逃げなさいね
世間から離れてもいるように
その流れをたどって
やがては見えない流れになる
あなた自身も




……そうして、
かならず突き抜けが来る。
現実とよばれる夢幻の層を抜けて
それまで夢や思い込みといわれかねなかったものが
しずかに堂々と現実を主張する
魂、
とそれを
呼んでもいいだろう、そのときには
そして
辛かったそれまでの時期を
いくら祝福しても足りないように
感じはじめる……






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