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61
駿河昌樹詩葉・2001年12月
小さな霊たちが机で頼むことには
1
ひとがひとを見ないのを見てきた
世界は滅び尽くすように。
花も風もこころに
つぎのページの開くのを待って
種のまま
あるいはわずかな気の流れのままに
留まっているように
2
ひかりは水のようにおもい
肌もおもく濡れて
わたしは闇で拭わねばならなかった
そのために一生かかったけれども
生は剥がれおちていく衣
裸で帰るべきところがあり
すっかりと乾いた肌で
そこにおもむく
3
壁がわたしのことをよく知っている
見えないものがわたしを知っている
見えるものはみなかたちをうしなう
記憶されたものはみな忘れ去られる
4
からだを養うことをやめれば
ふいに やさしいところにいた
かるさを知ると
もう酒も肉もおもすぎる
家ではだれにも知られないから
宙に浮いて暮らしているよ、わたし
からだもなしに
うっかりさまよい出ることさえある
5
小さな霊たちが机で頼むことには
かれらのために
小さな歌を書きとめて
だって。
だからたくさん書いたのだけど
かれらはすっかり持ち去って
ノートはいつも
まっしろに戻っている
かわりに
かすかなすみれの香り
お返しに、なのか
かれらの残り香、
なのか
6
愛というのは
空中にただよう見えない流れ
そこをたどって生きるすべを知るなら
こころはいつでもあたらしくなる
ひとから逃げなさいね
世間から離れてもいるように
その流れをたどって
やがては見えない流れになる
あなた自身も
7
……そうして、
かならず突き抜けが来る。
現実とよばれる夢幻の層を抜けて
それまで夢や思い込みといわれかねなかったものが
しずかに堂々と現実を主張する
魂、
とそれを
呼んでもいいだろう、そのときには
そして
辛かったそれまでの時期を
いくら祝福しても足りないように
感じはじめる……
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