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ARCH 69

                   駿河昌樹詩葉・2003年10月



甘さが救いだわね、



渦の、そのかたちの下には影が出ていて 少し延びていて
火土呂の辞書には はがはがと詰まれていて
そう?、はがはが? ……そんな噂が(蔓延というのではないが)うっすらと
流れて村々を浸しつつあった
楽田川さんのほうから火車が走ってくる
聞いて
かまちから出てみるとたんぽぽの原の向こうに火車ではなく
渦の、そのかたちの下に影が出ていて 少し延びていて
火土呂の辞書には はがはがと詰まれているのが浸進、しかし
ゆっくりと」としてきていた。立ち上がる。ここからが君の出番だったんだ。ほら。
聞いて
君。と呼ばれて、だれが楽田川さんのほう
はがはが、とあいかわらず
船木の檀那は甘いんだからァ
行きます、行きます、ったってェ、やす子ったらいつも行かないんだからね
甘いのよ甘アマ。ゆっくりと」。ああま。

杉林が霧のむこうにしだれていってしまう気配だぁ つらい 点、点、点、と心という
字ができていくね、点、点、点、たらあ、点、点、点、たらあ。とね。
点はどういうココロモチでだれが発明したんだろう つらいことだったろうかねぇ
点、というのは。線でも面でもなく、遠い人類のだれかサン、暗い時間の洞の
むこうのほうのあかるみの

数十年も生きてくれば信じられる人などだれもいないだろうに。
数十年も生きてくれば命の価値も生きがいもどうでもいいだろうに。
ただ生きている、まだ死なない、というだけのことで
むこうのほうのあかるみの




甘い
船木の檀那
甘さが救いだわね、そいでもさ。
暗い時間の洞のむこうのあかるみの
まだ死なない、それだけで
信、なんてなくなっちゃっているけれどもねぇ
甘さが救いだわね、





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