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ああ壮麗な水滴たちのさわさわと



わたしはわたしのことばっかり
浮かべてあなたの海も
もう いっぱい
だから海を捨てていったのかしら あなた
気づいてみれば 神々しいまでに
きらきらの青のしずく
ぽつぽつ たらして
あこがれのように あなた
逃げのびていく かすか
かすかな 路


封筒は豪奢な
とおいお金持ちの伯父さまの余韻
タトエワレ、
死ノ淵ヲ歩ムトモ
すする

滴りの
伯母さま
まだまだわれら
とおくまで行きそうな予感
小行進の太鼓や笛が
また 聞こえ
わたしの足、水の足
ぴちゃぴちゃ
こころ走り
日の暮れまで
また 潮の
満ちても 来るまで


わたしの不幸さをただ見ているほかないときがあり
すりガラスのブルーの表面に水滴は小さく付いて
テーブルに特製の宵
しずかに立ち尽くしている

ガラスの冷たさに触れたり触れなかったり
まるでこれまでの来し方のように指先は逡巡し
思い出すことも忘れるべきこともなくなってしまって
、かといって凝縮した現在を見据えてもいずに
じぶんの名前も忘れてしまうほどはっきりとわたし は
いる

いるとは
不幸なこと。まるで
玲瓏と音立てて光り麦の粒をむなしく荒れ野に散らすように
どこで風と和解するべきかだれも聞いて来なかった
土への感謝のしかたをしっかりと受け継いで
来なかった

わたしはもはや時間でしかない
飲み込む水はたちまちひかりとなってひかりのなかを散り
古い革袋わたくしは
四つの大河を生む須弥山のように白い肌
黒い真っ黒い影を光り麦たちのうえにながながと敷く
カク、アル、ベシ
カク、アル、ベシ
と こころは鳴れあるいは黙れ宇宙、ウチ、ュウ、
家遊、とも、家幽、とも

カク、アル、ベシ
カク、アル、ベシ

ああ壮麗な水滴たちのさわさわと
            すずらかな輪唱がはじまっている………







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