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効果の計算され尽くした上陸



名のない花などあるわけがない
てざわりにも潤いにも欠け
受けとめ手にはさらに欠けて
狭い心の老若男女が船の上では右往左往
香りのよい旨い煙草を
わたしがひとりで吸っているのは
船の舳が向かってくる岩の上
破船の刹那
海上の岩になぜ一本の草が花を咲かせているのか
見咎める青年がいるかもしれない
彼だけを救うのも一興
ひさしぶりに陸にあがり
花のない名たちの市に紛れ込んでみよう
たとえばわたしが花という*
刹那刹那の
てざわりのため


                                                                   *ステファヌ・マラルメ





「ぽ」158 2006年12月

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