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嘘の名

かげ深し、いずこも。
             (ロンサール『ベルリの泉へのオード』、井上究一郎訳)



眼窩の外からやわらかいキャベツの芯葉のはしが
まだ黄色いあかるさに
ものさえ思わなかった故里(なんて…)を現像している

疲労と交渉していくほかにない
枯れたカラスウリの実の内側ほどの
小一時間という
水様の個体のほとり
巻紙にして胸のポケットにある
世界入口全集草稿を延べて ますます
真の入口探索に傾いていく気分を宥めながら
融かしていく季節(季節があらゆるむなしさの泉だから)

湯気のわずかに薄みどりしたところだけ
並びを崩さず籠に入れようと努めて

悶えて(なんて…)

ネームプレートには金属を溶かしたインクで書く

孵化したての名や
嘘の名





「ぽ」157 2006年10月

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