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たましいとか愛ということばも

                          Ce jeu insense d'ecrire (Mallarme)
                                    書くという、常軌を逸したこの戯れ(マラルメ)



まだ なにも起こっていない

空と思っていたあれは
いったいなんだったのだろう
海と呼んでいたあれは

生まれたなんて
だまされてきちゃって

生きているなんて
うそ

神さまになんて
感謝しなくっていいんだよ

じぶんを見つめるなんて
そんなごまかしをしてはいけない

ありのままでいい
そのままでいいだなんて
どういう意味か
わかって言ってる?

ことばと
ことばで織りなした思いの紐のとりこ
そこから逃れなければいけないのではない
逃れは
ないのだから

くりかえすけれど
そのままでいいだなんて
思う必要もない
思ってはいけない

できること?

なにも
なにも

ものを名づけたり
思いをつむいだり
つむいだ思いを知と呼んでみたり
ある場所からべつの場所に移動したと信じてみたり
そんな程度のことでいいのなら……

でも
よくないのなら
ことばと思いをはずれて
なにかがたしかに進んでいく
ことばと思いで掬いとれるものは
どうでもいいのだと
わかる

もう心も思想もまじめにはとらないし
もう自然にも寄りかからない
もう風や水のたとえもいらない
現実とまぼろしの違いにも
もうこだわらない

たましいとか愛ということばも
本気では
もう使わない





「ぽ」182 2007年6月

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