[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]


どこからどんなふうにグッピーになっちゃったか



機械的だった家族生活がいつのまにかグッピーになって
どの部屋にもとりどりの泡のお花が浮かんでいます
お花には赤ちゃんができてくるので
季節が移る頃にはもう泣き声でいっぱい
浮いているお花にミルクを運んで
ひとしきりこくこく飲ませてあげると
ちょうちょのように次の花に
移るあたしたち
そうしているあいだに時代は過ぎていって
いつまでもミルク係のあたしたち

あるとき気づいたのです
この赤ちゃんたちは成長しないで
いつまでも泡のお花に乗って
宙を漂っているだけじゃないのって

そしたらあなたは言った
ここは赤ちゃんの天国
ぼくらは赤ちゃん担当の天使だもの
いつまでも
いつまでも
ミルクしていくんだよ

あたしの記憶が悪いとでも思っているのかしら
機械的だった家族生活の時代を
あたし
よく覚えてるんだけどな
あたしたちは家族の役割をなんども交代して
父も母も姉も弟も祖父も曾祖母も
なんどもなんども演じたものだったわよね忘れたのあなたまさかね
まさかね
うんざりするほど長い時間そうして過して
からだを持ったり捨てたりまた生まれて成長したり
あんなにくり返しくり返し演じていたじゃないの
そうしているうちにいつのまにか家族生活はグッピーになって
ぽん
ぽん
ぽわん
ぽわん
こんなふうに泡のお花が浮いて赤ちゃんが成って
浮いたまま泣き出すからあたしたち
ミルクなんてあげて回ることになっちゃって
これが天国?
これが天国?
またなにかしてやられている感じで

問題はどこからどんなふうに
家族生活がグッピーになっちゃったかってことだわ
そこのところの変化を掴めなくって
いつのまにか
なんて
あたしは言ってしまっている
いつのまにか
いつのまにか
あたしと自称する習慣になっちゃっていて
いつのまにか
いつのまにか
あなたといたりしていて
いつのまにか
いつのまにか
浮いているお花のなかの赤ちゃんのミルク係

これでいい
なんて
言わせない
天国だ
なんて
とんでもない
どこからどんなふうに
グッピーになっちゃったかってことよね
いつのまにか
なんて
言わせない
今度という今度はしつっこく
見極めようと思っているのです
いつまでもミルク係のあたしたちではない
どこからどんなふうに
グッピーになっちゃったかってことよね
どこからどんなふうに
であって
いつのまにか
では
いけない





「ぽ」201 2007年10月

[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]