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挽歌



来ないもの
過ぎていったもの

気づきもせず

――と言いそうになって

気づく前のわたしと
気づいたかもしれない後の
わたしとの
あいだの溝を
のぞき込む

来ないもの
過ぎていったもの

さらさらと
星砂でも
せせらぎでもなく
こまかく崩れはじめる
心の梁
やわらかい風も
骨に沁みる

さらに去ろうとしている
もっと深いもの

(ほんとうにそれと
 関わりを持っていたか…)

見ているまなざしなど
ずいぶん前から
なくなっていたかもしれない

ほそく凍えたまま
垂直の硬い糸のような風だけが
どこかから射し
抜ける





「ぽ」221 2007年12月

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