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夕杯



                 遠くに見えるビル群は
                    それでも美しい
               批判のしかたはむずかしい
                   これからが夕焼け
             赤やオレンジの色が燃えあがり
                    乱舞がはじまる
                  あれらのビルの窓が
                   つぎつぎ色を変じ
                    稀な花々となる
                      そんな中で
                   現代を考えるのは
                      うるわしい
                      むずかしい

                      凍りついた
                   しかしやわらかな
                        細糸を
               喉からそのまま魂に垂らし
                       深い目を
                 覚ましてくれるような
                   さわやかな充実を
                    口に含ませたい
                      夕暮れには
                どんな酒精(アルコール)も
                   ドレスアップする
                     小さな終焉と
               まだ正体を現わさぬ希望と
                  倦怠と呼ばれがちな
                    大宇宙への甘え
                       それらを
                    ひとつも忘れず
                     とり零さずに
                       一滴一滴
                流れ落ちていく海として
                         忘却
                         記憶
                         覚醒
                         再生
                         変貌
                  これら我らの喜劇の
               お定まりの章段の数々をも
                      こき混ぜて*

                      さあ、乾杯
                  我ら宇宙のまよい子
                       赫灼たる
                   この形而上の嚥下






                    *古語。汲き混ず。参考「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」(古今、春上)。





「ぽ」222 2007年12月

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