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処女ポルシェ、芳香性、高キ、白キ、花咲ク!



うらうらの陽光、東京陽光に、狂い


きれずに花壇まぎわ行く虎猫コン≠フ尻尾に誘われて、
トーキョータワーまで(でも、此処から、見えない…)、
古里君は旅立つ。フルサト、という苗字なので、古里クン、強い
髪の毛、ごわごわさせて、赤いショルダーバッグ斜めに掛けちゃってさぁ、


あ、ゆく、これも赤、の、ポルシェ、


古里クンとは離れて、あの246の高速の下、
目立ってるネェ、あんな車に乗ったロリータ女とキウイジュース分けあって、
ストロー一本で旅に出たい。また出たい。毎日毎日そんな旅の日々今は昔、
今は246高速下で末子待ちながら、煙草吸ってる。


ヴァージニアスリム。マールボロライト。末子にもらった二本、ぼく、
ふだん吸わなくなっちゃってるから、古里クンにはあげなくて(持ってるからね、彼、でも、やっぱり吸わないくせに…)、末子を待ってる、ふたりして。


嘘、嘘、嘘、待ってない、たまにふと出会う末子、そういう子、


ぼくら待ってないよね、古里クン? ロリータ女のほうが好き、好き、車、
ひょっと止めてくれちゃってさ、ねえ、あんたさぁ、×××どこか知ってる?


いい開幕だ、いい言葉だ、いい出発ゾ、さっと出会いの門開く女だね、
そうして乗り込む、ホントに来たよ、現われたよ、ロリちゃん、
どこがロリちゃんなんだろ? トーキョータワーまで三人旅、古里クンは
後部座席に寝転んで、うっとり空を見つめてる。トウキョーには空がないのに、
見つめればどこにでもぼくらの空がある。ロリちゃん、命名、「露莉」ネ、


な〜に、それ?ムズカシイじゃん。渋滞で疾走できず、できないけど、
ぼくは「露莉」ちゃんの漢字を「露莉」ちゃんの桃腿に人指し指で


とぅるーっ


と書く。あは、カユ〜イ。ムズカシくないのよ、ぼくら。漢字関係じゃないもの。腿出してる娘はみんなロリちゃん、と、呼んでる、失礼しゃうわね、これ、
ハッションよ、と「露莉」ちゃんが言うように聞こえて、


ふぁっしょん、でしょ、古里クンはすかさず合いの手、ホレホレ、ホイサノサ、


ふぁっしょん、じゃなくって、ふぇしぁん、だよ、古里クン、ホイサノサ、


と、轟音立てて横抜いてくバイク、うるせえねえ、すごいねえ、おい!


と、「露莉」ちゃん声かける、あんた、うるさいよ、名前なんての?


と、「フタバよぉ」とバイクちゃん。「わはぁ、スタバじゃなくって、フタバか
ぁ」と古里クン、「ヘンなこというな、アホ」とフタバちゃん、ぼくは聞いてる、こういうのってすごく人生な感じだ、いかにもトーキョーだな、優雅さも美のかけらもねえぜ、と「露莉」ちゃんに言う、乗ってきたね、乗ってきたね、イッテル感じだぜ、フタバちゃんもいつの間にか伴走、おいっ、


おいっ、


おいっ、


老いていく友人たちを見てきた、
老いていく友人たちを見てきた、


心が老いていくのを見るのは、古紙をむちゃむちゃするみたいだ、


おれは飽きた、歳相応にって言ってくる反動野郎、フタバちゃんにも
そんな友だちいるかな、まだいないよね、トーキョータワー、まだ遠いかなぁ、
さっきの(と「露莉」ちゃんが言う)漢字忘れちゃった、ツユと、あと、
何だったっけ? あは、あれ、クサカンムリにリエキのリ、じゃすみん、って、
あれ使うんだよね、茉莉って書いて、じゃすみん、ホントは、
じゃすみんそのものじゃない。漢和辞典なら語るであろう、「木蓮科ノ
常緑低木、夏ニ芳香性高キ白キ花咲ク。じゃすみんノ一種ナリ」、つまり、
じゃすみんってのはけっこう広い概念なのか、その一種が茉莉、


小さな部分を茉莉って書いて、じゃすみん、と読んで、ぼくらは


老いていっていたのか、こう知ることで二字分若返るかしら、無知が


心の死の訳、


と何処かの宗教なら言いそうだ。「でも、その字、クサカンムリとると、末だね、…末子ちゃん死んだね」。えええええ?末子ちゃん知ってるの死んだの(情報到達なんで同時なの)末子ちゃん末子ちゃん?


ついこないだ、末子ちゃんは自宅近くで左折してきたトラックに巻き込まれて
亡くなりました。全身骨折でございました。内臓圧迫でございました。出血多量でございました。


「末子ちゃん、けっこう仲よかったんだよ。あんたたちのこと聞いてた。だから、今日、あそこに行ってみた。精神系ホームレスみたいなふたりがよくいるからって聞いてたからね。あの人たち、霞喰ってるのよ、地に足着いてなくて、いつも浮いてる。五ミリは浮いてるな、ありゃ。五ミリぐらいだと、歩きながら年中地面に蹠のどこかくっつくから浮いてるように見えないのよ、でもあたしは見た、見たんだなぁ、ふたりともホント浮いてんだから」。


末子ちゃんの遺言でしたか、それが。


遺言、言い置き、いい沖、お仕置き好きだったね、末子ちゃん、


ぱすぽーとみたいな人だった、誰にとっても繋ぎになってて、国籍は
大手町?みたいな。乗り換えポイントの末子ちゃん。でも、
けっこうショック。末子ちゃんとなに話すってわけでもなかったけど、


よく「福三郎」に行って二八〇円也のラーメン食べたね、一緒に。あれ、よかったね、それだけだけどね。お新香があそこはタダで、末子ちゃんはずいぶんラーメンに入れて雑ぜて食べる。お新香をだよ、あれが彼女の人格であった。


末子ちゃんの遺言でしたか、とにかく、それ。


京都の出身だったよね、透明な肌でしっとりしていて処女のようだった。
聞いたことはない、でも処女は斯くあるべしというお新香らしさ、


おぉ!末子、処女のまま失われた処女の処女よ、末子!


と、古里クンは呟く。でも、あの子も二十七だったしね、処女かなぁ、
怪しいなあ、
と、「露莉」ちゃん、


海までいっちゃおか、今日は末子祭りがしたくなった、


と、「露莉」ちゃん、
ひょっとして、「露莉」ちゃん、処女?


ずけずけ聞くよなあ、あたし、そうだけどね、処女よ。


ホントかぁ? 貴重な処女ポルシェに乗ってるんだ、おれら。


と、古里クン、叫ぶ。叫ぶねぇ、ヒャッホー、って叫んでる。道交法違反になっちゃうぞ、
処女ノぽるしぇニ乗ッテ叫ブベカラズ、ってあるんだから。


古里クン、乗ってきた。近頃都に流行るもの、処女!処女!処女!ぐわ〜ん。
その、ぐわ〜ん、てのはなんだ?しかし処女は引力が強い。ぼくらは
はかないフラフラの遊星、処女にひかれて、246に精神ホームレスしてて、
そんで今は処女ポルシェしてて246ぐーっとすっ飛ばして海も
そう遠くないぜ、すぐだぜ!あああ、まだキウイジュース買ってなかった、


「露莉」ちゃんの乳、搾りたいなぁ、処女の乳房からは
きっとキウイジュースだぜ、
まだミルクになる前のキウイジュース、ね、「露莉」ちゃん?


と頼むと、「露莉」ちゃん、胸のホックを外して片手で搾り出すから、
危ないよ、「露莉」ちゃん、ぼくがやる、海まで、搾り続けだ、
〈露莉キウイジュース〉で乾杯だね、追悼末子ちゃん、
言いながらぼくらは六本木ヒルズをようやく処女ポルシェで駆け抜けていった。


追悼末子ちゃん。


「露莉」ちゃんの乳首から
キウイジュース発露、お初でございます、芳香性高キ、鮮やかなグリン、
これってジャスミンの香り?


芳香性高キ白キ花咲ク「露莉」ちゃん、
芳香性高キ白キ花咲ク「露莉」ちゃん、


追悼末子ちゃん、「露莉」ちゃんの
お汁で乾杯、乾杯。


芳香性高キ、白キ、花咲ク!


芳香性高キ、白キ、花咲ク!





「ぽ」238 2008年2月

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