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ほんとうはなにもないところに わたしたちは坐っている



猫たちに導かれるように

しかし、異界に踏み入っていくのなど、もはや通俗。アホラシ。ぷんぷんの
商売っ気。猫たちに導かれるように路地に
なんて入っていかないで。古文学イヤイヤァ。中上健次しないでぇ。

なにからも切り離されてしまって、言葉ハ言葉スル他ナシ
救急車も消防車も近頃は主張する ハイッ、救急車です、右に曲がります、
右に曲がります
うるさい
詩たちのようだ 自称詩 うるさい あれ うるさい うるさいってんだよ

古い人々がまだ異界に踏み入ろうとしている
古い人々が心とか魂とか安らぎとか
まだ言っている
アホラシ。自分の稼ぎのためにしか人は心とか魂とか安らぎとか
言わない

わたしはひとりで言葉なく寒地に坐りうずくまる
立っていたのだが疲れたのでうずくまる

コンビニの入り口にうずくまっていたら「お客様、ここには
お座りにならないでください」と店員が言いにきたので「なんにも買ってないんだから、ぼく、お客じゃないし、それにここ、寒い。ここでは、疲れる。疲れたら、坐るじゃないか。こんなお店なんて、永遠の中では一瞬の存在にすぎない。このお店が無くなるのが、ぼくにはもう見えてるんだよ」

そして
店員だった彼もコンビニ前にいっしょに坐ることになったのだ

わたしはほんとうに詩から遠いところにいる
古い人たちが詩だというものから遠い遠いところにいる
店員だった彼がとなりに坐っていても寒いままだし、ひとり
見えるものはこの世からすぐにも過ぎていく人たちばかりモノばかり
見えるものは
見えているとわたしが思っているものばかり
あやしいのだ あやしいぞ でも、
疑ってもどうにもならない
あやしいままで
わたしもこの世からすぐにも過ぎていくらしいのだから(確証ナシ。ワタシ、
不滅カモヨ)

コンビニ前は猫のメッカじゃない
案外と猫はコンビニしない
きたない猫は好きじゃないがきれいなフサフサ猫は好きなわたしだ
でも馴染みの猫が老いに老いて
毛並みペロペロしづらくなったのを見て気づいた
きたない猫は歯が痛かったり舌が弱まったりして毛づくろいできないのだ、と
きたない猫を好きじゃないココロをワタシから削除せねばならぬ、と
ようやく気づいた

猫たちに導かれるように
いや はっきりと
導かれて
わたしと元店員はコンビニの前に坐る
おい、店員
と呼ぶと
ミャア
と応える
おまえ、猫になっちゃったのか
と聞くと
ミャア
と応える
コンビニなんていう一時的な現象から身を離して
猫になった元店員は正しい
見えても見えなくても猫たちに導かれるように
ほんとうはなにもないところに
わたしたちは坐っている
そして
そして
そして

言葉

猫たちに
導かれるようにして






「ぽ」77 2004年6月
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