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〈風〉か



水が湯にかわる瞬間
立つ水色の焔
むこうに伸びる小径
踏み入ったとして
戻ってこれるか
うまく入り込めたとして

これが
それだったかと
次第に遠ざかりながら
また瞬間を失う
先刻までのからだから逸れ
湯は募る
私も湯も形骸
新しい位置というべきものは
すべて骸

城塞の日々の退屈さに
夢見さえ熔解する
起こらないということの
透明な衝撃
生存のたくみさを
そう自慢せぬがよい
少し先の木の葉が揺れているが
〈風〉か
人知のわずか外に立つ
あれらへ
まなざしは向ける





「ぽ」292 2008年6月

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