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世界に気づかれないように



まだ風があり
雲も動き続けている
細くても
小川には水

まばらに道ゆく人も
どうやら
やすらかなようだ
街のほうでは
きょう
なにがあるだろう
犬がときおり
吠えあっている
烏のおしゃべりは
いいかげん
いつもながらに

カーテンをゆらす
風の手つきを
ある時から
意思あるなにかと
思うことにした
すると
見るだけで
対話のようになり
いつまでも飽きない
陽が生地に輝けば
それは微笑みのよう
揺れのひとつ
ひとつも
ずいぶんと複雑な
表情をしている

きょうはこのまま
夕べを
夜をむかえて
しずかに
消えるように
寝入ろう
風にも
カーテンにも
うちのなかの
ほかの物たちにも
気づかれないように

起きていたことも
存在していたことさえも
世界に
気づかれないように





「ぽ」307 2008年8月

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