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死んだ友よ、生きながらにして



                  O pour moi seul, a moi seul, en moi-meme,
                     Aupres d’un coeur, aux sources du poeme,
                     Entre le vide et l’Evenement pur,
                             Paul Valery: Le cimetiere marin
                     おお私ひとりだけのため、私ひとりへだけ、私自身で
                  ひとつの心のかたわらで、詩の水源にあって、
                  虚無と純粋な出来事のあいだで、
                             ポール・ヴァレリー『海辺の墓地』

Nous avons repete cette scene bien des fois,
mais cette fois-ci est la bonne.
Pensiez-vous donc que je ne puis etre separe de vous pour de bon??
alors vous voyez que ce n’est pas le cas.
(.......)
                  《L’art, la science, la vie libre》....,? freres, qu’y a-t-il entre vous et nous??
Paul Claudel : Ballade

ぼくらはもう何度となくこの光景をくり返してきた、
が今度こそは決定的だ
ぼくが本当にあなたがたと別れられないと思っていた?
これでわかっただろう、そうではないのだと
                  (……)
                  「芸術、科学、自由な生」、…おお兄弟よ、あなたがたとぼくらとのあいだに 何があるというのか?
                             ポール・クローデル『バラード』



死んだ友よ
生きながらにして
沈黙という撤退
返さない言葉という放棄
詩文どころか
手紙の数行さえ
もはや送ってこない
陰湿

死んだ友よ
生きながらにして
生きていると信じ込んで
ほかの世界こそ
相手にしていると
必死に見せつけてくる
衰弱

死んだ友よ
生きながらにして
惜しみすぎる
言動
慎みに似せた
傲慢
繊細さを装う
鈍感

死んだ友よ
生きながらにして
美を知を詩をうそぶき
自ら作ったのでもない事物の
かたわらで得々と
文化香らせ
忙しく努める
心のおしゃべり

死んだ友よ
生きながらにして
厳かなる体制の
また保証付きの反体制の
わけ知り人
うるわしく距離を保ち
冷静さと
静かな微笑みは
いつもながらの
慎ましやかな装飾品

死んだ友よ
生きながらにして
ときには熱情と
ときには断言と
ときには錯乱とが
適度に耳目を
惹くと知っている

死んだ友よ
生きながらにして
きみの好みにあわず
理解されもしない
体制でも
反体制でもない
非体制でもない
言葉のあれら
ならべ始めた
真昼

死んだ友よ
生きながらにして
ふんだんに
墓石の上
落ち続ける葉さながら
大量の言の葉をきみに
落とし始めた真昼の

死んだ友よ
生きながらにして
あの目眩む静謐
そこに芽生えた
ひとりあることの充溢
コンパスの喪失
方位なるものの消滅

死んだ友よ
生きながらにして
はや呼びかける気もないのに
きみに呼びかける
言の葉の作法
虚無と
搦め手から掴む
言ってみれば
真実
喩えてみれば
真理
幸いなるかな
きみの
生きながらにしての
不在





「ぽ」325 2008年12月

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