[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]


まみどりの海のさなか



  まみどりにとがって
   ゆれる
    ゆれる
     ゆれる
      稲の葉
  見わたすかぎりの
        稲の海


           バスは田んぼの中に停まって
            ドアを開いた


                     (だあれも乗らない)
                   (だあれも降りない)



                   窓際にすわっている女の子は
                    たぶん 中学生
                     まっ白いシャツに
                      細い紐のネクタイ
                       読んでいた本から目を上げて
                遠くを見ている
近くも?
見ている


                   離れて
いちばんうしろの席で
      (すこしばかり礼儀ただしい少年のよう)
   腿のうえに両手をチョンとのせて


                (なにも持たず)
                  (本さえ)
               (地図さえ)
                     (人生さえ)

                            わたしは

                                               心うたれる
                        女の子のシャツの
                       なんという白
                      なんというまっ白
                     まみどりの
                    稲の海のさなか


                    そうして


              まっ白い印象のまま
             まみどりに
            また まむかうと
           ああ なんと
          鮮やかな
         みどり
        まみどり


                   (だあれも乗らない)
                   (だあれも降りない)


バスは田んぼの中に停まったまま
まだ
                 ドアを開いている





「ぽ」91 2006年1月

[ NEXT ][ BACK ][ TOP ][ INDEX ]