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森が見える
なんども着信があったのに
用件の録音はない
森が見える
森が見えるのがぼくの病気
世界という棺の中だというのに
キャサリンから自動車を贈られたけれど
運転できないので森が見える
森はいつでも見えるので
キャサリンを抱いた時も 森
抱かなかった時も 森
なんども着信があったのに
見えている森はいつも森のままで
応えてくれない森は
遠くちかくに静まっている
ときどき霧にも包まれて
着信アリのランプを消して
届いていたたくさんの郵便物を開けはじめると
どの紙もどの紙もただの白紙
森が見える
死衣のように白紙、白紙、白紙
たぶんキャサリンは死んだと思い
キャサリンに電話すると
森が見える
不在のアナウンスが「ヨウケンナインデショ?
ナニモ言ワナイデ切リナサイ、静カニ」
森が見える病気の中に留まる気に
ついになる病気になって森が見える
という性質の森が見える
用件のなさと送られてきた白紙は似ているけれど
それさえも性質に取り込まれて森が見える
最近 からだも心も離れて
平気で生きている感じだけど森が見える
棺である世界から出るすべをつかんで
でも それをどう語ったらいいのか
わからないので
「森が見える」と言い続けている
「ぽ」97 2006年4月
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