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ぼくだけが、ほんとうはにっぽん人



にっぽんを死んだのはいつだっただろう
ぼくにはだれも大事なひとはいない
ここには
そう思ってほがらかに くったくなく
この社会を死んだのは

あまりにいろんなことがあったので
ここには
友だちも同感してくれる人もいないのを知っている
いざという時助けてくれる人なんて
ほんとにひとりもいないのを知っている
国のシャカイホショウセイサクは批難されてばっかりだけど
実際には「日本国」こそいちばん平等に
困りきった時のぼくを扱ってくれたと知っている

友だち、という遠い峰の頂のようなことば
きれいに標本にされて ときどき
絵空事を語る物語やドラマに ほんわかほんわかと
使われるトナリキンジョとか
ココロとか
そう、アイとか

そんなことばを湯水のように
惜しげなく使っていた頃もあったのだろうか
そんなことばを充たす内実が
ほんとうにこの世にあるなどと信じて

トナリキンジョで大音響でロックをかけているのが聞こえる
静かにしてと頼んでも顔も出さないのでまた警察に連絡する
商店ではどこもかしこも形式どおりのアリガトウゴザイマス
年賀状も暑中見舞いも今ではやけに商品じみたパソコン印刷
ソノウチ話シマショウそうね何千回か生まれ変わってからね
トニカク健康ニハ気ヲツケテクダサイネと安上がりの恩着せ
マッタクヒドイ政策ダとほんとに思うなら選挙ぐらい行けよ
厳選された素材など使っているわけもない見え透いた料理店
すばらしい作品ですねと五分で書き送って読みもしない詩集
誕生の知らせも喪の知らせも米軍の誤爆も無数の情報の一部
適量だけいいものを食べてすぐ帰るパーティー、パーティー
出口に平気で立ち尽くす馬鹿を押し出して降車する満員列車
愚痴をいかに重ねようとも血を以て体制をいじりはしない民
自分の既得権益の中に爆弾が炸裂するまで戦争は他所事の民

………なんちゃって、ね

ほんとうの気持ちや思いはぜったいにだれにも言わない
にっぽんの皆さんから受け継いだ最大のものはこれで
たしかになかなか 便利な処世のスベではありますデス
おまえだってにっぽん人じゃないか、って?
ええ、
にっぽん人
ぼくこそが、ほんとうはにっぽんの中心
ぼくだけが、ほんとうはにっぽん人





「ぽ」142 2006年9月

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