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接ぎ木



たしかさが彼らをもどし、反することで、あなたをよぎるきっかけがあると。門戸をうがつ、わけいることのない口癖だった。端切れにつどうようして聞き耳をたてる。きびすを返すようにして、と繋ぐのは彼、私は接ぎ木を通りすぎた。
あなたはとりとめのなさについて、無駄口のように樹々をまさぐる。庭であったものがまどろむだろうか。彼女は呼ばれるようにして、生々しさにゆきつけない。ふとした余韻が風につまずくので、私だった歓待、と掬ってみる。葉裏をまたたく、行方、行方。
門は唐突に、親しげに開け放たれるのかもしれない。豊かさが岬のように張り出す場所で、見知らぬ叫びにとまどうこと。挨拶をたちのぼらせ、おどるように朽ちてゆく、それはありふれたしとね、だったから。口々に羅列がざわめいた。あなたは昨日の後先で女を見つめる。
女は毛羽立つ浸潤をかこみつづけた。枝をかたどる私たち、いつかの木陰、ふとした会話、ふさいだ場所から離れては、他人の庭がなつかしい。彼らは季節のように脱皮をし、探すことで失うから。行き交って、あなたは誰でもなさを迂回する。 それは届くものだったと。ほつれてはほぐし、つかむようにして、彼らは葉擦れを聞きそびれる。あなたもまた、彼女を黙り、手招きのなかで逃していたのだ。またぐのは彼、枯れては沸きたつ、繁ったものが、耳の先から殺到する。
仕種が風に運ばれるようにして、生まれることが。口癖が挨拶に消えるようにして、なじむことが。あなたの声をとじたかった、彼女は叫びのなかにとどまるだろう。思い返しては、伸ばした痕跡を忘れるのだ。差し出す一瞬、受け取っては、彼らはあなたをこぼしてゆく。取捨の果てが庭にうずもれ、彼女の眠りが声をあげた。幹がめぐるその前に、私は私を重ねてみる。あなたになりえた男がふりむく。差し障りのない会話、街から門をたずねる者、女は接ぎ木を指し示した。鈍い痛み、だけが彼らをよぎるのだ。遅れては、たぶん治癒だとつげる頃、あなたはあたらしい耳でやってくる。



(初出『Poem & Essays ei』2002 No.34/粒来哲蔵氏編集)
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