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夏の手紙



イルカの群れ泳ぐLENNOX HEADの
切りたつ断崖にすわりこんで
気持ちのいい朝や夕暮れ時には
いつも賛美歌をうたっています


  忘れかけていた頃に便りが届いた
  蘇る記憶の形はもうかすかでも
  ふたつの心がつくりあげた物語だから
  特別な引き出しにしまいこんできた


お手伝いをしている教会の神父さんに
神さまのお声がきこえますとうちあけたら
とても困ったお顔をされていました
いつも神さまの声を聞くようにとお説教されるのに


  君がはじめてピエタの絵葉書を
  ローマから送ってくれたとき
  僕は僕らの生きている時代をはかる
  大きな球体の確かな存在を感じた
  触ってまわることはできないけれど
  世界の果てはそれほど未知なものじゃないってね
  君がドイツ人の恋人とこの国を去ったのは
  もう30年ちかく前のことだ


今度サザンクロス大学に籍をおくことができて
自由な創作ができる環境になったんです
踊りとスライドと音楽をくみあわせた舞台で
私の神さまのビジョンが実現できそうです



  それから何年かして
  シドニーから便りがとどいた
  僕の球体は南半球まで輪郭がしっかりしてきた
  君はロックバンドでキーボードを弾いて
  歌いながら神さまと長い旅をしていたんだ
  町角からベルボトムと長髪がきえて
  この国ではひとつの季節が終わりかけていた


ビデオができたらお送りしますね
I keep goingです もうちょっとwait 下さい


  しかし何か終わる事ってあるのだろうか
  南十字星のしたにはコミューンがまだ沢山あって
  燃える目をした人々が澄んだ夜空をみつめている
  そういうことが本当でも本当でなくても
  記憶の中にけして終わらない時があるのを
  僕らはもう知っているのだから


LENNOX HEADの
切りたつ断崖に立つ君の肩には
金色の輪のような残照が照り映えている
歌声はいつのまにかマントラにかわっていて
もう波や風の音と区別がつかない





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