[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]



将棋のソネット



鋼鉄の舟のかたちの布陣を抜け
ひとり前線に急ぐ銀の鎧の若武者
誰もが捕虜となれば寝返る
死ぬ者のない消耗戦のはじまりだ

荒涼とした原野の果て
はるかに前線を遠望すれば
居並ぶ兵の槍襖の間から
優美な美濃囲いの陣容がのぞく

忽然と躍りあがる騎馬武者を
兵が射止める間隙をぬって
滑空する龍騎兵の蜥蜴に似た黒い影

混迷する敵陣に紅蓮の旗は翻り
右翼から瓦解する城塞深く
王はまだ穴熊のように身を潜めている



解説)

この作品は、「うろこアンソロジー2007年版」に寄稿させていただいたものです。
将棋の「居飛車対振飛車」の一局をイメージした、
この作品には、いくつかの将棋のゲーム用語が使用されています。

第二連までの手順を示すと、

▲7六歩 △3四歩
▲2六歩 △4四歩
▲4八銀 △3二銀
▲5八金 △4二飛車
▲6八王 △6二玉
▲7八王 △7二玉
▲3六歩 △8二玉
▲3七銀 △5二金
▲9六歩 △9四歩
▲1六歩 △1四歩
▲2六銀

と、いうような感じでしようか。


ARCH

先手▲は、自陣の王の守りを「舟囲い」に囲い、
飛車先に銀をくり出していく「棒銀戦法」を取っています。
後手△は、飛車を振り、王(玉)を「美濃囲い」に囲って対抗しています。

中盤での小競り合いを描いたのが、第三連で、
先手が「桂馬」(騎馬武者)の駒を後手の「歩」(兵)の犠牲にして、
その間に「角」(龍騎兵)の駒を後手陣に成りこんだりしています。
(「角」は、相手陣に到達すると「龍馬」という駒になれます)。

第四連は終盤で、
先手の駒は後手陣に乱入して「と金」攻めを敢行しています。
「歩兵」の駒は成ると、「金」の駒と同じ働きをもつ駒となり、
そのとき、赤い文字で「と」(「と金」と呼びます)と表示されます。
実戦で、複数の「と金」を使ったこの攻め方をされると、
そうとうきついものがあるのですが、
その赤い駒の色の鮮やかさや賑やかさが、
作品では「紅蓮の旗」でイメージされています。
やや劣勢に陥った後手陣は、崩れかかった自陣の「美濃囲い」を、
「穴熊囲い」に組み替えて、まだ頑強な抵抗を試みています。




[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]