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連作「わがオデッセーから」


風雨考 ――わがオデッセーから4



海からの
塩だらけの
雨と

そのなかを
(われわれの内部を)
(蝋燭をともすように)
複数の路は
迷走神経のように奔ってゆくのだ

そして
富士塚暗黒
雷鳴を喚んでいる「加藤マンション」の
白亜の窓の内側で
下着を付ける翳
かすかな闇の引き攣れから
光は裂けてゆくだろう
水滴を
たわわにまとう迷宮の
篠原台
清潔なタンク・ローリー車を道端に停めて
男が
鮮血を洗っている
われわれは
真っ赤に割かれた肉をあがなう存在
薬局のガラス戸が映す
冬の雲の彼方への
(一瞬の眠り?)
ほとばしる光と水音のうちにやってくる
ながく深い目覚めまで
ほそい曼荼羅の金線にふちどりをされて
精緻な宇宙の夢を見つづける
ちいさな街の
仏閣の空
われわれは アジール
「ケンタッキー・フライドチキン」の
煮える油の壺を過ぎ
しなやかな学究である
古書「普賢堂」の若い店主に挨拶をすると
はや外は冬の霧
水道道(すいどうみち)にむかって
腹が減って
酒が飲みたくなってきた



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