[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]



連作「わがオデッセーから」


白木蓮 ――わがオデッセーから9



春の水のなかで眼をつむる
浴槽は昼
あの
きらめく諸尊を浮かべる
白木蓮の木までの
千年の距離
木造アパートのうちがわに
果てしなくつづくうららかな日
生と死の秘密は燃えさかるのだ
青空から垂れる金の紐を
盲者のようにたぐって
こわれやすい肉を洗う
湯にひらくほのかな蓮弁
(外に呼ぶ声?)
風に吹かれ
上気して
濡れた髪で出てゆく花盛り
透明な鳥のさけびが落ちる公園で
しんかんと裂けている鮮烈な白を見る
コップ一杯の酒を干し
ゆっくりと立ち上がるわれわれから
やがて光は
深い藍をたたえた永遠のほうへ
かぎりなくかぎりなく破壊されながら離れてゆく



[ NEXT ][ BACK ][ HOME ][ INDEX ]