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宴会



 三年に一度の集まりはなにげなく始まった。扉を開け、次
々と入ってくる客を迎え入れる。まず振る舞われるのは、軽
い酢の味がする発泡酒で、けれど腹に何も入れていないとち
ょっとばかり頭に徹(こた)えるかも知れない。女たちから
先にそれをやる。次に出てくるのは小ぶりの乾パンに載った
鳥の脂身とか小魚の燻製のようなもので、塩の味は全体に薄
い。これも女たちと子どもから振る舞われる。手拍子の後、
ひとしきり傾くレインスティックの雨だれ音から、本当の
《夜の集い》の始まりだ。さいしょ、脂身として出された鳥
の本体が、大きなロースト肉で登場する。二羽も、三羽も。
それを主人が切り分ける。男たちは濁って少し渋く、強烈な
味のする飲み物を好んで飲みながら湯気の上がる肉にかぶり
つく。かたわらを子どもたちが骨付き手羽肉を手に走り回る。
男たちの声、子どもたちの声、若かったり、年老いていたり
する女たちの声が、みんな違う音程と時間をもってかさなり
あい、反撥し、また反響して、一千の鈴を振るように大広間
に渦巻く。三年の不在が埋められるのだ。魚が登場してみん
なの目の色が変ってくる。魚は生きたまま海水の水槽に入れ
て、砂漠を越え運ばれてきたからだ。大人の片腕ほどの大き
さの魚が一ダースほど、蒸し上げられて大テーブルに載せら
れる。貝や雲丹も同時に振る舞われる。女たちの好む透明で
辛口の発泡酒と一緒にみんな、ミネラルとヨードと、新鮮な
魚肉だけが持つ甘さにうっとりとして、また始まった手拍子
とともに星の歌、月の歌が体を揺すり歌われる。山羊は千頭、
牛は千頭。主人が口笛を吹く。真鍮のきらめく盆に載せられ
たショットグラスに、高貴な揮発をつづける殺人的に高い濃
度を持った蒸留酒が注がれ、五つの区画の住民に配られる。
歌はさらに高鳴り、手拍子、一千の鈴を振る声の楽器がさら
に大広間を満たすなか、突然厨房の大扉が開いて、口に荒野
の花を銜えた牛一頭の丸焼きが登場する。


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