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水をさがして



       笑向春風初五十(わらつてしゆんぷうにむかうはじめてごじゆう)
       敢言知命且知非(あえていわんやめいをしりかつひをしると)   ―杜牧


水が匂うのは河の光が射すから
めざめれば
密かな太鼓や
葡萄
くさぶえのように
躯のなかへせせらぎおちる多摩川
みがかれた水滴の
白髭神社
長じては、堰堤のコップ酒
鴨川沿いの
巫女の親戚がいる居酒屋の屋根に
赤い小さな竜みたいにうねり泳いでいる旗
曼荼羅はほのかだから
あそこのパーシモンの木の丸椅子で
北方の悪漢のしぐさをつかい
おやじ、コーリャンチューをもってこい
大蒜も添えて、な
なければ透きとおった岩塩でいい
ゆっくりと細いあごひげを撫でるのだ
書懐の詩を読んで、銅鑼は
千年の韻をひびかすのか
鳥居を抜け
白丁を着た秋がふいに消え
ことしはるり色の萩が閃きつづけて
ながすぎる装飾楽句みたいにいつまでも止(や)まらなかった
おお、酔いがとまらずよ
絶対のくさむらの金声のさなかでめらめらと青い
瑪瑙のごとく
つめたい水が燃えている、河越しに
蕎麦をふるまわれ
飲めと陶(やきもの)をつき出され
諾々として
酔いがとまらず
円窓の向うに、初しぐれ
猿も小簑をほしげ也

 


(「tab」8号より)

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