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食日記



2008年06月13日
02:05 食日記115

朝。
きょう多忙。依て手短に。女房がいるのでオムレツを作り(これ彼女作)、パンにそれとハムとレタスを挟んであさめしとする。付優秀混濁林檎ジュース。

昼。
病院のあと、「ジョナサン」でチキンとエビフライのランチ。女房は鶏みぞれ煮ランチ。
そのあと、国立新美術館に行き、女房の関係者の作品が出品されている書の展覧会と、同じ処で開催されている「エミリー・クングワレー」展を見る。衝撃を受ける。圧倒される。

夜。
そのあと、銀座に行き、過日終わった連句の打ち上げ。お話はさざ波のように4時間あまりに及ぶ。女はそれでよいのかも知れぬが、ついに結論のない舞台というのは、男には文化的にたぶん堪え難いものがある。

家に帰って酒。これにかぎる。

六月の夕晴れ綺羅をきはめけり
ふるさとの夏は緑の色深く
霽れゆけばみなづきひかり斧の如  解


2008年06月13日
22:23 食日記116

朝。
朦朧としてさまざまな思念が渦巻くうちの一つが非道く気に懸かって突出してきた。出所も知れず言葉も当てはめることの出来ぬそれが、突如言葉となって口を衝いて出た。「きょう、ゲラは午前中に返すのだった!」。なりふり構わず支度をとりあえず調えて、護国寺に急行。めしは途中の「えきめんや」でかき揚げ蕎麦をたぐったがろくろくのどを通らず。会社に着いたのが実に12時10分前というありさまである。

昼。
家に直帰。パン屋で買ってきた調理パンを食べてひるめしとする。サイテー。それから昼寝。これはものすごく気持ちよかった。生き返る。夕方になったのでまた支度。

夜。
午後5時、生麦駅の改札でたままんと待ち合わせ。とりあえず、入ったことはないが前から気になっていた「もげ」という居酒屋に行く。生ビール、豚肉の串焼き、鶏つくねの揚げ物などでヤっているうち、口開きのわれわれのほかには誰もいなかったところにどやどやと10人ばかり、入ってくる。夫婦者でやっているみたいな店はこれだけでも大慌て。われわれのことはほっておかれる。ところへ、また客が来て、6人大丈夫かと聞く。またまた夫婦2人は大パニクり。われらは客寄せパンダか、と呟くたままん。これではかなわんと次に行ったのは、正統派バー「キングペリカン」。ここであらゆる世俗に属することが密談の対象になる。今、これを読んでいるあなたも、あなたも、あなたも、みんな話題に上っている。勿論それ以外の方々も。さいしょはシングルモルトのグレンフィディック、次からは、たままんはエンシェント・エイジのAAAのハイボール、私はジン・ロックにライムを添えただけのものを果てしもなくお代わりする。そうしているあいだにも、ここにも客がどやどやと。客寄せパンダだから、と又たままんがぽつり。たままん、明日は早いというのでここを出て、さいごに「自由軒」でそれぞれ名菜・もやしそばを食ってお開きにする。こんどまた、いい(と)こ紹介しますぜ、とたままん。そのころころ転がる後ろ影を生麦駅の長いコンコースに見送って、さて、いまこれを書いている。

とほくなる海歌ふもの夏のもの
うつそみにあらぬ於面影なつの姉
鶴見より六浦までや夏一ツ  解


2008年06月15日
02:38 食日記117

朝。
よんどころない用事で無理にも早く起きる。レタススープ、優秀混濁林檎ジュース、それに発芽玄米パンのトーストは1枚ぜんぶ食べきれない。

昼。
よんどころのない用事を済ませ、なぜか私もそうだが礼服の坂井信夫氏とひるめし。五目餡かけ焼きそばに生ビール1杯ずつ。両方ともあまり旨くない。氏の個人誌が追悼号をやるというので、よんどころない関わりを持つ人についての文章を書くことになる。

夜。
帰宅して自ら肩に塩を撒き、装束を解いて長い午後、昏々と昼寝。思いのせいとも言えないのであるが、やっぱりばんめしを作る余力がないので、申し訳なきことなれど、きょうも外食。イケナイこととはわかっているのだが。キッチン「ひらやま亭」にて、合鴨スモーク、トマトとアスパラのバルサミコ酢のサラダ、石焼き明太ピラフ。これらを冷たい生ビール(再び)でヤる。きょうはワインを飲まなかったので、何かアルコールを、と考えて、メニューにあったジントニックを頼む。これはこの店の料理とはかけ違い、冗談みたいなもの。不満を抱えた様子なので、女房を昨日行った正統派バー「キングペリカン」に連れて行く。そこで彼女はエンシェントの3A、私はケンジントンというジンで初夏の夜を満喫する。故人はいまどのあたりの空を泳いでおられるのであろうか。

 寄大木重雄丈
黒タイを締めてはつなつ小さき駅
この夏をかほをしかめて笑ふらむ
燗酒をいつかの宵に酌み合はん 


   2008年06月16日
01:17 食日記118

朝。
二日酔い。午後一には配水管の清掃が来るから、なんとか準備を整える。レタススープしかのどを通らない。薬のためだが、服薬したあと胸がむかつく。サイテーの気分。

昼。
配管清掃が帰ったあと、心身に鞭打って仕事の赤字合わせをする。2、3時間もすると体力の限界が来る。胃の腑のあたりがすうすうしていて、これはめしば食わんとならんと思ふ。ふらふらと家を出て、蕎麦「味楽」で温饂飩付きのカレーライスセット。隣で食事していた御仁の、1410円という勘定がメニューのどういう組み合わせからなっているのか、どう考えてもつじつまが合わない。などと、どうでもいいことを考える。

夜。
家に帰ったら力がついて、280頁あまりの仕事の第1回目の読みを一挙に終わらせることが出来た。
ばんめしは、そら豆とメークイン、アスパラ、豚ひき肉の炒めもの。茄子の細切り、紹興酒と豆板醤、干しエビの炒めもの。
これらで主に一番搾り。
鮮魚「魚徳」の鯛刺身をアテに、さるニョシャウから贈られた極上の日本酒をヤる。これは、刺身ばかりでなく、脂っこい中華の炒めものにも抜群の相性のスグレモノである。時として日本酒の凄いのには、こういうのがあることを知った。

吾の此の暗愚に匂へ椎の花
生麦に住みて海なき夏はまた
天才のやうに縊らる夏鳥や
きらめきの朝を背戸にや夏隣   解


2008年06月17日
02:46 食日記119

朝。
女房有給休暇を獲得。労働者の当然の権利なんだけどね。で、朝はゆっくり。とりあえずいつもとおんなじではつまらないということで、愚生が具だくさんのスープを作る。いま貴重品となっているバターの備蓄を贅沢にも使って。

昼。
私の仕事の2回目の素読み。終わらせると午後遅い。ふたりで蕎麦「味楽」へ行き、冷蕎麦と薯蕷めし、海老天ぷらの定食を頼む。外は素晴らしい天気!

夜。
思いつきの中華風。厚揚げとハム、青梗菜と干しエビを炒め、水を入れてから酒、中華スープ、塩胡椒で味を調えた煮浸し。海老の味がけっこう濃くて旨い。それから普通の焼きそばを焼いて(焦げ目をつける風な焼き方)皿に取っておき、別にもやしと豚バラを強火で炒め上げ、鶏ガラスープと酒、それらを水溶き片栗粉でまとめたやつを皿の焼きそばに掛ける。これだけだが、心ある向きはやってみられたい、シンプルですごく旨いよ。あとはトマトのエクストラバージンオイルかけ。これらで一番搾り。
菊正・燗のアテは、きょうも鮮魚「魚徳」で奨められた鯛。昨日の若いやつの切り方はどうもならんしろものだった(一度、こいつにこれではお金は取れないよ、と言ったことがあって、それから学習したと思ったが)。きょうは、きのうのその若いもんにイジメられてい(るのを私は慥かに見)た、要領の悪い、もう一人の若いもんが同じ鯛を切るのを任されたが、これが愚直なりにちゃんとしたものであったことに、すこしほっとした。希望を持つ、というところまでは行かないが。

夏空や帆の絶望の真白かな
かちかちと星歯がみして空高し
すひかづら、きみ、ほんたうの香を知るか   解


2008年06月18日
01:09 食日記120

朝。
ヘルスメーターに乗り、体重の増加傾向を知る。女房、連続して有休。鼻歌も出んかぎり、彼女。あさめしは、発芽玄米食パンを焼き、それにハムとレタスとマヨネーズを挟んで、無塩野菜ジュースを合わせる。

昼。
銀行に行ったり買い物したりひるめしを摂ったりするために生麦に下りる。
降りる階段の途中、どうしても家内から遅れがちになる。階段の脇にある藪に花や虫やその他立ち昇る生物的なもののもろもろに見入ってしまうからだ。火曜日は中華「自由軒」は休みなので、昨日と同じ蕎麦「味楽」にて、ふたりとも今夏はじめての「納豆蕎麦」を食うことになる。まいう。

夜。
女房が(私が昼寝していたあいだ)メモしておいたレシピがあるので、そのソースでパスタを食わせてくれ、という要求は前々からで、今晩それを決行することになる。ニンニク、玉ねぎをオリーブオイルで10分間、焦げないように気長に炒め、アンチョビ、ブラックオリーブを投入、併せて茹でているパスタの茹で汁をソースに加えなどして、仕上がりにブラックペッパーをたっぷりとゴリゴリ入れる。あとは茹で上がったパスタと合わせて完成。まず玉ねぎが思いがけなくも甘いが、アンチョビとオリーブの風味によって、イタリアのどこやらの田舎くさい漁港にいるような気分にさせられる。これはこれでけっして悪い気分ではない。もっと酒を! と言いたくなる。もっと音楽を! でもいい。これにブロッコリーとアスパラガスと「鎌倉ハム」のサラダ。ハムは1人あて1.5枚という貴重さ。一番搾りはモチのロン。菊正のアテは、鮮魚「魚徳」のまぐろぶつ。ヅケにして杯一。まぐろをヅケにすると秘色めいたあぢはひになる。

丘よりは海につらなる梅雨山嶺
雲の峰退きつつ悪き花せまる
いちじくの悪ほぼ酒のかをり哉   解


2008年06月19日
01:04 食日記121

朝。
バナナ1本、というのをあさめしにやってみる。意外に調子いい。食してしばらくすると、ふたたび腹が減ってくるのであるが、これが胃の腑の窮乏の感じではなく、体全体の循環のしからしむるところ、という点が優れているのだ。

昼。
とはいえ、中華「自由軒」の営業時間に間に合わなかったので、岸谷「フレッシュネスバーガー」で重厚なクラシックバーガーを頼んでしまう。ごめんな、近藤くん。クレアチニン値の綱渡り、という感じ。それから仕事を納品しに護国寺まで長駆。途中の有楽町で、ひさしぶりに「ザ・ビッグイシュー」のおじさんに会う。ここのところ、見えなかったり、荷物だけ置いてどこかへ行ったところに遭遇したりという具合だったが、有楽町駅の銀座側と皇居側の口にかわりばんこで(人手不足だということで)立っていたりしたのだった。

夜。
納品したあと、横浜まで又長駆。その間、柳田國男『地名の研究』に没頭する。ためになることや残すべきこと、などさまざまあろうが、私が感じたのはこの書の措くあたわざる面白さである。これは一遍読んでみな、というしか云う言葉を持たない。わかりやすい説明ではわかりっこないのだから。読書は女房と会うまでの横浜相鉄の「アフタヌーンティールーム」につづく。目を上げると不図女房がいて、さあ飲もうぜといわんかの顔でこっちを見ているので、引きずられるまま、地下の沖縄料理屋に行く。生ビールはオリオンビールがあるというのだが、オリオンビールの生ビールなんて、語義矛盾ではないかと思い、いつも飲んでいる一番搾りの生を注文。それから定番のゴーヤーチャンプルー、ぢーまみー豆腐、初めて邂逅する「ひらやち」とかいう韓国チヂミみたいな焼き物で腹をくちくしたのち、らふてー(豚角煮みたいなもの)、うみぶどう、すくがらす豆腐、豆腐ようなどをサカナに、北谷(ちゃたん)のくーすー(古酒)でタノシイ宴の時間が始まる。何を話したのかはよく覚えてもいないし、そういうことが大して意味のあることとも思われない。大事なことは、ここは横浜相鉄ジョイナスの地下にほかならないが、一時的に・一挙にここを、マルティニクとかバリとかに比類する霊的な南のシマの時間が過ぎったことだ。泡盛に乗って。

夏蜜柑暗き林にかがやけり
生者ゆゑ夜つぴて夏を起きてゐる
かきつばた深く畏れん蒼さ哉   解


2008年06月20日
01:54 食日記122

朝。
きょうは病院。バナナ朝食をしばらく続けてみようかと思う。もとより朝はそんなにたくさん食べなくていいのではないかと考えるからだ。

昼。
きょうの病院は内科で腫瘍マーカーの結果を聞くだけ。といっても、さいしょのころはこれを聞く胆力がよくあったものだと、いまでは心からそう思う。数値に異状なく、全体における安寧を告げられる。すぐに支払いを済ませ、薬局へ行って(可成り空腹を覚えていたので)受付のおばさんにすぐ出来ますかと聞いたら、すぐには出来ません、5分10分はかかりますと切り口上でぬかしやがった。どれほどのことがあって腹の虫の居所が悪かったか知らないが、じゃあおめえ、あれかい、処方箋を出してから3秒で薬が出来上がるのを以て、この薬局では「すぐに出来る」と云うのかい、と聞きたくなる。このおばさん、ときたまこうなることがあって、そのたびにこの薬局を止めようかとも思う。
で、ひるめしは「ジョナサン」の豚肉キーマカレーである。私のはライスおおもりにしてもらった。ここは蒲田だが(地域ジョークである。許されたい)。付け合わせのピクルスは私の嫌いな甘酢だが、抵抗なく食べられる。思うに、砂糖の加減よろしきを得ているからだと愚考する。

夜。

鎌倉ハム入りマッシュポテト。青梗菜、きぬさや、人参と豆腐の干しエビ入り煮物。一番搾りと菊正で。
「ラスト・フレンズ」最終回を見る。ドラマの中の公家悪みたいなやつが死んじゃってから、途端にドラマが平板になる。出来としては「のだめカンタービレ」の方に軍配が挙がる。それよりも最終回まで「完璧な」ドラマとして記憶に残るのは、新作の「白い巨塔」(唐沢寿明主演)を措いてより外はない。これには少なからぬ私情も交じっている。

梅雨空や雨飛ンで乾く錆びトタン
飴色の辣韮臭し懐かしき
冷ややつこ口に含めば父祖となる   解


2008年06月21日
00:38 食日記123

朝。
バナナ1本をまず食べる。妻はパンにオムレツとレタスを挟んだものと、ジュース。羨ましかあないわい。バナナもう1本食べる。その後服薬。とまれちゃんと食べておかないとこの服薬で気持ちが悪くなるのだ。1日8種23錠を服まねばならないから。

昼。
中華「自由軒」で、妻もいたので自由軒特製オムライス(という裏メニューがあるのだ)に、野菜スープ。女房はその後レッスンのために実家のある千葉方面へ、私は銀行やらコンビニエンスストアに寄ったり、あれや、これや。

夜。
午後7時過ぎに女房が帰宅するまでぐっすり宵寝をしてしまった。覚醒時、右手にいつものてんかん性痺れ。左の脳の運動野に治療の痕跡があるせいだ。でも、これまでよりだいぶ弱まっているという強い自覚がある。
猫にささみをやったあと、今年初めての枝豆を茹でる。それと、豚バラともやしの炒め焼きそば。これらでビール。枝豆は殆ど二人で争わんばかりにして。
菊正のアテは、きょうは金目鯛の刺身。鮮魚「魚徳」に入店したら、すぐさま社長が寄ってきて「きょうはこれ」と言う。そういうときには何にも考えなくていい。
菊正をちびちびやりながら「誰でもピカソ」を見る。フジ子・ヘミングと上原ひろみと、それから何とかいう「シャンソニエ」。ピアノに関しては、連れ合いは厳しい。フジ子がショパンの「別れの曲」の冒頭を、教科書通りと個性的に、と言う二通りで弾いて見せたのが、教科書通りの演奏の最初の処でホラもう間違うとつぶやく。フジ子が私の心の支えの曲という「テンペスト」の第3楽章は、フジ子の心の色通りどころか、これこそが教科書通りの演奏なのにねとまだつぶやく。いったいに、女房はフジ子・ヘミングのミスタッチや脱音等に非寛容なのではなく、こうした伝え方をする「誰でもピカソ」の作り方にものすごい違和感を感じているのだ。
あれこれの「作り方」があるにしても、でもそれを超えて、上原ひろみは凄かった。あれは聞けてほんとうによかった。いろいろな余計な予断を持っていたからこその、これは今夜のわれわれの収穫である。
さて3人目の佐々木秀実というひと、これは前2者とはステージを異にする、はっきり言って格落ちだな。色っぽいかといえばそうでもなくて、顔がアップされるたびに顎のあたりに目が行ってしまうのは、髭が心配されるからだ。こんなんでは玉三郎など引き合いに出すのを見るのは可笑しくてやってらんない。ましてやピアフなんて!


胡瓜にほひ雨を忘れてしまひけり
はつものの枝豆のあを塩で揉む
つゆなれど湯気のあふるる勝手かな   解


2008年06月22日
01:52 食日記124

朝。
バナナ1本、というのをまだやっている。カラダによいかどうかは未知数のところがあるが、とにかく皮をむいて食すだけ、という簡便さがいい。

昼。
夕方には出かけなくてはならないので、あんまり生麦には下りたくない。で、岸谷のパン屋でカレーパンとハムと卵のサンドイッチを買う。カレーパンは揚げたてで熱かったので、冷たい卵・ハムサンドとは別の袋に入れてくれる。これはいつも行っているベーカリー「ビオレ」ならではのこと。

夜。
タクランケさんと六角橋「メリオール」で飲む。降り出した雨のなかを店まで行き、席に座ってまずビール。ここのはサントリーである。最初の食い物はアボカドのディップ・自家製トルティーヤ付き、それからヤムウンセン(タイ風春雨サラダ)。この間に、タクランケさん、ボウモア10年をやってスデニいい気持ちになっている。次にすぐさま、アーリータイムスのロックへ。私は赤ワインからゴードン・ジンのロック・ライム片(へん)浮かべに替わっている。ここへ、チキンのミラノ風カツレツというのが登場するが、うまくやったものだと思う。ミラノ風カツレツは仔牛の肉を叩いて揚げるのだが、この感じは脂っぽさを限りなく離れたものなのだ。いうなればパサパサの薄い肉に欲望を覚えさせるようなものなのだ。それがたぶん鶏の胸肉あたりを使用することによって、肉を叩いたかのような質感が実現している。盛んにこれを食っていたら、遅れて女房がやって来て、ビールを片手にこれおいしいとカツ片の最後のやつまでを平らげる。彼女、まだ空腹だということで、鶏肉のラグーソースのスパゲッティを頼む。やって来たものを少し分けて貰う。濃厚な味。チーズを頼んだが、それさえも要らないような。何か匂いがあるが、フレーバーとしてはバニラに近いものが感じられるが、あるいはその匂い、丁字に似ているかも知れぬ。いずれにせよ、甘い匂い。バーテンに聞いたが、そんな香辛料は使っておらず、でも幾通りものハーブは複合使用しているので、次に同じものを作ってくれと云われても無理だという気がするとか。気がつけばタクランケさん、ジンを何杯かお代わりしている。気がつけば私もいつのまにか。タコスとチョコレートを頼み、女房はカルヴァドス、タクランケさんはドライマティーニ、愚生はグレンリベットを頼み、気がつけば女房も「マスターのつくる」ここのドライマティーニを飲んでいる。タクランケさん、ここはよい店だとつぶやき、店には丁度だれもいなくなり、ジャズだけがくぐもって聞こえるなか、帰去来の声が響く。雨のなか、メリオールの傘を借りて、それぞれの家へ。

傘借りて何逃れけむ夏の雨
せみの声出づるともなき土の色
煮浸しの茄子なにゆゑにまづきとか   解


2008年06月23日
01:34 食日記125

朝。
バナナ1本、それに水。水の代わりに何か有ってもいいかも知らぬ。でも、調子はいいと云わざるを得ないのではないか。出来上がった新詩集の持ち重りを手に、にやにや。

昼。
発送先の一覧表をつくる。と、同時に最初に送る分の荷造りを執り行う。300部がほどつくったが、過半数を送ってしまおうとも思う。今日まず24通ほど送ったが、可成りの労働である。あるいは送り忘れの向きもあろうかと思うが、それはお申し越しの時点で残部があれば善処しようかと考えている。ちなみに、かりそめにつけた詩集の頒価は1500円。おこころざしのある方は、ビンボーな詩書きに尊きご喜捨を。
というわけで、ひるめしをとりにざあざあ降りの雨のなかを生麦まで下りていったのは、もう午後4時を過ぎてからのこと。辛抱たまらず腹が減ったので(でも、何で毎日毎日こうして腹が減る?)、中華丼の大盛りというやつを中華「自由軒」にて頼んだところ、おすもうが食べるみたいな大盛りめしが湯気を上げてテーブルまでやって来た。ほとんど米のめしのヴォリュームだけで1000円を超える食事というもの、その境地をいままで知ることがなかったわけだ。きょうから愚生も何かそういった部類のコミュニティのお仲間に入る資格を得た気がする。なんとも怖ろしいことだ。

夜。
夜ではないが夕方に、タクランケさんのご友人で以前私と詩集のやりとりをした方(すぐれた詩を書く)に、こんどの新詩集を送りたいと思うが住所を失念したと思い、タクランケさんに電話したところ繋がらず、以前のメールを検索したらその住所が出てきたのでほっとしていたら、こんどはタクランケさんから折り返し電話。これこれこういうわけで電話したと話したら、いままさにそのご友人でもある詩人と有楽町で飲んでいるとのこと。また、私の詩集の話をしたばかりだということ。何という奇縁! と互いに嘆じあったことだ。電話を終え、メール便を出すためにクロネコヤマトに電話して、送る部数を聞かれる。うろ覚えで24通くらいと答えておいて、電話を切って確認したところ、タクランケさんとの電話の前に荷造りしておいた部数は23。ご友人の分を合わせてはじめて24通になるということが判明した。ちょっとゾッと肌が粟立った。
ばんめしは、アスパラのいいのがあったので、それとベーコンのパスタ。茄子とハムと干しエビの辛い炒めもの(生姜と紹興酒風味)。これらで一番搾り。
あとは鮮魚「魚徳」の鯛。消去法で残ったものだが、魚臭いところが却って今夜の菊正・燗の気分である。

降り止まぬ暗さに夏は痛き程
相模のやイサキの塩の海のあを
生者より死者に数益す友と夏   解


2008年06月24日
01:23 食日記126

朝。
バナナ2本。エクアドルのエナーノ・バナナという農園だかブランドだかのもの。少し傷みかかっているのを除けて食べても、非常に甘く、薫り高く、ねっとりとした食感で旨いものだ。それにしてもここに届くまでには、きわめて劣悪にして苛酷な労働の時間を経てきているのではないか、などと思ってしまう今日この頃の世界ではある。質は出来うる限り高く、経費は出来うる限り低く。間で存在の質まで搾り取られるのが人間である。このままでゆくわけがない。

昼。
途中ひるめしと晩の買い物による中断を入れて、午後6時くらいまで詩集の荷造り作業。宛名を書いて詩集に謹呈の栞を挟み、防水の樹脂製の袋に入れ、封筒に入れてガムテープで封をして、さいごにメール便のシールを貼る。宛名書きが名簿・名鑑の類を参照せねばならんので、これに時間を多く取られる。メール便のその日の最終の午後6時までに30通がやっとというところ。これによってこれを見るに、すべて送り終わるまでに1週間はかかるということになる。詩集300刷っても、いつもは100か150くらいしか送らないのでモウ大変。
あいだに散歩兼買い物の時間。きょうは蕎麦「味楽」で天せいろ。タンパクを気にしていままで頼まなかったのだが、海老天のほかは野菜天だったので、これならこれからも注文してもいいと思う。

夜。
発送作業を終え、しばらくベッドで休憩。しかるのち、女房が帰ってきたので、まず猫にめしをやり、ばんめしにとりかかる。
きょうは生クリームが賞味期限を迎えていたので、マッシュポテトを作製。これに生クリームとパルメザンチーズを入れ、少量のカレー粉で風味をつける。
茄子・いんげん・ピーマン・ズッキーニ・玉ねぎと地鶏もも肉でトマト煮をつくる。豆板醤を入れたが、これが意外に合うのだ。
以上、一番搾り。
けだし菊正のアテであるべき今日の鮮魚「魚徳」の鯛は、コリャ全くダメだったな。女房曰く、そういう鯛の時はやめときなよ。だが、「そういう鯛」をどうやって見破るのだ。これは魚の身を凝視するより、社長の対応ぶりと若いもんの目のきょろきょろ具合から推し量るほかないだろうね。

酢のやうに雨飛んでくるつゆぐもり
かくばかり海まで遠きみなづきぞ
一舟の消えゆく夏の白さかな   解


2008年06月25日
01:59 食日記127

朝。
ゆうべの残りの豆板醤味トマト野菜煮と、パン・ド・ミーの生パン、優秀混濁林檎ジュースで幸せなあさめし。

昼。
朝に一度二度寝してしまったので一日の残り時間少なめ。でもって詩集発送作業に精を出す。きりのいいところでめしにしようと生麦に下りる。山のきわが夏の太陽の光輝で青みがかって見える。ああまた夏が来るのだと、跨線橋の上で感じ、思う。岸谷の丘がえぐれて見えるようなところがあるが、あれはちょうどエミリー・クングワレーがふるさとアルハルクラの岩山に見た聖なる穴として、自らの鼻の両の穴をつなげた、そんな感じがする地形であり、そんな光輝を感じる。これは私の偏りであろうか。蕎麦「味楽」では、小海老天の綴じ丼と冷たい蕎麦。この店で一番オフィシャルだと思う定番日替わりメニューである。で、これが出てくるのを待つあいだと食している最中に、店内のテレビではドラマ「大奥」の再放送。言葉遣いがいちいち可笑しい。春日局の物語だが、徳川家光の母御台所お江与の方が病篤いとて、このお方様が「余命数か月」のご容態だというナレーション。うーん。春日局が病気のお江与の方に面会を申し出て断られると、取り次ぐ上臈に言うことに、お悩みを抱えたまま「涅槃に旅立たれる」よりは思いの丈を吐きだされて云々と。うーん。夫である徳川秀忠がお江与の方様のために「貞淑を守る」のだというナレーション。うーん。うーん。見たことはないが、レディコミックってこんな感じ? 百歩譲って「少女漫画」がこんな感じであったような気がする。いわば、劣情の限りを尽くす・女版、みたいな。

夜。
黄ニラと豚三角肩肉の炒めもの。解酲子風ジャージャー麺。これらで一番搾り。
菊正のアテは特売のバチマグロの中トロ。きょうもいまいち。どうした、鮮魚「魚徳」。

愛ひとつ告ぐるも夏の痛みかな
夏野とは死後にかがやく言葉哉
悪き雨ふいに白雨のきらめきに   解


2008年06月26日
00:47 食日記128

朝。
非常にいい夢を見て目覚める。横浜のどこか。入り江になっている海が青い。なだらかな階段のある住宅街の曲がり角から、その海が顔を覗かせ、視界の端に船が徐々に行くのが見えている。入り江には丘も見えているようだ。ここはまぎれもなく横浜のどこかなのだが、三浦半島の東側のような気もし、あるいは地中海の港町のような気もしている。何かかなしくてなつかしく、恋しく、それでいて気持ちのいい、長い瞬間を感じていた。
起きてバナナ。パソコンを開くとぼちぼちと詩集の反響など、来始めている。ありがたいことだ。

昼。
きょうはがんばったので50通以上を荷作り&発送することができた。で、宿痾のようにやってくる空腹。けれど、ひるめしを増やし、ばんめしを減らすと予想以上に体重減に繋がることも実感している。これは水島英己氏のご実弟の修氏から教わった。だからおおむね健康ということなのだろう。で、きょうは中華「自由軒」のチャーハン&ギョーザ。注文したあと、一瞬、ラーメン&ギョーザにすればよかったかな、という考えがよぎったけれど、結果的にこれでよかった気がしている。

夜。
鮮魚「魚徳」はきょうとあしたと休み。きのうのネタが良くなかったのもこのことに関係していたか。とまれ、ゆうべ残ったまぐろは二度のおつとめとて、新じゃが入りねぎま汁に生まれ変わって生き恥をさらさず、みごと往生を果たすことが出来た。お心残りなく涅槃に旅立たれたというわけだ。それと走りの枝豆。この味わいは小娘の瑞々しさに通じるものがある。なんて言ったらオヤジにほかならないが。
この2品で一番搾りも菊正もやっつける。フジテレビ「レッドカーペット3時間SP」に見入りつつ。私は「ザ・パンチ」の二人組が好きだな。酔っぱらうと女房を前に、あのコンビのそれぞれを一人二役でやることがあってけっこう受ける。

貨物船もうゐぬ沖を日蔭より
蕃茄煮るたそかれ厨寂光す
階段を下れば夏か汐にほふ  解

*蕃茄はバンカともトマトともあるべきやうを読みとせられ度し。


2008年06月26日
21:43 食日記129

朝。
女房がいるので女房につくらせたハム入りオムレツサンド。無塩野菜ジュースと。

昼。
銀行をあちこち回って金を下ろし、印刷所に詩集代金を払う。たぶん、この詩集を手に取った、いくぶんなりともこの業界に触れたことのある人ならきっと仰天するほどの値段。高いのでか、安いのでか、これはモウお分かりでしょう。
それから蕎麦「味楽」でかき揚げ天丼と蕎麦のセット。妻は冷たい蕎麦、私は温かい蕎麦で。
それでもって護国寺まで仕事を取りに行って帰る。

夜。
めしをつくるのは面倒なので、生麦「カシュカシュ」で食べる、というより飲む。アテはシーザーサラダや、スカンピに似た縦割りの海老のグリルや、ニシンの南蛮漬けや、北海タコのカルパッチョ、ナチョスなど。特にワインが旨かった。最初の生ビールを飲み、三分の一くらい空けたところでいい加減ビールにうんざりしていたタイミングでこのワインが登場し、にわかに食欲が湧く、そんなパワーがあった。そして食後のサービスとしてグラッパが350円という価格で供される。はじめは慣れない匂いだと思っていたのが、時間を経、空気に触れるに従ってみごとないつものグラッパ臭ともいえる香りを帯びてくる。聞けばバローロから造ったグラッパという。これだけを飲みにこの店にやってきてもいいとさえ思った。ワインを1本空けたあとのこととて、妻は悪酔い。今まだ午後の9時をいくらか過ぎた時間だが、女房ダウン。寝室のほうで寂として音もしない。

梅雨曇り杉山神社の屋根の蒼
グラッパや夏の羅馬の大理石
深深と赤葡萄酒や夏の月   解


2008年06月28日
00:30 食日記130

朝。
きょうも(と、いうよりいつもだが)女房がいるので、オムレツレタスサンド。それと優秀混濁林檎ジュース。

昼。
ふたりで中華「自由軒」で、肉団子のランチと肉野菜炒めライス。どちらがどうということもなく、おかずがそれぞれに1品増えたという感じ。女房はレッスンのため、その足で千葉方面へ。総じて昨日の酒の飲み過ぎのためか、ふたりとも元気がない。

夜。
夕方までに、とりあえずの最後の50通を発送してしまう。これで200通弱。若いころ、でも少なくとも十年前くらいまで、詩集200通ほど発送することなど屁でもなかったものだが、最近はこれを全部自分の手でやるとなると、肉体的に、また意外なほど精神的に、きついものがあるのはどうしたことか。
ヨヒマドヒというのか夕方から猫と寝入ってしまって起きたら8時。それから、きょうは女房がいないゆうめしを自分のためにつくる。茄子とピーマンと青唐辛子のとりひき肉入り味噌炒め。言葉が多いだけで、尋常でなく辛いことの外はどうということもないメニューである。寄せ豆腐を、面倒なので生姜おろしと醤油だけで食べる。きょうの鮮魚「魚徳」はいつもの鯛で面目一新。いつものヨカもんであった。これらをまぜこぜに、一番搾り、そして菊正・燗。

梅雨晴れや光は青きみづのごと
索麺のひかる流しや背戸の葉や
六月の見よ刻刻と夕映えぬ
桜桃や血痰の影はや失せて   解


  2008年06月29日
00:40 食日記131

朝。
バナナ2本。このあさめしはわがtab参加の野村龍くんもやっているようで、そのうちひところの納豆みたいに品薄か品切れになるのではないかと懼れる。カスピ海ヨーグルトのころが懐かしい。

昼。
tabの原稿が集まり始めたので、そのことをちょっとやる。それから記念会のことについても少々電話したりする。自分の記念会なのに、ナンデ私があれこれ手配しなくてはならないか。自作自演劇みたいで、ホントにこれでよいのかという疑念が過ぎるけれど、まあ、これもしなくてはいけないことなのだろうと割り切る。発起した人が別にいるので、この話は断れない。
tabのあとがきにエミリー・クングワレーのことをちょっと書く。それから空腹を抱えて、わが丘の階段から、対向に見える丘の上の杉山神社の青い銅葺き屋根を見やりつつ、生麦に下りる。蕎麦「味楽」でカレーライスセット、冷たい蕎麦のオプションで。なんでいつもこう、「完全に満足」しちゃうのであるか。

夜。
枝豆を茹で、豚バラ肉入りもやしやきそばで今日は簡単に。これらで一番搾り。愚生はいさ、女房が2日たっても復調しない。ちびちびとビールをやっている。
冷たいのがいけないかと思い、燗酒でキンメの刺身という贅沢品でも、けれど、これもあまり、はかばかしくない。これは、相手を欲しがる酒飲みとしては、うまくない事態である。もう少し様子を見るほかないだろう。

青唐の辛きすなはち酒の憂き
星々ややしろの庭に聚まれり
青梅雨も大前線のまへの夜   解


2008年06月30日
00:17 食日記132

朝。
バナナ1本。2本あったのだが、1本は女房が食べて出勤してしまった。これはこれは。

昼。
午後深きころ、仕事に切りをつけて生麦に下る。階段のところで杉山社の青屋根が思うあたりに見えない。で、下ってゆくに従って見るポイントを勘違いしていたことに気づく。きょうも熱帯雨林性を思わせる雨のなか、岸谷のホーリー・プレイスが遠望される。
仕事をしたので脳内ブドウ糖の減少を感じ、すなわちまたもや空腹を抱えながら中華「自由軒」に入り、海老チャーハンを食するも、これがきょうに限って旨くない。何が原因か分からないが、味がない、なげやりにつくってある、飯の米の具合や塩の極め方がこの店らしくない、といったところであろうか。空腹であるにも拘わらず一皿平らげるのに苦労しなくてはならなかった、というのも、繰り言めくがこの店では珍しいことなのである。

夜。
スパゲッティー・ナポリタン。貴重なバターと白ワインを潤沢に使って。この白ワインが和食風の「旨味」を醸し出す。それと、桃太郎トマト100円のエクストラバージンオイルかけ冷やしトマト。冷たい上等なくだものを食べているようだ。一番搾りは私だけ。女房は酒が入るとぶりかえす、終わりのない船酔いみたいな具合が続いている。アルコールさえなければ普通の食事も出来るのだが。
鮮魚「魚徳」の平目。有無をいわさず社長が奨める。食してみるに、筋は少々あるものの、菊正・燗と合わせるに申し分なく、けっこうなものである。これをツマに独りで酒をどんどんやろうとしていたら、横からツマが手を出して一切れ二切れ三切れと食いやがる。酒も飲みくさらないのに。それで、これ、おいしいだと。

夜深く居ればとどろに夏の音
かひといふ音にしたしき鮎にほふ
宵ながら夏の夜とはに明けなくに   解


2008年07月01日
01:19 食日記133

朝。
女房休み。かといって、何かつくるわけでなく、それぞれバナナ。昼に六角橋へ行く用事があり、そこで名物のとんこつラーメンを食おうやないの、というわけで小食にしたのだ。

昼。
それぞれバナナ1本の腹で銀行のATMの複数を駆けずり回るに、一定額以上おろせないことやら何やらで、家内ヒステリー。これはやはりメシば食わんとならん、と六角橋とんこつラーメン「知ったかぶりの豚」に入る。女房落ち着く。ここのラーメンは味が濃くなく、麺の具合も非凡であるが、何より特徴的なのがその内容の持つ物理的な熱さで、これはラーメンの出来上がりに豚の背脂を入れるせいだと分かった。

夜。
茄子と隠元とピーマン、これと鶏ももひき肉を味噌で炒めて水溶きカタクリでまとめたあんをば、熱湯で3分間ゆでたあとに冷水で締めたのをちょっと熱い茹で汁に浸しておいた饂飩にかける。味付けは味噌の外は鶏ガラスープと清酒。うちのオリジナル料理としてもよいかな、と愚考する。
これと小松菜炒め、ハム・マッシュルーム入り。でもちょっとしょっぱかった。ハムの塩味をもっと計算に入れるべきだったと反省。
これらで一番搾り、私は。女房は350ミリリットル飲むのが恐いので、いつか酒屋に貰った発泡酒の試供品125ミリリットル缶をやっているが、すぐもういいといって止めてしまう。
菊正・燗のアテは鯛であるが、きょうのお奨めはとこちらが聞いて初めて鯛とキンメですと答えたのだが、案の定、ぜんぜん、ヨくなかったよ。

夾竹桃火花を噴いて永からむ
あぢさゐは何見て瞳昏きかも
つばくらめ慶尚道の巫女とはむ   解


2008年07月02日
00:52 食日記134

朝。
バナナ1本。それほど苦労していないのに体重確実に減る。これはバナナのせいもあるかも知れないが、より大きな要因としては、ばんめしを意識して軽くしている、ということもあるのではないかという気がする。

昼。
少し仕事をして、一回目の素読みを終える。おおむね、身を責めれば一日で読み終わるゲラと知れた。明日中には終えたい。というのも、あさって3日は女房夜遅く、ばんめしを作らずにすむので、この日天気がよければ三浦半島まで行って相模の海を見て来たいからだ。
極上の天気のなかを、岸谷の丘から階段を下り、蕎麦「味楽」へ。きょうの日替わりはまたも舞妓丼で、麺は温かい饂飩を頼んだ。ここの温饂飩はだしが関西風で、また麺自体にもコシがあって時折注文する私の好物だ。

ばんめしのための買い出しに、いつものスーパーマーケットに入る。まず野菜売り場から回るのだが、横浜〇信が入っていて常に上質の青物が手に入れられるのが、いくら上質とはいえ、この枝豆1袋698円というのはどうだ。バブルの時代に豆腐一丁1000円というのがあったが、あれに近い。ぜったいに買えない、というのでは必ずしもないが、ボン・サンスという、万人に備わった犀利な刃がそういう買い物を拒否するのである。毎日のこういったものというのは、何気なく欲しいものなので、そういう何気なさが生き延びられない空気ならば、考えを変えて、別の何気なさに平行移動すればよい。それが可能な日本という地域はまだまだ豊かなのだと思う。

夜。
堅焼きそば。もやしとインゲンと人参、玉ねぎ、豚バラ肉を炒め、鶏ガラスープの素、清酒、水溶き片栗粉であんをつくって堅焼きそばにかける。一番搾りは私のを少し分けて、女房が薬湯のようにすする。予想していたことだが、大過ない。
鮮魚「魚徳」にはきのうの鯛は好くなかったとひと言若い者に言っておいて、きょうはまぐろぶつ。菊正・燗でいつものようにヤるが、どうもこれもあんまりうまくない。7月に入ってからの諸式の高騰に何か関係しているのだろうか。

鉄斎の滝を黙して見つめをり
じふやくの霊験に似し花浄く
打ち水や秋津島山あえか起つ   解


2008年07月03日
00:57 食日記135

朝。
バナナ1本。ミネラルウオーターと、薬。早く目覚めたので、直ちに仕事に入る。

昼。
午前中2時間、きっちり仕事をし、朝の部を終える。久しぶりに、世のひるめしといえる時間帯に生麦の町へ出る。きょうは蕎麦「味楽」は休み、中華「自由軒」のランチの張り紙をちらと見て、ああそうかと思い、ランチ時間帯の一国沿い、洋食「ひらやま亭」に行って名物「オムライス」を注文。オムライスは自由軒のも捨てがたいけれど、やはり洋食屋が本腰を入れたものとは比較にならない。おまけに自由軒が値上げをしたので、ひらやま亭のオムライスは自由軒に比べ10円しか高くない。問題は時間帯だけだ。

夜。
仕事の午後の部は2時間半。これでだいたい終わらす。ため息を一つつき、それから詩1篇書く。
ばんめし。アンチョビとニンニクと唐辛子を、フライパンに入れオリーブオイルの中で熱しておいた中に、固ゆでのブロッコリーを投入。ほかに何か肉っぽいものを、とさいしょは考えたが、立ちのぼるつよい香りを嗅いでもういいやと思う。
次は主菜で、豚ひき肉と長ネギの小口切り、生姜、隠元、新じゃがの細切り、ゆでたそら豆等を中華鍋で炒めて、塩胡椒、清酒、鶏ガラスープの素で味をつける。
これらで一番搾り。妻はおそるおそる一杯。手を出して二杯。そして三杯。なんとなく、大過なし。
きょう、鮮魚「魚徳」の社長が、きのうの鯛はご免なさい、営業努力しますと言って只にしてくれた鯛刺身と、連句をやったときに畏れ多くも句会主宰の俳句の先生を巻き込んでしまい、その先生に愚著をお送りしたら、お礼とか言って出羽の酒が来た、その酒で(ぜったい安くないぞ、これは)一杯やっていたら、女房がワタシもと言うので備前のぐい呑みにちょっと注いでやる。考えてみたら酒もアテも、みな詩集でせしめたようなものだ(魚徳にはすでに進呈)。と、思っているうちに女房、あれま、飲めるじゃないの。でも1杯をキリとしてお茶を飲みすぐに寝てしまう。あすは宴会だそうだ。やれやれ。

植ゑ込みに木賊みつけて夏は佳き
ふふみをれば冷酒に花の匂ひ哉
夜の簾燈火を漉きてくろぐろと   解


2008年07月04日
01:43 食日記136

朝。
バナナ2本、ミネラルウオーター。エナーノ・バナナは旨い。旨いせいと、服薬後に気持ち悪くならないように2本食べる。きょうは三浦半島の海を見たいと、かねて思っていたのだが、日は時折さすが風強く、湿度高く、あまつさえそのうちに眠くなってきたりなどして、海を見ても気分よかろうわけがないと判断し、ついに断念する。ただで断念するわけにも行かないので、きょうは大木重雄氏の追悼文を書く日に充てることで自らを納得させる。で、A41枚分。だがこれでこれから書く数枚分の方針決まる。

昼。
蕎麦「味楽」で日替わり定食。かき揚げ天丼に、オプションでざるうどん、というのか、とにかくそういう関西風のつけめん。

夜。
妻がいないので、火を使った食い物を作る気がせず。よくない傾向だが、冬ででもなければ、これもまあ、たまにはいいだろう。
ということで、というわけでもないが、メインディッシュは中国産鰻の白焼きである。ワサビをのせるとおいしかったヨ(きょう、鮮魚「魚徳」は定休日である)。
あとは胡瓜の味噌汚し。これ、滅法旨かった。おぼろどうふ。手間が省けていいやね。けっしてまずいものでなし。野沢菜。これは、言うにたらぬ。この世の場ふさぎとまでは言わないが、しょっぱいのが酒に利くだけに、ちょっと横にどいておいて欲しい。酒が止まらないのがちとまずい。

風鈴やたまのありかをどこの闇
 生麦随所に七夕竹の立てる見ゆ。
古き町はつゆ明けなくにはやも笹
 エミリー・クングワレー展見き。
エミリーに粉砕されし夏閑か
どくだみを嗅げばいつでも暗き森   解


2008年07月05日
00:38 食日記137

朝。
バナナ1本。女房も。午後から出かけるので、いっしょのひるめしを摂るためだ。バナナはすぐ腹が減る。

昼。
気がついてみれば体調は全体に不調。水ばかり飲んでいる。部屋の中の温度は29度C、はや夏バテかも知らぬ。蕎麦「味楽」で納豆とろろ蕎麦をかきこむが、不思議だ! ちっとも旨くない。それでも腹にまともなものが入ったので少し人心地がつく。これから護国寺まで仕事を届けなけれあならんのに、このありさまは、どうだ。

護国寺に仕事を届け、池袋のジュンク堂で今月の現代詩手帖と詩と思想を覗いているとケータイに電話。仕事先からで、きょう届けたぶんのほかにもっといろんなものが袋に入ってたはずだろ? という内容。うちに忘れてきたことに驚き慌てる。月曜一番に届けますということで許してもらったが、こんなことは今まで決してしないたぐいのミスだったはず。体調に加え、精神的にも絶不調。

夜。
銀座で女房と待ち合わせ。約束の時間まで松屋横のドトールで、柳田國男『地名の研究』を読み耽る。柳田の文体ははるか平曲にまで遡りうる、拍と律をふくんだ語り物の要素があると思う。読書といえば、まあ詩と思想は置いておいて、現代詩手帖はあまり、というか、若い、殆どの作品がこっちの胸にひびいてこなかったなあ。あの中には入って行けないなあ。それが世代間の感覚のギャップというのなら、言う言葉を持たないけれどね。近藤くんの感想とはだいぶ違います。
ばんめしはメルサの4階にある台湾料理屋に入る。酒に関しては女房はまだ調子がよくない。瓶ビールを頼み、少し注いでカンパイ。ピータン豆腐、大根もち、ブタミミと胡瓜の和え物、海鮮ビーフン、鶏筍入り春巻き、などを紹興酒でやる。女房は紹興酒少しでギブアップ。鉄観音茶とマンゴープリンなどをやっている。私はすでに満腹状態であったにもかかわらず、カラフェの紹興酒がまだだいぶ余っていたので、イヤシクも台湾担々麺を注文。おいしく食したが、直後に後悔、わが胃の許容量をほんの少しだが超過したという感じで、しばらくは酒も水もお茶も一滴も入らず、立つこともできず、さりとて坐っていても苦痛である。しかしながらそんな危機は10分ほどで去ってゆき、あとは普通に電車に乗りバスに乗って家まで帰った。帰ってリビングにへたり込み、疲労困憊セグンドの一日である。

家々に笹立つや星の遠きこゑ
つゆ晴れや銀座通りもやぼになり
木挽町より新橋へ水匂ふ   解


2008年07月06日
00:24 食日記138

朝。
暑いのと疲労が取れないので、非常に不快な目覚めである。起きて水を飲み、バナナ1本。ミネラルウオーター。服薬。しかるのち、気を取り直して大木重雄氏の追悼文の続きにかかる。江戸っ子の飲み食い、歌舞伎の芸談に及んで、午後、筆を止める。この文のキモは愚生に氏が送ってきた厖大な書翰・葉書のたぐいをどう処理するか、だと思う。いまのところ、打ち上げから巡航速度に入ったというところ。

昼。
少し腹がひもじい具合になってきたので、生麦の町に下りる。大木氏の葬儀のときに着た礼服をクリーニングに出し、忘れてしまった仕事上の書類を宅急便で会社に送る。
きょうも蕎麦「味楽」に入る。カレーライスセットを注文したら、カレーはきょう仕込んでいないというので、海老天ととろろ飯とオプションの蕎麦の「天とろ定食」にする。食べ終わるころに入店してきた客が、カレー南蛮とライスを頼むのを聞き、畜生それにすりゃあよかったと歯噛みするも、食っちまった後の祭りなのでどうすることもできない。
家に帰り、今年初めての冷房をかける。ついでにシャワーも浴びる。これでずいぶん心持ちが違う。

夜。
玉ねぎ、隠元、マッシュルーム、ソーセージの細切れ、ベーコン2枚とトマトピューレ、白ワイン、貴重なバター、唐辛子、ニンニクと、コンソメスープの素を一緒に煮込み、ゆであげペンネと合わせる。
トマトと胡瓜の生バジル入りサラダを加えて、これらで一番搾り。1缶ぜんぶはまだ飲めないが、女房も可成り付き合えるようになるまで恢復したとみてよい。
(ここから先は独り)鮮魚「魚徳」の、まあお奨め、といった感じの鯛で菊正・燗。まあまあといった感じ。でも普通のスーパーマーケットのものより10倍は旨い。

糊の利く浴衣で威儀正す宵
さびさびと酔うて何言ふ夏の父
怒られてもはら銀漢怒るなし   解

*威儀はヰイギと読まるればしかあるべし。


2008年07月07日
02:08 食日記139

朝。
バナナ1本。ミネラルウオーター。服薬。昨日届いていた北海道からのtabの原稿を打ち込む。全員揃う。北海道からの原稿、私は面白いと思う。

昼。
tabのことをもう少しやったのち、ナリワイの仕事。赤字合わせ、素読み少し。これ、3年前に初校をやったやつだ。内容が他に類例を見ない校正者が主人公という小説なのだから、因縁めいている。
きょうは中華「自由軒」で、マーボー豆腐ライス。ちょっとタンパクが気になるが、旨し。

夜。
大木重雄さんの追悼文を、女房が帰ってくるぎりぎりまで書く。帰ってから女房が風呂に入っている間も書き続けるが、ばんめしをもらっていない猫がニャアニャアいうのでばれてしまい、もうやめろ、と釘をさされる。あたしのめしはまだか、と。
きょうは、茄子と隠元とピーマン、それに鶏もも肉を細切りにして、ニンニクと味噌で炒めた一品。これ、評判よし。
ふと思いついて、細葱と近藤くんにもらって冷凍庫に入れておいたちりめんじゃこと小麦粉で、塩味だけのお好みめいたものを焼き、ナンみたいに味噌炒めと合わせて食うと、思いがけずも、んまい。一番搾りがよく売れ、女房、酒がかなりいけてくる。完全復活、ではないが。
ここからは独り。鮮魚「魚徳」社長お奨めの地ダコ。半生のゼリー状で、菊正・燗と合わせても旨いには旨いのだが、何せ量が多い。これは明日以降の宿題にして冷蔵庫に封入。店ではこないだ苛められてた愚鈍なのと、苛めてた目端の利きそうなやつと両方いたが、愚鈍なほうに少し腰が据わってきたようなところが見えて、私にはよかったかな。


 阿部嘉昭に与ふ三句。
紫陽花や海のまぼろし遠く裂け
夏を行きつひに波濤や白きあは
走水ゆ彼岸は似たる雲の嶺   解


2008年07月08日
01:34 食日記140

朝。
バナナ1本。服薬のためにボルヴィック。きょうは七夕。流火草堂先生の句に「七夕や流れざるもの何何ぞ」というのがあった。笹の葉などを流す思想と関係があろう習俗のなかで、それでも思いは残る、と言っているのだ。きょうは夜、コンサート。ギターとピアノによるブラジル人が行う演奏という。

昼。
ぎりぎりまで悪戦し、とうとう大木重雄誄を完成させる。といっても原稿用紙にして18枚くらいに過ぎない。老婆心ながら、誄はルイと読みます。知っておられたら失礼。女房と約束した時間までぎりぎりなので(どうしてこの種の記述が多いのだろう)、鶴見駅のプラットフォームにある、貧寒な感じの立ち食い蕎麦屋に入り、コロッケ蕎麦を注文。大盛りにしますかと聞くのでお願いしますと答えて、やって来た蕎麦をたぐる。ここは、トッピングよりも何よりも、蕎麦そのものが旨い、という事実を前にして俺はモーレツに感動している。蕎麦の濃い香りがするのだ。どこの国産かは知らねども。

夜。
女房と有楽町で逢いましょうじゃないけれど、そこで逢いまして、梅雨空の下、猛烈な湿気の中を銀ブラ。ふたりで銀ブラするたびに、懐かしさ、気安さより、あそこもああなってしまった、おおここも野蛮なブランドビルに建て替えだ、という感じで、いやまさるのは歎息ばかりである。そんなかんじでシオサイトまで歩いて行き、いや途中寄った、和光裏のティールームには昔ながらの銀座があったが、とにかくシオサイト、電通本社のある高層ビルの46階で食事。アジアンフードで全体にひどく気取った感じだが、港区のほぼ全域が見渡せそうな景観にはそれなりの幾許かを払ってしかるべきだろう。それを考慮に入れても、それでも高かったが。食い物は、まあまあ旨い。
時間が来たので、そのそばの朝日生命ホールでおこなわれるコンサートに行く。結果は、2時間のあいだ、眠気をこらえるのに全力を費やし、そしてついにその努力を放棄した瞬間に至るパフォーマンスと言えた。いろいろ文句はあるけれど、ブラジル人なのにまったく西欧的な・教科書的な・標準の音楽を聴かされたのには納得できない。この一連のコンサートは「東京の夏・音楽祭」というもので、これまでにもアルゼンチンのチャマメやイスラームのカッワーリーなど印象深いコンサートを幾つともなく見てきたのが、なんでラテンのノリのかけらさえない、まして民族音楽の原石の輝きの片鱗だにない、かかる演奏に付き合わされなくてはならないか。ぜんぜん優等生的な音楽なのに、若いやつらが演奏が終わるごとに大声を上げ、スタンディングオベーションをせんばかりの大騒ぎは、不可解としか言いようのない、珍妙な光景に見えた。おまえら、ホントにわかってんのかい?演奏はギターとピアノだったが、ピアノになってから女房は速攻船を漕いでいた。ピアノ弾き寝かすに刃物は要らぬ、下手なピアノを弾けばよい。ただし、音は綺麗だったし、強弱も驚くほどついていて、テクニックあり、音数多く腕の力も強そうだったのだが、いかんせん作品の作り方が単調きわまりない。
こういった悪口をコンサートが終わった瞬間から言いたかったが、女房しばらく待てと言う。地下鉄の駅にはまだ「やつら」がいて、油断ならないかも知れないからと。完全にいなくなった頃を見計らっていろいろ言おうとすると、あれはもうワタシの中では終わっているからと、女はこんなことを言ふ。

短冊のおびただしさや星祭り
七夕に坊主を忌むな清き陰
たなばたや竹は神樹のたかさもつ   解


2008年07月09日
00:50 食日記141

朝。
バナナ1本。ボルヴィック。服薬。この三拍子でずっとこのところ来ているが、無問題。けっこう(私にしては)早く起きたのだが、パソコンを前に何やかやしているうち、もう昼となってしまう。で、午前中は何にもしないことと同じになる。

昼。
仕事をせねばならんのだが、こうはらが減っていては(午前中なんもやらんのに)真剣ないくさが出来ない。で、丘を下り、私としては異例な一般人のひるめしの時間帯に生麦の町へ。中華「自由軒」はきょう定休日なので、またしても蕎麦「味楽」に入り、純正定番ランチ(曜日ごとの日替わりランチとは違う)のうち、天丼ランチを冷たい饂飩のチョイスで頼む。天丼の天ぷらは、イカ、キス、カボチャ、海老で、そのうちの海老天を噛んだとき、昔虎ノ門にあった出版社で働いていた頃に、ひるどきにそこのビジネス街にあった高級天ぷら店が勤め人相手のランチを出していて、そのランチの時だけ私らにも手の届くような値段だった天丼の海老の、その歯触りと匂いがして、一瞬ひどく懐かしい思いが流れた。あの時の昼の街の匂いも。
それから帰って仕事。十数折り、200頁がほどやったか。明日への目鼻をつけたところで強制終了。やり始めるときりがなくなる悲しいサガなのであるからして。

夜。
豚バラもやしあんかけ焼きそば。このところ焼きそばのそばを焼くのを失敗し続けで、どうもいけない。何か苦手意識というか、トラウマになりそうだ。でも中華なので(なので、というわけでもないが)、上に載せるあんを作っちまえば、あとはなんとかなる。
これと、冷蔵庫に残ったもので、茄子と隠元とピーマン、地タコの中華風紹興酒豆板醤入り炒めもの。これ旨い。くせになる。また作らむ。
ここまで一番搾り。女房とうとう350ミリリットル入り1缶ぜんぶを制覇する。めでたい。
あと、鮮魚「魚徳」社長ご推薦の鯛。見た目若干色薄く、少し危惧するも、家に帰って皿に出したところで間違いない品と確認。ラップを取り去ったら身の輝きが違う。食してまた確信。これにより、菊正・燗。女房もぐい呑みに1杯だけ相伴する。あとは、キモチわるいとか、眠れないとか、言って寝ちまふ。

瀧の書や玉咥へたる龍似たり
いかづちや以てのほかの雨と照り
酒の肴は葉ものばかりの涼しさや   解

*瀧はロウ(ラウ)、玉はギョク、あるは、肴はナと読まるべし。


2008年07月10日
20:35 食日記143

朝。
バナナ1本。ボルヴィック。服薬。いつもの体重計測、血圧計測。それから病院へ。

昼。
ジョナサンで冷麺単品。女房は冷やし中華ごまだれ単品。冷麺は辛酸っぱくて非常な刺激がのどを通りすぎたあと、さわやかになる。夏にいい食い物かも知れない。
採血の結果は高止まりでまあまあといったところ。このまま続けばいいんじゃないか。だが医者はもっと下がってもいいという。
それから長駆護国寺まで行って仕事を納品し、また長駆六角橋まで戻って食事のことは以下。

夜。
ほんまる亭に入り、ビンビールを頼み、女房にもちょっと注ぐ。突き出しはスパゲッティサラダ、肉じゃが。これに名代コロッケとまぐろ赤身刺し、がまんできずにおにぎりを注文。妻は明太、私は鮭。例によって金陵熱燗を頼み、女房のグラスにもちょっと注ぐ。グラス半分でもういいと言って、ウーロン茶の冷たいのを飲んでいる。この間に漬物盛り合わせ。ふたりとも、ひどく眠たくなってきたのでそれっきりにしてタクシーで帰宅。今に至る。

あの笛はいづへいざなふ木下闇
サンドレス眉を描きたるをみなはや
パラソルや向ふ向きたる母若き   解


2008年07月10日
00:39 食日記142

朝。
バナナ1本。ボルヴィック。服薬。この三拍子、ちょっとは変奏を入れてもいいかも。肉抜きの食事はなかなかいろいろなバリエーションが利かないが、だがそれは肉に縛られた思考であるせいかもしれないのだ。
仕事。最後の6折くらいを終える。自分でやった本のせいか、あんまり問題が見つからない。こういうのはまずいわけで、だれか「外の目」で読んでもらいたいものだ。

昼。
仕事を終え、空腹を抱えて丘を下りる。岸谷のホーリー・プレイスの青屋根は案外巨大であることが分かる。階段からもう一つ、脇道のように斜めに下りて行く小階段があって、そっちを下って行くと、民家の屋根と見れば不自然に巨大な千木が現れてくる。
午後の3時前だったので、きょうは中華「自由軒」に入る。これも巨大な生見尾(ウミオ)大踏切を渡りつつ何を食おうかと考えていた結論、すなわちきょうはサンマー麺に半ライスをつけてやろうという目論見で注文。ライスはザーサイ付きである。タンパク少なく、炭水化物多く、太るだろうなあとは思うが、ばんめしを絞ればそんなに被害はなかろうというのが結論である。

夜。
女房残業。昼の電話で、中元にもらったスモークサーモンでパスタを食べたいという注文があったので、バター、生クリーム、粉チーズでいっぱいのスパゲティーニ。それにブロッコリーやハムやトマトのサラダでばんめしにする。女房は腹を減らしつつ、あれこれつまみながら缶ビール1本はカンペキに飲めるようになる。だがしかし、愚生もこれらで満腹となり、菊正・燗はアテもなし。

いへをなすあやめもしらぬ恋のすゑ
光裂けてしかすがに夏・見たき海
けふならぬむかし銀座はあやめ色   解


2008年07月12日
01:03 食日記144

朝。
女房があさめしをつくる。野菜ジュース、パンにハムとレタスとオムレツの、タンパクいっぱいの嬉しい食事。どうせ、クレアチニン値高止まりだい。朝早くでもないが、じゅうぶんに余裕のあるブレクファスト。たまにこんなのがないと魂が草臥れる。

昼。
私としては珍しく、蕎麦「味楽」で日替わり定食の天ぷら定食。こういうのは何年ぶりであろう。いままでは、よっぽどいい油を使用していないと、天ぷらなど特に、胸が悪くなったものである。きょう、試しに食べてみてそういうことがまったくない、昔のひるどきの定食を食した折の感覚が戻ってくる。カラダがだんだん旧に復しつつあるということか。
このところ、ここ「味楽」でも、また「自由軒」でも、食い物を扱う職人風の、白衣に長靴のおじさんとよく出くわす。こっちが「自由軒」の日は「自由軒」で、蕎麦屋の日は蕎麦屋で顔を合わすようなサイクルになった。きょうなど「味楽」で同席して、私のあとからおんなじ天ぷら定食を注文していた。ちらちらとお互いを意識し始めていると言うべきか。

夜。
日が沈むあたりで宵寝するのを夕惑いというそうだが、私はよくこれをやり、きょうも高いびきかくほどにやってしまったようだ。猫と一緒にずっと寝ていたというのも呆れた話だが。実家でのレッスンから帰ってきた女房に起こされる。めしばつくらんとならん。
めしは面倒なこともない。そらまめ、じゃがいも、長ネギと豚ひき肉の炒め物。もう一品は、茄子と隠元の細切りと、頂き物のスモークサーモンの細切れを、紹興酒、鶏ガラスープの素、豆板醤で味付けた、これも炒め物。 これらで、ちかごろ調子の出てきた女房が、一番搾り1缶を何ら問題なく飲み干すことが出来た。
あと、これも貴重な頂き物の黄瀬戸の片口に、同じく頂き物の吟醸酒を盛って、霜降ったまぐろの赤身の細葱入りのヅケをアテに飲る。女房ぐい呑み1杯目で素晴らしくおいしいと言い、2杯目で少し苦くなってきたのでモウこのへんでやめとくと言う。しかたない。残りはぜんぶ飲んでおいてやるから、キミはもう寝なさい。

灯台は世界の果てる夏の樹ぞ
夾竹桃咲くやこのはな夜の門
丘ゆ見ぬ精密模型の夏の海   解



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