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Moonshine 19


―エジプトで豚の虐殺が続いている―




 医療関係者や学者によれば、当初「豚インフルエンザ」と呼ばれていた今回の新型インフルエンザというのは、豚肉を食べて感染するようなものではないし、豚そのものを殺したところで防げるようなものでもない。この数日、関西での急な感染拡大がニュースになり、ようやく日本でも身近に感じられてきた新型インフルエンザだが、弱毒性という点について些か認識が行き渡っていない様子はあるものの、日本では少なくとも、豚そのものを処理すれば防げるといった誤解は、幸いながら広まっていない。

 しかし、すでに世界中のニュースが報じているごとく、エジプトでの豚の虐殺は苛烈を極めている。生きたまま次々と大きなトラックに投げ込まれ、化学薬剤で殺されて穴に捨てられ石灰をかけられていく図は、歴史上のあれこれの大虐殺の風景を想像させる。大量の豚を日常的にクリーンに殺し、平然と食用にしている宇宙最悪の偽善者たる我々であるとはいえ(リリスとアダムの不倫から生まれた人類は存在そのものが悪なのであるから、ひたすら消滅すべし、それが神の御心に適った道である、とのグノーシス派の人間観を、もちろん、カタリ派の人々とともに忘れないでおこう)、このような殺し方はさすがにひど過ぎると思わざるをえないような光景である。
 いまだに一例の新型インフルエンザも出ていないエジプトでのこうした豚の虐殺は、5月はじめの時点ですでに250,000頭(「人」と呼べないまでも、せめて「体」と呼んでおきたいものだが)に上っており、アラブ世界の知識人たちからは非難の声が上がっている。今回のインフルエンザ騒ぎに乗じ、「イスラムの土地での」養豚を根絶やしにしようというイスラム主義者たちが圧力をかけてムバラクにこの政策を採らせた、と、モロッコ出身の作家ターハル・ベン・ジャルーンは書いている。アル・アズハール大学のモハメッド・サリムによれば、このようなかたちでの動物の殺害はイスラム教においては厳しく禁じられており、豚も例外ではありえないという。
 エジプトでの豚虐殺風景は撮影されてYouTubeにアップされている。

 http://www.youtube.com/watch?v=jwMIlw7rCSc

 生きた子豚を投げ捨てる光景があったり、容易に人間の大虐殺風景を連想させる光景が続くので、ご覧になる場合はそれなりの覚悟をして開いていただきたい。エジプト政府の週刊紙であるアル・アラム・エブドAl-Ahram Hebdo紙によれば、殺されるのは規律により雄豚のみであるそうだが、「子豚や雌豚は鉄の棒で殴って気絶させ、出血させて死に至らしめる」という。首をひねりたくなるような記述だが、ようするに雄豚については意識があるままで殺し、子豚や雌豚については意識を失わせて殺すということか。意識のある者を殺すのが、イスラム式の殺し方だということなのだろうか。

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