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Moonshine 21
―アイアンマンに出た父と子―
親友がガンにかかり、ひと月ほどいろいろと世話を続いている。外国人だし、事務能力はあまりないので、多くの部分を助けないといけない。3時間以上は眠る暇がないという週が繰り返されている。ときどき、疲労さえ感じなくなって、職場や病院や家を往復している自分に気付く。
そうしている間に、二〇年来のべつの悪友が急死してしまった。警察は自殺だというが、不審なところがある。ともあれ、訃報がしばらく貼られて剥がされ、二週間後にはすべてが落ち着いていく様子を見ながら、ひとりの人がいなくなることの軽さ、なんでもなさが、薄膜となってしずかに心の滓になっていった。
病気の友の状況は、フランスの何人かへ伝えなければならない。慣れない病名を調べながら外国語で作文し、間違わないように病状を説明するのにはけっこう時間がかかる。気の向いた時に書く手紙とは違う。和仏辞典などには出ていない用語も必要になる。疲れて帰って来て、雑事を済ませて書き始め、気づくと朝を迎えていることも多かった。はやい仕事の時には6時起きなので、2時間も眠れない。
そんな様子を気づかってくれてか、フランスの友人から小さなお話が届いた。それを読んでからこちらを見るようにと、YouTubeのURLも記してきた。
美しい映像だ。なにか途方もないことをやったり、ただやり続ける人たちの姿には、いつも不思議な力がある。
これが、そのお話と映像へのURL。
《ある日、息子が父に言った。
「パパ、ぼくといっしょにマラソンに出てみない?」
「いいとも」と父は答えた。
彼らはいっしょに初めてのマラソンを走った。
息子がふたたび頼んだ。
「パパ、もう一回マラソンに出てみない?」
「ああ、いいとも」と父は答えた。
そうして、ある日、息子は父に頼んだ。
「パパ、ぼくといっしょにアイアンマンに出てみない?」
アイアンマンというのは鉄人レースと呼ばれ、トライアスロンの中でももっとも過酷な競技だ。
「いいとも」と、やはり、父は言った。
ずいぶん単純な話に聞こえることだろう。この映像を見てみるまでは……》
http://www.youtube.com/watch?v=VJMbk9dtpdY
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