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                   駿河昌樹詩葉・2000年4月



アナタノ ナクサレタ ムスコサン ダレ?
  ダレノコトデスカ?




はかなんで
     (世を? じぶんを?
     (いつ思いつめて 首くくってもいいようにと
はした金はたいて
奈良の仏たちに会いにいきました
     (法隆寺の
     (百済観音からはじめようと --------

寺へむかい小さなバスのなか
ゆらゆら揺れながら
     (ゆっくり乗り込んできた
背丈の高いおばあさんに
席 ゆずろうとすると
いいから、いいから、と
     (立とうとする
わたしの肩を押し留める
     (のです
     (こう言っては失礼かもしれないが
無数のしわが深く刻まれ
     (かたく象の肌のようになった
長いお顔は
     (もう
九十も百も生きてきたひとのようで
     (肩を押し留める
手には
つよい説得のちからがあった

     (法隆寺で
降りる

お譲りしなくて 申し訳ありませんでした

言うと
     (おばあさん

あたし この前
息子亡くしてね
このわきのお寺に入れたの
息子 八十でね
     (まだ若いのに
毎月ね こうして来てる


     (若い!?
     (八十で!?


   アナタニハ ワタシ ナド ドウ ミエルノカシラ?


     (聞こうと思ったけれど
もう わかれみちでした


     (息子さんが八十なら
     (おばあさん 九十幾つか 百か
     (そんな歳になって
     (息子に先立たれるというのは
     (それは それ
     (どういうことなのか


まったく
親よりはやく死んで
親不孝もの
あなたもね 元気でね ずっとね
それじゃあね と

     (よろよろ
ほそいからだ
     (背の高い ながいお顔の
うしろすがた



     (日本霊異記にでもありそうな
     (結末 というか オチ
     (つけくわえますと
     (百済観音堂に入って
     (見上げると

     (ああ ほとんどあのおばあさんのような
     (おすがた
     (観音さまがわたしの肩を
     (押さえたのではないとは承知のうえでしたけれども
     (それでも


アナタノ ナクサレタ ムスコサン ダレ?
ダレノコトデスカ?


(つぶやいて みて
(いました・・・・・・・・・・






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