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ARCH 41

                   駿河昌樹詩葉・2001年4月



固い固い殻の卵を守っておいき ね、こころたち




舞台のあとでお会いしたかったのに
どうしてすぐ消えてしまったの、と留守番電話に残されたあなたの声に
そう、どうしてひとと新たに会おうとしなくなったのだろう と
じぶんのこころを量ってみているのでした。
いろいろな別れがあって疲れて
もう、ひとに別れるちからがないようだと感じているからなのか
会えば またいつか別れねばならないだろうから と
ほんのお世辞のふたことみこと
とおりいっぺんの挨拶のやりとり
そんなことばかりで済ませている近ごろを
深いじぶんのたくみな計算のように気づかされて
それでもしかたない、こんなに疲れてしまっているのだもの と
卓によりかかってため息ついているのでした。

ひとにはがっかりさせられるばかりだから
ひとにもこの世にももういっぱいのさびしさを受けてきたから
わたくしはだれかにお会いしてすっかり和まぬじぶんの顔が
とってもイヤ
相手にもわかるかもしれないけれど
わたくしにはこわばったままのじぶんの顔の筋肉がわかる
それがイヤ

舞台のあとでお会いしたかったのに
どうしてすぐ消えてしまったの、と留守番電話に残されたあなたの声に
これまでわたくしの前に現われては消えていった顔々の
さびしい廻り灯篭のさまが浮かんでいました
どの顔もものほしげで
わたくしからなにを得られるだろうと目は探っていた
求めるものがないとわかればすぐに笑顔もまなざしのきらめきも消え
残った顔たちもすっかり求めるものを吸うと
夢の絵本を閉じるようにふいに消えていったものだった

はじめから会わなければいいんだ と
こころの中のどこかにある卵はしだいに悟っていったらしい
卵であり続けることを選んだところが
わたくしのこころにはある
それで正しい と
  いまのわたくし思うのです
こころを開きなさい なんて
思うの 世間知らずで未熟なあいだばかり
閉じなさい、こころ と
わたくし 言う
そうして
さあ いつまでだか
固い固い殻の卵を守っておいき
ね、こころたち







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