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ARCH 43

                   駿河昌樹詩葉・2001年5月



パサパサ




なにかが、ない。
足りないと言っていいのか、欠けていると言っていいのか、
わからない。
そのためにぼくの〈いま〉はパサパサの古紙のようだ
花がある空がある水の流れがある色があるかたちがある がみんな
パサパサ
なにかがなく、
そのなにかがすべてだから、
パサパサ

ぼくだけがとは言わないが
ぼくだけはスクナクトモ生きていない
生きたことなどなかった
生きるのはパサパサではないことのはずだ
パサパサしてきただけ
そんな記憶があるだけ
どこにいてもパサパサ

旅をやめ
劇場にも美術館にももう行かない
山も河も海もパサパサ
どこにいてもパサパサ
ある日決意したのだ
もう気晴らしはやめる
じぶんのパサパサのなかに居続けて
こいつの手足に胴にからみついて
なにかのなさをまるごと化学に変えようと。
この化学はからだを重くし
こころは澱んだ小川のよう
そんなからだとこころをもう逃げない
どこにも見つからなかったなにかは
なにかのナサしか顔を持たず
それしか入り口を持たず
肌の手触りははじめ
パサパサでしかないかもしれないから

もう逃げない
するとぼくはたちまちエネルギーだった
ぼく自身にとっての。
はじめてのことだ、これは

進まないことが進むこと
動かないことが動くこと

ナニカガ、ナイ。だけは、ある。
それだけは。







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