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ARCH 55

                   駿河昌樹詩葉・2001年6月



なんという速さ いのちの 尽きていく様子よ




なぜ病があってひとは
倒れていくの こころの
流れ 望み 夢
根こそぎ捨てよと強いられるように

なぜ衰弱と死とがあってひとは
奪われていくの からだ 目のひかり 気の張り
思い描いたものはどれも はじめから
ひとときの暇つぶしにすぎなかったと悟らされるように

きのう きょう あしたの
あなたの働きはどこへ行くの ほんとうに
あれもこれもやったというのに
消え去っていく あなた
消え去っていく 記憶するひとたちも
残る名さえ わずかに 未来の生徒らに試験前夜呟かれ あるいは
これ見よがしのデザインの碑に刻まれたりして
そんな碑でさえ
時代が変われば壊されたり
海に沈められたり

どこから来てどこへ行くの あなた
このまま行けばいいのか
このままではいけないのか
国のことでもなく世界のことでもなく あなた
生まれたからには消える日が来る
ほんとうに生まれたのかしらと訝っても
からだは見えなさへ向かってスピードをあげる
このままでいいのか いけないのか* あなた
なんという速さ** いのちの
尽きていく様子よ

だれかもわからずに自分の演技は続き
日々ワタクシやボクやオレのふり
陽はのぼり陽はしずみ河は流れ
くりかえす波の打ち寄せ
きのう此処にいたひとがきょうはおらず
あすいないのはあなたかもしれず
演技は終わっていく終わっていく どうして
演じねばならなかったかも
知らされぬまま

どうしてひとは生まれ
死んでいくのか
死んでいくというのに
なにかに思いを注ぐのは どうして
どれも消えていくというのに
消えないようにと作るのは どうして
消えないようにと作られたものを
わざわざ壊すのは どうして





*小田島雄志訳『ハムレット』第三幕第一場
**参考、『論語』しかん子罕第九「子、川のほとり上に在りて曰わく、逝く者は斯くの如きか夫。昼夜をす舎てず」。及び、『文選』所収のしばひょう司馬彪の詩、「ぜんぜん冉冉として三つの光り馳せ/逝く者は一に何ぞ速かなる/中夜 寝ぬる能わず」。








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