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駿河昌樹詩葉・2001年7月
わたくしはふたたび暗いひと
ふたたび暗いひとになりたい
揺れる麦の畑のむこうに垂れ込めてくる
青ぐらい雲の重なりを忘れそうだから
心たったひとりで
原野に丘に立ち尽くしていた
暗いさびしい体の青年は何処に行ったか
話すよりはひとと話さないことを選んでいた
むらさきの魂の瞳は何処に行ったか
ひとびとに合わせ時代に合わせ界隈に合わせ
死んでいった豊かな闇
闇の夢を見ている
風に鳴る林も甦るか
ぽたぽた雨の落ちる畦道も戻るか
逸れることを捨ててしまったひとびとを逸れる
群れ、群れ、群れ、群れ、遠く
しかしあの明るさには恐怖が欠けている
なにがひそむか
しれない沼をわたくしは性情から抉り出そう
わたくしはこの沼のひと
わたくしはこの沼のひと
わたくしはふたたび暗い
わたくしはふたたび暗いひと
またもや暗く
激越に暗く
とこしなえに暗く
滅びののちのあっけらかんとした夜明けのように
明るくあかるく暗いひと
*Joseph von Eichendorff : Im Abendrot、拙訳。
**G・W・ヘーゲル『精神現象学』序論、樫山欽四郎訳、平凡社ライブラリー版(1997)。
ここの叙述に、ヘーゲルは否定的な意味合いを持たせている。
***同右。
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