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ARCH 57

                   駿河昌樹詩葉・2001年7月



わたくしはふたたび暗いひと




ふたたび暗いひとになりたい
揺れる麦の畑のむこうに垂れ込めてくる
青ぐらい雲の重なりを忘れそうだから
心たったひとりで
原野に丘に立ち尽くしていた
暗いさびしい体の青年は何処に行ったか
話すよりはひとと話さないことを選んでいた
むらさきの魂の瞳は何処に行ったか
ひとびとに合わせ時代に合わせ界隈に合わせ
死んでいった豊かな闇
闇の夢を見ている
風に鳴る林も甦るか
ぽたぽた雨の落ちる畦道も戻るか


逸れることを捨ててしまったひとびとを逸れる
群れ、群れ、群れ、群れ、遠く
しかしあの明るさには恐怖が欠けている
なにがひそむか
しれない沼をわたくしは性情から抉り出そう
わたくしはこの沼のひと
わたくしはこの沼のひと
わたくしはふたたび暗い
わたくしはふたたび暗いひと

またもや暗く
激越に暗く
とこしなえに暗く
滅びののちのあっけらかんとした夜明けのように
明るくあかるく暗いひと




*Joseph von Eichendorff : Im Abendrot、拙訳。
**G・W・ヘーゲル『精神現象学』序論、樫山欽四郎訳、平凡社ライブラリー版(1997)。
ここの叙述に、ヘーゲルは否定的な意味合いを持たせている。
***同右。








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