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わたしと包丁は旅、
包丁が置いてある。古い包丁、
よく
使い込んだ、というのか、魚の血を知っているステンレスの肌、菜の花の茎の
血も(体液も?) わたしの指の
血も
あたし、と言いたくなったり わたくし、ぼく、おれ、とも
そんな述懐がよく心(鯵の心臓が思い浮かぶ……)をめぐりわたくしは包丁を握る
(コノ包丁デ、生キ物ノ命、断ッタコトハナイ、 スデニ死ンダモノハ無数ニ切ッテキタ)
比喩なくわたしは包丁を握り料理をしてきた。わたしは
比喩が嫌いだ、意味付けも嫌い、料理がわたしを使って包丁に握られる経験を与えた、と語るのが好き。あるいは、包丁が料理を介してわたしに接触したと語るのが。そうして、料理を介さないでわたしが包丁を握る瞬間を想像するの、好きではない。そこで死ね、想像力は。
すでに死んだものを裂きその筋を切り身を開き
わたしと包丁は旅(あ、比喩!)を続けている
わたしは死んだものを食べるもの包丁は死んだ
ものを裂きその筋を切り身を開くもの
(ココデ語ルノハ止メルベキデ)
生に直接
触れぬわたしの生と包丁の生
(ナドト続ケルノハ、ダメ)
わたしと包丁は旅、
だけを切り出そう。おまえだけ、生きなさい、生きておいき。
為すべきことを失った曙のわたくしは、旅にも、もう、
必然性がなくて、旅を流産し続ける、まま、
後はね、おまえに任せるよ、わたしと包丁は旅、おまえに
そして、(比喩よ、此処はおまえの浜でも褥でもない。おまえの
裸とは、ところで、真?、偽?
……そう、比喩の裸は真?、偽?
包丁は置かれる。
置かれる包丁の置きの、
手は、わたしの手。死んだ
想像力の筋を裂いて、
わたしと包丁は旅、おまえに、
任せたはずだった、
すでに旅はない。わたし、も、包丁、も、置いてしまった。
裸の比喩を抱き寄せて
すでに死んだものに、もう、われわれは触れない
われわれ、とは、夢見られなかったもの
想像力のはずれ。死ハ
カナラズ、別ノ他ノモノノ、生。ソウネ、生ヲ
奪ワレタトコロニモ、生
別ノ
生
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