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どうしてもかしいでしまって


深いところ、と
自分自身に語りかけがちだった頃ののち
あさ子に浅いところで出会って
タマゴをたくさん食べた

旧い詩境を呼び起こしかねない表現を構成しないようにしよう。死すべき古いやりくち
ただそれだけの理由で。

こうしてグングン表現をぼくは捨てていった

乗りまわしているイエローの車はかたちのない
たんなる色だけのありよう
好きになった(馴染んだだけかな?)東京タワーの
夜景が前立腺ガンにかかった陛下の(快癒をお祈りいたします)
御世のぼくの心に消えづらい時間がある
そんな時間に書くのは……  でも、
いまこれを書いているのは「そんな時間」ではありません
やめよう、この語群のなかで時間を問うのは。
陛下!
ね、陛下!

自分もわたしもぼくも人間も日本人も現代人も「この」ぼくではない
ここ、も いま、も とりあえずの残雪  ポスターの
豊乳女性のまなざしがウルウルたしかで見つめてしまう「この」ぼくのまなざし
乳とはなにか 父よ(と朔太郎さんはよく呼びかけていましたネ)
父よ とあの頃は呼びかけ得たのだ など文化史的評論に流れるのは逸れよう通俗だから
通俗のどこが悪い とタテツクのもやめよう造反有理しちゃうから

だれもがくだらない 固定観念を掻き集めて堅固さを装っているだけで

いっぱい立っていたり
数本だけたよりなく立っていたり
すうっと しっかり立っているものはなく
ひどく あるいは わずかにであれ
どうしてもかしいでしまって
まなざしを焼き突いてくるかと思うほどの 壮大にチイサナまぶしさで
古い古い教会のほの暗いところに灯されている あれらの蝋燭

たしかなのは火ばかり
火を灯すひとたちの気持ちばかり
深いところ、と語るのは灯された火をまだ見足りないからで
あさ子、きみに
会っていない人たちだからなのだろうね

火に深みはない
ぼくたちは浅いところで死んでいくことだろう 「乳は
どうするのか」といぶかしむ方々よ 知れ
教会の奥の暗がりではだけた胸に
蝋燭の炎の数々が油の輝きを塗りたくっている と
信仰を持たないぼくが乳房と乳房のあいだの黒い谷を流れていく
教会の暗がりが浅みの死にはふさわしかった

たしかなのは火ばかり

いっぱい立っていたり
数本だけたよりなく立っていたり
すうっと しっかり立っているものはなく
ひどく あるいは わずかにであれ
どうしてもかしいでしまって
  まなざしを焼き突いてくるかと思うほどの 壮大にチイサナまぶしさで
古い古い教会のほの暗いところに灯されている あれらの蝋燭

火を灯すひとたちが絶えないのはなぜか

浅く死にゆく者だけが復活するのか
あさ子に
浅いところで出会って
深いところ、と
自分自身に語りかけがちだった頃ののち
タマゴをたくさん食べた

浅く生きておられまするか…
浅く生きておられまするか…

すうっと しっかり立っているものはなく
ひどく あるいは わずかにであれ
どうしてもかしいでしまって

























(気づいて
いなかったわけではない、「深いところ」が
ただの言葉、表現に







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