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ただ生きているというだけの眩暈が


失ってから
ながいこと経ってようやく気づく
かがやき仄かな憂鬱
春靄のかかった都会のむこうに
しゃらしゃら楽しい音たてて
手ざわりはあんなに確かだったのに
花のあらしの予感のように逝ってしまった

ただ生きているというだけの眩暈が
まいにちのこころの軸を磨く
さびしかったのも昔のことのよう
波だけはうち寄せ続けていて
いつまでも若さは去らないのね、ほんと
みどりも青も見えているのに懐かしく
死ということなの?、これは
遠かったり近かったりで また眩暈
こころの軸くるくると遅速して
踏み出さなかったほんとうの一歩

草の芽がそれでも出てくる出てくる
出てくる不思議さに踊ってこころは
やっぱりどこかから流れ来る闖入
わかったものなどただのひとつもなくて
太陽と月ばかりはくるくるとまわり続ける
来たのか来なかったのか ここやそこに
いたのかいなかったのか 知らないのに
平気で わたくしとかわたしとか
言い続けてきて 続けていくほかなく
踏み出してない感じ やっぱり
こころの外へのほんとうの一歩は

失ってしまった感触ばかりで
こころは日暮れの壁の陰のさら地のよう
さびしくないのはどうしてだろう
ゆたかに春靄のなかに気を失っていく
いつまでもしっかりと立ち続けたままで
すがただけは確かに香らせさえして







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