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こんな花たちもわるくない



野添さんのお住まいは田舎の
大きな草原のかたわら
毎日いっしょに
ひとまわりしながらお花を摘んでくる
花瓶いっぱいのお花には
ひとつひとつに
自然に名前がつく
これはジンベイ川のほとりのケシ
こっちのは三本ブナの木のあたりのタンポポ
こんなふう

野添さんのおうちに何日も泊めてもらって
トーキョーに帰ってくると
みどりの洪水がなくてさみしくなってしまう
いっぱいみどりが見えないのは
もう りっぱな病気なのよ
野添さんのそんな言葉を思い出しながら
こころは花屋さんに向きがち
とうに花屋さんなど閉まった時間に
二十四時間開いている店で安い花たばを買ったりもする
かわいそうなほど貧相なカーネーションや
色の行き届かないチューリップ
中ぐらいのバラの花びらはこまかく破けていたりして
花を買うというより
孤児を拾ってくるような気になる

どこから来たのか
わからないわびしい花たちのたば
名前もないし
出どころもわからない
こんや買われなかったら
たぶん明日にはそのままゴミ箱行き

でも
こんな花たちもわるくない
野添さんの草原でも
たくさんこんな花たちを見た
ちんちくりんの花
色の不揃いな花
花びらの折れたの
ねじれたの
拠れたの

こんな花たちもわるくない
どんな花にも野があって
ハウス栽培だって野のなかのハウス
一輪の貧相な花には
それを取り囲んでいた野や
土の匂いや
近くの川が付いてくる

こんな花たちもわるくない
来るべくして
わたくしのところに来た花たち
水きりして
花瓶に入れて飾ると
たちまちにところを得て
かがやきはじめる





「ぽ」164 2006年1月

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