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被差別被雇用者集団《怨》、富士樹海で一大呪詛大会開催か

定期的に呪いの集いを開き続けてきて、すでにそれなりの歴史と実績を持つ非正規被雇用者たちの集まり《正社員呪殺会》に、昨年、《常勤教員呪殺会》も合流することになったという。こちらは、常勤教員との五、六倍以上の賃金格差に憤懣を持つ小学校から大学までの非常勤講師有志の会だが、やはり独自に定期的な呪いの集会を行ってきていた。ふたつの会は、個々の活動を従来通りに継続していくものの、被差別被雇用者集団《怨》としての統合呪術集会も随時行っていく方針だという。今回、《怨》結成記念大会として、梅雨のうちの最も降雨量の多い湿った頃合いに、富士樹海で一大呪詛の宴を開催することが決った。ひとりでも多くの正規被雇用者を心身疾患や偶発的な不幸に導くべく、これまで採られたことのなかった最大の呪法が披露されるとのことである。ことに、企業や関係官庁、学校などの幹部、役員、取締役、理事などは最大の標的とされ、各企業や学校の被正規被雇用者たちは、自分たちの職場の標的たちの実名、家族名、職名、推定給料額、推定ボーナス額などを記した等身大のヒトガタを作って樹海に持参し、格段の呪術能力を持つ一部の会員たちによる特別重篤な成果を齎す呪いを施してもらうという。興味深いのは、会長や社長、理事以下、自分たちの上司の早急な消滅を熱望するかなり多数の正規社員たちが、この樹海呪詛集会への参加を申し出ているという点であろう。本来なら施呪される側の彼らを受け入れるかどうかについては、現在、議論のなされているところだが、怨念における平等、すなわち、怨念共有者同士間での平等と助け合いを重要視する集団《怨》としては、基本的には受け入れていく方針ではあるという。同じ種類の会は、芸能、マスコミ、医療、法曹などのあらゆる分野にすでに結成されており、それぞれの活動があまり表沙汰にはされないものの、やはり定期的な呪詛の会が行われているもののようである。国民間の一体化の可能性がすでに完全に消滅した日本は、いま、いっそう深化した怨念の沼に化していこうとしているらしい。呪詛教育産業、呪詛請負業は近年大幅な伸びを示しており、新たに徐霊ならぬ除呪サービスが脚光を浴びてきている。初めから呪いを防ぐための結界サービス業も盛んだという。昨年暮れに、史上初の呪詛総合会社潟Wュジュが新興市場マザーズに上場し、「私どもとしましては、市場から呪詛と決壊の巨大な波動を広げていくことこそを、今回の上場の最大の目的とさせていただいております。市場はいわば金銭のたえず流入流出する心臓でございますので、ここを押さえて国中、世界中に怨念を広めていくのは、なにより効果的と認識しました次第で…」との取締役挨拶は世間を驚かせたが、現在、周知のように、この言葉を証明するような日本新興市場の長期的暴落が続いている。破滅的な国家規模の赤字にもかかわらず異常な上昇を継続中の米国株価は、常識的にもテクニカル的にも、世界経済の間近い暴落の瞬間の到来を予想させるものだが、最近ジュジュが発表したIRには、この点も十二分に読み込み済みで企業努力を継続中、との記述がある。





「ぽ」178 2007年5月

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